妹紅との話が終わり、俺は自分が寝室として使っている個室へと行った。そして疑問に思う。
「本当に、言って大丈夫だったのか?」
タイムパラドックス。
簡単に説明すると、未来が確定している世界から過去に飛んで、その世界を改変した時におこる矛盾のことだ。だが、あくまでそれは理論上の話。実際はどうなるかなど誰にもわからない。
この場合、俺が自分の正体を言ってしまった事で生じる可能性もある。親殺しのタイムパラドックスって奴だろう。
沖田という名がそうだ。妹紅が以前知り合っていた『沖田』の名を俺につけるだろうか。また、俺が未来から来たことを知っていたということは、最悪未来が変わるかもしれない。
寝室。荷物がまとめられた場所がある。
梅干し、残り二つだ。
ハッケロッド、未だ現役だ。
宝石、綺麗だ。
俺はそこから一つの物をとる。
永琳から渡された宝石を。
俺がこいつを導いてくれるはず。
永琳はそう言ったのだから。
「おい、俺は間違ってないよな。これでいいんだよな」
しかし、怪しい光を発したり、動いたりすらしない。
ただそこにあるだけだった。
どうしたものか。
もう未来は変わってしまったのだろうか。
そうだよな、未来が変わったかなんて調べようがないもんな。
……
いや、まだわからないぞ。確かめる方法がある。それもはっきりとわかる方法でだ。
「慧音!梅干しはあるか?」
「梅?」
芋虫のような妖怪と遊んでいる慧音に尋ねる。
「あるけど……なんで」
「案内してくれ。今すぐだ!」
慧音を急かし、その場所に案内させる。
未来でもらうことになる梅干しと聖水で育てた林檎をもって。
「これだけど……」
あったのは一つの壺。
デカイ壺は、これまたデカイ倉庫でも異様の存在感を放っていた。
「これだけか?」
「うん。妹紅が丹精込めて作った梅だよ」
「そうか」
俺はすぐに林檎を齧り、
対象は梅の壺。
壺の時間がゆっくりになる。
「何するの?」
「……この事は妹紅には内緒だぞ」
そう言って俺は壺に回し蹴りをいれた。
時間がゆっくり流れてる物体に、普通の時間から攻撃を加えるのは、即ち超高速でダメージを与えるのに等しい。つまり––
ガシャンッ!!
ツボは割れ、中身の梅干しもぐちゃぐちゃになり、地面に飛び散った。
一瞬で慧音の顔は真っ青になった。
林檎は体力回復用に齧っていたものだったので、
「ははっ……やはり問題はなかった」
「大ありだよ!なんでこんな事するの!?」
ギャーギャー喚く慧音をよそに、俺は確信した。
腰に下げておいた梅干し、そして巾着が消えたのだ。
「未来が変わると、この時代に持ち込んだものも消える」
「え?」
梅干しの壺を壊したから、未来にあの梅干しはなかった事になる。もちろん妹紅も持ってなかったということになり、俺はあの戦いを梅干し以外の何かで切り抜けた事になる。でもそれはどうだっていい。回復できてなかったとしても、過去に戻り、子供に戻った俺は怪我など残らない。
今回大事なのは梅干しが消えたという事実だけ。
つまり、さっき妹紅に俺が未来から来たことを話しても俺は消えない。それはまさしく、幻想郷の妹紅が過去に今の俺と会っていたということになる!
タイムパラドックスは生じていない!
「いやーよかったよかった」
「よくないよ。これどうすんの?」
梅干し地面でボロボロになっていた。
これは食えたものじゃない。
そうだな。直さねば。
「
時間を数秒分巻き戻す。
「あ、痛てて……」
しかし、治る前に俺がギブアップした。
時間を戻すのは、時間を早める事よりも、止める事よりも生力を使うのだ。
さっきの林檎は術を使って直ぐに回復できるように齧っていただけだが、時間遡行は常に回復しながらでしか使えなさそうだ。
「もう一度!」
林檎をくわえながら術を発動させる。
グググ……
「え、すごい」
慧音が感嘆の声をあげた。
それもそうだろう。今まさに時間を巻き戻して、割れた破片、飛び散った梅干しが元の場所に戻っているんだから。
はぁはぁ、と肩で呼吸をする。
「妖術なの?てっきり妹紅しか使えない物だと思ってたけど、沖田もつかえるんだね!」
乱用はできないけどな、と言う。
「あれ?」
いつのまにか懐に梅干しが戻っていた。
まぁ、そりゃそうだろう。
だって
だけどこれで証明できた。
あの幻想郷の妹紅は俺と会っていた。覚えているかは別としてだけど。
だが、事が進んだように見えて、実はこの世界に来てから進歩がない。
タイムパラドックスは新たに浮上した問題であってそれは当初の目的とは一致しない。
俺は部屋に戻る。
未だ光もしない宝石を見つめる。
「一体、どうすればいいんだ?」
宝石はただ、路頭に迷う少年の姿を静かに映し出すだけの仕事しかしていなかった。
というか、俺はいつまでこの姿なんだ。