おっさんが幻想入り   作:柊の花

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今晩は焼き肉だ。

そう決まったのは今日の事。

俺の提案なのだが、どうやら慧音達人間が肉を食うのは一か月に一、二回程度しかないという。

それは生肉は基本妖怪たちに与えているからという事。まぁ、元々取れる肉が少ないってのも理由だな。

だから俺は妹紅に提案した。

「今日は人間も妖怪も大量の肉を食おう。やり方は俺に任せろ」

と。

 

俺はまず、マサと慧音に狩りを頼んだ。新鮮な肉を得るため。

理想は猪のようなでかい肉がいい。さすがに牛は居たとしても、村にしかあるまい。

細かい分担はあっちでやってくれるだろうから、俺が指示したのはこれだけだ。

あと、妹紅には野菜を用意してもらう。

焼き肉でも、言うとバーベキューのような感じなのだ。

 

俺?俺はもちろん火係だ。

この家の中には木炭が大量にスタックしてあったから、これを使う気満々だ。

そこらへんの石などを積み上げ、簡易の囲炉裏を作り、さらにその上に金網を引いた。

この金網だが、実際はただの鉄の板だ。

それを大量に穴をあけ、金網のようにしているだけだ。

それでも十分だと思い、俺は数時間しっかりと金網を磨いた。

金属の使い方はわからないが、たぶん油を染み込ませて加熱してればマシになるんじゃないか? 中華鍋的な考え。

 

さぁ、火起こし。やるぞ。

俺は囲炉裏に炭を並べ、そのコツは幻想郷でミスティアに教わっている。

並べ終わったら問題の火起こしだ。これも考えがある。

ここで登場するのは、ハッケロッドだ。

久々に名前がでてきたから、なんの事かわからなかっただろ。

実は魔理沙と戦った後、魔理沙も使っている八卦炉の使い方を教わった。

魔理沙が言うには、俺が魔法を使うたびに魔力が溜められて、それを便利に使う事ができるという。初耳だ。でも、確かに魔力は感じる。

さっそく、杖を手に持ち、八卦炉の方を囲炉裏に向ける。

そして、火をイメージしてみた。

すると八卦炉の先端から光が延びて炭にあたり、みるみる内に炭は真っ赤っかの高温になり、火が付いた。

 

「まあ、後は放置でいいだろう」

俺は別の作業へと取り掛かる。

タレの作製だ。

前もって材料は妹紅に用意してもらっていたので、俺はただ調合するだけだ。

いろいろな調味料や食材をすり潰し完成だ。

これぞオリジナル焼き肉のタレ。ミスティア直伝だ。

さすがに伊達に屋台をやっているわけじゃなく、そのタレはかなりうまい。足りない材料はアドリブで補充したから、まぁ本家には劣るかな。

肉につけるのはこのタレと、あとは海の水で作った塩で問題ないだろう。

とりあえず準備は完璧だ。

辺りはすでに日が沈み、ようやく焼肉の時間がやってくる。

 

 

夜。

マサ達は良い大きさの猪を二回に分けて二匹も獲ってきた。

一匹と半分は妖怪に与えるとして、残った半分は俺達だ。

半分と言うと少なく感じると思うが、実は多いくらいなのだ。

というのも、いつも食っている肉は猪や鳥の足だから、脂肪の乗った腹の肉を食べることはなかったらしい。それがこんなに大量の肉を食えるのだから、少しは少なめにしておいたほうがいいという妹紅の考えだ。確かに、慣れないものを食って体を壊したら大変だ。その際、殆ど俺の所為になるだろうから余計に。

