空から降ってきたのは少女。
降ってきたといっても、飛行石の力でゆっくり落ちてきたわけではなく、まるで隕石のように、落ちてきたのだ。
「いやぁ。
呑気な声を出す目の前の少女。
髪は緑色で長め。にも関わらず、きている服も緑の浴衣だった。
頭から生えた一本角が、少女が鬼である唯一の証拠。
これが、危険すぎて封印されていたという鬼。
ただ、誰が見ても彼女は人間と同じだった。
「ところで
少女が俺たちに話しかける。
だが、貴方が下に踏んでいる肉片ですよ。 とはとても言えたもんじゃない。
そう。それはコンビニの前に居座る不良共に、文句を垂れるのと等しい。
そもそも、教えてもらってどうする気なのか、さっぱりわからない。
「なんじゃ? 言えんのか」
「……お前がたった今殺した。もうここには居ない」
マサがその事を伝えた。
「なぬ?……おぉ、本当じゃ。うっかり潰しておった」
少女はキャッキャ飛び跳ねる。死体の上で。
そこで俺は思う。
鬼と言っても、別に悪いやつではないのかもしれない。
死体の上で踊るのは常人のする事じゃないが、鬼との価値観違いか。
そういう事で、こいつただの無邪気な子供。
そうかもしれない。
戦わずに、血を流さずに、争わずに解決するかもしれない。
「じゃが残念じゃのー。妾を目覚めさせるのは、同じく妾を封印した者のみのはずじゃから……」
そしてこう言った。
「きちんと嬲り殺したかったの」
あ、駄目だ。こいつは人を殺せるやつだ。
飽くまで『無邪鬼』だった。
「うーん、まぁいいか」
少女はストンと座り込む。
「おいそこの娘、酒をもってこい」
唐突に、俺の後ろにいた慧音を指差す。
「あ、あいにくだが此処に酒はない」
俺は鬼と慧音の間に立って、そう言った。
少女に対して、声が震える。
村の男には、決して負けなかったのに。
この少女の前で、勝手に足も震え出してくる。
「なんじゃ、しけてるの。……まぁよい、ここに来る前にいい場所を見つけていた」
次の瞬間、鬼が飛んだ。
俺は一瞬身構えたが、別に襲ってはこなかった。
それから数分間、俺たちは誰も動かなかった。
あの土砂降りも、あの鬼を恐れたのか、一粒も降らず、止んでいた。
数分後、鬼は酒の入った瓢箪を大量に持ち、また落ちてきた。
ドカンと、丁寧に一寸の狂いもなく、同じ場所に落ちてきた。
もう、下敷きになっている楠がどうなったかなんて、確認する事はできない。
そして、目の前の鬼には血が付いていた。
鬼の血じゃない、返り血。
体の正面に多く存在しているため、楠の血ではない。
俺は既に察した。
「お前……村を襲ったのか」
「そうじゃ。一際でかい集落があったからの」
『一際でかい』……きっと、裕福な東の村だ。
「に、人間はどうした」
「全員食った。まぁ、妾は人食いは好きではないのじゃが、なにせ目覚めたばかりでの。栄養が欲しかったのな」
マサがクロスボウを向け、同時に俺も警戒する。
「安心せぇ。別に急がんでも汝等も食ってやる。じゃから、しようや」
鬼はそう言って笑った。
俺はボディランゲージで、慧音に家の中に入るよう指示する。
「もし私達を殺す気なら……退治させてもらうわ」
妹紅は両手に火を発生させ、それを鬼めがけて打ち出す。
連戦にも関わらず火の威力は収まることなく、雨上がりの蒸気を一瞬で蒸発させるほど。
しかし、鬼はそれを難なく受け止め、かき消す。
「だから、そう焦ることもなかろう。別に妾は一度決めた事を曲げるつもりはないんでの」
