ここからが始まりだ。
あれから数日。
とうとうライブの日がやってきた。
メンバーは各々で楽器のチューニングや段取り、スコアの見直しをしている。
中でも沢城さんと結城さんは初めてのライブ。いつもよりも表情が固く、落ち着きがなくてそわそわしていた。
「誠杜……お前、あまり緊張してないな?」
「ええ、僕はコンクールとかで演奏することが多かったので……五百程度なら全然大丈夫ですよ?」
「命留。お前は本当にどうやってこいつを見つけたんだよ……」
「リスナーから見つけたんだ……」
「おいおい」
飛鳥は呆れた様子で俺を見るが控室のドアが叩かれる。
入って来るのは壮年の男性。その手には衣装らしきものを持っていた。
「はい」
「失礼します。淵藤命留様、衣装が完成したのでお渡しに来ました。ライブ直前になってしまい申し訳ありません」
「いいよ。アンタの仕事は丁寧で細やかだ。俺も無理に日程を組ませたからな。お相子だ」
「お気遣い痛み入ります」
受け取った衣装を各自に分け着替えることになった。
俺の衣装は黒を基調としたマウンテンパーカーで裏地は紅で袖やフードの縁を白の差し色でアクセントをつけてくれていた。誠杜くんや飛鳥は黒の割合が高くジャケットとベストと各々の楽器に合わせた服装。
「お~い。こっちも着替え終わったよ~」
「お待たせしました」
女性陣も着替え終わり室内に戻る。
沢城さんは普段着と変わらず色合いが黒中心になった印象だが、問題は結城さんだった。
「ねぇねぇ、領火ちゃんすごく可愛くなりましたよ!」
「おぉ……スゲェな」
「はい。すごく綺麗ですね」
「うぅ……何で私だけこんな目立つ格好なんですかぁ……!」
ビスチェタイプのドレスだった。白と黒のアシンメトリーの長手袋に黒のガーターニーソといった感じだが、肝心のスカートが衝撃的だった。
左側が下着が見えそうなほど短く右側に行くほど長くなっている。縁を白と紅のフリルでボリュームを出しているがかなりセクシーな造りだった。
「……」
「命留?」
「命留さん?」
俺は言葉に詰まっていた。
意外だったというのもあるが、今の彼女の姿は俺の中でかなりタイプだった。故に俺は言葉にできないほどの感情が俺の中で産まれてしまった。
「すごく……可愛い」
『!?』
「……な、何だよ……」
最悪だ。
照れて言葉に詰まった。
飛鳥は何か『大人になったな』みたいな後方腕組みおじさんみたいになっているし誠杜くんは『そういう顔するんだ』みたいに見てくる。
「わぁ~命留さん、照れてるんですか? 可愛い~!」
「はいはい。恥ずかしいからやめてくれ」
「あの……師匠はその、こういうのが好みなんですか?」
「……そうだからもうやめてくれ」
そのまま散々いじられてみんなの緊張をほぐすことになり、時間も過ぎていき他バンドにも少し挨拶をすることになった。
最初はMy GO!!!!!というバンド。
「すいません。My GO!!!!!さん大丈夫ですか?」
「は~い」
出てきてくれたのはピンク髪の少女だった。
俺の姿を見て驚きに満ちた顔をした。
「
「あれ? 俺のこと知ってるんですか?」
「はい! 私、命留さんの動画でギターの練習をしたので……!」
「えぇ! あの解説動画? よくやろうと思ったね」
「いや~ギターできないといけない状況になっちゃいまして……」
「それは、災難ですね」
アイスブレイクはこの辺にしてやるべきことをやってしまおう。
「今日は
「あ、My GO!!!!!のギター、
「いえ、今回はこちらがお願いする立場なので大丈夫ですよ。では、俺はこれで」
俺たちのバンド名は結城さんが各々の活動名からインスピレーションを経て名付けてくれた。おかげで飛鳥との殴り合いにならずに済んだ。
俺がみんなの元に戻るころにはスタッフに呼ばれている所だった。
「みんな、準備はいいかい?」
『はい……!』
「よし、じゃあ、行くぞ~」
初めての舞台。
懐かしい熱気と重圧。
ずっと望んでいたモノが今、ここにある。
観客の視線が刺さる。観客席は限界まで埋まっており最後列に視線を向けると俺の知っている人たちが『やってくれたな』という表情と共にどこか期待している目をしていた。
「命留、一番後ろにいる人たちって……」
「ああ。俺の知り合い。音楽関連の会社のお偉いさんと社長たち」
「お前……」
「スポンサーとか全部蹴ってお前らを選んだからね。めっちゃ厳しく見てくるから怖いよ」
「そんなこと、露も思ってないくせにな」
「分かってんじゃん。ほら、行くぜ」
互いに配置につき、軽く一曲弾いて会場を沸かせてやる。
俺のギターから開始し、一気にテンポを上げて結城さんが入りやすいようにする。
最初は結城さんのウォームアップ。変にギアを上げずに彼女のポテンシャルとメンバーと観客のテンションを上げる段階だ。
まだ、緊張で声が固いがそこは俺達でカバーする。
大丈夫、楽しもう。
「――!」
「……っ!」
結城さんも俺の意図を汲んでくれたのかノってくれる。
その中でふと、最初に会った日を思い出した。
『そういえばさ。結城さんは何で路上ライブなんてしようとしてたの?』
『えっと……むしゃくしゃして思わず……』
『スゲェ……かなりロックなことするね』
『あ、あの、恥ずかしいのであまり深堀しないでくださいぃ』
想像以上に彼女は――結城領火は度胸と根性がある。
だから、やらせる。
縦ノリの曲調へ転調し一気にテンションを上げる。ブチのめしてやるからついてこい。
彼女の音が安定し始め、ノっている。脳に直接響き、心地良さすら感じさせる声はまさに天性の歌姫。奏者としてここまでやり甲斐のあるボーカルは居ない。
だから喰らい付き、高め合う。
気づいたころには一曲目が終わり、凄まじい歓声と共に現実へと引き戻される。
「ありがとうございます!」
ここからが、本当の始まりなのだ。