過去の傷を背負い進む。新たな境地へ行くために。
「ありがとうございます」
オープニングが終わる。
「初めまして! オープニングを担当させてもらう夢迷StarFactoryです」
掴みは上々、お客さんのテンションも高く熱が籠ってる。
少しクールダウンが必要そうだ。
「まずはウチの最年少キーボード。汐見誠杜!」
「よろしくお願いします」
「次は縁の下の力持ち。俺たちの音をまとめ上げるドラマー。沖浪飛鳥!」
爽快な音を立てて注目を集める。
単体でも心躍る音を出せるのが彼の良い所。
「よろしくなぁ!」
俺が次の紹介をする前にベースを掻き鳴らしてアピールしてくる。
次は私の番だと。
「ウチ一番の旋律特攻隊長、沢城れいな!」
「みんなー! 楽しんでいってねー!」
「期待の新人。破天荒なメインボーカル。結城領火!」
「師匠!? 破天荒ってどう意味ですか!」
「文字通りだけど? 音楽経験半月の初心者の原石。近いうちにギターも弾けるようになるので乞うご期待!」
客席から驚きと戸惑いの声が聞こえるが最後列の人達は疑いの目を俺に向けている。
『あのレベルで半月なわけねぇだろ』と言いたそうな顔をしている。
勿論、種も仕掛けもない純粋な天性の才能なのだか彼女を拾えたことは運が良かったなどと片付けられない。
「そして、バンドリーダーの淵藤命留です。本日は目一杯楽しんでいきましょう!」
今度は俺から開始の合図を取る。
スピードはトップ。音域は高め。リードを取りながら他のメンバーを引っ張る。
ついてこい!
「――♪」
『……ッ!』
最初の歌い出し、少しでも気を抜けば全てが崩れる様な繊細で、針穴に糸を通すかのような入り。俺は彼女に数回しか合わせをしてやれなかった。にも関わらずこの精度でこの声量。一切の迷いもなく旋律を重ねてきていることに驚愕した。
音をわせるたびにメンバーの『声』が聞こえる。
この音を合わせる。テンポを上げる。割り込みして先走りを防止する。演奏するのが楽しいなど。様々な感情が音に乗って伝わる。
嗚呼――楽しい。
そう思った途端、俺の背後から黒い靄が俺を拘束しようとする。
「――ッ!」
分かっていた。
これは俺の悔いという名の『枷』だということに。
ソロでの演奏や練習の合わせの時はこいつは姿を見せない。だが、俺が音楽を誰か演奏し、『楽しい』と感じると出てくる。
俺はそれをどうにか忘れ去るために独りで色々やって、何時しかシンガーソングライターとして大成してしまった。
だから、俺は
夢を見る。
あいつらが死なずに今でも順風満帆な人生を歩んでいる夢を。それを見る度に言葉にならない怒りと悲しみが湧き上がる。
お前に楽しむ権利はないんだよ。
「いいんだよ」
「……!」
イントロに入り、ポエトリーリーディング部分に入っている。だが、これは俺も知らない部分。
「あなたの声を聞かせて」
「何度悔やんで呪ったんだろうな。どれほど幸福でもこの器は満たされることはない。でも、この舞台で輝くことをやめたくない」
「なら、いつかの後悔を照らせるようにその傷を埋めてあげる」
分かったよ。
この傷も受け入れて進めばいいんだろ?
あいつらも連れて音を奏でる。
『――ッ』
視界が鮮明になりライトの星屑のようなキラキラとした光が目に入る。
人の感情が視える。
観客席からは『喜び』や『高揚』が、舞台袖や関係者たちからは『動揺』と『驚き』。
演奏の質がガラリと変わる。鋭利に鮮烈に音を奏でる。領火の歌に競り負けつつあった音が安定し始める。彼女の歌声を芯に音を組み直す。
『こっちだ』
ふと、俺の身体から繋がる糸。
メンバーの四人に繋がっており明確に『会話』しているような感覚がある。それぞれが奏でる音に感情が乗り導かれる。
他にも微かだが舞台袖、観客席の方に糸が数本伸びている。
客席には仲町の姿があり来てくれた嬉しさと安堵が漏れ、口角が少し上がる。
気づけばもう終わりに近づいていた。楽しい時間ほど早く感じるとはこうい事なんだろう。
みんなを見るとかなり疲弊している。かくいう俺もずっと全力で演奏して体力が限界に近かった。
『出し切ろう』
『うん』
『そうだな』
『やりましょう』
『じゃあ、いくよ』
残った全てを出し切っての演奏。
ここまで楽しいと思ったのはいつぶりだっただろうか。
でも、本当の意味で俺たちは始まることができる。
全ての演奏が終わり、万雷の拍手喝采を受け、俺たちは舞台を後にした。