アリス、ハンターになります!   作:ユウリ

5 / 5
1-5

 翌朝、ネオンの部屋から大きな声が聞こえた。

 

「帰らない! まだ何も買ってないのに!」

 

 廊下へ出たアリスとケイは、扉の前でスクワラと顔を合わせた。困り果てた様子の彼の足元には、昨日の犬が座っている。開いた扉の向こうではエリザが服を畳み、旅行鞄へ詰めていた。

 

「洋服のことじゃないわよ! 何のためにここまで来たと思ってるの!」

 

 ネオンは窓際で電話を握り締めていた。アリスがスクワラの顔を窺うと、彼は顎で中へ入るよう示した。

 

 ネオンは二人を見つけるなりまくし立てた。

 

「ねえ、聞いて! お父様ったら今日帰れって言うのよ。昨日は待ってろって言ったくせに!」

 

 テーブルには競売カタログが出たままだった。緋の眼のページは閉じられているが、何枚もの付箋が端から飛び出している。

 

 ケイが答える前に、電話から声がした。

 

「誰と話しているんだい。あの二人か?」

「そうよ。今来たの。二人と遊ぶって約束してたのに!」

「それとこれとは別だ。いい子だからパパの言うことを聞いて、スクワラに代わりなさい」

 

 ネオンは半ば押し付けるように端末を差し出した。受け取ったスクワラが窓際へ移り、車と荷物の支度について答える。ライトが気にしているのは、誰が娘の警護に付き、いつ出発させられるかだった。アリスとケイには声を掛けなかった。

 

 ネオンは父親とスクワラのやり取りを横目に、ソファへ座り込んだ。

 

「いっつもこう! 自分の用事で連れてきたくせに、終わったら帰れって……」

 

 エリザが、畳んだ服を鞄へ入れた。ネオンはそれを睨んだが、文句を重ねる代わりにカタログを引き寄せた。

 

「アリスとケイとも、せっかく仲良くなれたのに……」

 

 アリスは向かいに座り、開いたままの旅行鞄を見た。昨夜は、今日も一緒に遊ぶつもりで話していた。それが、起きたらもう帰り支度である。ネオンが納得していないのはもっともだと思ったが、昨日スクワラから聞いた襲撃の話も覚えていた。

 

 ここで一緒に行きたかった店を並べるよりは、次に会える場所を聞いた方がよさそうだ。アリスは顔を上げた。

 

「帰る町にも、ゲームのお店はありますか?」

「……あるけど」

「では、そちらに行くときも案内してください! アリスたちは、ここ以外も見てみたいです!」

 

 ネオンが顔を上げた。

 

「一緒に来るの?」

「それは難しそうですが、また会う約束はできます。きっと、すぐに会いに行きます」

 

 ケイは隣へ座り、昨日買った端末を見せた。ネオンは自分の端末を取り、短い言葉を送ってみる。すぐにケイの手元で受信音がすると、少し表情が明るくなった。

 

 しかし、エリザがカタログを鞄へ入れようとした途端、ネオンはその上に手を置いた。

 

「それは、まだしまわないで」

 

 カタログを取り戻すと、今度は鞄の中の服を指した。

 

「そっちも。そんなに詰めたら皺になるでしょ。箱に入れて」

「ドレスは、お店から送ってもらうお話でしたが……」

「一緒に持って帰る。箱を変えてもらって。ほかの服も、ちゃんと入ってるか見たいの」

 

 エリザが畳んだ服を取り出す間にも、ネオンは端末に昨日の店を表示した。取り寄せてもらった服の受取りは、まだ済んでいない。箱が大きすぎる、リボンの色が違う、別々に届くのは嫌だと、店員へ次々に注文を出す。

 

「今日帰るなら、今日中に揃えてよ。昨日は待ってればいいって言ったじゃない」

 

 電話を終えたスクワラが戻ると、ネオンは今度は彼に、店へ下りると言った。

 

「受取りはこっちでやります。お嬢様は、ここで――」

「自分で見る! 届いてから違うって言っても遅いでしょ。ホテルの中ならいいって言ったくせに」

 