「ふざけるな!」
矢が放たれる。マサのクロスボウ。
鬼は手のひらで止めてみせた。
手には、傷一つ付いていない。
「妾わの、他の鬼より力では劣るが、皮膚の硬さは格別じゃよ」
鬼が腕を振る。
その手に握っていた矢をぶん投げ、それはマサの腹に突き刺さった。
「マサ!」
彼は地面にうずくまったまま動かない。
鬼はそんな様子をみてため息をつく。
「やはり人間は軟弱よの。たったこれだけのことで抵抗できなくなる。やはり、もうあの頃には戻れないか……」
鬼はぐいっと酒を飲む。
その瞬間、妹紅の蹴りが鬼の瓢箪を直撃する。
瓢箪は砕け、中の酒は彼方此方に飛び散った。
「あ」
鬼はそんな声をだして、次の蹴りを顔面に受けた。
車と車がぶつかったような、大きな音。
しかし、ダメージを受けているのは妹紅だけだった。
鬼の防御力。妹紅は硬い岩に向かって蹴りを入れたようなものなのだ。
「おい娘。威勢がいいのは構わんが、妾が酒を飲んでいる時に攻撃するのはやめていただきたい」
鬼は妹紅の左足を握り潰した。
妹紅の足は今、膝の下でもう一度折れ曲がっている。
そして鬼が右手で妹紅を殴り飛ばした。
「妹紅!」
「このお礼はでかいぞよ。さっきの酒は妾も気に入っていたのじゃ」
鬼が飛ばされた妹紅に近づく。
子供に見える彼女は、一体何年間生きてきたのだろうか。
とにかく鬼という種族がわからない。
妹紅の炎すら無効化し、マサのボウガンは歯が立たない。
……だが、俺の
「
鬼の歩みが止まり、静寂が訪れる。
俺は急いで鬼の後ろに近づき、杖を握りしめた。
普通なら、それを行うことは、危険でできない。
これを人に向かってやるなど。
だが、こいつは鬼。
これぐらいの攻撃をしなければ、倒すことはできない。
強く握りしめた杖を、上に掲げる。
そしてフルスイング。
ガツンと後頭部に直撃。
鬼の後頭部には、光速に近い速度で攻撃された衝撃が伝わるが、俺の杖には通常の衝撃しか流れない。故に、腕が壊れるといった心配はない。
そして時は動き出す。
轟音と共に、鬼に衝撃が伝わり、少女の体がが吹き飛ぶ。
目で追えないほどの速度で飛んだ鬼は、向かいの山にぶつかり、見えなくなった。
手応えはあった。
しかし、さっきと同じように、空から少女は落ちてきた。
「痛いの。びっくりしたわい」
「…………」
効いてない。
「不意打ちとはいえ、この妾の背を地に倒すとは。なかなか見事であった」
鬼が手を振るう。
その風圧だけで俺は後ろに飛ばされ、木に体を叩きつけられた。
苦痛に呻くが、そんな中で即死級の攻撃でないことに疑問を抱いた。
「妾はそちを気に入った。この妾を地に伏させた奴は、同種以外ではそちが初めてじゃ。どれ、もう一度やってみい」
俺はあえてその挑発に乗る。
が、その前に俺は山を駆け下りた。
全力で疾走する。転んでもすぐに起き上がり走り続ける。
しばらく走ると目の前に鬼が降ってきた。
「これこれ、逃げるでない。妾はそちを直ぐに殺す気など–––」
「
時間を止めて、今度は顔面を杖でぶん殴る。
そして時は動き出す。
さっき以上に大きく仰け反った鬼は再び吹き飛んでいく。
その隙に俺はさらに逃げる。
なるべく頂上から、妹紅達から離れるように。
「逃がさんぞ。妾はもう少し遊びたいのじゃ」
鬼は再び俺の前に降ってくる。
「不死身か……こいつは」
そこで、俺は思った。
俺の狙い通りとはいえ、なぜこいつはあの場所を離れたのだ?
