「はい、初日の給料だ」
「お、ありがとうオーナー」
俺は今日からミスティアの屋台で働いている。
いつ辞めるかわからない都合上、日給として毎日支給されるシステムにしてもらった。金額ははそれこそ雀の涙ほどだが、鰻をとったり、店の準備をしたりと、ここに来てから初めての充実感に俺の心はあふれていた。
あとは……
「ただいま」
「遅かったな沖田。どこ行ってたんだ?」
「ちょっとな」
慧音にこれを渡せばいいんだ。
「夕飯できてるから、早く食べよう」
「あぁ。ありがとう」
そして、俺は全てをすませ、布団にはいった。
今頃、慧音が机に向かっているころだろう。
俺は給料が入った封筒を持ち、部屋を出た。
「ん?どうしたんだ?」
慧音が俺に気付くと自然な動きで教科書を広げ家計簿を隠した。
「……これ、よかったら使ってくれ」
慧音の前に封筒をおく。
「……なんだ。知ってたのか」
「居候でも、飯代やらいろいろ払わないといけないからな」
これで少しでも慧音の負担が軽くなればいいんだが……
その時、慧音が何かに気付いたかのような顔をする。
「あー。悪いんだが……それは勘違いだ。」
「へ?」
ふと、慧音が立ち、奥の部屋に入っていった。そして持ってきたものは、
「あ……」
モアイ像……か?
「いやぁ。香霖堂にいいものが売ってたんだけど、結構高くてな。」
「……」
「悪いが、こいつの出費が大きくて最近悩んでたんだ。売るわけにもいかないし、どうしたものかと……」
「そ、そうか」
「あぁ。だから、この金はあんたの小遣いとして持っててくれ」
そういって、慧音は封筒を押し付ける。
「じゃあ、明日も仕事なんだろ?早く寝ようか」
「……そうだな」
俺は半分ボーっとしながら再び寝室へと戻った。
慧音も、生徒が作ったモアイ像をしまった後、寝室へと入った。
次の日。
俺は朝のランニングを終え、ミスティアの屋台に来た。
「今日も昨日と同じ、鰻を10匹捕獲してくれ」
「……あぁ」
しかし、慧音に渡すつもりで始めた仕事も、目的を失った今、モチベーションが上がらなかった。
「おいおい、どうした。一日でやめるのか?」
……そうだ。いちいちくじけてちゃあいけないよな。
「まさか。じゃあ、さっさと乱獲してくるわ」
「うんうん。いってらっしゃい」
ふと、思った。
「……なぁ、ここってヤツメウナギしかないのか?」
「サイドメニューはあるけど……どういう意味?まさか焼き鳥とか……」
「おでんとか……どうだ?」
「おでん?この時期に?」
確かに、夏に熱いものは一見合わないかもしれない。しかし、夏でも冬でも屋台通いだったおれは知っている。
夏でもおでんはうまいことを。
「時期なんて関係ないんだ。おでんはおでんなんだから」
「……でもおでんかぁ……大根とか卵とか……いろいろ用意しなければいけないよな……」
「卵っていいのか?鳥の卵」
「食べるものは無精卵だから問題ない」
「そうかい」
「でも、確かにおでんはいいね。わかった。今月中にでもできるように手配してみるよ」
「あぁ……楽しみにしてる」
帰る前に……ここのおでんを食べてから帰りたいからな。