転生先って、『夜桜さんちの大作戦』の世界?勘弁してくれよ!! 作:礼夢
「ゼェ…ハァ…」
おかしいよ、こんなの。あんまりだろ。
いきなり母上に太平洋沖に駆り出されたと思ったら、
「ここからは自力で泳いで帰ってきなさいね」って言われたんだぞ?
頭のネジが外れているんじゃないですかね。
4歳の娘に5km泳がせるとか正気じゃないだろ。
…まぁ、泳げちゃったんだけど。
訓練を始めてから1年が経過した。
常に母上の正気を疑いはしているものの、この鬼畜染みた訓練に慣れてきている俺もだいぶ頭がおかしいと思う。
だが、この訓練はこの世界で生きるための術なのだ。仕方がない。
『白梅』での素振り稽古も毎日欠かさず行っているし、手入れも丁寧にしている。
結構順調なんじゃないだろうか。
下の弟も生まれ、今では俺も立派なお姉ちゃんだ。
このまま裏社会でも細々と暮らしていけるかも…
―そう思っていた時期が、俺にもありました。
「よし。基礎能力もだいぶ上昇しているみたいだし、明日はちょっと、他所のお家に挨拶に行こうか」
…え?何を言い出すんだ、母上。
「あの、ちなみに誰の家か教えてもらえたり…」
嫌な予感がどうしても拭えない。
頼む、どうか、"あの一家"だけは止めてくれ!
…必死にそう祈るも、現実はどうも非常だ。
「昔から代々、神楽木家と友好関係を築いている、スパイ一家の「夜桜家」よ。貴方も覚えはあるんじゃない?」
チクショウ!!!!
分かるよ、覚えしかねぇよ!!!
夜桜家…俺と同じく、優れた身体能力を有した、最強スパイ一家。正直に言えば全員化け物だ。
何が何でも、この世界に転生した以上夜桜家だけとは関わりたくなかったのに!
理由は単純だ。俺は夜桜家がこれからどうなるか、未来を知っている。漫画で把握済みだからな。
そこに俺という存在が干渉してしまう事で、未来が大きく改変されてしまうかも。
それだけは嫌だ。
「どうしても行かなきゃ駄目ですか?」
「ええ。大丈夫、貴方と同い年くらいの子も居るし、全員優しいわよ、安心しなさい」
それも知ってるよぉ…安心は微塵も出来ねぇけどぉ…
*
―翌日。
遂に来たよ、夜桜屋敷。
意外に近くてびっくりだよ。
実際訪れると、やっぱ豪邸だな。デッカ。
ちなみに、今回、『白梅』も肌見放さず持ち歩いている。
理由だって?夜桜家は魔境なんだ。油断したら殺られるからに決まってるだろ。
「良い?ちゃんと挨拶しなさいよ」
「ああ…はい…」
もうこうなったらどうにでもなれ。
当たって砕けろ。むしろ夜桜家に殺されるとか褒美だよ。
『原作への影響が出ないように立ち回る』しか、攻略方法は無いと考えた。最上級任務だろ、最早。
母上がインターホンを鳴らすと、青髪の美人が綺麗な笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃい、神楽木さん!」
紛うことなき、夜桜9代目当主、『夜桜 零』さんである。
(ああ…すっげぇ美人…)
しかし、原作だと既に亡くなってるんだったな。
クソ、死因が分からないから余計怖い。
気付かない所で何か物語の核心に触れちゃったりしないだろうかと不安になる。
「あら、この子が梅ちゃん?」
あ、こっち見た。
平常心、平常心…
「始めまして、梅です。宜しくお願いします」
それだけ言ってお辞儀をした。
…どうしよう、簡潔すぎたかな。無礼だと思われてこの場で切り捨てられたりしないだろうか(ド偏見)。
だが、そんなのは杞憂だったらしい。
「可愛いー♡お利口さんね!」
零さんは満面の笑みを浮かべると、俺の頭を優しく撫でた。
(ああ、優しい!女神!)
俺の母上とは大違いだ。
この人が母親とか最高だろうな。夜桜家の子には絶対なりたくないけど。
「沢山可愛がりたいなー♡」
「あはは、恐れ多いですよ(色んな意味で)」
「これから少し梅ちゃんのお母さんと色々お話させてもらうんだけど…その間、私の子供達と遊んでてくれる?」
…ちょっ、今、なんて言った?
「私の子供達」???
「凶一郎、居るんでしょう?隠れてないで出てきなさい」
「…はーい」
そう言って壁から顔を出したのは、『夜桜 凶一郎』。
(うわぁぁぁぁ!!!まさかのコンタクト!)
しかも、よりによって(後の)変態シスコン長男ですか!?
初回から攻略難易度ベリーハードなんですけど!?
…実は、転生前からの俺の推しである。
1話を見た時は、「うわぁ…ヤベェなコイツ」という感情を真っ先に抱いたが、2話以降は、「うわぁ…ヤベェなコイツ」は変わらず、「なんやコイツカッケェじゃねぇか」がプラスされ、すっかり虜になってしまった。
だから二重に気まずい。ご尊顔を拝めて幸福ではあるが、同時に不安も倍増している。
大丈夫かな、上手くやっていけるだろうか?
「あの…始めまして。梅です」
「梅ちゃんか!僕は凶一郎。宜しくね!」
うわぁ、天使かよ!可愛いなぁ!!
小さい頃はこんなに純粋な少年だったのか…
「じゃあ、此方で遊んでよっか。着いてきて!」
「わっ、」
手を引っ張られ、屋敷の奥の方の部屋に連行された。
これから先、不安でしかない。
…俺、生きて家に帰れるのだろうか…
*
〈凶一郎side〉
「こら、待ちな凶一郎!」
「へへ、捕まえられるものなら捕まえてみなよ!」
二刃と鬼ごっこをしている最中、急に屋敷のインターホンが鳴った。
母さんと誰かの会話が聞こえる。
(どんな人なんだろう…)
僕はそっと壁際から玄関の様子を伺った。
「…あ」
青みがかった緑髪が綺麗な、可愛い女の子が居た。
母さんに頭を撫でてもらって、嬉しそうに微笑んでいる。
(…可愛い)
と、心から思った。
名前を知りたい。出来るなら、話してみたい…
そう思っていた時。
「凶一郎、居るんでしょう?隠れてないで出てきなさい」
「!」
気配は隠していたつもりなのに、気づかれた…
母さんには敵わないな。
「…はーい」
僕が前に出ると、女の子は驚いているようだった。
怖がらせちゃったかな…と心配していると。
「あの…始めまして。梅です」
「!」
と、向こうから名前を教えてくれた。
素直にとても嬉しかった。
「梅ちゃんか!僕は凶一郎。宜しくね!」
梅ちゃんの表情が少し柔らかくなった気がした。
「じゃあ、此方で遊んでよっか。着いてきて!」
そう言って、梅ちゃんの手を引っ張って、二刃達が居る場所に案内した。
僕の手より一回り小さい手が愛らしい。
(もっと仲良くなりたいな)
と、心から思った。
ショタ凶一郎をアニメでリアタイした時はリアルに奇声をあげました。不審者ですね。
梅に対する凶一郎からの好感度はこの時から高いですね。