おっさんが幻想入り   作:柊の花

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最初はそんな兆候はなかったのですが、最近バトル物になりつつあります。
今後もその展開が続きますので、ご了承下さい。




そういうことなのだと、はっきり分かった。

 

俺は数日前……実際には数百年後になるが、今は関係ない。とにかくあの夜、俺は半吸血鬼になった。半分なのでそれほどの力は期待できないが、それなりに肉体が強化された。冷静さを失っていたとはいえ、純吸血鬼のレミリアとの戦いを引き分けに持って行けるほどに。

 

そして今夜、俺は再び吸血鬼になろうとした。

咲夜から貰っていたあの吸血鬼の血でだ。

……だけど、どうやらそれは失敗したらしい。

俺も分かっていた。飲んで気付いたが、これはただの血だった。

これは実際に吸血鬼の血を飲んでいたから分かることで、吸血鬼の血は飲むと熱く感じるのだ。が、この血はただの血で、普通の鉄の味だった。

 

だが、俺の中の何かが目覚めた。

いや、ただ眠らせていたモノを起こしたにすぎないのだが。

ただの、人間か動物かも知らない血を飲んでしまったことで、あの晩落ち着いたはずの半吸血鬼状態が戻ってきた。

 

20年分の時間遡行。俺の体にはその現象が起こった。

その現象は推測だが、体ごと過去に飛ばすのは相当に大変な事で、記憶以外は全て20年前の状態に戻った。

しかし、体内に残っていた吸血鬼の血は完全に消化されておらず、20年の時間遡行でも消えなかった。理由はきっと、あの血が20年以上前の物だったからだろう。

結果、逆に俺の体が以前より幼く、弱くなったおかげでさらに強く吸血鬼の血残った。

 

 

そういうことだった。

俺は血なんか飲まなくても最初から

 

––––人間ではなかったのだった。

 

 

雨が再び降り始めた。

吸血鬼は、ひとっ飛びで少女の首筋に噛み付く。

だが、どれだけ噛み付いても吸血鬼の牙は桜の首に刺さらなかった。

桜もまったく動じず、ただその行動の意味を探っていた。

「……そちはなぜそのような行動をとるのだ?いやしかし、そちの中で何かが変わったのは、さすがにはっきりわかるが」

吸血鬼はただ噛み付く。何も喋らない。

血を吸おうと、ただ噛みついていた。

 

桜はこの状態が数十秒続いても、全く状況が変わらないことに腹を立て、吸血鬼を腕で払う。

吸血鬼は勢いよく木に叩きつけられ、グシャッという音とともに腹から骨が突き出ていた。

しかし、その怪我はみるみる内に消え去って、ただの少年のそれに戻る。

吸血鬼は地面にしっかりと立つと、消えた。

次の一瞬には、既に桜の後ろに現れた。

 

その刹那、桜の首から血が噴き出した。

「なっ、何!?」

吸血鬼が、再び桜の首へと噛み付く。

しかし、ただ噛み付いたわけではない。

桜の、鬼の防御力を、事実上無力化する事が出来る技、『領域(エリア)

つまりは、時間を止めて噛み付いた。

動く速度は、止まった時の中にいる者にとって光に近い速度で動いてることになる。

そしてその状態で動けるのは、沖田のみ。

 

少女は戸惑っていた。

それは、桜は自分の血を見ることが初めてだったから。

昔、鬼同士で争っても、その防御力は桜に傷すらつけなかった。

鬼の中には、奇妙な技を使う鬼もいるのだが、大体の鬼は自分の力のみで攻めるので、桜が負けることは少なかった。

そんな中でも、出血は初めての出来事だった。

 

吸血鬼は吸血鬼で、吸血に慣れておらず、思い切り動脈を掻っ切っていた。

そもそも、半吸血鬼になりたての彼は本能では動けず、ただ単にその吸血鬼が、沖田という男だった頃の記憶に基づいて攻撃をしている。

よって、『ただ首から血を吸う』という、人間の知識だけの行動しかできない。

 

それでも桜からでた血を、吸血鬼は零しながら飲んだ。

それはまるで砂漠でオアシスを見つけた旅人のように。

豪快に水を飲む遭難者のように。

飢えた吸血鬼そのもののように。

 

桜は必死で振り払おうとするが、出血と自分の血を見たショックで、いわゆる貧血状態だった。それも初経験だったため、さらに桜を混乱させた。

そして吸血鬼は鬼の血を吸うことで、さらに強化されていく。

鬼にしがみつく力が強くなり、締め付けるように少女に絡まっている。

 

そこでふと、吸血鬼が止まった。

鬼の少女から口を離し、血を吸うのをやめていた。

その隙に桜は体を捻らせ、吸血鬼を吹き飛ばす。

吸血鬼は受け身を取って衝撃を和らげる。

お互いがお互いの顔を見る。

片方は弱り切った少女。

片方は力に溢れる少年。

そこに種族の差は、ないようにも見えた。

 

 

 

