さて、ここが博麗神社か。妙に遠かったな。
階段がキツかったと正直に言わないのは、心のどこかでまだ若いとでも思っているのであろうか
それともここへ来る途中、とある若い女性に
「お兄さん、博麗神社へ向かうならこれをどうぞ」
と5円玉を渡された時の「お兄さん」を気にしているのか
今思うとどうしてお金をくれたのかわからんが。
それにしても、綺麗に整備された神社だな。
しかし、ここに巫女さんがいるはずなのだが、見当たらない。
しばらくキョロキョロしている内に賽銭箱へとたどり着いた。
そうかとこのための5円玉か。と、私は5円を投げ入れる。
チャリン、と音がしたであろうか。
曖昧なのは同時になった騒がしい音の所為だろう。
「いらっしゃいませ!博麗神社へ!」
「……はぁ」
巫女さんが飛んできた。文字通り空を飛んできた。ワイヤー?
「無病息災、家内安全、恋愛成就など、願い事をどうぞ!」
なんて営業スマイルだ。うちの会社の受付に見せてやりたい。まぁ、それは冗談として、
「私は外来人らしいんだけどさ、帰ることってできるのか?」
となるべく丁寧に聞いた。しかし反応は悪い。
「外来人?そこの張り紙読んでください」
私は指差された紙をみる
「外来人の方々へ
外来人の増加が著しくなってきましたので、
この度博麗神社は外来人の帰省を月一で援助することとします。
なお、手数料として、一万円ご持参ください。」
なんだと?あの少女はそんな事は言わなかったぞ?
「あぁ、つい最近始めたサービスだから。知らなくても当然よね」
そうか、だから……いや待て
「月一?しかも最近始めたって……」
「えぇ。つい昨日よ。残念ね。また来週来てちょうだい」
「き、昨日だって!?」
それって、昨日真っ直ぐここに向かえば間に合ったかもしれなかったって事か!?
「ごめんなさいね。こういうのはメリハリが大事だから」
しかし、あちらの言い分はごもっともだ。
私の世界では例え理不尽でもルールに従わなければいけない場面が多々あるもの。ここはひきさがるか……
「……とは言ったけど、別にこの世界で行く宛がないなら今すぐにでも戻してあげてもいいけど?」
「ほ、本当か?」
私の世界ではルールを破るのもまたルールという場面が少なからずあるというもの。ここはお願いするか。
そう思ったとき、
「あら霊夢。さっそく私との約束を破るつもり?」
私は絶句した。
生首が、浮いて、喋っている。
「紫、べつにそんなつもりじゃ……」
「実際、現代入りをさせるのは私の仕事。せっかく期間限定にしたのに、これじゃあ今までと変わらないじゃない」
紫と呼ばれた彼女は確か……
「またお会いしましたわね。お兄さん?」
そうだ、美しい5円玉の人。
しかし、今の「お兄さん」からは皮肉しか感じ取れなかった
はぁ……
そして結局人里へと戻ってきた。
帰れるのは一ヶ月後。どうやら満月の日らしい。
「さて……どうしたもんかね」
顎を撫でながら考える。髭が硬くなるのを通り過ぎてしまうほど伸びてしまった。
一ヶ月。決して短くない。
宿を借りるのには長いが、
一ヶ月野宿はもはやホームレスのようだ。
「お、あんたは」
途方に暮れていると、両手に野菜が入った箱を抱えた女性が話しかけてきた。よくみるとダンボールの人だった。
「ちょっと待っててくれ。もう少しでできるから」
私は事情を説明した後、夕飯に誘われた。顔見知りには口調が変わるのな、この人。
ありがたいが、異性と二人きりで食事というのにこの人は躊躇いも恥じらいもないのか?
「そういえば自己紹介がまだだったな。私は上白沢慧音だ。この近くの寺子屋で教師をしている」
おぉ、先生だったとは
「俺は……あぁ……えっと」
くそ、成り行きで思い出すかと思ったが、駄目だ。
なぜか思い出せん。
「……そういえば、外来人は何か大切なものを忘れる事があると言うのを聞いたことがあるな」
彼女……慧音が言った言葉。
大切なもの……それは元の世界で俺が先祖から受け継いで、親につけてもらった名前。
つまり
俺は、過去と決別すべきなのか……?
現代での過去を捨て、この世界で生きていけと、神様がいっているのか?
ちょっと都合良く考えすぎかな。
ただ、ここで第二の人生をスタートさせるのも悪くないと思う。
「……とりあえず食いな。ここに来てからマシなもん食ってないんだろ?」
「……すまない」
この先どうすればいいのか。
今の俺には理解出来ない。
だが、一ヶ月。
俺には一ヶ月あるんだ。
俺の行き先は、これから決めればいいんだ