さて、肉のカットはマサがやってくれて、慧音と妹紅は握り飯を作ってくれている。

そして俺はさっそく焼きにかかる。

今回、焼き肉と言ったが、正直やっぱりバーベキューに近いだろう。

故に、俺は全員の分の肉を焼くつもりだ。

だから俺は囲炉裏に一番近い場所に腰を落ち着ける。

そんな中、一匹の妖怪が近づいてきた。

見た目は牛に似ていた。

「どうした?お腹がすいたのか?」

そのなんとも不思議な妖怪は俺が持った肉を物欲しそうに見ている。

見た目は牛っぽいが、決して食べてはいけない。

今、一瞬焼いたらうまいだろうな……って考えたが、それはやってはいけないことだ。

本物の牛はいいのに妖怪はダメなのか?って話になるが、別にそうではない。

妖怪を食べるというのは、そもそも俺達のルール違反だ。

今まで妹紅が妖怪と仲良くしようとしてた意味がなくなる。

ここから余談だが、よく、動物は殺してもいいのに人間を殺すと罪になる事に対し、動物愛護団体的な奴らは文句を言うのだろう。それの答えを出すのは難しい。知能とか、心とかを持ち出したところで、それは正しいとはいえない。

動物にも、知能や心はあるのだし、妖怪もそうなのだ。

人間だから殺しちゃいけない理由ってのは、結局単なる自己中心的な考えでしかない。

だから、俺が妖怪を殺さずに、猪の肉を焼いているのは、単なる自己中心的な考えだ。

俺は妖怪を狙う食欲を抑え、そのでかい頭をなでるだけで火へと意識を戻す。

しかし、その妖怪は俺に構って欲しいのか、擦り寄ってくる。

正直に言おう、怖い。

迫力もそうだが、食べちゃいたい。

牛を見てそう思う事は初めてだったので、引く。

水族館を行った感想『おいしそうだった』、みたいな感じにはならないのと同じだ。

「あ、こらこら。邪魔しちゃだめだよ」

慧音が近づくと、その妖怪は俺のそばを離れ慧音に近づいた。

「仲良いのか?」

「だいたいの子とはね。この子は大人しいし、頭もいいから遊んでて楽しいよ」

慧音はその牛のような妖怪を慣れた手つきで撫で回す。

「じゃあ、とりあえず遊んでこい。どうせやることはもうないんだろう?」

「うん。わかった」

少し考え、俺は去る一人と一匹を引き止めた。そしてこれから焼くつもりだった生肉をポイッと投げる。妖怪はでかい体を反らせ、一口で飲み込む。

 

 

数分後には全員が揃った。

俺は早速肉を焼く。

伊達に八目鰻屋台で働いていたわけではない。

そりゃ、鰻のかば焼きと焼き肉はまったく別だろう。

でも、炭を使った火力の調整や焼き加減などはそうとうに経験した。

おかげで、俺が焼く肉の評判は三人とも良かった。

慧音もマサも喜んで食べてくれた。

猪の肉といってもブタの肉と変わらないらしく、全身のパーツから少しずつとり、いろいろ味を楽しんでいる。やっぱり、食用の豚の方がおいしいと思うが、それでも肉はやっぱりいいものだと思う。

俺も一口食べる。俺が作ったタレとの相性もよく、非常に美味だ。

自慢じゃないが、実は現代でも俺は焼き肉が好きだった。

 

会社の飲み会で焼き肉に行ったことがある。

その時についたあだ名は「焼き肉奉行」。俺は仕切り屋でもあった。

今思うと、後輩や同僚にいいように使われていただけとも考えられる。みんなに良いように言われるがまま、肉を全員分焼いていった。確かに自信はあったのだが、すこし嫌な気分にもなる。だから、最近の飲み会は、居酒屋にしか行かなくなった。

まぁ、それでも俺は焼き肉は得意だと言い張るよ。

 

 

炭の熱が冷め、焼き肉は終了となった。

夜はすでに11時を回ったほどだと思う。

慧音は食べてる最中に寝てしまったため、途中リタイアした。

マサも猪を運ぶのに力を使い果たしたのか、あまり食べずに床についた。

よって、片づけは俺と妹紅だけで行っている。

「今日はありがとうな、妹紅」

俺は急な要望に応えてくれた妹紅に感謝する。

「いいわよ。私も楽しかったし」

楽しかった。妹紅の口からこの言葉はなかなか聞かない。

よく考えると、幻想郷での妹紅は自分の感情を表すことは少なかった気がする。

いや気のせいか。遭難した時、疲れたって言ったと記憶しているし。

俺は金網に焦げ付いた肉を落とし、きれいに洗う。

囲炉裏も分解し、炭も砕いて一か所にまとめておいた。

 

