おっさんが幻想入り   作:柊の花

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兎々

魔理沙と別れた後、再び俺たちは進む。

弾幕勝負で負った傷、及びに時間停止の代償は例の梅干しで回復した。

マスタースパークをもろに受けたお陰で、時間停止の怪我の事は妹紅には知られなかった。まぁ、隠してもしょうがないのだが。

 

「それにしても……」

チラッと視線を動かす。

サッと何かが隠れる。

意外ッ、それは兎だ。

さっきから数匹の兎さんが周りをうろちょろしている。

「なんだ?こいつら。俺たちに用でもあるのか?」

「あるのさ。それが上からの命令なんだろう」

妹紅は軽く笑う。

確かに微笑ましくはある。

が、だ。

数百匹の兎が津波のようにに追いかけてくるのはある意味ホラーだ。

夢に出る。

 

そんな感じで役10分間飛び続け、俺たちはある場所へと辿り着いた。

「おぉ……」

この俺も感嘆の声を上げるような、立派な屋敷があった。

ただの邪魔にしか感じなかった竹が、いままで以上に輝いて見える。

こんな旅館が現代にあったら人気スポット間違いなしだろうと踏む。

 

俺はふと思った事を漏らす。

「ここまで妖怪が出なかったのはあの巫女のお陰なのかな」

博麗霊夢。

本来ならこの屋敷には何かしらの魔法で守られててもいいと思うのだが、きっと霊夢とあの八雲紫が壊したのだろう。

二人と会ったのはあの日以来1日もなかったが、いつも何をしているのだろう。八雲紫は、なんかこの世界の偉い人って事は聞いているが、霊夢は異変解決のスペシャリスト(魔理沙談)としか聞いていない。

まさか、幻想郷の平和と正義のために日々悪と戦っているというヒーローではあるまい。

 

「だけど、なんか中から怪しい気配がプンプンするな」

「あぁ、此処が異変の発生源だ。怪しくて当然だ」

妹紅は躊躇なく扉に手をかけ、開けた。

中に広がる景色に、俺は目を疑った。

外から見れば、ここは普通の豪邸だ。

しかし中は、外見とは違った。表現するなら別次元だった。

廊下の幅は数十メートル、天井までもかなり高い。

「妹紅……これって」

「一応招かれざる客対策なんだろ。私達には関係ないけどな」

幻覚か、はたまた現実なのか。

さっきから幻覚を見ていて混乱してきた。

とにかく、もう考えるのはよそう。

つまりはこうやって考えさせる事こそが敵の策略。そういうことだ。

妹紅に続き、俺もさっさと歩む。

 

 

数分間、敵の手荒い歓迎があった。

この屋敷に住まう妖怪が、俺に向かってエネルギー弾を撃ってくる。しかし、飽くまで弾幕ごっこのような弾幕を放ってきたから、調教されているんだな、と少し感心する。もちろん外の妖怪より厄介だ。

けれど狙うのは俺ばかり、そんな気もした。

妹紅に流れ弾が行く事はあっても妹紅を狙う妖怪はいない。

なんだろう。妹紅が大物臭出しているのか、俺から小物臭を感じたのか。

 

そんな中、一匹の兎がでてきた。

すると周りの攻撃がピタっと止む。

どうやらこの兎が、この辺のリーダー格らしい。

いや、違う。少女だ。

ウサミミの少女だ。

少女だが、俺はこう尋ねる。

「どうせお前も妖怪なんだろ?」

小柄な体、小学生くらいだろうか。

ウサミミをつけた破廉恥な子供というよりも、『そういう妖怪』って考えた方が自然。不思議。

「お師匠様の伝言で、妹紅だけ特別室へご案内、だそうだよ」

少女はニカッと笑う。

「俺は?」

「私の食料」

カプッ と噛みつかれる。

いつのまに近づいてきたんだ?気づかなかった。

「ふざけるな、ウサギ」

ただ、全然甘噛みだった。

誘惑攻撃のつもりでもあったのだろうが、あいにくそういうものの耐性は強いんだ。

第一、こんな子供には興味がない。

それに、俺は年上派だ。

さらに、こいつは妖怪じゃないか。

加えて、今は敵であって、そういう感情はもたない。

止めに、うさ耳て……悪趣味だろ。

いや、さっきから必死に否定しているのは別に、油断したらすぐに惚れてしまうからとか、かわいいと思っているからとか、そんな感情を押し込むためとかではないぞ。

これは妹紅や慧音にも言えることだが、基本この世界は俺よりも年下の人間(年下に見える妖怪)が多くて、そういう……欲情だとか、恋愛感情を持たないようにしているんだ。(布団での件は忘れてくれ。あれは俺の寝相が悪くてたまたま目があった、で解決したんだ)