少女は力なく笑い、口を開く。

「……こんな事は……妾の人生でも初めてじゃ」

「……そうか」

俺もそうだ。

こんな経験は初めてだ。それは当たり前だ。

何度でも言うが、俺は現代でも喧嘩はあまりしなかった。

だけど、俺は吸血鬼になったらしいから。

ただ、そいつ……吸血鬼も失敗した。

 

「別に、俺はお前を殺すつもりはない。例え何人人を殺そうが、村を襲おうが。だが、お前は、力尽くで再び封印させてもらう」

封印方法は知らないけど、成り行きでなんとかなるかと。

最悪、ロープで洞窟の奥に吊るしておくか。

「……断る。そもそも、妾は好きで閉じ込められていたわけなじゃない……それに」

桜は力強く地面を踏みしめ、立ち上がった。

「妾は負けぬ」

桜が消えた。

見えたのは一瞬。俺の真下だ。

しゃがみ込んだ桜は、俺の顎めがけて飛び上がった。

防ごうとした。ただ、今の俺の反応速度を大幅に上回った速度で桜は動いた。

その頭が顎の下に直撃し、俺は空高く打ち上げられた。

ただ、頭突きで俺は飛ばされた。

 

俺の体はまるでロケットのように真っ直ぐ飛んだ。

降る雨に逆らう事で、それがより強く体に刺さる。

気圧や酸素濃度の変化で、相当の高度まで飛ばされたとわかる。

顎に打撃を喰らったが、意識はしっかりしているのか。

こんなに強い衝撃でも。これが鬼の血の力なのか。

 

雲に当たるか当たらないか、俺の体はその位置で止まった。

地面は霧がかかっていてよく見えない。

でも、見るべきはそこではなかった。

 

俺は着地に備えるべく、体を起こそうとする。が、

「落ちるがいい」

さらに高く飛び上がっていた桜が、すぐそばにいた。

咄嗟に腕を組み、防御の姿勢に入るが、それも意味を持たず俺は高度数百mから叩き落された。

そしてそのまま、頭から地面に落下。

それすらも一瞬だった。

 

 

地面に直撃したらしい俺は、不思議な感覚に陥っていた。

ぶつかる瞬間の記憶はさすがに飛んでいるが、目を開けると辺りはクレーターとなり、一定時間泥の雨が降っていた。

 

そして体がバラバラになっていた。

手と足が胴から離れ、あちこちに散らばっていた。

あぁ、頭も取れてるのか。

胴から切り離された頭。

血液供給がないと、どれくらいで死ぬのだろう。

ここまでくれば、桜も言っていた通り、怪我する事自体がすくない鬼だからこそ予測がつかない。

 

そういえば、俺は幻想郷で腕を失っていた。

あの時は結構ショックだったが、今はどうだ?

全身バラバラだ。

なのに、焦りも感じない。

鬼の血がそうさせているのだろうか。

それとも、俺が……

もう諦めているのかか。

 

まぁ、さすがにこんな状態で生きたいとも思えないがな。

 

ちょうど桜も空から降りてきた。

今度はゆっくりと、まるで俺を迎えに来る天使のように降りてきた。

「そちには悪いのだが、鬼と言うのは、さっきのそちが憑依されていた妖怪とは違っての。回復能力はほぼないんじゃ。軟弱な妖怪とは違うからの」

「そうか。吸血鬼が軟弱か」

頭部だけで会話する。

そんな俺にトドメを刺すこともなく、桜は俺の側に座る。

「すまんの。ついカッとなってやり過ぎてしもた。ただ、この戦いは楽しかったぞ。数百年ぶりのリハビリとしては勿体無いくらいじゃった」

「そうか、お前はそんな昔から……。あ、これからはどうするんだ?」

「これから?」

なぜか、俺たちは長い、雑談に入っていた。

「あぁ。これから先、お前は知る由もないだろうが、鬼はただの伝説となる。そうなれば、お前は今まで通り生きていけなくなる。だから、それまでに出来る事を決めた方がいいんじゃないか?」

