おっさんが幻想入り   作:柊の花

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気がついたら、俺は布団に寝かされていた。

意識が弱いながらも、この感覚はいつも、夜に俺が使っている布団に間違いない。

 

外は土砂降りのようで、バラついた感覚で落雷が落ちている。

そうでなくとも、雨の音が激しい。

そろそろ身体を動かそうとしてみる。

ピクリともしない。

かろうじて動くのは瞼と口と、首のようだ。

 

よく見ると、俺の体には大量の包帯が、布団のそばには大量の、血塗られた包帯がそれぞれあった。

ガラッと扉が開いた。

「 目、覚めた?」

慧音だった。

色々聞きたいことがあったけど、そんな事で体力を消耗するくらいなら、今取るべき行動は一つだけだ。

途切れ途切れの言葉で、『俺の荷物から巾着を取ってくれ』と伝えた。慧音も頑張って聞き取ってくれたようで、言われた通りに巾着を持ってきてくれる。

 

中身を確認し、慧音が不思議そうな顔を浮かべるが、俺が口を開けて待っていたら、その中の梅干しを口の中に入れてくれた。

口に入った瞬間。感覚としては炭酸風呂のような感じだ。

全身の悪い所が一瞬で治るというのはこんな感覚なのか。

「ちょっと、まだ立っちゃダメでしょ」

「慧音。俺が倒れてからどのくらいたった?」

「……三日?」

三日?

なのにこの家は無事だ。

攻めてこなかった? もしかしたら俺が逃げたおかげで計画の狂いが生じたから……とかか?

「ごめん……私があの時誘ったから…」

「いや、大丈夫。こうなったのは俺のミスだ。ところで妹紅は?」

「それが……」

慧音はこう答えた。

村人の一人が此処を訪ねに来て、その相手と話してると。

 

***

 