せめて彼女……八雲紫が最低ラインだろうか。まぁ、彼女は大人っぽいし、他の子よりも年齢は上だろう。人間前提として。

ちなみに俺は年上派と言ったが、正直年下もOKだ。

そもそも、俺より年上と言ったら大体がおばさんじゃないか。

だったら若い方がいいに決まっている。

あー、それでも八雲紫に恋愛感情を抱くとか、そういう理由にはならない。第一、あいつは俺の事なんかとっくに忘れただろう。俺にとってはあいつの印象が強烈だったが、あいつからすればどうせ、俺は1日にすれ違う何百人のうちの一人なんだし。

『君には一日、我には一世』だ。

 

……あれ?なんでこんな話をしてんだ、俺は。

目の前の兎少女も考え込んでいた俺を不思議な目で見ている。

一体どれくらい考え込んでいたのか、正直不安だ。

だからせめて、なるべく自然に、落ち着いて話を続けた。

「つまりお前の事は好きじゃない」

違う違う。そっちでない。

「……大体、俺は妹紅の連れだ。俺もその特別室とやらに案内してもらおうか、ウサギ」

大人気なく、脅す気で睨みつける。

しかし兎少女は気にせず、側に来たリアル兎と会話していた。

あ、喋れるのか。あの兎も。

そしてウサギはなにやら納得したらしく、口を開く。

「お師匠様からの伝達。人間にはおかえり願う。だそう」

「なら、力づくで!」

飛びかかって捕まえようとすると、ひょいっと飛び上がり、一瞬で消えてしまった。というか、なんで俺は捕まえようとしたんだ?

「私を捕まえられたら、特別に案内してもいいって言ってたぞ!」

どこからともなく声が聞こえてくる。

あ、結果オーライじゃないか。捕まえられればだが。

「おっさん気をつけろよ。てゐは素早いからな」

「お前は今日全く手伝ってくれないな!」

ただ、それよりもあの兎だ。

兎は俺の周りをウロチョロ飛び回っているらしい。

天井から音がしたと思えば、うしろを風が切り、後ろを振り向けば、横に現れる。それを観測する事も、触れる事もできない。

 

けど、実はこんなルールなら勝ったも同然。

「ひっひっひ、捕まえてごらん!」

兎が後ろを通り抜ける……

領域(エリア)!!」

俺から半径3mの時間は止まる。

狙い通り、油断したこいつは俺のすぐ側を飛んでいる。

躊躇なく、そいつの足を掴み、能力を解除する。

「痛だっ!!」

「ほらほら、捕まえたぞ」

プランプランと宙づりにして少女を揺らす。

しかし、少々強く握りすぎたかもしれない。

兎の足は真っ赤になっている。

だから、兎の事を優しく地面に置いて、笑顔で言った。

「さっ、案内してもらおうか。ウサギ」

「うぅ……」

少女は渋々といった感じに歩き出した。

手を離し、鼻血を拭き取る。

たった数秒でも体力の消費が激しいから、あまり使える技ではないな。

 

クイクイ

コートの下を引っ張られる感覚。

みると、一匹のリアル兎がいた。

口に何かをくわえていた。

「どれどれ……」

勝手に読むが、読めという意味であっているのだろう。

『てゐへ

これから二組のお客様がくると思うのだけど、

博麗の巫女を鈴仙に任せて、妹紅とそのお連れが来たら、二人を

「あの部屋」まで案内すること。』

 

「全然話が違うじゃないか……」

兎に紙を渡し、頭を撫でてやる。

さっきは怖かったが、一匹だけだとかわいいもんだ。

「おっさん」

「ん?」

先を歩いていたはずの妹紅が俺に向かってぽいっと何か投げ渡す。

「それを持っててくれ」

その正体は巾着で、その古い巾着の中身はあの梅干しだ。

「その怪我、魔法じゃ治せないんだろう?」

「……」

すごくバレてた。

しかし、俺の新魔法、その代償で怪我をする事はともかく、魔法で治せない事は魔理沙戦で俺が初めて気付いた事なのに、こいつ、まさかもう見抜いたのか。

内心関心した。そしてありがたく一ついただく。数も有限なので、先に残しておくべきだろう。

 

しかし。

何故だ。

この先の、特別室が何なのかわからないが、行ったら何か、不吉な事が待っている予感がする。

こんな事を感じるようになるなんて、下手すりゃ青春時代よりも濃厚な時間を送れてるじゃないか、と思う。俺の高校生活は退屈だったからな。

 

しかし、本当はそんな良いものじゃない。

それは数分後に分かる事だった。

 

 

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