レイヴンメンバーへの聴取……と言うには少しばかり荒っぽいそれを終えて、俺たちは揃ってギルドへと戻る。
簡単な報告の後、事前の宣言通り調査の引き継ぎを伝えるアガット。それを聞いたエステルたちは当然のように反発してくるが、それらは全て想定内の範囲だった。
かれらの言い分を正論と規約と言う力でねじ伏せる強引さに呆れながら、俺は後ろで静観の姿勢をとる。これに関しては俺が何かを言う義理も権利もないからな。
……いや嘘。民間人の戦闘巻き込みだけはちょっと口出した。
「僕たちも、それなりの戦力にはなるはずです。せめて手伝いくらいは……」
「ただの調査に人数は必要ない。せいぜいこいつひとりいれば充分だ」
「んぇっ?」
まだ食い下がるのか、若いなぁ……などと眺めていたら、全く意識していないところで急に指名を受けて思わず変な声が漏れる。
そんな俺に構うことなく、話は終わりだとかれらを突き放したアガットはギルドから立ち去っていく……何故か、俺の襟首を掴んでから。
「えっ、ちょっ、何でェ!?」
「うるせえ、さっさと行くぞ」
「ぬわーーーっ!?」
ずりずりと引き摺られるようにギルドから連れ出される俺を、取り残された4人はポカンとしたなんとも言えない目で見送っていた。
そのままメーヴェ街道方面まで連れ出されたところでようやく解放される。
若干締まった襟を緩めながら下手人を睨みつけるが、当の本人はそんな視線を気にすることなく歩き出すものだから慌ててその後を追いかけた。
「……で、これからどうすんだよ。あいつらの報告も聞かずに……」
「別に構わねぇだろ。又聞きじゃ分からねぇこともあるんだ、このまま現場検証と聴取行くぞ」
「へーへー。じゃあ、先に現場か?」
「………いや、そっちは俺だけでいい。お前はマノリアで話聞いてくるついでに、院長先生に調査引き継ぎの報告してこい」
……妙な間に顔を上げる。
見上げた先のなんとも言えない顔を見るに、俺を火災現場へ近付けたくない、とか余計なことを考えているのだろう。そもそも俺を連れ出したのだって、自分の目が届かないところで俺が勝手に現場へ近付かないよう見張るため……なんて思惑があるのかもしれない。
……“焼け落ちた建物”に思うところがあるのは、アガットだって同じだろうに。
ただ、今はそれを指摘したところでなんの意味も無い。だから俺は何も気付かなかったフリをして、わかったとだけ返すのだった。
それから数日後、とある夜の船員酒場。
現場検証、事情聴取、周辺地域の聞き込みと痕跡調査……
連日の調査結果を互いに交換し合い、手帳に書き記していく。俺の手元にはジャンから渡されたエステルたちの調査報告書があるが、その内容は俺たちが集めたものと大して違いはない。
案外ちゃんとできてるじゃないか、と内心でかれらを褒めながら、俺は向かいの席につくアガットへと視線を向けた。
「……ここまでの情報をまとめると、やっぱ犯人の狙いは金品や殺人じゃない事は確実だよな」
「そうだな。村や街から離れた辺鄙なところにある一軒家に女子供だけ……ミラを取るなら火をつける必要はねぇし、命目的なら火なんぞ付けなくとも忍び込んで寝首をかく方が確実だろう」
「だなぁ……まあ、出火場所が玄関に近いし、脱出できずに死んでくれれば……ぐらいのことは考えてそうだけど……」
自分で言っておいて何だが、中々に最悪な思考をしていることに思わず嫌な顔になる。そもそも
手元の調査報告書に視線を落とす。そこに記載されている「愉快犯の可能性アリ」の文字に目を留めて、しかしそれはないだろう、とかぶりを振った。
この一件がアガットの追っている件に関係しているかもしれないから……というだけではない。
これが愉快犯の仕業だとするには
もしそういった連中がこれだけ大きなコトを起こしたのならば、何かしらの「自分がやった証明」を必ず残すはずだ。身内だけに伝わる目印であったり、吹聴した噂であったり。
自分は危険を犯してまでこういった事ができるのだ、という証明が彼らにとっての箔付けになるのだから、それが誰にも知られずに流されてしまったらわざわざこんな事をやった意味がなくなってしまう。
だが、この事件ではそういったものは一切残されていない。だからこそただの愉快犯である可能性は限りなく低い……と、個人的には考えているのだが。
「ってなると、じゃあ結局なんで孤児院の放火なんぞやったんだって話に戻るんだよなぁ……」
「……連中が関わっている可能性があるとしても、そいつらの目的もよく分かっちゃいないからな……ボースの一件では空賊どもと接触していたらしいが」
「え、それ初耳なんだけど」
言ってないからな、としれっと返された。思わずテーブルに頭を打ちつければ、すぐ横に置かれていたグラスから水が零れる。
巻き込んだんなら報連相はしっかりしてくれ……とぼやいて、突っ伏したままページの片隅にメモを残した。
そのまましばらく頭を悩ませていると、ふと視界の端でトレーを持った店員が近付いてくるのが見える。どうやら頼んでいた料理ができたらしい。
ひとまず手帳を仕舞って、俺たちは少しばかり遅い晩飯にありつくことにするのだった。
「……そういや、ジェニスの学園祭って明日か。姐さんが警備で一日あっちに着くから市内の方は俺らで回さないといけないんだよな……」
「何言ってんだ、今はあいつらがいるんだから頭数は足りてんだろ」
「あれ、ジャンから聞いてないのか? エステルたちは学園側からの依頼でここしばらくあっちに泊まり込んでるんだってさ。なんでも学祭メインの演劇に出るとか何とか」
「はぁ?」