逆境を力に変え、進む姿を見て昔の自分を重ねながらも、その才能の原石に希う。
こちらに来いと。
顔合わせをしてから一週間が経過し、俺はある問題に直面していた。
「もう一人……メンバーが欲しい」
欲を言えばギターボーカルが欲しい。
前回の練習で問題こそなかったが、できれば女性ボーカルが欲しい。音域の幅が俺では狭くなる。単純に高音が出ないせいでもあるのだが無理に出そうとすると声が掻き消えてしまう。
ずっとソロでやってきてこんな弱点が露呈するとは思わなかった。
「いや……無意識に避けてたからなのか……?」
いや、もうどうしようもないことを考えても解決はしないので気分転換に外に出ることになった。
そして、携帯を開いていくつか野外ライブができる場所を押さえてギターを持って出ていく。
バイクに乗り風を感じながら街を走りながらこれからの事を考えるとこんなことしている場合ではないのだがコネや人脈を使って確保するのにも時間がかかる。
それなら野良で探すのも手であるが博打が過ぎる。
バイクを止めて路上ライブの場所に来たのだが、ここで問題が発生した。
ライブ場所に別の人がいた。
栗色のストレートヘアーを両側に垂らし、顔は小さな卵型。瞳は夏空のような蒼色が眩しいと思えるほどの光を放っている。小ぶりでスッと鼻の筋が通り、桜色の唇が華やかな色どりを添えている。とても美人な人だった。
その背にはギターケースを背負っておりソロシンガーと見受けられた。
「あれ?」
思わず見とれていた俺は、急いで申請の内容を確認した。この時間は俺以外の申請者は居ないことは確認済み。ならば彼女は何故この場所に。
横取りというには何というか、遠目からでも分かるようにすごく挙動不審だった。
たぶん申請が必要なことも分かっていないだろう。
俺は彼女に近づいて声をかける。
「なあ、アンタここの使用許可貰ってるのか?」
「え……あ、その……え?」
「えっと……ここで路上ライブするには申請が必要なんだけど……」
「えぇ⁉ そうなんですか……あ、ほんとだ……ど、どうしよう……!」
正直、俺は彼女に譲ってもいいと思ってしまった。
何もかもが初めての初々しい姿は昔の俺を見ているような気分だった。だからだろうか老骨精神で思わず言ってしまった。
「いいよ」
「え……?」
「俺の監督下でなら路上ライブをしても補導されないから君に譲るよ」
「ありがとう、ございます」
彼女がケースから取り出したのはアコースティックギターでかなり使い古された物だった。一見、経験者に見えないが相当な使い手なのかと思って見守ってみる。
「……っ!」
「……」
彼女の腕前はお世辞にも上手いとは言えなかった。
音程や曲調がぎこちなく傍目から見ても素人と分かる。それに歌と演奏の両方をこなそうとしてどちらも中途半端になってしまっていた。
周囲の通行人からの冷ややかな視線、早く終われという『圧』が強い。普通ならこの空気に飲まれて演奏をやめてしまいそうだが――。
「――――♪」
「……!」
それでも彼女は負けなかった。
決して上手いものではないけど、何故か心惹かれた。表情に一切の恐れはなく楽しんでいるのが分かる。本来はどのくらいのポテンシャルを秘めているのか確かめてみたくなった。
一曲終わるころには俺もギターを出していた。エフェクターとアンプを繋ぎ準備を終える。
「なぁ、今度は俺がギターをやるから全力で歌ってくれないか?」
「え?」
「君の全力を知りたいんだ。お願いを一つ聞いてあげるからセッションしないか? 嫌なら、やめるからさ」
「っ! なら、お願いしても良いですか」
「じゃあ、決まりだなッ!」
彼女がやろうとしている曲は一曲目を演奏している最中にすべて頭に入っている。だから俺は一切の手加減無しにギターを弾く。
俺はトップギアでかき鳴らす。
まずはこの淀んだ空気を支配する。俺の音で跪け。そして俺を楽しませろ!
そして、彼女は全力の歌声で俺についてくる。
なら、これはどうだ?
歪を使ったコードで演奏するとこれにも適応してくる。
「―――――♪」
「ハッ! そうこなくっちゃなぁ!」
スゲェ。
彼女は俺が欲しかったボーカルに最も近い。
俺の鳴らす音にも負けないくらい声が強く、対応力もあり声が通る。何よりもすごく楽しい。
通行人たちは俺たちのライブを見て足を止める。誰も彼もを魅了する音楽を鳴らし俺たちの存在を刻み付ける。余所見も無視もさせない。
俺たちを見ろ!
そうして俺たちは演奏に夢中になりあっという間にライブが終わってしまった。
「ふぅ……キミ、すごいな」
「はぁはぁ……」
肩で息をする彼女は大分消耗していた。
初めての事ばっかりでかなり神経を使っていたのだろう。
「俺は淵藤命留。君の名前は?」
「あ、
「結城さんね。それで、君は俺に何を望むのかな?」
「あの……その、私の師匠になってくれますか?」
「師匠?」
「はい、そのギターを教えてくれないですか? 勿論、月謝とか払いますから!」
そう言われ俺はしばし考えてしまう。
彼女はそれを断る口実を考えていると思っているのか表情をころころと変えている。でもこれなら俺も少し要求しても大丈夫だろうか。
「いや、月謝は無くても教えるよ。君の時間を貰うから」
「えっと……それはどういう……」
「君、俺のバンドに来てくれないか? ギターボーカルとして一人前にしてあげるからさ」
「え……えぇ⁉」