転生先って、『夜桜さんちの大作戦』の世界?勘弁してくれよ!! 作:礼夢
主人公は転生前は原作連載中の時空で生きていた、とさせてもらいます。
『夜桜さんちの大作戦』。
ジャンプ作品の1つで、連載初期から細々と応援させてもらっているお気に入りの漫画だ。
「よっしゃー、やっぱりジャンプは発売日に買って読むのが醍醐味だよなー!」
普通の高校生活を送っている「俺」は放課後、コンビニで発売されたばかりのジャンプを片手にウッキウキな気分で帰路に着いていた。
今週の展開はどうなっている事やら。
早く帰って家でゴロゴロ読もう…そう思った時だった。
近くで叫び声が聞こえる。
「邪魔だ、どけ!」
「!?」
刃物を持った男が、凄まじい勢いで前方から迫っていた。
おいおい、何の冗談だよ。
早く避けなきゃ…とは思ったものの、足が思うように動かない。恐怖の感情からだろうか?
―そのまま、男の持っていた刃物は俺の腹部に突き刺さった。
「グッ…ハ…ッ」
刺された箇所を押さえながら、俺は道端で倒れた。
掌には鮮血がベッタリ付いている。
(ああ…俺、死ぬのか…)
と、瞬時に悟った。
意識が消えかかってくる。
クソ、どうせ死ぬならせめてトラックに引かれそうな人を助けさせてくれよ。こんな死に方あんまりだろ。
聴覚も視覚も無くなってきた。ああ…
容姿も普通だし、学力も運動神経も飛び抜けて得意だったわけじゃないから、心残りがあるとしたら1つだけだ。
―せめて、夜桜が完結するまで生きたかったな…
死の間際に未練だけ残し、俺はこの世を去った。
*
(そう、死んだはずなんだけどな!?)
どうやら、俺は転生してしまったらしい。
記憶と自我は継承され、肉体だけ新しく生まれ変わったみたいだった。
転生って本当にあるんだ、とか思いながら、近くの鏡を見て、俺は転生早々絶望する事になる。
―何で女なんですか?
俗に言うTS転生ってヤツですか!?
まさかまさかの展開すぎるって!
可愛いから嬉しいけどね!?
現在、俺は赤ん坊。
言語もマトモに話せず、ただ泣いて意図を伝え、何から何まで全部お世話してもらう屈辱的な生活をこれから暫く送らなければいけないわけだ。
(チクショウ…別に転生なんて望んで無いってのに)
神を殴りたいと思ったのは初めてだ。
だが、文句を述べまくっても過去は変えられない。
俺個人のモットーとして定めた、
『TS転生した事実は誰にも明かさない』
を遵守して、これから頑張って生きていこう…
*
転生してから3年が経った。女として生きるのにも段々慣れてしまっている自分が怖い。
俺の名前は『神楽木 梅』。
何その名前格好良い!と思ったのは否定しない。
自分で言うのもなんだが、整った顔立ちとスタイルで、俺の予想を遥かに超えた美少女に育った。
何の冗談だか、歩行は1歳で、言語に関しては2歳から不自由無く話せている。1種の化け物なんじゃないかな、コレって。
…ん?折角女子になったんだし、もっと喜んだりしないのか、だって?
残念な事に、俺は転生前から性に対する関心は無かった。
むしろ違和感しか無くて苦労しかしていない。
礼儀正しさには厳しい家庭だったものの、和式造りの良い家だし、このまま平穏に暮らしていくのも悪くないな…と思っていたのだが、現実はどうやらどの世界でも残酷だったらしい。
ある日、母上から突然、
「梅、今日から貴方に訓練を行っていくわね」
と唐突に宣告された。
…訓練?何言ってるんだ母上。
俺、まだ3歳だぞ?
「母上、何の話ですか?僕、さっぱりなんですけど」
余談だが、今世は心の中では「俺」、話す時は「僕」(「私」はどうしても忌避感があった)で、一人称を使い分けて生きている。
そんな母上は、とんでもない爆弾発言を俺に叩きつけた。
「神楽木家はね、あの『夜桜家』に次ぐ、名門スパイ一家なのよ。今日から貴方にもスパイの心得を身に着けさせようと思うわ」
…ゑ?
俺が、スパイ一家の娘?
しかも、『夜桜家』って言った?
つまり…
(俺ってもしかして、『夜桜さんちの大作戦』の世界に転生しちゃったって事!?)
運命のイタズラにも程があるだろうよ、神ィィ!!
やっぱり殴るだけじゃ足りない。1回死んでみてほしい。
このバイオレンスな世界に何も知らずに放り込まれた俺の気持ちが分かるか?
小さい頃から生と死がダイレクトに伝わってくる任務に向かわせられなきゃいけないのか!?
しかもあの『夜桜家』とほぼ同等の名門一家って…
スパルタ教育確定じゃねぇかよ、ふざけんな。
…いかん。つい心の中で取り乱してしまったが、落ち着いて母上の話を聞かなければ。
「神楽木家の各代の長子にしか扱う事を許されていない、古くから伝わる名刀、『白梅』。
コレを武器にして、これから貴方にはスパイとしての戦い方、知識を本格的に身に着けさせていくわ」
…名刀?
何それ、格好良い。ちょっとやる気が湧いてきたかも。
(決してチョロいわけじゃないよ?)
頼んでみたら、母上が『白梅』の刀身を見せてくれた。
光輝いているように感じる。
目を奪われてしまう程に、その刀は綺麗だった。
「貴方は、神楽木家の優れた遺伝子を継いでいるから、身体能力も既に常人とは比べ物にならないくらい高いわ。
これから、どんどん訓練をしていきましょうね?」
…幼いながら、拒否したら殺される圧力を感じた。
俺は無言で何度も頷く。
こうして、俺の女としての波乱万丈な人生が幕を開ける事となったのだ。
夜桜家だーれも出てこない。もう暫くお待ち下さい。
《梅の外見》
瞳:琥珀色
髪色:ジェードグリーン(詳しくは調べて見て下さい)
肌色:白め。ブルベ夏とか。