終末世界に帰省した元社畜、実家のネギを抜いたら聖剣でした~俺が収穫した野菜だけ性能がおかしい~   作:k-ing

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19.社畜、鶏舎に行く

「まるで人参型の肥料だな」

 

 ダイコの持ってきた人参は野菜の成長促進効果があるのだろうか。

 畑全体がキラキラしていたのも、効果が反映された証なのかもしれない。

 今は光り輝いていたのが嘘みたいに落ち着いて、普通の畑に見える。

 

「ん? どうしたんだ?」

 

 ダイコが再び新しい人参を収穫してくれと引っ張ってくる。

 

「まだ栄養が必要なのか?」

 

 俺は言われた通りに人参を引き抜いて、祖父の元へ戻る。

 

「昨日はダイコが埋めたって言ってたっけ?」

「そうじゃよ。ずーっと修平が戻って来なかったからな」

 

 本当は俺が戻るまで埋めない予定だったが、鴨田さんと話していたため、代わりにダイコが畑に埋めたと聞いている。

 ダイコに早く埋めろと葉でツンツンされて急かしてくるため、俺は同じように畑の縁に人参を埋めていく。

 しばらくすると、再び畑はキラキラと輝き出した。

 

「じいちゃん、昨日より眩しいね……」

「修平、わしの頭を見て言うのはやめんか!」

「いや、そんなつもりはないんだけど……」

 

 決して祖父の頭が輝いているわけではない。

 まだ周囲が暗いのもあり、土がうっすら白く霜で覆われている中に光が混ざり、どこか幻想的な光景になっていた。

 

「じゃあ、水やりだけでもして――」

「そんなにやったら凍っちまうぞ?」

「そうなの?」

 

 俺の言葉に祖父は頷いた。

 祖父の話では土が乾いてなければ、頻繁に水やりはしなくてもいいらしい。

 それに寒くなればなるほど、水を与えすぎると根が腐りやすくなる。

 冬の畑は様子を見るのが基本だと教えてもらった。

 そもそも乾燥に強いものしか植えられないらしいからね。

 ただ、昨日植えたばかりの野菜がすぐに大きくなったところをみると、思ったよりも収穫時期は早くなるのかもしれない。

 

「せっかくだから鴨田さんのところに野菜でも持っていく?」

「ああ、そうしようか。わしはばあさんが心配だから先に帰るぞ」

 

 外がまだ暗いのもあり、すぐに帰ってくると思って祖母が家で待っている。

 昨日のこともあったため、祖父はすぐに家に戻って行った。

 俺はダイコと一緒に大根、白菜、人参を収穫していく。

 

――ガリッ……

 

 どこかで音が聞こえたと思い周囲を確認する。

 だが、ダイコは一生懸命大根を引っ張っていた。

 

――ガリッ……ポリッポリ……

 

「おい、つまみ食いしてるだろ!」

 

 チラッと目を向けると、収穫したばかりの大根をダイコは食べていた。

 自分のご飯がなくなると思ったのだろう。

 必死に食べている最中の大根を隠そうとしているが、半分ほど頭から飛び出している。

 

「別に怒ってはないけど、ダイコの主食になるもんな……」

 

 まだまだ大根の数は多くあるが、今後のことを考えると足りなくなるのは目に見えている。

 それは大根だけではない。

 人参の成長促進がどこまで効果があるのかはわからないが、分かり次第植え替えて、種を作るだけの畑も用意が必要になるだろう。

 そのまま収穫した人参を植え直して、食べられなくなったら意味がないからね。

 

「よし、鴨田さんのところに行こうか」

 

 ダイコと協力して、収穫したばかりの野菜を運んでいく。

 俺が収穫したのは光り輝いているが、鴨田さんが触れていたらそのうち普通の野菜に戻るから問題はないだろう。

 鴨田さんの養鶏場までは、徒歩で10分ほどかかる。

 せっかくだから運動がてらに歩いていくことにした。

 

 

「寒いなぁ……」

 

 冬の朝は空気が澄んでいる。

 

 吐いた息は白く染まり、周囲の畑や草むらには霜が降りていた。

 遠くの山々も薄っすらと白くなっており、朝日が顔を出し始めると淡く輝いて見える。

 肩をすくめながら歩くが、不思議と嫌な気分ではない。

 

