転生先って、『夜桜さんちの大作戦』の世界?勘弁してくれよ!! 作:礼夢
…凶一郎に強制連行され、夜桜屋敷に。
居間で待ち構えていたのは、現当主の零さん、次期当主の六美ちゃん(この小説で何気に初登場)。
…え、何この雰囲気。
怖いんですけど。いや、親子揃っての光景が見れてオタクとして大変嬉しくはあるけども。
それとこれとは話が別だ。
「こんな形で連れてきちゃってごめんね。
凶一郎に何か変な事されなかった?」
「逃げようとしたら糸で縛られました」
「俺だってお前ほど愛らしい人物を縛りあげるのは流石に抵抗があったがな。
母さんに必ず連れて来いと頼まれたものだから」
「………」
だから、何で俺までも凶一郎のコンプレックス対象になってるんだよ。俺、そこまで君に好かれるような事した?
「まぁ、その件については置いておいて…
肝心の、梅ちゃんの護衛スパイの事について、しっかりお話しましょうか」
「…………はい」
「相当嫌そうな顔してるわね」
*
この場に居るのは、先程の2人に俺を合わせた、計3人。
凶一郎を代表とした他の兄弟は、この場を外して貰っている。
だから、余計に怖いのだ。
「梅ちゃんの気持ちが分からないわけじゃないのよ。
騙すような真似をしてしまってごめんなさいね」
「…そこに関しては百歩譲って飲み込みますよ。
今一番聞きたい事は、「何で僕を雇う必要があったのか」というものですから」
夜桜は家族スパイランキング不動の1位だ。
だからこそ、護衛スパイなんて雇う必要は無い。
いくらそれが親しい(不本意ながら)仲の幼馴染であったとしても、だ。
「確かに、辛三も居るし、火力としては充分だと思うかもしれない。けど、私が着目している点は、そこではないのよ」
「…と、申されますと?」
俺はわけもわからず首を傾げた。
「―梅姉ちゃんは、私達の事をよく見てくれてるし、私達の事をよく知ってるでしょ?
家族でさえ気付かない異変も、すぐ気付いてくれるし」
言葉を紡いだのは六美ちゃんだ、
「……そう、ですかね?」
「まぁ、子供達に聞いたら、口を揃えてこの意見に肯定してたわね。それくらい信用があるのよ。
凶一郎はさておき…四怨や嫌五なんか特に懐いてるしね」
なんだろう、嬉しいような悲しいようなこの感情は。
いや、悲しいな。
「お父さんは最近どこか変な感じだし、梅姉ちゃんが居てくれると凄く助かるんだ」
「…百さん、かぁ…」
俺は頭を抱える。
そっかぁ…そうだよな、この時期だよなぁ…
あんな悲劇が起きるんだし、当然だよなぁ…
俺としては、あの悲劇のイベントに遭遇する事が何よりも嫌だ。
どんな選択を取れば良いのか分からないから。
―阻止する?
(それでもし、あるはずの無かった最悪の未来に繋がったらどうする?そもそも、俺に止められる規模なのか?)
―傍観する?
(果たしてそれで良いのか?夜桜家が散々苦しむ事になるのに、黙って何も知らないふりをするのは人間として恥ずべき行為なのではないのか?)
…と、俺の中で答えが出せないままでいる。
「……分からない……っ」
「え?」
「あ…っ、」
しまった。声に出てしまっていた…
慌てて誤魔化そうとすると、零さんはふっ、と笑った。
「…ねぇ、六美。少し席を外してくれる?」
「…うん、分かった」
……………え?これから何が始まるの?
*
―俺がビクビクしながら、零さんの言葉を待っていると。
「梅ちゃん、ごめんね」
「へっ?」
開口一番に謝罪されるとは思わず、間抜けな声が出てしまった。
「梅ちゃんは、私達とは極力関わりたくないと思っているんだろうなぁ、っていう事は薄々分かっているの。
夜桜家と関わるだけで、重圧がかかるだろうし。
それでも子供達の相手をしてくれていたのは、本当にありがたいと思っているわ」
…なんだろう、この全てを見透かされている感じは。
俺が転生者だという事も、前世が男だったという事も、もしかしてら気付いているのでは?と思えるほどに。
「梅ちゃんには本当に申し訳ないと思っている。
けど…私が"居なくなったら"、混乱した夜桜家をまとめられるのは、貴方しか居ないと思っているの」
「…"居なくなったら"…?」
ちょっと待ってほしい。
…零さんは、そろそろ自分が亡くなる事を悟っているのか?
確かに、コミックス3巻の結婚披露宴でも、既に自分は亡くなっている事を前提としていたビデオレターを撮っていた。
―真実を知っているのか?零さんは。
俺は血の気が引くような感覚がした。
零さんはどこか寂しそうな笑みを浮かべていたが、
次の瞬間、俺を真っ直ぐに見据えて、曇りなき眼差しで言った。
「改めてお願いします、神楽木梅さん。
どうか、子供達を…夜桜家の未来が安泰なものになるように、側で支えてほしい」
「っ………!」
零さんは深々と頭を下げ、俺にそう告げたのだ。
零さんは、無礼は承知の上で俺にこの願いを託している。
例え何があっても、決して譲れないものがあるから。
―自分が、子供達と未来を生きられない事を悟っていても、それでも最期まで、子供達を気にかけているんだ。
…参ったな。
そんな立派な覚悟、俺が…断れるわけがない。
本当、ズルいよ。
「……………はぁ〜〜〜〜」
俺は長い溜め息を吐くと、零さんに向き直った。
「…どうか、顔を上げてください、零さん。
覚悟はとても伝わってきました。
…そんな立派な覚悟を聞かされてまで、断る勇気は…
残念ながら、俺にはありません」
「梅ちゃん…」
「―そして、訂正させて下さい。
夜桜家と関わりたくない、というのは、厳密に言えば違うんです。
夜桜家のみんなの事は、心から大好きなんです。
ただ…僕には、立ち向かう覚悟が無かっただけなんです」
…俺は大馬鹿者だよ。
俺の都合なんて、この世界のみんなには関係のない事だし。
俺のエゴでみんなに迷惑をかけるなんて、それこそ本末転倒だよ。
(―覚悟を決めろ、俺)
この世界に転生した時点で、どんな運命が待ち受けていようと割り切ってしまえ。
俺は決意を固め、俺は零さんに跪いた。
「貴方の覚悟、無駄にはしません。
神楽木梅は今日から、夜桜家の護衛として、仕えさせて頂きます」
自分が弱力不足だと分かっていながらも、壮絶な過去に抗うキャラクターが、俺は好きです。
(外野の雑魚やただの足手まといは引っ込んでろと思うけど)