食後、ネオンは先に席を立った。
「お部屋へ行きましょ! オークションのカタログも見せてあげる!」
「お嬢様はエリザと先に。二人には、別の部屋で話を聞きます」
スクワラはエレベーターの前で立ち止まった。ネオンが文句を言っても譲らなかった。
「何よ! わたしの友達なのに」
「さっき会ったばかりでしょう。先に確認が済めば、そのあとでいくらでも話せます」
「えー、じゃあ早く済ませて! アリスとケイ……帰らないでよ」
「はい! たくさんお話ししましょう!」
アリスが手を振ると、ネオンはようやくエリザについていった。
二人が通された部屋は、小さな会議室のようだった。開いた扉の向こうには机と椅子が見える。机の横で待っていた金髪の若者は、入ってきた二人に順に目を向けた。
「クラピカだ。ネオンお嬢様の護衛をしている」
「アリスです。こちらはケイです!」
「お待たせしました。スクワラから、こちらへ来るようにと」
ケイが勧められた椅子に座ると、アリスも隣へ腰を下ろした。スクワラは扉を開けたまま入口に残り、クラピカは二人の正面に腰を下ろした。
「今からする質問に、嘘偽りなく答えてほしい。答えられない質問には、答えなくてもいい」
クラピカはおもむろに右手から鎖を垂らすと、言葉少なに核心に迫った。
「誰かに頼まれて、お嬢様に近づいたのか?」
「いいえ、協力プレイのためです! クレーンゲームはアリスの得意分野なので」
アリスは不思議そうにその鎖を見たが、特に気にすることなくクラピカの質問へ胸を張って答えた。
「彼女がノストラード組のボスの娘だと知ったのは?」
「先ほどの食事中です。ネオンから聞きました」
ケイは落ち着いて答えた。続く質問にも、言えることだけを淡々と伝える。
宿泊先も、今すぐ連絡できる知人も、この街にはいない。そこまではスクワラに話した通りだったが、続く質問にはすぐに言葉が出なかった。
「ホテルでお嬢様と出会う前、何をしていた?」
何と答えるべきか。ケイが言葉を選んでいると、先にアリスが答えた。
「キヴォトスにいました!」
「アリス!?」
急なカミングアウトに驚くケイに、アリスは向き直る。
「隠していてもあまり意味がない気がするんです。それに、何か手がかりが得られるかもしれません!」
アリスの言葉にケイは素早く思考した。
一理ある。
少なくとも、自分たちにとってこの世界は完全なる未知だ。キヴォトスとも、「外の世界」とも違う。そしてこの世界の地図には自分たちの知る場所はどこにも記されていなかった。この世界の常識すら分からない今、自分たちの身に起きた出来事を秘匿することに意味があるのかも分からない。
現地人に話す前にもう少し下調べをしたかったという気持ちはあるが、このタイミングで自分たちの身に起きたことを話してみるのは、必ずしも悪い選択肢ではないように思えた。何か情報があれば大きく前進し、妄想の類だと一蹴されるなら、それはそれで収穫である。
「キヴォトス?」
「……はい、私たちが学生生活を送っていた学園都市の名前です。えーと、地名みたいなものだと思っていただければいいんですが……」
そこからケイはキヴォトスの情報を最低限に留め、自分たちの身に起きたことを説明した。
とは言っても、話せることは多くない。突然、前触れもなく、気が付いたら、ホテルに立っていた。
「私たちが元々いた場所は、こちらの地図には載っていないようでして。詳しく調べたいのですが……私たちもまだ何も分かっていないんです」
「これからマップを埋めながら情報を集めていくところです!」
ケイは窺うように、アリスは楽しそうにこちらを見ている。
意外にも、そしてアリスとケイにとっては有難いことに、そんな突拍子のない話をクラピカは静かに聞いていた。
鎖は、動かない。
(嘘は、ついていないか)
二人がこの部屋に来るまでに、組では彼女たちの素性を調べていた。
結果は不明。何もわからず。
彼女らがネオンと接触するまでの情報が一切ない。
限られた時間での最低限の調査とはいえ、組の情報網を駆使した調査でこの結果は異常だった。まるで二人がネオンと出会う直前に、急にあの場に発生したかのような不自然さ。事実、ホテル内の監視カメラ映像には、コマ落ちしたかのように、あるフレームから突然現れる二人の姿が記録されていた。その後の行動は、説明されたものとおおよそ一致している。
(念能力による転移……あるいはそれに類するものに巻き込まれたか)
クラピカが発言の真偽を問う念能力を有していたことが、二人にとっては幸運だった。
少なくとも、この突拍子もない話が、目の前の二人にとっては真実である可能性が高いとクラピカは考えた。
(洗脳に類するもの……記憶操作を受けた可能性もある。いずれにせよ、現状の情報だけでは結論付けられない、か)
クラピカは一度視線を外し、姿勢を正して改めてケイの顔を見た。
「わかった。その……君のいう転移現象については、我々も聞いたことがない。私にも心当たりはない」
「信じるのですか?」