俺たちを殺す気なら、まず動けない妹紅やマサを狙ってもおかしくはないはずだ。
「鬼、お前の狙いはなんだ?」
「妾には名がある。昔の友人につけてもらった名が。妾の事は
しかし、質問には答えてくれない。仕方がなく、桜と呼んでもう一度狙いを尋ねた。
「別に何も考えとらんよ。妾はただ強いものと戦いたいだけじゃ」
「ついでにもう一ついいか? お前のその喋り方はなんなんだ?」
「ん?それはな。昔仲良くした人間、まぁ、友の口調を真似たものじゃ」
人間と仲良くしていたことに驚いて、その口調を真似するほど慕っていたのも驚いた。
「俺は真似が得意だから、こんな風にお前の口調も真似できる」
今喋ったのは桜だ。俺の口調を一瞬で真似したらしい。
桜のオリジナルはないのだろうか。
「わざわざお前の考えに乗っかってここまで来てやったんだ。期待外れだって事にしないでくれよ?」
「そ、その喋り方はもうやめろ」
しかし、俺の限界である攻撃でも、転倒させる事しかできなかったと言うことは、少なくともこいつにとって俺は期待外れだろう。それほどまでに鬼は、桜は強い。下手するとレミリア以上なんじゃないかと思う。さらに、あの時は魔法が使えたから、今回の戦いはあまりにも不利すぎる。
とにかく俺は時間を止める。
この世界ではたとえ鬼であろうと干渉されない。
そして桜の頭に二発、胴に一発杖で打撃を入れる。
いくら鬼でも、無抵抗の少女を殴るのに抵抗はあった。それでも強く殴った俺に対して少し恐怖を覚える。
時間を戻すと、桜は空中で一回転して大きく吹き飛んだ。
「はっはっは!痛い、痛いな!やはりそちを選んで良かったわい」
あれだけ殴られても、なお笑ってられるのはやはり流石としかいいようがない。
俺は時を止め、さらに連撃を与える。
「いいぞ!昔の感覚が蘇ってきた!!」
桜は殴られながら、なお笑っている。
対して俺は吐血と貧血で、棍棒のように使っていた杖が、体を支えるためだけの物になってしまった。(それが本来の役目だが)
攻撃すればするほど自分が苦しむ。
諸刃の剣のようだが、これはただの自滅行為にも見えた。
「……うーむ。そちはもう限界かの。じゃあさっきの娘を相手にしようかの」
「……させるかッ!」
時間を止め、さらに強く叩く。
安っぽい挑発だと分かっているが、ここで俺がやらないと、こいつは本当に妹紅やマサを殺してしまう。いや、マサはまだいいかもしれない。なぜなら妹紅は死ねないから。もし、桜がそのことに気づいたら最後、妹紅が桜を倒さない限り殺され続けることになる。こいつは殺戮を楽しむ奴だから。
「だんだんそちの攻撃にも慣れてきたの。あ、そういえば、あの建物の中に、もう一人人間がおったよな?彼奴も相手をしてやろうかの」
「……慧音を?」
ふはは! と桜は豪快に笑う。
「そうじゃな。そちの仲間を何人か殺せば、そちも本気を出してくれるじゃろう」
「ッ!待て——」
去りゆく桜を追いかけて、俺は何かにつまづく。
倒れこんだ衝撃でさらに吐血が激しくなる。
「じゃあの。上で待っておる」
「待て……待ってくれ……」
俺の言葉から威勢の良さが消え、それは命乞いにも似ていた。
その時、何かが近づく音がした。
人ではない。
地面を転がるような音が……
チャプン——
一つの瓶が俺の目の前で止まる。
何か見覚えがあった。
この瓶だけじゃない。この場所も……
そうだ、俺が初めてこの時代に飛ばされた場所だ。
周りに生えた木々が相変わらずの背の低さでいた。
時間こそ違えど、ここはあの夕焼けの時と全く同じだった。
この瓶。
英語で書かれたラベルが水に濡れ、決して読める字ではなかったが、この瓶を俺は覚えている。
『今夜のお礼……ってわけじゃないけど、これ渡しとくわ』
あの晩、十六夜咲夜から渡された瓶。
中に入っているのは決してただの水ではない。
——吸血鬼の血液。
迷わず俺はその栓を開けた。
なぜここにあるのか。
なぜ消えていないのか。
なぜあの時気づかなかったのか。
そんな事はどうでもよかった。
瓶の口を自分の口に差し込み、一飲み。
決して好んで飲める味じゃないが、不思議と嫌悪感はなかった。
「ぷっはぁ!」
瓶を放り投げ、遠くで割れる音がする。
その音に気づき、桜が振り向いた。
「……そちは何をしておる?」
桜が怪しげな目で睨んでくるが、全然気にしない。
何故だろうか。今とても気分がいい。
身体中血だらけで、さっきまで苦痛しか感じていなかったのが、今や快感にも感じられる。
「俺は……」
あぁ、これが……
「俺は吸血鬼だァ!」
……あれ? 俺は一体、何を言っているんだ?
最近、過去ということをいいことにオリキャラを出していますが、自分としてはあまり得意でないと思います(ならやるなという話だが)
というのも、それぞれのキャラの個性(能力とか)がいまいち思いつかないって訳で。例えば、チートキャラを考えようとした際、「これ普通に霊夢とかにやられそうじゃん」「チートって程でもないな」って思う事がしばしば(行き過ぎた能力は、誰も勝てないと言う意味でつくりたくないので)。
つまり、そういう「無」から個性的なキャラを作れる方々には憧れますな。