俺自身驚愕だった。
今、俺は吸血鬼と互角に戦っている。
いまのレミリアは先程から怒りで冷静さを欠いていて、だからか切り離された胴から下の再生を行っていない。よって側から見れば完全にこちらが有利だ。
それに加えて俺は今までにないくらいに体の調子を感じていた。レミリアからエネルギーを奪った時もそうだったのだが、今はさらに気分がよかった。
レミリアの手が俺の目の前を横切る。速い。
しかし俺はしっかりと目視出来た。
そしてかわせる。
次々に連撃がくるが、どれも見切ってかわせる。
俺のドレインはてっきり体力だけ吸い取れると思っていたんだけど、レミリアの身体能力すらも頂けたのではないだろうか。
そして再びくるあの違和感。
レミリアの動きは完全に止まり、飛び散った血液さえ固まっている。
また来たか……しかしこれはいいチャンスだ
今までレミリアの攻撃をかわせていたが、いつまで保つかわからない。そんな中攻撃のチャンスは訪れた。
レミリアの後ろに回る。
今度はスムーズに行けた。
なるほど、と思う。
これは俺の新たな能力と捉えていいだろう。
さっきからこの現象が起こるタイミングが完璧に丁度いいのだ。
つまり、この空間は俺が無意識のうちに作り出した空間、というわけだ。
自然と笑みがこぼれた。
これはまさに、「時間を止める能力」だ!
そう、俺は時間を止める能力に憧れていた。
子供の頃、某22世紀からのロボットの秘密道具で時間を止める物があった。最初その話を読んだ時、衝撃だった。なんて便利なんだろう、と。
憧れて親の懐中時計を持ち出してよく遊んだっけな。
あとあれだ。某冒険漫画の
行きつけの床屋に、その漫画を読みに通ったぐらいだから、印象は深い。
まぁ、一度として時間は止まらなかったが。
しかし、こんな形とはいえ、夢が叶った。
もう気分は最高だった。
俺は体の自由が少ないながらも大声で笑った。
そして、冷ややかな目線に気付いた。
「……は?」
俺の右側、女と思われるものがあった。
こんなもの、さっきまであったか?
よく見るとレミリアのメイドじゃないか。
「……やっぱり貴方だったのね。勘違いじゃなかった……」
「うわぁ!」
しゃべった。
あぁ、と合点がいく。
「お前か、時間を止めたのは」
必死に口を動かし、片言ながらもそう言う。
対して少女は、普段と変わらないように話し出した。
「まったく、今日は厄日だわ。私の
少女は独り言のようにつぶやく。
そして俺は思った。
このままじゃ、殺られる。
「させるか!ファイガ!」
しかし、何も起きない。
封じられたらしい。魔力を消費したが、ファイガと思われる物体は生成されなかった。
「ならば物理で……」
「ちょっとまって。私は貴方と戦うつもりはないわ」
「なんだと?」
「私はただ、どうやって貴方が私の世界に入り込んだのか。それを知りたいだけ」
「……」
なんだそれは。
今この状況がわからないのか?
たった今死闘を繰り広げていたのに、急に立ち話か?
「待て。意味がわからない」
約3分間、少女の話を聞いた。
その間じっと同じ体勢で待つしかなかったのは辛かった。
どうやら、時間を止めるのがこの少女、咲夜の能力。
俺は唯一、咲夜以外で止まった時の中を動ける者だという。
咲夜の推察では、俺が吸血鬼であるレミリアのエネルギーを吸い取り、その上血を誤って体内に取り込んだことで、俺の力が一気に増幅し、偶然それが可能になったという事らしい。
そして同時に、咲夜が敵対しているわけでもないという事を知った。
「そうか……任せとけ。お前のご主人は俺が大人しくさせてやる」
メイド、お手伝いさんという立場ながら、他の人間の事を考え、抗おうとする態度を気に入った。ここは一つ、大人として協力してやるのがいいだろう。
咲夜は頷き、陸へと降りていく。
そして、全身に再び違和感……もとい、時間が動き出した。
瞬間、レミリアは動き出す。そして俺を見失った事に気づき、慌てた。
しかし、そんな事今は問題ではなかった。
「あ……」
停止時間中に発動したファイガ。それは制御不能になり大きく膨張していた。時間停止中に動けるものは、事実上光速で動いていることになるので、そのエネルギーは普段の比じゃない。
「まずい、テレポ!!」
火球は大爆発を起こした。
遠くに避難した俺も、爆風で吹き飛ばされる。
咲夜も完全に安全な場所にはいなかったらしく、その被害を受けていた。本当にすまないと思う。レミリアを確認する余裕は無かったが、最後に見たのは大爆発によって空気がかき回され、巨大な熱がレミリアを包んだという事だった。
静寂が訪れるまで、結構な時間を要した。
爆心地から遠く飛ばされた俺は、その光景に息をのんだ。
あたりは大きく削れクレーターとなり、隕石が落ちたのかと思うほどだった。
正直、俺はこれほど凄まじい力を持っていたのか。と嬉しい気持ちになる。
「あいててて」
体を起こそうとする。しかし、左腕が折れてしまったらしい。
力が入らず、鈍い痛みがする。
杖もなくしてしまった。
寝返りを打つのも難しい。
しかし、こんなとき魔法は便利だ。手が折れても浮く事ができる。
あぁ……そういえば両手使えなくなったわけか。
でもまぁ、骨折なら治るかもしれないな。