「正直、全面的に信じているわけではないが……嘘をついているようにも見えない。ここでその点を争っても意味がない」
「確かに、そうですね」
少なくとも自分たちの身に起きた事象が、この世界では日常茶飯事というわけではなさそうだ。それがわかっただけでも収穫だとケイは考えた。
「尋問のようなことをしてすまなかった。キヴォトス、という地名についても調べてみよう。何かわかったら伝える」
「それは、こちらとしてはとても有難いです」
「やりましたねケイ! 一人目の仲間をゲットです!」
「仲間になったつもりはないが……」
クラピカが苦笑すると場の空気が少し緩んだ。
「だが、君たちの身元が確認できないことには変わりない。お嬢様が招いても、お嬢様の部屋へ入ることは許可されない」
「先ほどのようにずっと見張られるんですか? それは、あまり落ち着きませんね」
「こちらも、お嬢様のそばに素性のわからない者がいるのは、護衛として受け入れられない。今は特に」
「当然ですね」
口調は静かでも、譲る気はなさそうだった。クラピカの座る位置からは二人の手元も出口もよく見える。
ケイは椅子の背にもたれかけた身体を戻し、小さく息をついた。愛想よく答えれば済む相手ではないことは重々承知している。
「では、私たちはどうすればよいでしょうか? ご存じの通り無一文なので、色々と助かってはいます。ただ、そちらの都合も多少は理解しているつもりです。ネオンには申し訳ないですが、ここでお別れの場合、私たちも早く今夜の宿のことを考えないといけません」
「お別れの場合は最後にネオンとお話をさせてください。約束を守らず黙っていなくなるのはダメです!」
アリスの言葉に毒気を抜かれつつ、しかしクラピカにはもう一つ確認しておかなければならないことがあった。
「それを決める前に、もう一つ」
クラピカの視線が、アリスの頭上へ上がった。
「その……頭の上の輪はなんだ? 常時発動しているのか?」
「……ヘイローですか? はい、いつでもあります!」
「今、消せるか」
「できません。寝ているときは消えますが……ここで眠ってほしいということでしょうか?」
スクワラが入口で小さく息を吐いた。クラピカは笑わず、質問を続ける。
「寝なくていい。念を、誰かに教わったことは?」
「ネン?」
アリスが聞き返した。隣を見ると、ケイが首を振る。
「その言葉は初めて聞きました。何かの暗号でしょうか」
クラピカの目がわずかに細くなった。二人の身体にはオーラが留まっている。それも、話している間ずっと乱れない安定した纏だ。
知らないと言われて、そのまま信じるには不自然すぎた。
彼は片手を上げた。指は動かさず、その周りへオーラを集める。
「今、何か変わったか?」
ケイは差し出された手を見つめた。指先から袖口へ視線を移してみたが、見慣れないものは何もない。
「……手を上げたこと、ではありませんよね?」
クラピカは手の位置を変え、何度か同じことを試した。二人の目線は手や指の動きを追うが、オーラの動きには反応しない。
「互いの頭上にある……ヘイローは、君たちにも見えているのか?」
「はい! アリスたちにはいつもヘイローがあります!」
「ただ、見えている……というよりは、認識しているという感じですね。呼吸や息遣いのようなものです」
ケイとアリスは互いの頭上を見上げながら答えた。そこにあることを、わざわざ確かめたこともなかった。
「では、その形には意味があるのか? 二人で色が違う理由は?」
ところが、この質問には二人とも答えられなかった。顔を見合わせ、揃って首を傾げる。何を聞かれたのかわからない、とでもいう反応に、クラピカも眉を寄せた。
「光輪、ではないのですか?」
「……輪と呼ぶには、少し複雑な形をしている。形までは見えていないのか?」
「アリスとケイで色が違うのですか!?」
「あ、ああ。君のものは寒色系で、彼女のものは暖色系だ。形はどちらも左右対称に見えるが……」
それを聞いたアリスは勢いよく立ち上がった。
「見たいです! アリス、ケイのヘイローを見てみたいです!」
入口のスクワラが身構えたので、アリスはすぐに座り直した。それでも目は輝いたままで、クラピカの返事を待っている。隣のケイは自分の手を見下ろし、何かを考え込んでいた。
「……どうやら、そちらにとっても想定外の情報だったようだが、続きは後にしよう。今はこちらの質問を続けさせてもらいたい」
アリスは残念そうに口を結んだが、続きを聞けるならと頷いた。ケイも顔を上げる。二人がこちらへ向き直ったところで、クラピカはもう一つ試してみることにした。
「では、この鎖に触れてみてくれないか?」
「はい、こうですか?」
アリスは何のためらいもなくクラピカの右手から垂らされた鎖に触れた。あまりにも無防備な動きに、クラピカの方が一瞬動きを止めてしまう。
お互いを念能力者と認識していれば、命知らずな行動といっても過言ではない。信用する相手であっても、その意図について尋ねるべき場面だ。
(本当に、念を知らないのか?)
