おっさんが幻想入り   作:柊の花

40 / 41
女鬼

空から降ってきたのは少女。

降ってきたといっても、飛行石の力でゆっくり落ちてきたわけではなく、まるで隕石のように、落ちてきたのだ。

 

「いやぁ。(わらわ)がいた頃とは随分変わってしもうたなぁ」

呑気な声を出す目の前の少女。

髪は緑色で長め。にも関わらず、きている服も緑の浴衣だった。

頭から生えた一本角が、少女が鬼である唯一の証拠。

これが、危険すぎて封印されていたという鬼。

ただ、誰が見ても彼女は人間と同じだった。

「ところで汝等(うぬら)、妾を目覚めさせたのは何奴じゃ?」

少女が俺たちに話しかける。

だが、貴方が下に踏んでいる肉片ですよ。 とはとても言えたもんじゃない。

そう。それはコンビニの前に居座る不良共に、文句を垂れるのと等しい。

そもそも、教えてもらってどうする気なのか、さっぱりわからない。

「なんじゃ? 言えんのか」

「……お前がたった今殺した。もうここには居ない」

マサがその事を伝えた。

「なぬ?……おぉ、本当じゃ。うっかり潰しておった」

少女はキャッキャ飛び跳ねる。死体の上で。

そこで俺は思う。

鬼と言っても、別に悪いやつではないのかもしれない。

死体の上で踊るのは常人のする事じゃないが、鬼との価値観違いか。

そういう事で、こいつただの無邪気な子供。

そうかもしれない。

戦わずに、血を流さずに、争わずに解決するかもしれない。

「じゃが残念じゃのー。妾を目覚めさせるのは、同じく妾を封印した者のみのはずじゃから……」

そしてこう言った。

「きちんと嬲り殺したかったの」

あ、駄目だ。こいつは人を殺せるやつだ。

飽くまで『無邪鬼』だった。

 

「うーん、まぁいいか」

少女はストンと座り込む。

「おいそこの娘、酒をもってこい」

唐突に、俺の後ろにいた慧音を指差す。

「あ、あいにくだが此処に酒はない」

俺は鬼と慧音の間に立って、そう言った。

少女に対して、声が震える。

村の男には、決して負けなかったのに。

この少女の前で、勝手に足も震え出してくる。

「なんじゃ、しけてるの。……まぁよい、ここに来る前にいい場所を見つけていた」

次の瞬間、鬼が飛んだ。

俺は一瞬身構えたが、別に襲ってはこなかった。

 

それから数分間、俺たちは誰も動かなかった。

あの土砂降りも、あの鬼を恐れたのか、一粒も降らず、止んでいた。

 

