おっさんが幻想入り   作:柊の花

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私の世界

あの時

レミリア様を止めようとしていたら殺られていた。

一瞬その殺気に感づいて、私は行動を起こさなかった。

同時に、少女はレミリアを見逃した事になる。

あの人間の元へ向かったことは当然知っていたはずなのに。

なぜなのか。

だけど答えは求めずともすぐにわかった。

この少女はあの男を信頼しているのだと。

証拠……とは言えないかも知れないが、森の方から爆発音が聞こえたり、争う音がしても少女は一度も揺らがなかった。

 

でも、それにしても

「たかが人間がお嬢様に敵うとは思わないのだけれど」

まさか、二人はさっき会ったばかりの薄い仲ではないでしょう。

見捨てる様な真似をするのは正気の沙汰とは思えない。

先ほど運良く妖夢(だったと思う)が来たみたいだったけど、流石にそこまで計算ずくではないはず。

とすると、少女が考えていることは

「『私の相手はお前だ』って事かしら」

そしてあの男がレミリア様に太刀打ちできると確信していたから、レミリア様を見逃した、そういう事だろうか。

 

えぇだったらいいでしょう。

「お望み通り、相手して差し上げましょう」

腰のナイフホルスターから数本の投げナイフを掴み構える。

この勝負、別に勝っても勝たなくても良い。どちらにせよ、この人間が死ぬこともなく、レミリア様を館に帰すことは可能。しかし、わざと負けるつもりもない。

となれば、彼女には悪いけど一気に決めさせてもらうしかない。

 

世界(ザ・ワールド)!!時よ止まれ!」

瞬間静寂が訪れる。この止まった世界で動けるのは私だけ。

よって少女は自分が攻撃されたと観測することなく敗北する。

手に忍ばせてあった投げナイフを弾幕の如く少女を中心に展開させる。

もちろん急所は外してある。それでも常人なら完治に1、2ヶ月は要すると思う。

逆に、そこまでしないといけない気がする。

 

 

そして、勝利を確信した私は、これからどうやってレミリア様を連れ帰ろうか考えていた。その時だった。

時間が止まっているのに「その時」というのはおかしいかもしれないけど、とにかく私が考えていた時だった。

 

誰かが私の時間に干渉してきた。その違和感があった。

 

この世界は今私の支配下。なにか流れがあればすぐにわかる。

しかし『誰かが私の「世界」に入ってきた』という認識しかできない。

だけど、今一番考えられる可能性は……

「まさかッ!」

少女の方を見る。その姿はどこか変わったようには思えない。

「でも、もしかしたら」

少女の前で手を動かす。目は動かない。

まさか、動けるのに動けないふりをしているのか。

そう思い、すぐに距離をとる。

「……まぁ、これで終わりだけどね」

私は一呼吸おいてから、止めていた時を再始動させる。

 

空中で止まっていたナイフは本来の速度で少女に向かい……砕けた。

「なっ!?」

驚きを隠さずにはいられなかった。

時が動き出したその瞬間、少女が消え去ってしまった。

高速で飛ばされたナイフは衝突し、ほとんどが折れてしまった。

私は急いで周囲に気をめぐらせ、その位置をはかろうとする

 

刹那、何かが近づく気配。

「まずいわ、世界(ザ・ワールド)!!時よ止ま――」

ガッ……

瞬間後頭部への衝撃。

数m飛ばされるが、受け身をとり事なきを得た。

しかし、すぐに起き上がれない。

前、美鈴と組手をしたときにもこんな症状になったと記憶している。

 

顔を上げると、涼しい顔で少女が立っていた。さしづめ、あの足で蹴飛ばされたのだろう。

「お前も不憫だな。あんな奴の下で働いているなんて」

少女は近づきながらつぶやく。

両手をモンペ(だったかしら)のポケットに突っ込み、余裕を振舞っている。

「『おじょうさま』の命令だから、仕方なく村を襲い、人を襲っているのか」

一瞬その言い方に腹が立ったけど、その通りだった。

私はレミリア様に一生仕えると決めた身でありながら、レミリア様の命令に心から従えてなかった。

ただその考えを外に出してはいけない。あくまで、私はレミリア様の忠実な従者だから。そう思っているだけだ。

実際、レミリア様が「死ね」と申せば、素直に命を絶つ覚悟もある。

「人を喰らうのがお嬢様の願いなら、それは私の意思でもある」

「……もう、そういうのいいんじゃないか?」

少女は言う。まるで、この少女が会話してるのは表の私でなく、裏の私のようだ。まるで私の全てを見透かしたように。

「……そこまでよ。悪いけど、あなたには眠っててもらうわ!」

時間に干渉される恐れがあるなら……私の十八番のナイフでの攻撃。

ナイフホルスターから数本のナイフを少女に向かってなげ、一本ずつのナイフを両手につかみ、武術を合わせた近接術へと移行する。

 

