景色は見えずとも亡き友の遺志と己が渇望を胸にのぼる。その姿を見て不安は無くなった。
だって貴方が導いてくれるから――。
「あの……契約ってこんな感じですか?」
「一応、親御さんにも伝えておいてね? そうしないとこの話は無かったことになった挙句に俺が罰せられるだけだから」
「多分、大丈夫だと思います」
「そう? 心配になったら遠慮なく言ってくれていいから」
「はい……」
あれから俺たちは今後の事を詰める為に近場のライブハウスの喫茶スペースで話し合いをしていた。
ライブハウス『RING』ここら辺ではかなり大型の施設であり利用者もそれなりに多い。喫茶店の飲食スペースも外の光が入るガラス張りであるにも関わらず落ち着いた雰囲気がある。
俺は他のメンバーにも渡した契約書を見せていた。
これも大事なことなので分からないところは説明をかいつまんで事細かに説明するが、簡単に言ってしまえば規約や規則を守ってほしい。やめたいときは無理に引き止めませんという内容。
成人済みの飛鳥は特に気にする必要はないが未成年組にはこれを最重要項目としてしっかり説明をしている。
「あの、純粋な疑問何ですが……命留くんはどうしてバンドを?」
「俺はさ、幼馴染み同士でバンドを組んでたことがあったんだ」
「そうなんですか⁉」
「ああ、動画もあるから後で見てくれ」
あの頃は本当に俺は何も知らないガキで世界はこんなにも残酷で理不尽なモノだと知らなかったころだ。ただ、アイツらと一緒に音楽を奏でられれば良かった。
求めるモノに対して神様は乗り越えられない試練を与えた。
理不尽に未来を奪われて俺は独りになった。
結局のところ、俺は独りでもどうにかできると思っていた。
どんな栄光も、肩書も、富を得ても俺の心の孤独は一切埋まらなくてずっと渇いていた。
「俺はずっと息苦しいって思ってたんだ」
「そうなの?」
「そうだよ。だから俺はまたバンドを組もうと思った」
「えっと……どうしてまた組もうと思ったんですか?」
「楽しみたいと思ったんだ。
結城さんは何処かピンときていないような顔をしているが、要はシンプルな欲望。
「ただやりたいっていうシンプルな理由じゃダメかな?」
「いえ……少し羨ましいと思いまして……」
「羨ましい?」
「私は……その……」
彼女から並々ならぬ気配を感じ、かなりプライベートなことを話そうとしているのが察せられる。
でも俺は止めない。
「私、ずっと妹と比べられるんです……」
「それはどんな風に?」
「成績とか運動とか……何をするにも比べられるんです。両親は私を見てくれないんです……」
「それであそこに?」
「あはは……それで命留くんには迷惑をかけてしまいました。演奏も……下手で……」
「大丈夫。そこは師匠としてちゃんと教えてあげるし俺にはキミが必要なんだ」
「本当ですか?」
「今はバンドでは歌の方に集中してもらうけど、ギターのほうは後々な」
ギターの方はどれくらいの腕なのかはあれだけでは分からない。それはこれからということで俺はギターを持って舞台に立つ。
「今から結城さんには俺の演奏を見てもらうよ。これからキミには最低限、これくらいで来てもらうって意味でよく見てくれ」
そこから俺は路上ライブの時よりも多くのコードを掻き鳴らし前奏を弾く。
何度も逃げ出したいと思った。
それでもただ、アイツらの遺志を継いで進むことを選んだ。逃げることは許さない。
上がっていくテンションと共に演奏に熱が入っていく。
昔のことを思い出すんだ。
楽しかったことも苦しかったことも、全部。全部出し切る。
誰にも決めつけさせない。
息苦しいんだよ。誰もかれもが顔色伺って演奏する必要はない。ただ、聞かせる。自分の意思がない奴なんかはおいていかれればいい。
俺は燻ぶってる灯火たちの為に
お前たちも立ち上がれる。救済を望むな。
誰も助けちゃくれない。
自分の足でたって歩くしかないんだ。
音を奏でていくほど周囲の人は歩みを止めて俺を見ていた。それが興味なのか、冷やかしなのかどうだっていい。
ただ、俺の音に心を奪われろ。
この瞬間だけ、俺は夢を見れる。二度と戻らない失ったはずの夢。
――嗚呼、この景色を何回も夢見た。決して色あせることのない確かな景色。
演奏が終わり、軽く息を吐く。
心臓の鼓動が早鐘を打ち、視界がいキラキラと明滅する。
「あ~楽しかった……」
そして、徐々に拍手が大きくなり、店内は万雷の喝采に包まれる。
その中で俺は結城さんの前に立ちその覚悟を聞く。
「結城さん」
「は、はい」
「君がこれから目指す場所だよ」
蒼い瞳が揺れながらも俺を見る。
怖気づいているような目では無く、確かな闘志が宿った目。
「すごく高いですね……」
「怖気づいた? これを見ても尚、一緒に来るならこの手を取って。絶対に貴女を誰もが羨む奏者にするよ」
「よろしくお願いします! 師匠……!」