数分後、鬼は酒の入った瓢箪を大量に持ち、また落ちてきた。

ドカンと、丁寧に一寸の狂いもなく、同じ場所に落ちてきた。

もう、下敷きになっている楠がどうなったかなんて、確認する事はできない。

そして、目の前の鬼には血が付いていた。

鬼の血じゃない、返り血。

体の正面に多く存在しているため、楠の血ではない。

俺は既に察した。

「お前……村を襲ったのか」

「そうじゃ。一際でかい集落があったからの」

『一際でかい』……きっと、裕福な東の村だ。

「に、人間はどうした」

「全員食った。まぁ、妾は人食いは好きではないのじゃが、なにせ目覚めたばかりでの。栄養が欲しかったのな」

マサがクロスボウを向け、同時に俺も警戒する。

「安心せぇ。別に急がんでも汝等も食ってやる。じゃから、しようや」

鬼はそう言って笑った。

俺はボディランゲージで、慧音に家の中に入るよう指示する。

「もし私達を殺す気なら……退治させてもらうわ」

妹紅は両手に火を発生させ、それを鬼めがけて打ち出す。

連戦にも関わらず火の威力は収まることなく、雨上がりの蒸気を一瞬で蒸発させるほど。

しかし、鬼はそれを難なく受け止め、かき消す。

「だから、そう焦ることもなかろう。別に妾は一度決めた事を曲げるつもりはないんでの」

「ふざけるな!」

矢が放たれる。マサのクロスボウ。

鬼は手のひらで止めてみせた。

手には、傷一つ付いていない。

「妾わの、他の鬼より力では劣るが、皮膚の硬さは格別じゃよ」

鬼が腕を振る。

その手に握っていた矢をぶん投げ、それはマサの腹に突き刺さった。

「マサ!」

彼は地面にうずくまったまま動かない。

鬼はそんな様子をみてため息をつく。

「やはり人間は軟弱よの。たったこれだけのことで抵抗できなくなる。やはり、もうあの頃には戻れないか……」

鬼はぐいっと酒を飲む。

その瞬間、妹紅の蹴りが鬼の瓢箪を直撃する。

瓢箪は砕け、中の酒は彼方此方に飛び散った。

「あ」

鬼はそんな声をだして、次の蹴りを顔面に受けた。

車と車がぶつかったような、大きな音。

しかし、ダメージを受けているのは妹紅だけだった。

鬼の防御力。妹紅は硬い岩に向かって蹴りを入れたようなものなのだ。

「おい娘。威勢がいいのは構わんが、妾が酒を飲んでいる時に攻撃するのはやめていただきたい」

鬼は妹紅の左足を握り潰した。

妹紅の足は今、膝の下でもう一度折れ曲がっている。

そして鬼が右手で妹紅を殴り飛ばした。

「妹紅!」

「このお礼はでかいぞよ。さっきの酒は妾も気に入っていたのじゃ」

鬼が飛ばされた妹紅に近づく。

 

子供に見える彼女は、一体何年間生きてきたのだろうか。

とにかく鬼という種族がわからない。

妹紅の炎すら無効化し、マサのボウガンは歯が立たない。

……だが、俺の領域(エリア)はどうだ?

領域(エリア)!!」

鬼の歩みが止まり、静寂が訪れる。

俺は急いで鬼の後ろに近づき、杖を握りしめた。

普通なら、それを行うことは、危険でできない。

これを人に向かってやるなど。

だが、こいつは鬼。

これぐらいの攻撃をしなければ、倒すことはできない。

強く握りしめた杖を、上に掲げる。

そしてフルスイング。

ガツンと後頭部に直撃。

鬼の後頭部には、光速に近い速度で攻撃された衝撃が伝わるが、俺の杖には通常の衝撃しか流れない。故に、腕が壊れるといった心配はない。

そして時は動き出す。

 

轟音と共に、鬼に衝撃が伝わり、少女の体がが吹き飛ぶ。

目で追えないほどの速度で飛んだ鬼は、向かいの山にぶつかり、見えなくなった。

 

手応えはあった。

しかし、さっきと同じように、空から少女は落ちてきた。

「痛いの。びっくりしたわい」

「…………」

効いてない。

「不意打ちとはいえ、この妾の背を地に倒すとは。なかなか見事であった」

鬼が手を振るう。

その風圧だけで俺は後ろに飛ばされ、木に体を叩きつけられた。

苦痛に呻くが、そんな中で即死級の攻撃でないことに疑問を抱いた。

「妾はそちを気に入った。この妾を地に伏させた奴は、同種以外ではそちが初めてじゃ。どれ、もう一度やってみい」

 

俺はあえてその挑発に乗る。

が、その前に俺は山を駆け下りた。

全力で疾走する。転んでもすぐに起き上がり走り続ける。

しばらく走ると目の前に鬼が降ってきた。

「これこれ、逃げるでない。妾はそちを直ぐに殺す気など–––」

領域(エリア)!」

時間を止めて、今度は顔面を杖でぶん殴る。

そして時は動き出す。

さっき以上に大きく仰け反った鬼は再び吹き飛んでいく。

その隙に俺はさらに逃げる。

なるべく頂上から、妹紅達から離れるように。

「逃がさんぞ。妾はもう少し遊びたいのじゃ」

鬼は再び俺の前に降ってくる。

「不死身か……こいつは」

そこで、俺は思った。

俺の狙い通りとはいえ、なぜこいつはあの場所を離れたのだ?

俺たちを殺す気なら、まず動けない妹紅やマサを狙ってもおかしくはないはずだ。

「鬼、お前の狙いはなんだ?」

「妾には名がある。昔の友人につけてもらった名が。妾の事は(さくら)と呼べ」

しかし、質問には答えてくれない。仕方がなく、桜と呼んでもう一度狙いを尋ねた。

「別に何も考えとらんよ。妾はただ強いものと戦いたいだけじゃ」

「ついでにもう一ついいか? お前のその喋り方はなんなんだ?」

「ん?それはな。昔仲良くした人間、まぁ、友の口調を真似たものじゃ」

人間と仲良くしていたことに驚いて、その口調を真似するほど慕っていたのも驚いた。

「俺は真似が得意だから、こんな風にお前の口調も真似できる」

今喋ったのは桜だ。俺の口調を一瞬で真似したらしい。

桜のオリジナルはないのだろうか。

「わざわざお前の考えに乗っかってここまで来てやったんだ。期待外れだって事にしないでくれよ?」

「そ、その喋り方はもうやめろ」

しかし、俺の限界である攻撃でも、転倒させる事しかできなかったと言うことは、少なくともこいつにとって俺は期待外れだろう。それほどまでに鬼は、桜は強い。下手するとレミリア以上なんじゃないかと思う。さらに、あの時は魔法が使えたから、今回の戦いはあまりにも不利すぎる。

