途中からこの小説は長い投稿ペースを一定にしてきました。おかげで安定して投稿できたというのもあるのですが、この分では完結に時間がかかると思い、土曜日の他に水曜日にも投稿させていただきます。
拙い文ですが、これからもよろしくお願い致します。
では本文に参ります。
夢を見ていた。
それは不思議な夢だった。
暗い森の中、そいつはただ歩いていた。
目の前には少女の体。
生きているか、死んでいるかの区別もつかない。
そいつはふいにその首筋にかぶりつく。
その瞬間、現実の俺の体から汗がでたような気がした。
そいつは吸血鬼だ。
一種のホラーだった。
そいつは少女からある程度血を吸うと、満足したのか、地面に寝転がった。
そこで夢は終わった。
次に、味覚が訪れる。
うまい?あまい?いや……これは——
「すっぱっ!!」
飛び起きた。
いやはや、昔から俺はドラキュラの映画を見たり、話を聞いたりするとかならずその晩ドラキュラの夢を見るんだった。どこかの傭兵さんと一緒だな。
と、寝起き一発目でそう思った。
2発目
「どこだここ?」
「慧音の家だ」
あぁ、そういえば懐かしい雰囲気だ。
懐かしい天井が目の前にあった。
体を起して周りを見る。シートを部屋一面に敷いて、俺以外に妖夢、慧音そしてレミリアが寝かされていた。
お。俺の足に何か触れたな、
これは妖夢の周りを飛んでる魂みたいな奴じゃないか。
こいつも元気ないな。
よし、マッサージでもしてやろうか。
当分その感触を楽しんでいると、ようやく気にすべき事が浮上してきた。
「……これはなんだ?」
俺は酸味と、口の中の異物が気になった。
「それは昔私が作った梅干しでな、怪我を直す効果があるんだ」
ただ、人間以外には効果は薄いけどな。と付け足す。
どうやら、このおかげで助かったらしい。
「咲夜、お前は無事か?」
「まぁおかげさまで」
咲夜も例の梅干しを食ったらしく、怪我は残っていなかった。
そして今はレミリアの側に座り、主人の事を心配そうに見ていた。
「妖夢と慧音にはやらないのか?」
妹紅に尋ねたが、答えにくそうにしているのをみて咲夜が答えた。
「いえ、妖夢と上白沢みたいに半分が獣だとか幽霊だと効果が半減するらしく、まだ眠っているらしいわ」
「……半分獣ってのは、慧音の事なのか?」
その事自体にも驚いたのだが、以前ならばもっと大袈裟に驚いていたと思うだけあって、今の自分の落ち着きようが正直気味悪かった。
「昔は、ただの人間だったんだけどな」
懐かしむように妹紅が語る。
「それよりもだ、おっさん。私はこれからある所に行かなくてはならない。ここで休んでるか?」
行かなくてはいけないところ……というのは、この異変と関係があるのだろう。となれば、俺も行かないという選択はない。そうでなければ、博麗の巫女がいなかったとはいえ今夜の現代入りを諦めた事が無意味になってしまう。
「俺もいく。今夜の元凶……少々説教が必要だろうからな」
そういうと、妹紅は苦笑いした。
さしづめ『お前では相手にならないからやめておけ』って事だろう。
「……おっさんじゃ、相手にならないと思うからやめたほうがいいぞ?」
「声に出すんじゃねぇよ」
俺の心を読んでいるような物言いと悪戯な笑みに少し言葉を荒げてしまった。しかし妹紅はお互い様と言わんばかりに笑って受け流してくれた。
「……私も一緒に行かせてもらえないかしら?」
立ち上がり咲夜がそう言った。しかし、そういうわけにもいかないだろう。
「いや、お前はここに残ってこいつらの面倒を見てやってくれ」
「でも……」
どうやら納得が行かないようなので、俺はこう言ってやる。
「レミリア……俺がやっといてなんだが、一度家に持って帰ったほうがいいと思うぞ?」
物みたいに言ってしまったが、今のレミリアからはさっきまでの生気がまるで感じられないのだ。一応生きているようなのだが、内心ひやひやだ。それでもレミリアの容体が一番ひどいと見た。顔も蒼白くなっていて、見てる俺もかなり気分がわるい。やはり吸血鬼といえど、大量出血には弱いのだろう。
「……そうね。館の者にも報告することがあるしね」
じゃあ、といって咲夜は懐から一つの瓶を取り出し、俺の前に置く。
中には赤い液体がドロリと動いていた。
「今夜のお礼……ってわけじゃないけど、これ渡しとくわ」
「まさか……血か?」
その通り、と咲夜は頷いた。
先程、止まった時の中で聞いた話では、吸血鬼の血を少しでも飲むと、一定時間その力を使う事ができる。という事だ。
そして尚且つ体は人間のままだから日光といった弱点は効かないらしい。これを咲夜はいざという時の護身用に持ってきたらしいのだ。
俺はそれを受け取る。
「……あくまで、一定時間なんだよな?」
「ええ。そのまま吸血鬼になる事はないから安心していいわ」
「じゃあ、ありがたく受け取っておく」
止むを得ず使うような事がなければ良いのだけどな。
そして俺たちは異変の元凶へ、咲夜は紅魔館に戻ってから、慧音たちの看病という事で決まった。