「もういい、大丈夫だ」
アリスが手を離すと、クラピカは少し考えこんだ後、再び口を開いた。
「念とは、身体から湧き出る生命エネルギーを、自分の意志で扱う技術のことだ。そのエネルギーをオーラと呼んでいる」
クラピカは上げていた手を下ろし、二人が言葉を飲み込むのを待った。アリスは自分の両手を開いて見比べ、ケイは先ほどまで彼が動かしていた手元へ目を戻す。
「さっきは、それを手に集めていたのですか?」
「そうだ。君たちにも同じように見えていると思ったが、違うらしい」
「アリスにもあるのですか? その、オーラが」
アリスは袖をまくり、自身の腕をじっと見つめた。
「ある。腕だけではなく、全身の周りに留まっている。普通は、そうして留めておくことすら訓練が必要だ。その状態を纏と呼ぶ」
「テン、ですか。正直なところ眉唾ですが……私たちがそのテンを行っていると?」
「私には、そう見える」
「……すごいです! チュートリアルを飛ばしてしまいました!」
アリスは少し嬉しそうだったが、もう一度自分の腕を見て首を傾げた。できていると言われても、何をしているのかはわからない。
「でも、何も見えません。訓練すれば見えるようになるものなんでしょうか?」
「自分の意志で扱えては……いないですよね」
ケイが力を込めて右手を握る。クラピカに言われて指を開き、肩の力も抜いたが、彼は首を横に振った。力を抜く前も抜いたあとも、オーラは変わらず全身を淀みなく覆っている。
「オーラは全く変化していない。筋肉を動かす感覚とは分けて考えた方がいい」
「難しいですね……。握れば、ここに力が入るのはわかるのですが」
「いや、それほど安定した纏を維持する方が本来は困難なはずなんだが……」
ヘイローまで見えているなら、クラピカがオーラと呼んでいるものは何なのだろう。ケイには心当たりがあったが、まだ、それを確かめる手段がない。動かそうと意識できるのは、やはり筋肉ばかりだった。
「念が使えると、ヘイローを見る以外に何かできるのですか?」
「念を適切に運用できれば、身体を守ったり、攻撃を強めたりできる。習熟すれば、独自の超常的能力を習得することも可能だ」
「魔法ですね!」
「こちらでは、学べる技術なんですね……説明だけ聞くと魔法と言いたくもなります」
その言葉にアリスが大きく頷き、クラピカは袖を戻すよう促した。
「だから、他人の能力には用心してくれ。さっきのように、言われるまま相手の所有物へ触れるのも危険な場合がある」
「クラピカが触っていいと言いました!」
「ああ、今回は私が頼んだ。だが、頼んだ相手に何ができるか、君はまだ知らない」
アリスは彼の右手を見た。指から下がった鎖は、今は静かに揺れている。あれに触れるだけで何かが起きるかもしれない、という発想はなかった。
「では、次からは先に聞くことにします」
「答えてくれる相手ならな」
入口からスクワラの声がした。アリスがそちらを見ると、彼は腕を組み直した。
「お嬢様の部屋へ来るなら、勝手に触る前に聞いてくれ。人にも、物にも」
「それは、アリスも気をつけます!」
ケイはクラピカへ向き直った。
「そのオーラを、私たちも見たり操ったりできるのでしょうか?」
「見るための訓練方法はある。習熟する方法論も確立されている。ただ、君たちのそれは少し……変わっている。現状は何とも言えないな」
「教えてほしいです! アリスもその、ネンというのを使ってみたいです!」
声につられて身を乗り出しかけ、アリスはスクワラを見た。机に手をつく前に座り直したものの、期待のこもった目はクラピカに向けたままだ。
「時間が取れれば、もう一度確かめよう。今は先に、滞在の話だ」
クラピカは紙を手元へ寄せ、面会の条件を伝えた。スクワラか、ほかの護衛が同席する居間なら訪ねてよい。許可された場所以外には入らず、仕事の書類にも触れない。拘束の対価として、最小限の金銭的な支援をする。