「あ」

片づけの最中に空をみた。

そこにあったのは真ん丸い月だ。

年々月が地球から離れているとかいう話を聞くが、今日の月は現代と変わらない月に見えた。

「満月か……」

妹紅はお茶をもって俺のところに来る。

それを受け取り、思い出す。

 

満月の日、それは俺が一番望んでいた日であると思う。

いや、実際は帰ろうか帰らないか迷っていたから、そこまで望んではなかったな。

「満月……あと何回見ることができるんだろうな」

なんとなく、そんなことを思ってしまった。

そんなの、数えるだけ無駄だ。

「……なんか、最近月を見るとせつなくなる……」

「え……」

それは急に妹紅の口から発せられた言葉だった。

「私にその気持ちがなんなのか、私にはわかるんだけど……それが逆につらいと思って……」

俺も切なさは感じる。

最も、『あぁ、もう休日も終わりか……明日から学校だよ……』という小学生時代の時の話だ。

しかし勿論妹紅はそんな事じゃないだろう。

俺は頭をよぎった単語を口に出す。

それは彼女が今考えてそうな事だったからだ。

「輝夜の事か?」

「……!」

輝夜、もといかぐや姫は満月の夜に月に帰った。そこから来る気持ちなのだろうと思ったのだ。

「なんで……」

「え?なんでってか、なんとなくそう思って……」

「なんでアイツの名前を知っているの!!」

しかし、俺は今頃自分の間違いに気付いたのだった。

妹紅にとって、輝夜はなんなのか察しもつかなかった。

結果として、妹紅の声は怒りで満ちていた。

「まさか……あんた輝夜の仲間!?そうなのね!」

「ちょっと待て、落ち着けって」

なぜだか、妹紅の怒りは落ち着きを見せない。

なんというか、取り乱していた。

「じゃぁ、じゃあアイツはいま近くにいるの?どうなの!」

「違う、俺は知らな––––」

瞬間、目の前に妹紅の足があった。

蹴られた。

まだ少し熱を持っていた囲炉裏にぶち当たり、俺は地面に転がる。

「嘘をつけ!そんなはずはない!」

「痛……ち、違う!俺は別にアイツの仲間なんかじゃない!」

「じゃあなんでアイツの名を!知っている!」

次に右の拳が飛んでくる。

俺はそれをつかむ。

「知ってたって、どうでもいいだろ!」

かぐや姫は有名人だから!

