花火を知っているだろうか。
夏と言えば? と質問した時、日本人のほとんどは海か花火と答えるだろう。
しかしそれは現代の話。
此処、幻想郷の花火は少し違った。
見た目は華やか。音は轟音。
しかし、その実態はお互いの命を懸けた戦いの結晶なのだ。
というわけで、俺達は戦っている。吸血鬼相手に。
飛び回るレミリア、飛び交う殺人弾幕。
それを総合的に見ればまるで花火だ、とついさっき気づいたのだ。
まあ、その花火に俺はなかなか貢献できてない感じは否めない。
「ファイガ!」
つばぜり合いをしていた妖夢がレミリアから距離を置く瞬間に、魔法をたたき込む。
負傷させてもすぐに再生されてしまうのだが、再生にも限度があるととりあえず俺達は踏んでいる。
だからとにかくダメージを与える作戦で行くことにした。
レミリアは中距離型。妖夢は近、俺は遠距離と考えれば、自然に戦い方は見えてくる。
妖夢がレミリアに張り付き、刀で斬りあう。その隙をついて俺が魔法を撃つ。
単純だが、妖夢のおかげもあり今まで順調に行っていた。
しかし、それもすでに昔の話だった。
レミリアに張り付いていた妖夢が急に失速した。
「はぁ……はぁ……」
「…大丈夫か」
妖夢は黙って頷く。
しかし消耗しているのははっきりわかる。
対照的に、レミリアはまだまだ動けるといった感じだ。
さすがに吸血鬼相手では妖夢も分が悪いか……
「くっくっく。まさか、もう終わりなの?早く血を吸いたいのを我慢してるのだから、せめてもう少し遊ばせて頂戴」
レミリアは片手で槍をクルクル回して遊んでいる。
仕草は本当に子供だから余計怖いと思うところがある。
そして、少女は槍をピタっと止め、不意にこちらに投げつけてきた。
「うおっ!……って遅い?」
それは時速では優に100kmは超えているスピードなのだが、いままでのレミリアの素早さと比べれば、欠伸が出るほどだった。
しかしそれでも油断ならない。
俺は魔法で撃ち落とす事を試してみた。
失敗。
いくら遅いとはいえ、あのレミリアの攻撃。簡単に落とせるはずもなかった。ならば。
「妖夢!」
動きが鈍っている妖夢を突き飛ばし、俺も弾道から身を退く。
槍は俺たちの間を通り抜け、爪痕を俺の杖に残していった。
ガオンッ
そんな音が聞こえた。
「うぉあ……」
いままで乱暴に扱っても、決して傷ついたことすらなかった杖の先端が削り取られてた。これに当たっていたらと思うとぞっとする。
瞬間、自分の愚かさに気づくことになる。
これはまさに、さっき俺がやった作戦じゃないか。
そう、あの槍は囮だ。
本命は……
急いでレミリアの方を向く。
しかし少女はただ不敵に笑っていただけだった。
「え?」
少女は何もしてこなかった。
ただ俺をからかって、喜んでいるだけにも見えた。
そして少女は言う。
「最後に一つだけ教えてあげるわ。あの槍はグングニルと名付けてあるの」
グングニル……?