 

とにかく俺は時間を止める。

この世界ではたとえ鬼であろうと干渉されない。

そして桜の頭に二発、胴に一発杖で打撃を入れる。

いくら鬼でも、無抵抗の少女を殴るのに抵抗はあった。それでも強く殴った俺に対して少し恐怖を覚える。

時間を戻すと、桜は空中で一回転して大きく吹き飛んだ。

「はっはっは!痛い、痛いな!やはりそちを選んで良かったわい」

あれだけ殴られても、なお笑ってられるのはやはり流石としかいいようがない。

俺は時を止め、さらに連撃を与える。

「いいぞ!昔の感覚が蘇ってきた!!」

桜は殴られながら、なお笑っている。

対して俺は吐血と貧血で、棍棒のように使っていた杖が、体を支えるためだけの物になってしまった。(それが本来の役目だが)

攻撃すればするほど自分が苦しむ。

諸刃の剣のようだが、これはただの自滅行為にも見えた。

「……うーむ。そちはもう限界かの。じゃあさっきの娘を相手にしようかの」

「……させるかッ!」

時間を止め、さらに強く叩く。

安っぽい挑発だと分かっているが、ここで俺がやらないと、こいつは本当に妹紅やマサを殺してしまう。いや、マサはまだいいかもしれない。なぜなら妹紅は死ねないから。もし、桜がそのことに気づいたら最後、妹紅が桜を倒さない限り殺され続けることになる。こいつは殺戮を楽しむ奴だから。

 

「だんだんそちの攻撃にも慣れてきたの。あ、そういえば、あの建物の中に、もう一人人間がおったよな?彼奴も相手をしてやろうかの」

「……慧音を?」

ふはは! と桜は豪快に笑う。

「そうじゃな。そちの仲間を何人か殺せば、そちも本気を出してくれるじゃろう」

「ッ!待て——」

去りゆく桜を追いかけて、俺は何かにつまづく。

倒れこんだ衝撃でさらに吐血が激しくなる。

「じゃあの。上で待っておる」

「待て……待ってくれ……」

俺の言葉から威勢の良さが消え、それは命乞いにも似ていた。

 

その時、何かが近づく音がした。

人ではない。

地面を転がるような音が……

 

チャプン——

一つの瓶が俺の目の前で止まる。

何か見覚えがあった。

この瓶だけじゃない。この場所も……

 

そうだ、俺が初めてこの時代に飛ばされた場所だ。

周りに生えた木々が相変わらずの背の低さでいた。

時間こそ違えど、ここはあの夕焼けの時と全く同じだった。

この瓶。

英語で書かれたラベルが水に濡れ、決して読める字ではなかったが、この瓶を俺は覚えている。

 

『今夜のお礼……ってわけじゃないけど、これ渡しとくわ』

あの晩、十六夜咲夜から渡された瓶。

中に入っているのは決してただの水ではない。

——吸血鬼の血液。

 

迷わず俺はその栓を開けた。

なぜここにあるのか。

なぜ消えていないのか。

なぜあの時気づかなかったのか。

そんな事はどうでもよかった。

瓶の口を自分の口に差し込み、一飲み。

決して好んで飲める味じゃないが、不思議と嫌悪感はなかった。

「ぷっはぁ!」

瓶を放り投げ、遠くで割れる音がする。

 

その音に気づき、桜が振り向いた。

「……そちは何をしておる?」

桜が怪しげな目で睨んでくるが、全然気にしない。

何故だろうか。今とても気分がいい。

身体中血だらけで、さっきまで苦痛しか感じていなかったのが、今や快感にも感じられる。

 

「俺は……」

あぁ、これが……

 

「俺は吸血鬼だァ!」

……あれ? 俺は一体、何を言っているんだ?




最近、過去ということをいいことにオリキャラを出していますが、自分としてはあまり得意でないと思います(ならやるなという話だが)

というのも、それぞれのキャラの個性(能力とか)がいまいち思いつかないって訳で。例えば、チートキャラを考えようとした際、「これ普通に霊夢とかにやられそうじゃん」「チートって程でもないな」って思う事がしばしば(行き過ぎた能力は、誰も勝てないと言う意味でつくりたくないので)。

つまり、そういう「無」から個性的なキャラを作れる方々には憧れますな。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。