「最後に、この誓約書にサインをしてもらう必要がある」
「……誓約書、ですか」
「こちらにとっての保険だ。誓約の内容は、お嬢様に故意に危害を加えないこと。署名した時点から48時間、効力は継続する」
「そんなことはしませんが……これが保険になるのでしょうか?」
「誓約を破れば、即座に身体を拘束され、強制的に絶の状態に置かれる。動きを封じられ、オーラも使えなくなるということだ。命を奪う制裁ではない」
それを聞いたケイはまじまじと誓約書を見た。
「これも、念というものなんでしょうか?」
「ああ、そう思ってもらって構わない」
今朝から覚えた文字で、文面はおおよそ読める。誓約として書かれているのは、今聞いた一項だけだった。だが、文字が読めても、その通りに作用するかまではわからない。得体の知れない誓約書に署名してよいものか、ケイにはまだ判断がつかなかった。
そもそも、こちらがここまで譲歩する必要があるのか。そんな考えがケイの頭をよぎったとき、アリスが口を開いた。
「その誓約の内容に、嘘偽りはありませんね?」
声色が変わったわけではない。それなのに、妙によく通る声だった。アリスの碧眼が、クラピカをまっすぐに見据える。
「誓って」
クラピカが静かに答えると、アリスは数秒間彼を見つめ続け、やがて破顔してペンを取った。
「わかりました! ここに名前を書けばいいんですね!」
ケイが制止する間もなく、アリスは誓約書にサインをした。ケイは短くため息をつく。ネオンに危害を加えないという約束に、異論はない。紙に書かれた一項をもう一度確かめてから、その下へ自分の名前を書き添えた。
クラピカはそれを確認すると、二人に頭を下げた。
「感謝する。これで、君たちをお嬢様の友人として迎えられる」
それからクラピカは、二人の滞在中の宿泊費と食費は、すべて組が負担すると告げた。
「これで、お部屋で一緒にお話ししてもいいんですよね!」
「ああ。ただし、こちらが指定する場所以外への立ち入りは認めていない。君たちの部屋は別に用意する」
「ありがとうございます。できれば二人で使える部屋をお願いします。いつまでこの街にいるかは、まだ決めていませんが」
「それでいい。仕事を頼むなら、そのときは改めて条件を話す」
ケイはようやく表情を緩めた。泊まる場所の見通しがつき、こちらの話を聞いてくれる相手もできた。それに、すぐ目の前には知らない技術まである。面談に呼ばれたときより、ここで確かめたいことが増えていた。
立ち上がったアリスは、またクラピカの右手を見た。
「その鎖も念能力なんでしょうか?」
「……念能力者は自身の能力を秘匿するものだ。何が私の念能力なのか考えてみるといい」
「はい!」
クラピカはわずかに口元を緩め、スクワラへ案内を頼む。二人が廊下へ出たのを確かめてから、面談で聞いた話を改めて考えた。
ホテルの監視カメラに残された記録には、二人が現れた瞬間が残っている。本人たちの話も、その後の行動とは矛盾しなかった。しかし、あの場所へ来るまでに何があったのかを確かめるには、それだけでは足りない。
護衛として、不確定要素を抱え込むのは避けたかった。だが、ネオンの我慢も限界に近い。二人を彼女から遠ざければ、ますます機嫌を損ね、何をしでかすか分からない怖さがあった。事情を聞いたライト=ノストラードが誓約書への署名を条件に二人の滞在を認めたのも、そのためだろう。これで娘が落ち着いてくれるなら、護衛の側にも利点はあった。