オーディンが使っていたというあの槍か。
確か、神話でのグングニルは……
「後ろ!」
「やっぱりか!」
急いで急上昇する。
グングニルはかならず相手を仕留める伝説の槍。とすればそれを真似て作ったあの槍は自動追跡機能付きってか。
「全然わらえねぇな、こんなの!」
いくら飛び回っても、槍はどこまでも追いかけてくる。
その精度も速度も心なしか高まっている。
槍のオーバーランの距離が縮まってきているのだ。
「はああぁッ!!」
妖夢が槍に斬りかかる。しかし、鍔迫り合いにすらならず、簡単に弾かれてしまう。
「どいてろ!妖夢!」
どんどん上空へと上がる。
さらに速まる槍、そして俺の体力も限界に近づいている。
しかし解決方法は見つけた。ただ、それを行う時間と余裕がない。
槍が初期状態ならばいくらでも出来たのだが、ここまで加速されると、不可能に近くなる。
ふと、レミリアが小さく笑ったのが目に入った。
何かわからなかった。が、何かを起こす顔だった。
そのとき、槍が急旋回急加速した。
徐々に上がっていた速度が、急に跳ね上がったため、反応できなかった。
「しまっ——」
その時、俺の身体を変な違和感が通り抜ける。
目前に迫っていた槍、そしてそれは急停止する。
「……?」
恐る恐る目を開く。
「うおっ」
ほんの数センチ前に槍はあった。
レミリアをみる。
未だに笑ったまままだ。
妖夢を見る。
こっちを見たまま固まっていた。
そして気付いた。
俺の体も動かない。
普通に動くのは目だけだった。
「これは……」
と言ったつもりだが、何も聞こえない。口も動いていない。
まるで時間が止まったようだった。
何かわからんが、もし今動ければ俺はレミリアに対し有利になれる。
「うっ……」
メリメリ……
全身に力を入れると、何処からかそんな音がした。
行ける、このままなら行ける。
「うおぁあッ!!」
グオン!!
全身が槍の真横に移動する。それだけだった。
それだけで、相当体力を消費してしまった。
ところで、この現象はなんなのか。
見た所妖夢とレミリアは動けないらしい。とすると、レミリアは俺が動いたことにも気付いてないと考えるのが妥当か。
つまり、奇襲のチャンスだ。
再び全身を違和感が通り抜ける。
この違和感こそ、この現象の正体だ。
ググッと槍が動き出す。
勢いにのった槍は慣性の赴くまま、遠くに飛んで行った。
「今だッ!」
テレポート。
しかし、それは俺じゃなく……
グシャッ!!
下の方から音がする。
グングニルがレミリアの胴体を貫き、地面に刺さった音だ。
「がはっ!?」
突然のことにレミリアは困惑していた。
胴から下は切り落とされ、かなりグロい事になっていた。即死レベル。
しかしそこは吸血鬼。人間のものさしで測っていたら勝つ事はできない。
「今なら行けるぞ!妖夢!」
俺が言いだす前に妖夢は動いていた。
その動きは、周りがスローに見える錯覚を与えた。
速かった。
そして振り抜かれた刀はレミリアの顔面へと叩き込まれた。
甲高い音。
決着を示すホイッスルだった。
ただし、我々の勝利のホイッスルではなかった。
「……な、なに…」
レミリアは歯で刀を止めていた。(真剣白歯取りってか)
上半身と下半身を離されてもなお、吸血鬼としてのレミリアは健在だった。その体から繰り出された一瞬の拳は妖夢の胴を確実に捉え、妖夢は大木をなぎ倒しながら、約30mほど吹っ飛ばされた。
「妖夢!」
叫んだ。
返事が返ってこない。
まさか、いまので死んでしまったのか。
その可能性は低かったが、その考えが頭を離れなかった。
「……貴様」
背後から声。その声は怒りで震えていた。
「よくも私をここまでコケにしてくれたものね……」
上半身のみの少女はただ睨みつけてくる。
どうやら、再生させるのも忘れているようだ。
「ミンチにしてあげるわ!人間!!」
レミリアが力を入れると体から大量に血が吹き出し、それが俺の顔にもかかった。意図した行為ではなかったのか、その隙をついてはこない。
しかし、相当の出血量だ。にもかかわらず、レミリアはさらに強大な妖気を発する。それは森にいたであろう妖怪どもすら震えだし、空へ逃げ出すほどだ。
俺も恐怖はあった。
だが。
レミリアが怒っているのと同じように、俺も怒っていたのだ。
いくらレミリアも少女とはいえ、俺の友人を2人も傷つけた。
だから、こいつは俺がなんとかするしかない。
「その……人間の怒りってものを、見せてやる!!レミリアァ!!」
今度は、俺が花火を起こす番、そう思った