流されるだけの存在はいらない。意思を持ち立ち向かう者だけが次へ踏み出すことができるのだから。
強くなれ。
「命留。胡椒……」
「ん」
「サンキュ」
「あ、命留さん、ラー油取ってください」
「ほれ……」
俺は今、男性陣で町中華の店に来ていた。
「結城さん……一人にしてよかったんですか?」
「まぁ、沢城さんがいるから大丈夫でしょ?」
「お前、一番弟子を取られてといて何言ってる」
「黙れ……」
事の発端は二時間前。
『はい。二人目のギターボーカルを拾ってきました。結城さん、自己紹介を』
『は、初めまして! 月ノ森女子学院二年の結城領火です! 師匠に拾われた若輩者ですが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!』
『キャー! 可愛い!』
『へ……きゃあああ!』
沢城さんに連れ去れるように抱き着かれた結城さん。もう子犬に構いきりの飼い主みたいだった。
『ねぇ、命留さん。今日は練習無いですし二人で遊びに行ってきますね』
『いいよ。楽しんできな』
『やった~! 結城さん、行こ!』
『え……⁉ ま、待って~』
あっという間に連れて行かれ、俺たちは飯を食いに行くことになった。
「でも、こうしてご飯を食べるのは初めてですね」
「誠杜は見た目のわりに食うんだな」
「そうですか? 食べて運動しても中々筋肉とかつかなくて困ってるんです。でも、飛鳥さんが羨ましいですよ」
「これでも大分努力してるからな」
「へ~」
力瘤を作りがら自身の筋肉を見せつけていた。
俺は麻婆豆腐を頬張りながら餃子、エビチリ、レバニラなどテーブルに運ばれてくる料理を次々に平らげていく。
回鍋肉と青椒肉絲も頼んでしまいテーブルは料理で埋め尽くされている状態だった。
「命留さんは何処にその量が入るんですか?」
「……? これが普通だろ?」
「健啖家以前に大食い選手かってくらい喰ってるが?」
「まぁ……美味い飯はいくらでも入るだろ。あと、人と食う飯はいつもより美味く感じるんだ」
そこから焼売や酢豚に天津飯などが運ばれて俺の胃袋へと消えていく。
「ほら、お前らも食っていいぞ。全部、美味いから」
「じゃ、じゃあ、いただきます」
「俺ももらうぞ」
そう言って二人は各々で料理に箸をつけていく。
「あの、ふと思ったんですけど良いですか?」
「ん?」
「何?」
「あの、命留さんって他の人よりも分厚いですよね」
「分厚い……太ってるって言ってるのか?」
「ち、違います! 飛鳥さんみたいな身体を鍛えているだけのような感じじゃなかったので……」
「ああ、そういう事ね。俺は海外を中心に活動してたからトラブルに巻き込まれやすくてな。鍛えたんだ」
地域によってはヤバさのレベルが違うから鍛えておいて損は無かった。たとえ巻き込まれてしまっても大抵どうにかしなければならなかった。
おかげで今の身体つきになった。
ハッキリ言って俺は飛鳥よりも全体的に身体が厚い。
身長差があっても馬力だけで言えばそこまで差が無かった。
「まぁ、俺は向こうでトラブルが多かったから仕方なくって感じ、だから普通じゃこうはならんよ」
「そうなんですね……」
「残念そうにするなって……」
「でも、僕は飛鳥さんや命留さんのような男になりたいんです……!」
俺と飛鳥は互いに顔を見合わせる。
言わんとしていることは分かるのだが、当の誠杜が俺達のようになるのは無理だと思った。
中二の成長期だと言っても根本的に彼の顔は可愛い系の美少年だ。本人の口からも筋肉が付きにくいと言っていたしこうなるのは絶望的だった。
「う~ん。将来に期待ってことで食トレもしながら気長に待とうか」
「そうだな。一朝一夕でどうにかなるわけじゃないからな。地道に鍛えていこうぜ」
「わかりました……」
こうして、誠杜くんの肉体改造計画は保留となった。
飯を食い終わり、俺たちは秋葉原へと訪れることになった。
食後の運動がてら機材を見ていこうということでここまで来たのだが、俺の目線の先には知り合いの女の子がいた。
「二人とも、悪いけど先に行っててくれ」
「何かあったのか?」
「いや、知り合い……話しておかないといけなくてな……」
「分かった。行ってこい。誠杜、行こう」
「はい」
二人は向かいの通りにある楽器店へ、俺はそのまま真っ直ぐ彼女の元へと向かう。
「よう。仲町……久しぶりだな」
「あ……」
金髪の少女――仲町あられ。前回会った時は挙動不審で知り合いに対して恐怖を抱いていた印象だったが、あの暗くて人を怖がっている様子はない。
「命留くん……」
「分かるんだな……」
「分かるよ。だって、知ってたから……」
「そっか……これ、落としたから返すよ」
「あ、ずっと探してたの。命留くんが持っててくれたんだ」
「もうなくすなよ。じゃあ、俺はこれで……」
「待って……!」
踵を返して去ろうとして左手を掴まれて止められる。
「何?」
「少しだけ、話そ?」
「いいよ。何を話すんだ?」
「これからの事……命留くんにも知っていてほしいから……」
俺が彼女から聞いたのは前のグループの炎上の黒幕がメンバーの一人で、俺にも気を付けてほしいということだった。
話を聞いただけでも粘着質で面倒なタイプだというのが分かる。
「ビオラ……ねぇ」
「うん」
「分かった。気を付けるよ。それと、これを渡しておくよ」
俺が彼女に渡したのはライブのチケット。
「これから戦うんだろ? なら、聞きに来い」
「ライブチケット……」
「聞いて損はさせない。俺と『話そう』ぜ」
「あ……うん。ぼく、絶対に行くよ」
「ああ、楽しみにしててくれ」