期待と不安を抱いて――。
あれから一日が経ち俺は残り二人のメンバー候補に合うためにライブハウスを訪れていた。
少し古めの箱だけどここでは昔からライブをしているバンドが多くいる場所。今時というよりも古くからいる古参ファンによる固定客が多い。
「おいーっす。やってんねぇ」
「誰だ。まだリハの途中……ってお前、命留か。いつ帰ってきたんだ」
彼が俺がドラマー候補にしている男で名前は
茶髪で筋骨隆々のスポーツマンのような肉体を持つ青年。彼は俺が国内でバンドの助っ人をしていた時に出会った人。
当時の事を思い出すと互いに初対面は最悪で殴り合ったことも何回かある。
体格差もかなりあるのに俺はよく生きていたなと思うことも少なくなかった。だが、その甲斐があって今では連絡を取り合うくらいには仲が良くなった。
「東京に着いたのは昨日。その時にベースはすでに確保したんだ」
「マジか。お前がそこまで言う奴がいたのか」
「まぁね。それで、俺の話を受ける気はある?」
「愚問だな。俺はお前とやりたい」
「じゃあ、集合に連絡は入れるから予定を空けといてくれよ?」
そう言い残して俺はライブハウスを出ていく。
「もう行くのか?」
「ああ。俺の狙ってるキーボード候補くんに会いに行かないといけないからな」
「そうか。またな」
「おう、また……」
俺は駆け足気味に出ていき数十分ほど歩きながら街並みを見る。
どこ見ても高いビルばかりで俺の故郷とは違い大都会に来たんだという実感があった。
でも、道行く人の雑踏は誰もが余裕がなくて息苦しい印象を受けた。俺の経験上、人の多い大都市に多い傾向がある。
俺がライブするのもこういう鬱屈な空気を熱狂に変えることが好きなのだ。
そんなことを考えながら歩いているとストリートピアノがある場所まで来た。
「お? やってるじゃん」
先客がいた。
まだ年若い少年だ。
俺とは違う天然の白髪。光を反射し人を魅了するその美貌に道行く人たちは目を奪われていた。
奏でられる旋律は見た目の歳とは想像がつかないほど上手い。
大人でも難しいゲームBGMを演奏してる。まだ弾けているといった感じではあるが、何よりも楽しそうに弾いている姿は昔の自分を見ているような気がしてどうしてもお節介を焼いてしまいそうになる。
演奏が終わり、少年が一礼すると周囲の人々は拍手を送る。
俺も接触しようとするのだが向こうの方が先に気付き、こちらへと向かってきた。
「あの、淵藤命留さんですか?」
「ああ。そうだよ。初めまして」
「初めまして。 僕は
「俺も天才ピアニストに会えて光栄だよ」
「いえ、僕はそんな……」
「立ち話も何だし近くのカフェに行こうか」
「はい!」
誠杜くんを連れて入ったのはちょっと古めの純喫茶。マスターのお爺さんが趣味で始めたらしく銅板で焼いたふわふわのパンケーキが名物の店。
俺はカフェラテを飲みながらパンケーキを頬張る誠杜くんを見ていた。
「あの、食べておいて何なんですけど良いんですか?」
「良いよ。俺のおごりだから遠慮しないで食べな。今回は俺が頼む側だからね」
「その……何で僕なんですか」
「ん?」
「僕は別にそこまで優れた奏者じゃないですよ。姉さんにすら劣るんです。それなのに何で……バンドに誘ってくれたんですか?」
それを言われてまず、俺は携帯を開き彼の動画投稿画面を開く。
再生回数はどれも千回程度でそれなりに聞かれている。
「俺はこれを見た時にスゲェ楽しそうだなって思ったのよ」
「楽しそう……ですか」
「そう。俺はキミが何を思って投稿していたのかは知らない。でも聞いてすぐに俺は欲しいと思った。バンドをやるのなら誠杜くんのような楽しんで弾ける人に任せたいと思ったんだ」
「でも、僕は命留さんみたいな腕なんてないですよ。ましてやバンドなんて……」
「アハハッ!」
「なっ何が可笑しいんですか⁉」
「ゴメン。馬鹿にしたわけじゃないよ。俺だってソロでやってきてるから本当にやれるか不安だよ」
「そうなんですか?」
「うん。そうだよ。でも……それを抜きにしても俺は俺の信頼できる人とやりたいと思ったんだ」
俺は彼に向けて手を差し伸べる。
「だからさ……キミはどうしたい?」
「僕は……僕は、やってみたいと思います」
「よし! じゃあ決まりだ」
「正直、不安でいっぱいです」
「大丈夫だよ。ただ、楽しめばいい。後は嫌でも実力も付いてくるから」
「それって経験談ですか?」
「そうだよ。誰だって最初っから有名じゃないだろう?」
ぶっちゃけ他人の評価など一つの基準の物差しでしかない。
俺はその全てを音楽で捻じ伏せて覆すだけ。
やることは多いけどやり甲斐がある。これは宣戦布告だ。これから世界に俺たちの音楽を轟かせる。
「よーし。メンバーを集める時連絡するから予定を空けといてくれよ?」
「わ、分かりました」
最初は顔合わせだ。
まずは現状はどのくらい出来るのか俺の実力を知ると同時にメンバーのお手並み拝見といったところだ。不安よりも胸に灯るこの熱にわくわくしている自分がいる。
どんなバンドになるのか楽しみに思いながらメンバー共通の連絡欄を追加したのだった。