おっさんが幻想入り   作:柊の花

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石に座り、少年は眺めていた。

一人の少女と一人の青年を。

澄み渡る青空、爽やかな風。

こんな時は外で元気に遊ぶのが子供の本業だろう。

 

だが、

「でね、ここ持つとブレにくいんだよ」

男。20代後半の男は、少女にクロスボウの扱いをご教授していた。

「マサ、一体俺たちになにをさせるつもりなんだよ」

マサと言うのが彼、正次のあだ名。使っているのは俺だけだけど。

そんなマサは今朝早くに俺たちを連れ出し、特設の射撃場で約3時間近く狩りの基礎を教えている。俺も慧音も訳がわからないまま連れてこられ、こうして無意味とも思える銃器の使用をただただ訓練されている。

「沖田君。世の中には知っているが実際には行わないことがあるだろ?例えば料理とか、僕で言うなら畑仕事もそうだ。それは別に自分がやらなくても良いことだから。でもね、知らない事があるのは勿体無いと思わないかい?例えば狩りのように、一見役に立たなそうなことでも実は自分にとって必要なことかもしれないんだよ」

「だからなんだよ」

長ったらしい説明を聞いて、結論がまだな事に腹をたてる。

「つまり、いろいろ経験する事が大事なんだよ」

「そうだよ。沖田も一緒にやろうよ」

若干乗り気な慧音もマサの意見に乗る。

クロスボウを持った手で俺に近づいてくる。

「てか危ない。銃口をこっちに向けるな」

銃口という表現であっているかは定かではないが、矢は俺の方を向いていた。

瞬間「あ」という声。引き金が引かれたらしい。

俺は直ぐに領域(エリア)を発動させる。

半径3mの時の流れがゆっくりになる。

3mというと、マサと慧音も含まれているので、全世界の時間を操っている感覚に陥る。

そして矢だ。空中に浮いた矢があった。

時間がゆっくりになっているが、この矢にもそれなりのエネルギーを持っている。掴んだ瞬間怪我するだろう。俺は右にずれて軌道上から逸れる。そして時間を元に戻す。

後ろの木の幹に矢が突き刺さり、木の破片が頬を掠める。

今の自分の冷静さに感動した。

「忘れてた。人を撃つと危険だから気をつけて」

「うんわかった」

一番大事なことだろうが。

「きっと当たってたら首が飛んで大量に血が出て沖田君は今頃……」

「ってバカ野郎!子供の前でそんな話するな!」

ここでいう子供は慧音のみだ。俺は大人だからな。

見た目は子供というか、見た目だけが子供なんだ。俺は。

「まぁ慧音。わかっただろう?人を撃つと危ない。これは経験しないと分からないことだ」

「うん、そうだね」

…………

本来、経験したなら、もはやそれまでだったろう。

 

数時間、慧音はマサと共に狩りの練習をしていた。

見てて、慧音の運動神経が人間離れしているのがやけに目立つ。この前、木の上にいる俺に飛びかかったときから、その身体能力の凄みはよくわかっていた。やはりゲームなど、室内で遊ぶ事が多くなった子供と比べて、いい意味で野生的なのだろう。

あと、一つ気になる点があった。

マサのクロスボウの撃ち方だ。

慧音に教えるときは、標的を固定するような、正規の構えだったのだが、いざ実戦となるとまるでハンドガンのように片手で持ち、信じられないことに撃つ瞬間手首を捻っている。結果、その行動がライフリングの役目を果たし、射程距離が伸びるのだ。しかし、そんな事はやろうとしてできるものではない。手首を痛める可能性もあるし、そもそも矢があらぬ方向に飛んだり、回転せずに飛ぶこともある。