俺はこれから死ぬ。そんな状態でよく他人のこれからを考えられるよな、と思う。

いや、案外ただ格好つけてるだけかも。飽くまで大人として、少女に、人生のアドバイスをってか。

「あぁ、気が遠くなってきたな……」

「おっと、もう少ししっかりせい」

桜は俺の頭を掴み、胴体と合体させる。

といっても決して繋がることはなく、鬼の、不屈の生命力で動いている心臓からの血液供給を受けるだけだ。

人間だったら無理だろうが、あいにく今の俺は人間じゃない。

切り離された頭と胴を、傷口を繋げるだけで血液供給ができてしまっている。

「……人間の妾の友はそちが二人目じゃ」

「ん? もう一人は?」

「殺した。妾がな。そもそも友というのは戦い合った相手の事じゃ」

「そんな関係に俺もなれるなんて、光栄だな」

「あぁ、そうじゃな。褒美として、これから妾はそちの口調を頂くとする」

さっきの、桜の真似口調を思い出す。

「……いやいや、やめとけ。お前の顔には似合わない」

既に『妾』口調も似合ってないんだから。

というか、妾口調の女と戦ったのか? お前は。

案外妹紅とかだったりして。

「ふむ……困ったのぅ。口調を頂くのが我が友の証だというのに」

どんな伝統だ。

俺は代わりにある「提案」をする

「お前は……『ボクッ娘』がいいと思うぞ」

「ボクッコ?」

……自分でも何言っているのかと思う。

でも、絶対こいつがボクっ娘ってあってると思う。

なんか、現代にいたらボーイッシュな感じだし。

妾口調は勿体なさすぎる。

「まぁ、よかろう。どれ、見本を見せてくれ」

「は?」

「いや、妾はそのボクッコがわからんのじゃ。ほれ」

……さすがにこの展開は読めなかった。読みたくもなかった。

俺が言うことになるって……それは酷ではないか。

確かに子供の頃の一人称は僕だったが、その僕とボクっ娘は違う。それに今の俺は見た目こそ子供だが、30過ぎの男だ。そんな奴がボクっ娘なんて……恥ずかしすぎる。

「……まぁいい。頭にそのボクッコを浮かべておけ」

不意に桜が俺の頭に自分の頭をくっつけた。

「えーと……どんな感じだったか」

数秒間黙って

「それ」

その瞬間、まるで走馬灯のように俺の一生が映し出された。

 

少年時代、青春時代、大人時代、幻想時代、今の時代。

その全てが一瞬にして映し出され、一瞬で消えた。

「な、なんだ」

「––––いやすまん。この術を使うのは初めてでの。そのボクッコの事だけを知るつもりが、そちの過去まで詮索してしもぅた」

「……おい」

正直恥ずかしい記憶ばかりだったと思う。

でも、なぜか恥ずかしいとは思わなかった。

桜が人外だからか、俺がもうすぐ死ぬからか。

それは知らないが。

「…幻想郷……か」

「ん? 何か言ったか?」

「…いや、なんでもない」

そして、こいつはこんな事を言い出す。

 

「……決めた。そちを生かしてやろう」

「……生かしてやるって、俺もう助からないレベルだと思うんだが」

「助けてやる」

桜は立ち上がった。

「さっき、これからどうするかという話をしたじゃろ? 正直、妾には何もわからん。この辺に同族の気配はないし、最近の人間共は勇気がない腑抜けばかりと見た」

一番平和な東の村を襲ったからそんな事言えるのだろう。

まぁ、勇敢に向かったところでこいつに勝てる人間はきっといないが。

「で、どうしてそれが俺を助けることになる」

「? そちは死にたいのか。そうかすまんかった。では」

「まて、そうとは言ってない」

桜は振り上げていた手刀を下ろす。

「ただ納得がいかないというか、理解できないんだ。お前は鬼だし、俺もその過去の友みたいに殺せばいいじゃないか」

「……いや」

桜は言い淀む。そしてこう言った。

ふいに思いついたように。

「そちは弱すぎるのじゃ」

「…………」

理由になってない。

「過去の奴は強かった。多くの戦いを経験した戦士だったはずじゃ。じゃがお前は戦いの数も少ないし、弱すぎる。なんじゃ、勝負するのは年下の女子(おなご)ばかりで、しかも殆ど負けてるじゃないか」

「うるせぇ。あいつらが強すぎるだけなんだ」

てか、俺の記憶を見たなら、あいつらが人間離れしてるのは一目瞭然だろ。

「大体、活動に適した年齢の子供に、運動量の少ない俺が体力的に敵うはずもないだろう」

「じゃから、妾が力を貸してやる」

桜はそう言った。

「どうやらそちは、これからまだやる事が残っておるそうだし、術も使えなくなったようじゃしな。妾の一生をそちに預ける」

「預けるって……お前、それってどういう意味だ?」

桜は俺の手足を集め、プラモデルのように元の場所にくっつけていく。

「おい左右の手が逆だ!」

「そち、本当は大人のようじゃな。人間は成長が早いからの。お主の一生では、妾は背が少ししか伸びないじゃろ」

何を言ってるかわからないが、そう言って、桜は目を閉じ、その体が光りだした。

「な、何をするんだ?」

辺りが金色の光に包まれ、その中心に俺がいる。

「少し手合わせしただけじゃったが、久々に楽しかったぞ」

何をするのか、見当がついていた。

こいつは、これから死ぬ予定だった俺に代わりに、死ぬつもりだ。

「おいおい、そんなことする必要はねぇって、やめろ!」

「さっき妾を殺す勢いで殴ってくれたのは何奴じゃったかの……。安心せい、妾は死なんよ。ただそちの体に居座るだけじゃ。意思は保ったまま、時が来るまではそちの力となる」

そして、桜は俺の方にゆっくりと倒れてくる。

「また、そちと手合わせできる日を、楽しみにしとるぞ」

二人の体が重なり、周りを包んでいた金色の光とともに、桜は消えた。

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