「私は(くすのき)と申します」

土砂降りの中、向き合った男女のうち男は礼儀正しくそう言った。

髭を生やした男は妹紅より背は高いが痩せ型で、一人で敵の陣地に来るには頼りない。だが、コイツはきっと、戦う術を持っている。そう、こいつが魔術師(・・・)なのだ。

「西の村が何の用?」

女、妹紅の問いに楠はただ単調に続けた。

「はい。私たちに、この山を譲っていただけませんか?」

決して大きくないが、雨の音にも掻き消されない強い声だった。

「なぜ?」

「近々我々は戦を行います。この場所を譲っていただければ、我々が有利に立てるのです」

別に村人が山を使えないわけではない。

山の中腹以下は、山菜を取るためなら村人も入ることが可能。それより上は妖怪の物で、楠はそれを譲ってほしいと言うのだ。

「もちろん、山を降りていただけた後の援助は惜しみません。住むところも、食料も支援します。どうでしょうか?」

「なるほど、今の暮らしよりもそちらの援助を受けた方が、生活は楽になるかもしれない」

続けてこう言った。

「だが断る。あんたらの事は信用できないし、そもそも交渉するつもりなら殺気を出した他の者は連れてこないほうがよかったわね」

「……気付かれてましたか。雨の日を選んだのにも関わらず…」

「最初からこのつもりだったの?」

「ええ。まぁ、話し合いでも解決できるように、私が自ら訪ねたのですが」

やれやれと、そんな素振りを見せる。

そして楠は笑う。

「皆の者、妖怪でも人間でも構わん。ここにいる奴らは全員切り捨てよ!」

瞬間、草むらから数十人の兵が現れた。

全身に鎧をつけた、西の村の兵士たちだ。

が、その刹那三人程が倒れこむ。

「正次!」

「妹紅、俺も手伝う!」

兵が草むらに隠れてたように、正次も屋根に隠れていた。

そしてクロスボウで兵士の首を次々と撃ち抜く。

ほとんどの兵士は、鎧の隙間を隠すために首を竦め、戦える者は少なかった。そして、その戦える兵は正次のボウガンに撃ち抜かれた。

「なるほど…厄介なものをお持ちですね。ですが……」

楠が正次に手をかざす。

そして正次は異変に気付く。

「引き金が…?」

トリガーがなぜか固定され、動かなくなっていた。

「私は封印の魔術を使用する。そして貴方の武器を封印させていただきました」

それを聞いた兵士たちは、一斉に家を取り囲み、壁を壊す。

正次は屋根から家の中に入り、中の沖田と慧音のところへ向かった。

しかし、運悪く外にいた妖怪は、兵によってそのほとんどが殺された。

今まで安全な場所にいたため、野生の感覚を失った妖怪は、人間の兵士でも殺せるほど弱っていたのだ。

 

人間は少なくとも4人。それは既に他の村にも漏れている情報だった。

楠はふいに身を翻す。丁度その時、楠の頭があった場所を、妹紅の蹴りが通りすぎる。

「いいんですか? 飽くまで、私はただここで見てるだけのつもりなんですよ? その間にも、他の兵が貴方の家族を殺そうとしているのですが?」

しかし妹紅は楠から離れない。

「でも、それは、私が貴方を見逃す理由には及ばないわね」

妹紅は一気に楠との距離を詰める。

 

 

数分がたった。

妹紅が右手で楠の顔面目掛けて殴る。

「封印!その行動も封印させてもらった!」

妹紅が攻撃をする度に楠はそれを封印する。

既に拳による打撃、蹴り、炎の魔術、投擲が封じられてしまった。

さらに楠はそれまでの攻撃を全て受け流してきた。

「魔術師は体が弱いとでも思いましたか? 自慢じゃありませんが、我が村の魔術師の中で私は一番行動的でね……もっとも、私を含めて四人…実質二人しかいませんが」

「へぇ、普通貴方が一番弱い立場だと思っていたのだけど」

妹紅は未だに余裕の表情を浮かべている。

「まだ戦えますか。私の封印の前では、貴方が私を倒す事は不可能。その気になれば、貴方が私に敵意を抱くという感情すら、封印することが可能なのですよ?」

「そう、残念ね。私はもうその術の弱点は見抜いたわよ」

妹紅は肘打ちを喰らわせ、距離を取る。

これをかわした楠は、もちろん肘打ちを封印した。

「妹紅!」

家から沖田が飛び出してきた。

楠は沖田の存在のみしか知らなかったが、南の村からの逃亡に成功したという情報は知っていた。よって、子供といえど、それなりに警戒をした。しかし楠は疑問に思った。

なぜここに来たのか。家の中には少女がいるはず。いくらあの、武器を持った青年がいるとはいえ、あの人数を相手にしてこの娘のところに来るだろうか。

逃げてきた……というのも納得がいかない。

明らかに、私と戦うつもりだ。

まぁ、気にすべきことではない、という決断に落ち着いた。

 

「どうも初めまして。楠と申します」

楠は沖田にも挨拶をする。

これは楠の戦法でもあった。

楠の弱点でもある、攻撃能力の低さ。避けることが得意なだけであり、格闘技ができるわけではない。

楠もこれがバレてしまうのは想定内だった。

しかし、楠は戦いの流れを自分のモノにすることを得意としている。

「……じゃあ楠、俺もお前の相手をしてやる」

 

二対一は卑怯とか言わないよな? という問いに関して楠は勿論と答えた。

「まぁ、そのうち二体三十……いえ、先程数人やられたので二十ほどになりますか。それまでなら相手をして差し上げましょう」

沖田は時間を止めた。

楠の裏に回り込み、杖を楠の後頭部目掛けて振る。

当たる瞬間には時間は動き出していた。

「おっと」

一瞬驚いた楠だったが、すぐに冷静に戻る。

「その能力、封印します」

沖田に手をかざす。

「……マズイな。本当に領域(エリア)が使えないのか……」

「貴方も…魔術師ですか? その能力、私には理解できませんが、私の能力は相手自身が、自分が何をしたのかを理解していれば封印することが可能なのです。それがどんな技であろうと」