宙を移動するナイフを少女は最小限の動きでかわす。

常人では動きを捉えることさえできないはずのナイフは数十m先の木へと突き刺さる。

正直、プライドに傷がついた。

しかし、隙を作り出すための囮と思えばなんとでもない。

世界(ザ・ワールド)ォ!!」

時間を止め、少女にさらに近づく。

今回、私の時に干渉したものはいない。

しかし念には念を、ということで、十分に接近するだけにしておく。

(一見時を止めている方が有利と思われるが、いつ動き出すかわからない以上、攻撃するときは時間をもとに戻したほうが良いと判断)

 

睡眠薬をたっぷり含んだナイフを手で握りしめ、時の歯車を再始動させる。

瞬間、少女は私の手首をつかんできた。

「!?」

私が時を動かしてから、一秒も経っていなかった。

「お前の動きはすでに見きった」

私はその力に抵抗することができず、そのまま少女の蹴りを腹に受けてしまった。

美鈴に教わった受け身で、その衝撃は幾分和らいだけど、それでも私が吹き飛ぶほどの威力はあった。

「ざ、世界(ザ・ワールド)ォ!」

急な発動で安定していない停止空間。

私の体すら、空中に浮いたまま自由に動くことができなかった。

 

「……もう…限界ね」

能力を解除しなければ、どうなるかわからない。

私は少女と私の間に、ナイフをばらまいた。

時が始動しても、少女がまっすぐこちらに飛んでくることができないように。

 

そして時は、不本意ながら動き出した。

宙に浮いたナイフ。それは動き出した時に合わせて、ゆっくりと少女に向かって飛んだ。

しかし、それは通り過ぎることなく、対象である少女に突き刺さった。

「えっ……」

一本は肩、一本は太腿。そして一本は胸元。

あきらかに致命傷だった。

しかし彼女は止まらない。

そのままの勢いと拳で私を殴り抜いた。

あっけに取られた私は受け身も取れず、地面に叩きつけられ、間も無く気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めるにはそう時間がかからなかったと思う。

少女は側にいた。私のそばにただ座っていた

 

刺さったはずのナイフは見当たらず、証拠となる服にも損傷はなかった。

「はぁ……」

ついため息をついてしまう。

「私の負けね。完敗よ」

どうやったのか分からないが、彼女は傷を負っていない。無傷。

比べて私は気を失うまで殴られて、あげく看取られている。

これで負けを認めないのは私のプライドが……。

 

「で、結局お前は何の為にこんな事をしてたんだ?」

「……」

どうやら少女は認めさせたいらしい。

「……私はお嬢様の意思に背いて、人間である貴方たちの身を案じた。それだけよ」

「……そうゆう事ならいいんだ。お前は敵じゃなかったみたいだな」

私は立ち上がる。

不思議と全身の痛みは引いていた。

不本意だが、少女に理解されて、心の何処かで安心した自分がいた。

レミリア様と心で意見が分かれ、さっきまで事実上全員と敵対していたのだった。その事に気付いたのはたった今だけど、心は十分軽くなった。

 

「それにしても貴女強いのね。私が手も足も出ないなんて、貴重な体験させてもらったわ」

本心からの礼を言う。

「いや別に。お前の技にも驚かされたよ。一体どうやって瞬間的に移動してるんだ?教えてもらいたいくらいだな。」

 

「……え?」

「そういえば昔似た技を使う奴がいたなぁ、なつかしいな」

「ちょっと待って」

思い出にふける少女を止める

 

少女は今、「瞬間的に移動」といった。

普通、私の世界(ザ・ワールド)に干渉しておいて、そんな事を言うかしら……。既に能力の正体は知ってて当然なのに。

いや、違う。そうじゃないんだ。

「貴女……どうやって私のナイフをかわしたり、攻撃を防いだりに気付いたの?」

「あぁ、あの時も驚いた。急に目の前に刃物が出現したり、お前が現れたりしたんだから。決闘とかには便利かもなぁ」

やはり違った。

私の時間に干渉してきたのは彼女じゃない。

少女はただ「一瞬で反応し、行動した」だけ。

 

そっちの方が恐ろしい気がするのだけど。それはまた後で考えましょう。

今はとにかく、レミリア様の所に行くことが先決ね。

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