とある射手の道行   作:星茸

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翌朝、学園祭警備のためジェニス王立学園へ向かうカルナを見送ったあと、俺とメルツの居残り組は市内外の案件をふたりで回すこととなった。アガット? あいつは早々に自分の案件のため出ていったよ……逃げたな。

忙しくなっていた一因(学園OB・OGのお偉方)が学園の方へ移ったから今までほどではないが、それでも相変わらず細々とした依頼は尽きない。観光業を発展させた街の宿命、というものだろうか。

 

 

 

今日も今日とて依頼をこなし、特に何かが起きることもなく夕方。時刻は三度目のラングランド大橋の昇降が終わり、橋が降りる頃。

南街区の方から駆けてくる見覚えのある姿に、あちらへ渡ろうとした足が止まった。

 

「ヤードッ!」

 

「アガット……お前さぁ、ちょっとぐらいこっち手伝っても──」

 

「お前、今日レイヴンの連中を見たか!?」

 

珍しく焦ったように被せてくる言葉。その勢いにぱちり、と目を瞬かせる。

一応、朝に市内を巡回した時はいつものように倉庫前に見張りが立っていたのは見たが……それ以降は見ていない気がする。まあ、最近は大人しくしていたし今日も引きこもっているんだろうと特に深く考えていなかったけれど。

そう伝えれば、アガットはひとつ舌打ちをして口を開く。

 

「……あいつらが倉庫から姿を消した」

 

「……マジで?」

 

「マジだ。さっき戻ったついでに様子を見に行ったらもぬけの殻だった。倉庫区画の作業員たちは連中が連れ立ってどこかに行くのを見たっつってたが……」

 

「たぶん、北街区には来てないと思う。俺は今日ほとんどこっち側にいたけど、こっちでは一度も見かけてない」

 

「そうか……あのバカども、どこに行きやがった……」

 

「……一度、ギルドに戻るか? メルツも街回ってたから、そっちが見てるかもしれないし」

 

頷き、ギルドへ向かう背を追う。

扉を開いた先で見たのは、酷く息を切らした若者と珍しく真面目くさった顔をしたジャンの姿。

こちらに気付いたジャンはカウンターから乗り出すように前のめりに声をあげる。

 

「アガット、ヤード! いいタイミングで来てくれた。緊急事態だ!」

 

「ジャン、何があった。こいつは……マノリアの人間に見えるが」

 

「ああ。今、彼が伝えに来てくれたんだが……学園祭の帰り、孤児院の院長先生と子供たちが襲われた。護衛に付いていたカルナもやられたらしい」

 

「何だと?」

 

「はぁ!? 姐さんがやられるって……誰に!?」

 

「そこまではまだ分からない。でも一連の事件に無関係とも思えないだろう? だから二人とも、急いでマノリア村へ向かってくれ」

 

「言われるまでもねぇ、行くぞ!」

 

「了解! ……っとと、そうだジャン、一応報告! レイヴンがいつもの倉庫から姿を消したらしい。今回のことに関係あるかはわからんけど、そっちも気にしといてくれ!」

 

飛び出して行ったアガットに続いて扉をくぐる前、数歩戻って先程聞いたことを共有しておく。

ちょっと!? という声を背中に受けながら駆け出して、少し遠くなったその姿を追いかけた。

 

 

 

 

 

マノリア村、白の木蓮亭。

マーシア孤児院の面々が滞在するその部屋には、悲痛な空気が流れていた。

院長先生(母親)が襲われ、自分たちを守ってくれる遊撃士が為す術もなく倒される姿を見た子供たちの恐怖は計り知れない。それがわかっているからアガットも概略だけをエステルたちに求める。

襲撃者の狙いは学園祭で集められた寄付金の100万ミラ。だからこそカルナが護衛として付いていたのだが……複数人相手、しかも薬まで使われてしまったらいかに手練といっても単独ではどうしようもなかったのだろう。そこはある意味でも油断と言えたのかもしれない。

 

ともかく、今は一刻も早く犯人たちを探さなければ。どうやら相手はそれなりの人数のようだし、人目につかない夜のうちに逃走を図る可能性は高い。それまでに痕跡を追い、犯人を見つけ出す必要がありそうだ。

だが、外は既に夜の帳が降りはじめている。この暗さではどれだけの痕跡が見つけられるか……と考えている時だった。

 

夜闇を裂くように響く鳴き声と白い影。それは俺たちの頭上を一周して、ふわりとクローゼの腕へと降り立った。

クローゼの“お友達”であるシロハヤブサのジークが、ピュイピュイと何かを伝えるように鳴く。

なんでも院長先生たちを襲った現場を見ていた上、犯人の行方を知っているという。つまり重要な目撃者……もとい目撃鳥ということだ。

その情報に訝しげな視線を向けるアガットとは対照的に、エステルたちは有力情報に沸き立っている。……いやまあアガットの方が常識的な反応なんだけども。

 

「ち、ちょっと待て! お前ら、そんなヨタ話を信じてるんじゃねぇだろうな?」

 

「僕たちは何度かこの目で確かめていますし」

 

「信じないんだったら付いてこなけりゃいいのよ。クローゼ、ジーク、行きましょ!」

 

そのまま飛び立ったジークを追い駆け、少年少女たちは走り出す。

なんとも言えない顔でこちらを見るアガットに苦笑いしながら、俺は頬を掻いた。

 

「うーん……まあ、見たところ訓練を受けた個体みたいだし……会話してたのはともかく、知ってる相手を襲った奴を追跡するぐらいはできるんじゃないか?」

 

「そ、そういうもんか……? ってこらガキども、待ちやがれ!」

 

いつの間にか遠くなった背中に慌てて声をかけ、俺たちもその後を追いかける。

ジークが向かった先はマノリア間道。クローネ山道と繋がる分かれ道でくるりと回り、山道とは逆の方向……バレンヌ灯台へ繋がる道へと飛んでいった。

 

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