念を知らずに能力を使っている例なら、ネオンの占いがそうだ。ただ、クラピカの知るそうした例は、本人の執着と才能に強く結びついていた。自分でも見えない光輪と、途切れない纏。目の前の二人を同じ例だと考えるには、まだわからないことが多い。自身の直感は、二人を信じてもよいと言っている。裏特有の気配は微塵も感じられず、かつてのハンター試験で得た友人に近しいものもいくらか感じた。しかし、その直感にベットするつもりはない。ネオンの友人としての滞在は認めても、警戒を怠る気はなかった。
クラピカは昼の同席をスクワラに任せ、夕方にもう一度様子を見ることにした。知らない地名の調査も頼んでから、次の仕事へ向かった。
####
ネオンの居間へ入ると、窓際のソファに白い兎が座っていた。寝室へ続く扉は閉じられている。スクワラは入口を背にした椅子へ腰を下ろした。
「遅い! もう地図も出してあるのに」
「お待たせしました! ちゃんと戻ってきました!」
ネオンは何か言いかけて、アリスの笑顔を見ると口を閉じた。隣の空いた場所を叩いて呼び、スクワラに向かい側を示されると、今度はそちらへ地図を回す。
アリスが向かいのソファへ座ると、ケイも隣に腰を下ろした。三人の間には、すでに店の名前がいくつも書き込まれた地図が広がっている。
ケイはホテルの貸出用端末を借り、読み上げ機能を使って朝の続きを始めた。ネオンはしばらくその手元を眺めていたが、知っている店の名前が出たところで口を挟んだ。二人は教えた文字をすぐ覚え、別の画面からも同じ名前を探し出す。気づけば、ネオンの方が次に読ませるものを選んでいた。
「これ。ここのお菓子、すごく高いの」
「おいしいですか?」
「おいしいわよ。箱も綺麗だし」
「見てみたいです! ケイ、ここも行きましょう!」
アリスは借りた紙へ店の名前を書いた。少し斜めになった文字をネオンが指で直し、ケイが地図に店の場所を表示する。
クラピカには故郷の地名を調べてもらえることになった。その返事を待つ間に、自分たちでもこの世界を知っておきたい。まずは身近な場所からと、ケイはネオンが勧める店に文具店や端末を扱う売店を加え、地図へ印をつけていった。アリスはホテルの名前の隣に、小さな旗を描いた。
「ここが、今の拠点です!」
「ずっといるの?」
「まだ決めていません。明日もネオンと遊べますか?」
「もちろん! あとで洋服も見ましょ。二人に着せたいのがあるの」
「アリスたちも選びます!」
「動きやすいものをお願いしますね。着替えも、いろいろ揃えたいので」
ネオンはもう服の写真を出したがっていたが、そこへエリザが来た。父親に電話をする時間だという。
電話がつながると、ネオンは二人を気に入ったことから話し始めた。細かな質問には、あとでクラピカに聞いて、と答える。小言が始まる前にスクワラへ端末を渡そうとしたが、父親はあっさりと、二人と過ごしてよいと答えた。
「え、いいの? ありがとう、パパ!」
「ああ、もちろんだとも。可愛いネオンの頼みだからね」
「やったー! パパ大好き!」
「ああ。だから、しばらくは部屋で待ってておくれ。外は危ない。二人と仲良くするんだよ」
「あー、うん。もうちょっとだけ、待ってあげる」
ネオンは端末を下ろし、アリスとケイへ向き直って笑顔を見せた。
「いいって! 明日も一緒よ」
ケイは丁寧に、アリスは元気にお礼を言う。ネオンは待ちきれずに画面へ指を伸ばし、今度こそ服や菓子の写真を次々に見せ始めた。その途中でソファの兎に気づき、抱き上げて戻ってくる。
「ねえ、これも撮りましょ。今日、自分で取ったんだから!」
「取ったのはケイです!」
「お金はわたしよ」
「では、三人の戦利品です!」
ネオンは少し考え、兎を真ん中に置いた。エリザがカメラを向けると、三人で兎のそばへ顔を寄せた。
撮れた写真を確かめたネオンは、画面と二人の顔を見比べた。
「……明日も、ここへ来てね」
先ほどより声が小さかった。アリスはすぐに、大きく頷いた。
「はい! 朝ご飯も一緒に食べましょう!」
ブルアカ周り、公式設定が少なすぎるので独自設定多めです。