 スクワラはエリザと目を合わせた。彼女の手元には、開け直した鞄と、店へ戻す包装紙が積まれている。

 

「……下を見るだけですよ。俺も一緒に行きます」

「じゃあ、早くして」

 

 ネオンはカタログを手放さずに立ち上がった。スクワラが車へ運ぶ荷物を数え直すのを見てから、今度は、まだ食べていない菓子も持ち帰りたいと言い出した。

 

####

 

 廊下では、クラピカが電話をしていた。

 

 昨日よりも声が硬く、相手の話を聞いている時間が長い。通りかかった二人へ一度目をやり、通話を終えてから近づいてきた。

 

「お嬢様には帰宅の指示が出た。君たちの宿泊は今夜まで手配できる。その先のことは、希望を聞いてから相談しよう。今のところ、こちらの車に同乗してもらう予定はない」

「ありがとうございます。私たちも、まだ調べたいことがありますので」

「昨日の地名の件も、何か出たら連絡する」

「はい。よろしくお願いします」

 

 クラピカとケイのやり取りの後に、アリスが声を上げた。

 

「クラピカ! 昨日の夜、一瞬だけケイのヘイローが見えました!」

 

 彼の視線が戻った。ケイも、自分にはアリスの輪が見えたと伝える。青とピンクで、ただの輪っかではなく、細かな線が見えたことをアリスは嬉しそうに報告した。

 

「凝を試したのか?」

「我流ですが……まずはお互いのヘイローを認識するところから始めてみました。まだ、思い通りにはできませんが」

「話を聞く限り、方向性は間違っていない。君たちが見た色も形状も、私が確認したものと一致している」

 

 アリスは嬉しそうにケイを見た。クラピカも短く頷いたが、すぐに時計へ目をやる。

 

「詳しく確かめるのは、次の機会にしてもらえるか」

「はい! 続きを楽しみにしています!」

 

 聞きたいことはまだあったが、今の彼は仕事へ向かうところだった。

 

「クラピカは、ネオンと一緒に帰らないのですか?」

「別の仕事が入った。私を待たずに出発してもらう」

 

 スクワラが居間から出てくると、クラピカは、二人がネオンを訪ねるときの同席を頼んだ。続いて、車を出すまでの荷物の受渡しと、ライトへの連絡を確かめる。ネオンの移動には必ず誰かが付き、出発までは目を離さないようにと、護衛同士で段取りを話していた。

 

 今夜の競売場、という言葉が聞こえて、ケイは顔を上げた。

 

「競売は、確か中止になったのでは?」

 

 クラピカが一度言葉を切った。

 

「再開すると聞いている。だが、ネオンお嬢様は参加しない。ここからは、私たちの仕事の話だ」

 

 ケイは頷き、それ以上は尋ねなかった。

 

 クラピカが去ると、廊下の奥から大柄な男が来た。口元に髭があり、上着を羽織りながらスクワラへ車の準備を手伝うと話す。二人に気づくと、少しだけ足を止めた。

 

「バショウだ。昨日はろくに挨拶できなかったな」

「アリスです! 今日は、お見送りになりそうです」

「おう。出る時間が決まったら声を掛ける」

 

 バショウはすぐにスクワラへ向き直り、運ぶ鞄の数を確かめる。

 

 センリツも外との連絡に追われ、忙しそうにネオンの部屋と別の客室を行き来していた。昨日の続きを教わりたくても、今は頼めそうにない。ケイがその姿を目で追っていると、アリスが袖を軽く引いた。

 

「アリスたちも、荷物を片づけますか?」

「そうしましょう。そのあと、下の売店へ寄りたいですね」

 

 ケイはスクワラに、用事が済んだらネオンの見送りに戻るつもりだと伝えた。

 

「俺たちも荷物を見に下りる。出発が決まったら連絡する」

「お願いします!」

 

 アリスが手を振り、二人は自室へ戻った。

 

 昨日の着替えや日用品を整理し、鞄へ入れ直す。ケイが現地の端末に街の地図を保存すると、アリスは三人の写真をもう一度開いてもらった。

 