一体、こんな技術をどこで身につけたのか。相変わらず謎の多い男だ。

「沖田君はもういいのかい?」

マサが近づいてきた。

慧音は未だにダーツの的のような標的に向かって矢を放っている。

「お前、本当に記憶がないのか?」

マサは「その話か」とそんな顔をした。

誰かから教わった……というか、そのクロスボウすらどうして持っているのか不明だ。この時代にこんな物が果たしてあったのだろうか。

「実は少しあるんだ。記憶」

「どんな?」

「詳しくはわからない。本当に僕の記憶かどうかさえ、ハッキリしない。というのも、その記憶の主人公は、はっきり言って嫌な奴だから」

マサは拳を強く握りしめた。

「得体の知れない武器を使って、罪のない少女を傷つけ続けている。そして彼はそんな生活に充実感を感じてしまっているんだ」

それはマサの前の人格なのだろうか。それと、得体の知れない武器とは一体なんだ?

「よく夢に見ることがある。多分、僕が記憶を無くす直前の夢……又は……」

「……」

「これから起こる事の夢」

予知夢。そういう事だろうか。

ただ、なぜそんな事がわかるのだ。

「その僕は、今と少ししか変わらないけど、確実に年を重ねている。そしてその日僕は戦っていた。目の前に立つ男と」

彼から僕に変わった。もうそれが自分だと決めたのだ。

「悟った。僕はこいつに殺される。その男の持った剣で一突きさ」

「それは、どんな男なんだ?見たことはあるか?」

「わからない……だけど、なんかおかしいんだ。初めて会う感じもするし、昔から一緒にいた感じもする。一人と思っていたのに、実は二人いたのかもしれない。まぁ、とにかく不思議な夢なんだ」

「……そうか」

曖昧だ。なにもかもが。

とりあえず、残っている記憶が少女を傷つけている記憶。そして記憶を失う直前の出来事を予知夢のように夢で見る。そういうことだろう。

 

「正次、矢が抜けなくなっちゃった」

俺たちは、慧音の声で現実に戻される。

「あ、あぁそうか。あれは練習用だからな」

練習用だとどうなのだ?と思ったが、それはとてもどうでも良いことで、わざわざ聞く必要もない。

マサはダーツの的のような模様を描いた木から、力を入れて矢を引き抜く。

それを慧音に渡し、慧音は再び撃ちはじめる。

装填から構えるまで、流れるような動き。始めたばかりの頃はブレていた銃先もしっかりと一箇所に留まっている。引き金が引かれ、飛んだ矢は木のど真ん中に深く突き刺さる。

 

俺はふと思い、空を見る。大きな鳥が頭上を飛び回っていた。

あの鳥も狙えば撃てるのだろうか。

俺は手を上に掲げ、「ファイア」と呟く。

しかしなにも起こらない。

 

やはり、俺は魔法が使えない。

さっきはノリで領域(エリア)を発動させたけど、あれは必要なのが魔力でなく生力。経験ではなく感覚だから出来たのだろう。今の俺は魔法使いとして経験し、魔力を身につける時より20年前だ。使えない事はハッキリとしていた。それでも実際に使えないと思うと、不便に感じることも多い。

「慧音、俺にも貸せ」

クロスボウをひったくり、的に狙いを付ける。

「沖田、それ撃ち方違う」

「うるさい」

俺はあくまで我流でクロスボウを構えた。

子供の頃エアガンで遊んだように。

バシュン。

そん気持ちのいい音とともに矢は放たれ、放物線を描きながら地面に突き刺さった。

まんま槍投げの形にそっくりだった。

「……ざっとこんなもんだろう」

「下手」

 

まぁいいさ。

俺には俺のやり方がある。

クロスボウを放り投げ、俺は元いた場所に戻った。

魔法は使えないが、時間を操ることは可能だ。

もし妖怪が来たとしても逃げることはできるはず。

いや、妖怪は味方だから、もしかしたら敵なんていないのかもしれない。

ちょっと最近、危ない事を考えすぎた。

まぁ、それは俺の性格が性格なだけにしょうがないのかなと思う。

戦闘民族、というか、戦闘志望民族。

 

そんで、今日も平和のまま、1日は終わりを告げた。

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