そうだ。切断にならなくて済んで良かったじゃないか。
「なら、今度は全身再起不能にしてあげましょうか……」
ビクッと全身で飛び上がった。
「れ、レミリア!」
誰よりも一番近くで爆撃を受けたはずのレミリアは、下半身もくっついてある、
幸い、レミリアはすごく弱っていた。
再生能力の限界だったのだろうか、目の焦点があってる様子もなく、足取りはフラフラしていた。
ただ、グングニルを握っている右手だけは力強かった。
「結構……深手を負ったけど、貴方の血で蘇るから問題はないわ」
「ぐっ!くそ!」
俺は急いで飛び上がる。
が、すんでのところで首を掴まれた。
少女とは思えない力。これでも弱っているのだろう。本気なら即死だった。
「今度こそ……終わりよ!」
爪が首にめり込んでくる。
既に動脈に届きそうだった。
この状況を打破する手……正直、俺では無理だった。
「うぐッ……咲夜ァ!!」
いつの間にか、そう叫んでいた。
「……なに?」
一瞬、レミリアの右腕が動いた気がした。
瞬間あの感覚と共に時間が止まる。
「ぐえっ……はぁ、はぁ」
どうにかレミリアの拘束から抜ける。
どこにいるのかわからないが、助かった。
だが、いまのうちに攻撃の準備を……
しかし、時間の再始動は予想よりも早かった。
「な、待て!まだ戻すな!」
どこかにいる咲夜に向かって叫んだ。
しかし、願いは届かなかった。
「はぁ……はぁ……」
レミリアは俺を掴んで開いたままの左手をゆっくりと下ろす。
「なるほど……やっぱりその現象は咲夜絡みね」
レミリアは笑う。
「それにしても、流石咲夜ね。例え不意打ちを受けても、時間を止める事は可能って事ね。……咲夜が近くにいたの、気づかなかったと思う?」
それを聞いて絶句した。
こいつは、自分の仲間を攻撃しやがった……
時が止まる直前、咲夜の位置を把握していたレミリアはその方向に向かって何かをした。咲夜はそれにもかかわらず、数秒だけ時間を止めてくれた……。
「ふぅ、頭がクラクラするわ」
そういって、槍を薙ぎはらう。
それによって俺は吹き飛ばされ、無残に転がる。
「げほっ……」
苦痛。
まさか、この歳になってこんな目にあうとは思ってもいなかった。
最後はいつだろうか……高校生の頃か?
5対2で近所の奴と喧嘩したんだよな……あ、俺は2人の方な。
その時は相方が3人もやっつけてくれたんだが、やはり勝てなかった。
そういえば相方って誰だったっけ。確か空手の有段者で……
……。
ヤベェ、これ走馬灯じゃん。
いそいで現実に引き戻る。
レミリアは槍を引きずりながら近づいてきている。
その足取りはかなり危うく、石につまづいて転んだ。
「くそ……ファイア!」
ボッ……
一瞬で鎮火してしまった。
連戦でMPを使い切ってしまったようだ。
かといって、今のレミリアから吸い取ってしまうと、俺が加減をできず、そのまま死んでしまうような気もした。
「参ったな……」
ここにきて、レミリアが女の子だって事が響いてくる。
中年オヤジだったら血を吸い尽くしてやるのに。それも嫌だけど。
「くっ……」
体を必死に浮かせようとする。
きっと飛べても一瞬飛び上がるくらいだ。
……
……賭けだな。
レミリアは起き上がり、さらに近づいてくる。
俺はギリギリまで待った。零距離になるその時まで。
「……まだ抵抗する気はあるのね。確かに、今の私は貴方の拳一つで気を失うと思うわ。さしづめ、私の攻撃をかわして攻めるつもりね」
……全て見通されてた。
「そのとおり、俺はお前の槍をかわす。そして自慢のナックルで決める」
拳を握る。手汗が出ている。錯覚でもそう感じた。
「速い者が勝ち、遅い者が死ぬ……悪くないゲームだろ?」
俺は口を釣り上げて笑う。
本当は泣きたかったけど。
「いいわ……グングニル!」
レミリアも力を振り絞り、走ってくる。
「死ねッ!」
そして俺の胴めがけて槍を振り下ろす。
「うぉぉぉおおあああ!」
普通の人間なら、この状況、横に逃げるだろう。
しかし、そうすると背中を見せることになり、俺に隙ができる。
だから上に逃げる。レミリアの死角へと。
槍は左手を擦り、地面深くに突き刺さる。
「うおおおお!」
3m飛んだ俺はその勢いで拳を振り下ろす。
「くらえ!レミリアァ!」
しかし少女はニヤッ、と笑う。
空いていた左手でもう一つのグングニルを作り出し、俺を串刺しにしようと迫る。
「やってやる!時よ止まれ!」
「なっ!」
賭けだ。昨夜のおかげで感覚は掴んでいた。後は発動できるかが問題だった。
俺を中心とした空間が歪み、瞬間静寂が訪れる。
音はすぐに帰ってくる。しかし問題ない。
この瞬間でレミリアにさらに近づけた。
「くらえぇ!」
すかさず、右足で少女の顔面を蹴り飛ばす。
ナックルで決めると約束したな、あれは嘘だ。
そもそも骨が折れていると自覚しているのにその手で殴るほど俺は勇気はない。そしてダメージも与えられなかっただろう。
そして時間は動き出し、少女は後ろに吹き飛んだ。
俺も自由落下のダメージをもろに受けた。
「あうぇ!」
もう、完全に体は動かなかった。
しかし、それはレミリアも同じようだった。
「やった……か」
俺は吸血鬼相手に、名誉の相打ちを成し遂げる事ができた。