 白い兎のぬいぐるみは、昨日のうちに「ユーシャ」と名づけられていた。短くて強そうな名前を、と考えたアリスの案である。ケイには役職ではないかと突っ込まれたが、ネオンが試しに呼ぶとアリスまで返事をして、三人でもう一度笑った。結局、そのまま決まってしまったのだった。

 

「ユーシャも、今日出発ですね」

「忘れずに連れていくよう、あとで言ってあげてください」

 

####

 

 ところが、午後も遅くなってなお、出発の連絡は来なかった。

 下の買い物フロアでは、ネオンがまだ店のカウンターに箱を並べさせていた。

 

「これは車に積まないで。こっちが先」

「先ほどは、大きい箱を先にと……」

「開けてみたら違ったの。エリザ、中の服も見せて」

 

 包みを閉じかけた店員の手が止まり、エリザが伝票と中身を照らし合わせる。スクワラはカウンターの脇に立ち、箱を受け取りに来たバショウへ、まだ運ばないよう告げた。

 

「全部を一度には積めねえぞ。残りは荷物の車に回す」

「だ・か・ら、その分け方を見てるの!」

 

 バショウは返事の代わりに箱の大きさを見比べ、運転手へ連絡した。センリツは上の階で別の連絡に当たっている。下にいる者まで全員が荷物に回るわけにはいかず、スクワラは店員に呼ばれてもネオンのそばを離れなかった。

 

 それでも、ネオンが一つ変えるたび、誰かが包みを開き直し、電話を掛ける。ネオンは周りの声を聞き流し、持ってきた手提げ袋から自分の薄いコートを取り出した。

 

「これは、持っておく。それとさっきのお菓子、まだ?」

「売店で確認中です。お嬢様も、もうお支度を……」

「その前にお手洗い!」

 

 ネオンは帽子とコートを持ち、カタログを手提げ袋へ入れた。スクワラが後ろにつき、エリザも店員から伝票を受け取ってついてくる。

 

 化粧室は、店の並ぶ通路の奥にあった。エリザは一緒に中へ入ったが、ネオンは個室の前で振り向いた。

 

「ここまでついてこなくていいから。さっきの箱、違うのを積まないように見てて」

「では、すぐ外でお待ちしています」

 

 個室の扉を閉めると、ネオンは長い髪をまとめ、帽子の中へ押し込んだ。コートを羽織って襟を立てる。外からは、まだ箱の受取りについて話す声が聞こえていた。

 

 洗面台の前では、買い物を終えたらしい女性たちが話していた。ネオンは扉を少し開け、彼女たちが出口へ向かうと、その後ろについた。

 

 スクワラは通路に立っていた。店員が運んできた箱をエリザへ渡すところで、ネオンの前を大きな荷物が横切る。スクワラの目が帽子へ向いたときには、ネオンは隣の女性と同じ方へ顔を向け、そのまま歩いていた。

 

 エリザは箱を受け取り、女性たちの後ろに続く客を見送った。

 

 ネオンは角を曲がってから足を速めた。通路の先でエレベーターが開いている。降りてくる客と入れ違いに乗り込み、一階のボタンを押した。

 

 上の数字が切り替わったところで、ケイへ短い文を送る。

 

 『一階のロビーに来て。二人だけでね』

 

 それ以上は書かなかった。競売の話を先にすれば、ここでも止められるかもしれない。

 

 一階に着き、タクシーの様子をうかがいながらロビーの柱のそばで返事を待っていると、スクワラから着信があった。ネオンは画面を伏せ、端末を袋へ戻した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

トニー・スターク先生(作者:DRYSUPER)(原作:ブルーアーカイブ)

指を鳴らしたトニー・スターク。▼次に目を覚ました場所は、銃を携えた少女たちが暮らす学園都市「キヴォトス」だった。▼※映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』終盤から分岐する、『ブルーアーカイブ』とのクロスオーバー二次創作です。両作品のネタバレ、独自設定・解釈を含みます。


総合評価:5613/評価:8.91/連載:22話/更新日時:2026年10月13日(火) 07:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>