 会社勤めをしていた頃には、散歩することはなかったからな。

 歩くことはあっても、人の流れに沿ってただ歩くだけで、少しでも違う動きをすれば押し出されてしまう。

 まるで都会での生き方そのものだった。

 それを思えば、大根と一緒に散歩している今の方がよほど健康的で楽なのかもしれない。

 

「……いや、普通は大根と散歩なんてしないか」

 

 俺の呟きにダイコは不満そうに葉を揺らした。

 道沿いの用水路は水が止まり、静まり返っている。

 聞こえるのは自分たちの足音と、時折木々を揺らす風の音だけだ。

 化け物も最近はあまり見ていないため、この辺には少ないのだろう。

 そもそも人が住んでいるような環境でもないからな。

 だけど、しばらく歩くと、その静けさを破るような声が聞こえてきた。

 

『ゴゲゴッゴオオオオオオオ!』

「癖があるだろ!」

 

 思わずそんな言葉が口から漏れた。

 幼い時から聞き慣れた鶏の鳴き声だが、あんなに強く逞しい鳴き声だっただろうか。

 火を吹くって言ってたから、それに耐えられる喉になったかもしれない。

 喉が火傷していたら、意味ないからな。

 

 養鶏場に到着すると、すぐに鴨田さんを探す。

 この時間なら養鶏場の中にいるかもしれない。

 

「鴨田さーん!」

 

 養鶏場の中に入ると、鶏たちが一斉にこっちを見てきた。

 ……いや、俺ではなく、足元にいるダイコを見ているのかもしれない。

 鶏って大根も食べられるから、食べ物として認識されてそうだ。

 

「鴨田さん、いますかー!」

 

 声を出し続けるが、中々鴨田さんの返事は聞こえてこない。

 

「鶴田――」

「鴨田だ」

 

 突然、背後から声が聞こえてきた。

 

「うわっ!?」

 

 俺は急いで振り返ると、作業着姿の鴨田さんがいた。

 相変わらず手にはこの間見た鶏を抱えている。

 

「こんな朝からどうしたんだ?」

「あっ、野菜を収穫したから持ってきたんですが……」

 

 鴨田さんは腕の中の鶏を下ろすこともなく、勢いよく飛びついてきた。

 驚いた鶏は羽ばたきながら逃げ出し、気づけば俺の頭の上に座っている。

 

「こいつらの餌が足りなくなりそうで困ってたんだよ」

 

 どうやら鶏に与える餌が足りないようだ。

 鴨田さん一人よりも、鶏に食べさせる餌が先に足りなくなりそうだもんね。

 

「むしろうちにはタンパク質がなくて……」

 

 俺の言葉を聞いた鶏が頭の上から突いてくる。

 さすがに鶏を食べにきたわけではない。

 

「ああ、卵でいいならいくらでもあげるぞ」

 

 そう言って、ゴソゴソと鶏たちがいる鶏舎に手を突っ込むと卵を数個渡してきた。

 

「ほらほら、持った持った!」

 

 その後も卵を回収すると、10個以上はあった。

 

「こんなに貰ってもいいんですか?」

「ああ、さすがに一人で食べきれないからな」

 

 冬だから卵の数は減ってきているらしいが、それでも10から20個は毎日産んでいるらしい。

 卵1パック毎日食べるのも飽きてくるし、こんな状況じゃ卵を下ろすのもガソリンがなければ大変だ。

 

「そういえば、そいつは生きてるのか?」

「そいつ……?」

 

 鴨田さんの視線は俺の足元に向いていた。

 視線を下げると俺に足に葉を絡ませて、ダイコは隠れていた。

 そういえば、直接人と会うのは俺たちの家族以外では初めてになる。

 避難所で拓也と会った時は車の中にいたから、そこまでバレてなかったしね。

 

「ダイコ、挨拶できる?」

 

 俺の言葉に反応してダイコは頷くと、ひょこっと顔を出した。

 その姿に鴨田さんは目を見開く。

 

「まさか大根が動くとは思わなかったな……」

 

 やはり大根が動いて驚くのは俺だけではないようだ。

 むしろすぐに受け入れた祖父が変わっているだけだった。

 

 

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