沖田も、楠の事はマサに聞いていた。

もっとも、家の中に侵入した敵兵と戦いながらだったので大雑把だったが。

 

「どんな技でも封印できる。でも、決定的な弱点があるわ」

「……今なんと?」

つい楠は振り向く。

それが、以前自分を負かした、魔術師と同じ言葉だったから。

 

楠はこう考えていた。

私のの弱点は攻撃能力が低い事。

だが俺の封印は無敵の能力だ、と。

故に、少女はハッタリをかけているだけだと。

 

「ふっ…まぁいいでしょう。どのみち貴方方は……」

その時、楠は何かに気づいた。

雨の音で気づかなかったが、ふいに気付いたのだ。

外は雨の音以外は何も聞こえない。それは楠の他に、妹紅も、沖田もそう思っていた。

しかし、それは戦いが行われてるにしては静かすぎた。

「…………」

瞬間、楠の右肩肩には矢が突き刺さった。

反動で楠は後ろに仰け反り、倒れた。

玄関の方、扉の向こうに隠れて正次が撃ったものだった。

「……なぜ……貴方がそれを?」

正次が持っていたのは楠が封印し、使えなくなったはずのクロスボウだった。

「封いッ——」

さらに二発めが楠の左腿を貫いた。

「悪いな……俺はこいつを、一つしか持ってないってわけじゃないんだ」

楠は悟った。

娘が言っていた言葉の意味を。

娘は『私の弱点』を見つけたとは言ってなかった。『私の術の弱点』を見つけたと言った。

 

「貴方の術の弱点、それは一つ一つしか封印できないこと。私が殴った事で封印された右腕で、肘打ちはできた。だから私が行おうとした行動だけをピンポイントでしか封印できない」

「……そうか……だから彼女に破られたのか……」

以前楠を負かした存在。彼女は、楠の技の弱点を口に出していなかった。

楠は自分の術に絶対の自信を持っていた。

故に、弱点の可能性を考えてもいなかった。

ただ、自分が未熟だからとしか考えてなかった。

「……兵も全滅……私の完敗ですか」

三十人近くいた敵兵は全て、マサと慧音の前に、既に倒れていた。

 

「……私の一族は、昔から封印の魔術を使う一族だった」

突然楠が語り出した。

「代々危険な妖怪を封印し、それを管理してきた」

意識が朦朧としている中も、ただ喋り続けた。

「そして私の一族は、私を含めて負けず嫌いでね……勝負事には…死んでも勝つつもりだ」

「……まさか」

一番最初に何かを感じ取ったのは沖田だった。

そして気絶させるべく、頭上に杖を振り上げた。

解放(・・)!!」

瞬間近くに落雷が落ちた。

 

「私の一族が封印したものは、それがどれだけ強力な封印であろうと、子孫である私が解放できる。もちろん普通は禁止されていますが……。だから……たった今鬼を目覚めさせた……」

「鬼……だと?」

マサが楠の胸ぐらを掴みかかる。

「お前、一体なんのつもりだ!」

「…もう遅い……最後に一つ。私が死ねば、貴方達にかけた封印は解かれる……だから後はなんとかしろ……それと、危ないから離れておけ」

「何?」

「マサ!!」

沖田がマサを突き飛ばし、楠から離れさせる。

 

瞬間、あたりに生暖かい物が飛び散った。

それが楠の血肉だと気づくのに時間は要さなかった。

黒い物体が、飛んできて楠を潰した。

 

黒い物体は立ち上がり、人型になる。

鬼と呼ぶには小さく、人間と呼ぶには、大きすぎる存在感の物体。

「うーん、よく寝た」

頭に角を生やした、緑髪の少女が、その黒い物体だった。




裏話的ななにか

楠がいう魔術師は全部で四人ですが、うち二人は出てきません。
当初は出す予定でしたが、他の二人に比べてそれほどストーリーに関わらないのと、話がうまく組み立てられなかったので、お蔵入りになりました。
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