「じゃあ、気をつけて」
そう言い残し、咲夜はレミリアと共に消えた。
時間を止めたのだろう。
もう俺にレミリアパワーは残ってないらしく、咲夜の時間に干渉できない。つまり時間停止の本業を垣間見たのは初めてだった。
「じゃあ、いくか、妹紅」
「あぁ」
ただ、俺が数秒だけ時間を止められるのは、未だレミリアしか知らない。
***
「ただいま戻りました」
地下の大図書館へと移動する。
「お疲れ、咲夜」
一度パチュリー様にレミリア様を見てもらった方がいいと思ったからだった。
私は時間を止め、レミリア様が空中に浮いている状態のまま机の上に清潔な布を敷き、レミリア様を乗せた。
「レミリア様は人里を襲おうとしたところ、上白沢らに返り討ちあいました。その際に負ったダメージは私の知る中では経験なかったため、パチュリー様の意見を聞きたいと思います」
「……これはとりあえず輸血が手っ取り早いわね」
レミリア様の容体をある程度見て、そう判断したらしい。
自分が考えていた対処法と同じだったから安心した。
「……では、とってまいります」
時間を止める。
まずは医療部屋から輸血道具一式を持ち出し、地下からレミリア様の血を持ってくる。こんな時のために採血しておいた物を。
あ、もちろんあの男に渡したのはレミリア様の血じゃないけど。
棚を見る。いろいろなラベルの貼ってある瓶が並んでいる。
「れ、れ、れ……これね」
レミリア・スカーレットと記された瓶を持つ。小分けされてない、大型の瓶。これが結構重い。
ふと、がらんとした空白が気になった。
私がここに仕える相当前の代の吸血鬼、その血液があった場所。
好戦的で、今は亡きスカーレット卿に仕えた、とても強い吸血鬼だったと聞いている。
私が持ち出したのも、この血を小分けした瓶だ。
そこで、何か嫌な予感がした。
さっき、この館を出る直前。
私は館じゅうの掃除をしていた。
そしてレミリア様に食事用の血を持ってこいと命じられ、地下に行った。机の上に置いてあった瓶を、よく確認もせず持ち出した。しかしラベルはちゃんとみた。ブタの血だった。
そしてそれをレミリア様に渡し、レミリア様出発後、もう一度地下に潜ってこの血を持っていった……
「まさか……」
私はレミリア様の部屋にノックもせず入った。
床には豚の血液が入ってる瓶が転がっていた。
おそるおそる、それを舐める。
「……そういうことね」
それは吸血鬼の血液だった。
レミリア様はこれを飲んだがために、あの様に豹変されてしまったのだ。
これは誰かの策略だろうか。とすると……
「持ってまいりました」
時間を動かし、目の前の机に置く。
「えぇ、じゃあよろしくね」
椅子に座って本を読もうとしているパチュリー様を呼び止める。
「パチュリー様、無礼を承知で申し上げますと……」
背中からブタラベルの瓶を取り出す。
「これと吸血鬼の血を入れ替えたのはパチュリー様ですか?」
「ええ、そうよ」
パチュリー様はあっさりと答える。
そもそも、レミリア様は今まで情緒不安定になどなった事がなかった。それもそのはず、飽くまで今夜の原因はあの血にあるのだから。そしてそれを知っているのは入れ替えた張本人だけ。
「では、なぜあんな事を?」
「さっき説明した通りよ」
さっき? 私は記憶を思い返し、数時間前のパチュリー様との会話まで遡った。
「レミィのストレスを解消させるために、わざとあの血を咲夜に持っていかせたの」
「しかし、それでは……」
「本末転倒。でもそうじゃない。意図的にレミィを暴れさせるのと望んでいない暴走を招くのとでは結果が変わってくる。実際、今日は運良く偽物の月という状況のおかげで、吸血鬼の血をレミィが飲んで暴走したと知らない貴女は私の言葉を信じ、レミィのストッパーに少なからず貢献した。でもこれが私の予想範囲外で起こってしまったら被害は今回の比じゃないわ。まぁ、今回死人が出なかったのは予想外だったけどね」
そんな……それではまるで私達で訓練と称した実験に使ったようなものではないのでしょうか。
「そんな事よりも、早く輸血したら? 見た所相当血液量が減っているわよ」
パチュリー様は、話は終わりだ と本を閉じ、部屋の奥へと去ってしまった。私は何かが引っかかっていた。本当にそんな理由なのか、他にそうした事で得られる利点があったのではないか?
しかし、パチュリー様について探りを入れたりするのは憚られる。これ以上については私は関与しないようにしよう。
「はぁ……」
レミリア様を持ち上げ、医療部屋へと運ぶ。
だけど今日はパチュリー様にしてやられた、そんな気分だわ。
階段を登りながら、気づく。
「……じゃあ、私が持ち出した血が、豚の血ってこと?」
それを知らずにあの男に渡してしまった。
おそらく、効果はない。
「まぁ、いいか」
半分吸血鬼状態ってだけでレミリア様を倒す奴なら、きっとこの先も大丈夫でしょう。
私は扉を開け、輸血をするための準備に取り掛かった。