転生先って、『夜桜さんちの大作戦』の世界?勘弁してくれよ!! 作:礼夢
個人的に青リンゴ味が気になる
ドン!
という鈍い音を立てて、弾丸は俺の肩を抉った。
(いってぇぇえぇぇ!!)
俺はその場で肩を押さえた。
本当、よく叫ばなかったな、俺!
めっちゃ痛いよ、泣きたい!
けれど、避けられた事に戸惑っているスナイパーを仕留めるには、今が絶好の機会だった。
ぐずぐずしている場合ではない。
「よくもやりやがったなクソ野郎…」
と、近くにいる凶一郎に聞かれないように、静かに素の口調で文句を呟きながら、俺は自慢の脚力で一気に上へと跳躍する。
ライフルをとにかく白梅で切り刻み、スナイパーの頭を踏んづけて気絶させた。
殺しはしたくないからな。良かったな、俺が相手で。
「梅ちゃん!」
慌てて凶一郎が駆け寄ってきて、俺の体を気遣う。
「本当にごめん、僕の不注意で…」
「いや、おr…ん"んっ、僕が気を逸らせちゃったみたいだし。
謝らないでよ」
それに、推しの泣いている顔を見るのって、オタクにとっては結構心にくるんだぜ。
凶一郎は俺の肩を懸命に手当てしてくれた。
正直、我慢してるだけで本当に痛いのだが…
前世、腹部に深くまでナイフを刺された俺にとっては、まだマシ、と言えるレベルだった。
…改めて、感覚麻痺してんな、俺。
「凶一郎、梅!大丈夫かい?」
二刃が此方の様子に気付いたようで、慌てて駆け寄って来る。
良かった、合流できた。
「その傷…撃たれたのかい?」
「あっははは…いやぁ、僕は修行不足だよね。
帰ったら母上に訓練増やされちゃうよ」
凶一郎の罪悪感をこれ以上増やさないように、俺は軽く誤魔化しておいた。
それに、俺の実力不足、というのは事実だし。
犠牲になる前に、弾丸を切れてたら…とか、もっと早く気づいて避けられてたら…とか。
反省点は山程出てくる。
今回は凶一郎と二刃が手伝ってくれたから、任務は成功したけれど、今後はそうも言ってられない。
俺ももっと強くならないと。
*
「あのー、凶一郎くん。僕、普通に歩けるから降ろしてもらって大丈夫だよ…?」
「駄目。安静第一」
あ、ありのまま、今起こっている事を話すぜ!
迎えの夜桜の車までの道中、「怪我をしてるから」と言われ、凶一郎に背負われていた。
…もう一度言う。背負われていた。
(いや、いやいやいや!心は男の俺でも、推し(男)に背負われるとかいうイベント発生したらときめいちゃうよ!?)
絵面としては良いのかもしれないけどね!?
どうしよう、これ以上関係が良好になった場合、俺としては非常にマズイのだけれども…あ。
「そ、そういえばさっき、いきなり呼び捨てにしちゃってごめん!あの時はちょっとパニックになっちゃって、咄嗟に、っていうか…」
俺が撃たれる直前、つい無意識に、呼び捨てにしてしまった事を今更ながら思い出す。
どうしよう、我ながらなんて事を…
「気にしてないよ。むしろ、僕だけくん付けされる事、ちょっと寂しく思ってたんだ」
「…え」
少しばかり耳を疑った。
これから十数年後、変態ストーカーと化するヤツの発言とは思えなかったからだ。
え、幼少期こんな可愛かったの?
改めて、原作完結前に死んでしまった事に対する悔しさが芽生えてくるよ。
「これからは、僕の事も呼び捨てで良いからね」
「あぁ…うん。なら、僕の事も、呼び捨てでお願い…」
ぶっちゃけ、俺もちゃん付けは気恥ずかしさがあったので、呼び捨てにしてもらうとありがたくはある。
…てか、この会話からするに、夜桜家とはまた会う前提なんですね。
俺からすればもう会わない、って事になってくれるのが1番平和的で嬉しいんだけどね。
*
「ただいま戻りましたぁー…」
俺は自宅に戻ってきた。
初任務は成功(怪我したけど)したし、叱られる、という事は無いだろう。
「あら、どうしたの梅、その怪我」
「あー…ちょっと油断して、撃たれてしまいまして」
「違います、神楽木さん。梅は僕の事を庇ってくれたんです」
言わなくて良いよぅ、そんな事ぉ…
律儀なのは良い事だと思うけど。
止めろ、そんな視線を向けてくるな、母上。
その視線は、どっからどう見ても、「まさか、あの梅が…!?」とか考えてるやつだろ。
「梅、今日は本当にごめん。僕も次は、梅を守れるようにもっと強くなるから」
「あぅ…」
そんなに使命感を背負わないでくれ、頼むから。
アンタは1人で頑張りすぎなんだよ。
それにもう夜桜とは関わりたくな((
「…今日の事は気にしないで。凶一郎は人一倍頑張ってるんだから、たまには周りの誰かを頼ってよ」
周りの誰か=俺、とは言っていないからな?
原作を知っている俺だからこそ言えるアドバイスだ。
どうか、心に刻んでおいてほしい。
「…うん、ありがとう!梅!」
すんげぇ輝かしい笑顔で、凶一郎は「バイバイ!」と、車に戻っていった。
はぁ、今日は本当に疲れた。
生きて家に帰ってこれて良かったよ。
これで暫くは、安心安全な生活を送れ…
「さて、梅。次こそは怪我を負わないように、これからは更に厳しく訓練していきましょうね」
…そうにないですね。
分かってたよ、この野郎。
俺はこの日から、ライフル恐怖症になるのだが、それはまた別のお話。
どうでも良い補足ですが、
本作の主人公の神楽木梅と、コミックス1巻に登場するヤクザの梅は全く関係ないです。
(本当にどうでも良い)