と、妹紅に対しては全く通じない理由を心中でのみ吐き、そのまま妹紅の足を払い、地面に叩き付ける。

いままで忘れていた、対人用の武術、柔道だ。

ちなみに俺は初段だ。

「すまん、どうでもよくはなかった。ただ、俺がアイツの事で知ってるのは名前だけだ!それだけの関係だ」

「嘘つけ!良く考えたら、私の名前も知っていたのもアイツから聞かされていたんだろう!」

寝ころんだままの姿勢から、妹紅は飛び上がり、俺の拘束をほどく。

子供の筋力では今の妹紅を抑えることはできない。

「お前、アイツになにかされたのか?だからそんなに怒っているのか?」

俺はあくまで冷静に尋ねた。が、

「うるさい!そんなことはお前も知っているんだろ!」

妹紅が手を振る。すると空気中の熱が集まり、炎の塊と化した。そしてそれが飛んでくる。

まずい。後ろには慧音とマサがいる家がある。

領域(エリア)!!」

半径10mの時間を止め、俺はハッケロッドを構える。

妹紅も火球を打ち出した状態で静止している。

そして時は動き出す。

放たれた火球は八卦炉へと吸収される。

その瞬間、再び時間を止める。

今度は妹紅の後ろに回り込み、時間を戻して羽交い締めにする。

「––––いつのまに後ろに!」

「妹紅!」

俺は妹紅の首に手をかける。

今の俺では妹紅を説得する事も、倒す事もできない。

最終手段として、酸素の供給を止めるしか方法はない。

いったん気を失わせて、そして落ち着かせるしか……。

だが、俺は急に力の消失を感じた。

忘れていた。時を止める代償を。

せき込む。今まで一番の出血だ。

全身から嫌な汗が出るのが、気持ち悪かった。

子供の時に負った、古傷がある場所からも血が噴き出す。

「私はアイツのせいでこんな!」

寝技を解いた妹紅は俺を蹴り飛ばし、距離をとった。

「こんな体になったんだァ!」

そして再び火球が飛んでくる。

ハッケロッドは遠くにある。蹴飛ばされた際に手を放していた。

そして今領域(エリア)は使えない。

地を焦がしながら、その火球は俺に向かって迫ってきた。

「ッ妹紅ォォ!」

叫んだ。

すでに手遅れだとわかっていても。

 

ドォン。

火球がぶつかり、爆発した音。

それは単調で、大きな音だった。

「……お前」

俺の目の前には、さっきの牛の妖怪がいた。

庇ってくれた……らしい。

妖怪は低く唸り、そして力なく崩れ落ちる。

か弱い声を出して、妖怪は苦しんでいる。

妹紅は、そんな姿を見て、おびえていた。

「あ……わ、私は……そんなつもりじゃあ」

今なら……コイツが作り出してくれたこの状況なら。

「妹紅、落ち着け、俺はお前の味方だ……」

「味方……」

「そうだ。敵じゃない。輝夜とは無関係だ」

「無関係……」

よし、この調子なら俺の無実を証明するのもあと少し……

「嘘だ……そんなはずはない! 輝夜はこの近くにいる!」

「……まて、おい!」

制止が利かず、妹紅は俺に向かって走ってくる。

「輝夜はどこだァァ!」

胸倉をつかみ、俺に殴りかかる。

一発、二発……

三発目、それは届かなかった。

妹紅の手は空中で動かなかった。

その手をつかんでいたはマサだ。

いつのまにか、俺や妹紅の後ろに立っていた。

「ぐっ……放して!」

しかしマサはそのまま俺から妹紅を引き離し――殴り飛ばした。

妹紅はそのまま玄関の扉をぶち破り、家の中に転がり、数秒間体を起こそうとした末、動かなくなった。

 

「マサ……こいつが……」

俺がそういうと、マサはうなずき、牛の妖怪に触った。

触られたにもかかわらず、妖怪はぴくりとも動かない。

急に触られて、びっくりしたなら、身を震わせていいのに。

そしてマサは首を振る。

「そう……か……」

俺は……こいつには何もしていない。

強いて言うなら今日、頭をなでてやっただけ。

そして、肉をわけてやっただけ。

それだけで、こいつは自らを犠牲にして俺を守ってくれた。

頭の悪い、妖怪が考えそうなことだ。

いや、違うな。

やはり、妖怪にも心はあるんだと思う。

知能があって、そして俺を助けようとする優しい心がある。

一体、人間と妖怪の共存は何の意味があるのだろう。

お互いを滅ぼしあう関係でなく、お互いを守りあう関係なのだろうか。

だとしたら……

「俺達のような同種が争ってちゃダメだよな……マサ、妹紅はどうだ」

マサに支えられ、俺は立ち上がる。

貧血気味で視界が朦朧としている。

「一応、気を失わせるくらいに強く殴ったけど、怪我が残ることはないよ」

「そうか」

そして、誰に聞かせるわけでもなく、俺は独り言をつぶやく。

「俺は明日、もう一度妹紅と話そうと思う」

俺はもう気づいていた。

いや……少し気づくのが遅かった。

妹紅がなぜ、あんなに取り乱したのか。

そして、妹紅の言っていた『こんな体』の意味。

そう。過去の事象と照らし合わせ、すべてをようやく理解した俺は、妹紅の『理解者』になるために、妹紅と話そうと思う。

「人間同士……な」

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