新しい縁に期待していた。
東京の郊外。
その山奥にある私有地に一つの施設ががポツンと立っていた。
二階建ての家に同じ大きさの建物が併設されおり、天井部分は丸みをおびて開閉機構が取り付けられていた。
見るからに展望台だろう。
俺はバイクのエンジンを切って車体を押しながら家へ近づいていく。
「ここが《
俺がこれからお世話になり東京での拠点となる場所。大家さんと地主に使用許可をもらってここでライブをしてみたいと感じるほどいい場所だ。
庭も広く花畑が広がっているし大勢はやっぱり景観を壊すから無理かもしれないし、俺もここを踏み荒らすのも忍びないと感じさせるほど静かで綺麗だった。
「あら? もしかして君は……」
二階建ての建物の玄関から出てきたのは綺麗な男性だった。幸薄そうなシングルファーザー感が強く柔和な笑顔が何とも特徴的な人だ。
「初めまして。今日からお世話になる
「これはどうも。私はBLUESTARを運営する
「はい、よろしくお願いします」
「でも、意外ね」
「えっと……何がですか?」
「聞いてた話と違って物腰も柔らかくで良い子で良かったわ」
「あの、参考までに俺ってどう思われてたんですか?」
「そりゃあもう苛烈を極める職人気質で気難しい性格って聞いてたわ」
「えぇ……」
誰だそんなことをいう奴は。
あながち間違っていないことにも腹が立つが活動に関て特に問題を起こしたわけでもないので黙っておこう。
「まぁいいわ。バイクはこっちの駐車場においてね」
「分かりました」
バイクを施設横にある大型ガレージにしまうと何処からかベースの音が聞こえた。
家の方から音が聞こえ気になりそちらの方へと向かってしまう。裏手の小さな小屋。家と繋がってるがここにも玄関口があり躊躇いなく開ける。
そこからベースのいい音が聞こえた。
静謐でありながら鮮烈な音色。テンポも良く気持ちよくノせられる音。あいつのベース以来のいい音だった。
「誰?」
奏者は赤髪の少女。
赤いパーカーを羽織りへそ出しスタイルで下はハーフパンツという装いだった。
「どうも、俺は――」
「え……もしかして命留さんですか?」
「ああ。そうだよ。初めまして」
「は、初めまして! 私
「沢城さんね。これからここでお世話になるからよろしくね」
「いえ、命留さんにお会いできるなんて光栄です」
「でも、よく知ってるね。俺ってそこまで有名じゃないでしょ?」
「本気で言ってるんですか⁉」
あれ、海外ではそこまで取り沙汰されてることはなかったけど日本では違うのか?
「命留さんはシンガーソングライターでも有名な音楽家たちとセッションして、多くの人を魅了してる今や時の人ですよ!」
「そ、そう?」
「そうですよ。メディアにも顔を出さずライブにしか出ないので幻のシンガーソングライターと海外では取り沙汰何ですよ」
俺の知らない情報だ。
あれ、俺ってもしかして情報に疎い?
そんなバカな。
でも思い返してみるとバイクの情報誌やギターとかアンプの音楽雑誌しか見ていない記憶がある。エゴサとかしないからそこら辺の情報も知らない。
「そうなんだね。ありがとう」
「情報に疎いのは本当だったんですね。でもそれだけ自分の音楽に集中しているということですよね」
「う~ん。俺の場合は拠点となる場所で道具の手入れとか、次の行き先の情報とかを集めるので手一杯だからね。本当に疎いんだ」
「やっぱりあのライブのスパンだとそうなりますよね……」
「沢城さんって俺のライブ映像を毎回見てる感じかな?」
「勿論! なんたって命留さん『たち』に影響を受けてベースを始めましたから」
「ギターじゃなくて?」
「バンド時代からのファンなので」
バンド時代ということはあいつらが生きていたころからのファンだったのか。
「……そうか。それで」
「はい。その……バンドメンバーさんたちの件はその……すいません。嫌な思いをさせましたね」
「いや、君は悪くないよ。俺が未だに引きずっているだけだから」
「そうですか……あ! すいません。お上がりください」
「ああ。そうさせてもらうよ」
中に入ると家というよりも作業場に近い。元々木材の加工場だったのを彼女の為に改造したのだろう。防音はほどほどだが、用意されている機材はかなり良いモノだ。
これだけをそろえるのに幾ら注ぎ込んだのか想像に難くなかった。
「良い設備だね」
「はい、境谷さん――父が用意してくれたんです」
「あれ、でも苗字が―――。あ、悪い変なことを聞いたね」
もう少し気を使えばこんなこと予想付いただろうにすでに時遅し。口から出た言葉はもう訂正できない。
沢城さんの顔を伺うと少し悲しそうにしながらも気にしているという感じでもなかった。
「それについては大丈夫ですよ。私の母が境谷さんと再婚してすぐに亡くなってしまって……その無理を言って私は母の性を名乗らせてもらってるんです」
「そうか……本当にごめんね」
「いえ……」
気を遣わせてしまった。もう少し気を利かせられなかったのかと後悔していると、部屋の奥から境谷さんが出てきた。
「あら? ここに居たのね」
「すいません。勝手に入ってしまって」
「良いのよ。それよりもさっそくれいなちゃんと仲良くしてくれてありがとう」
「いえ、彼女のベースの音色に惹かれてここに入ってしまったので……」
「どう、れいなちゃんの音は」
「正直に言えば俺がこれから作るバンドに欲しいくらいですね」
本音を言えばこの場で今すぐ欲しいくらいの人材だった。合わせはこれからだとしても今の技量と伸びしろを考えるとかなりの秀才と言える。だが、懸念点もあった。
「え⁉ 本当ですか⁉」
「ああ。でもこっちでは『ガールズバンド』が流行ってるんですよね?」
そう日本は男女混合が下火なのだ。
女の子だけのバンドの方が華があり人気がある。だから俺の日本でのバンド活動はどれだけ有名になろうと簡単なことではない。
もしメンバーがそろっても日の目を浴びることなく終わってしまうなんて可能性もゼロではない。かなり賭けに近い状況なのだ。
「私は良いですよ?」
「え……いいの?」
「はい!」
「それなら有り難いよ」
「でも、他のメンバーって当てはあるんですか」
「ああ。二人、目星をつけてるんだ。これから俺はそっちに行かないといけないからね」
「そうですか」
「ゴメンね。こっちの話がまとまったら君の事をもっと教えてほしいな」
「命留さん。もう少し言い方に気を付けないと変な意味にとられますよ……」
「ああ、ごめん。気を付けるよ」
でも幸先よく始められそうな気がしてならない。
これからの生活に胸を躍らせていた。