夜闇に沈むバレンヌ灯台は異様な静寂に包まれていた。
乗り込む前に少しばかり揉めたりしたものの、無事話はついたらしい。警戒しながら扉を押し開けた先、静かに佇む複数の人影に気付いたアガットが声を荒らげる。
「おい、てめえら……こんなところで何やってやがる!」
それに反応したのか、ゆっくりと彼ら……街から姿を消していたレイヴンメンバーたちが振り返った。
……その動きが妙にぎこちなく見えて、酷く違和感を覚える。
アガットもそれに気付いたのか眉を顰め、手近にいたディンへと詰め寄っていく。ゆらり、とこちらへ虚ろな視線が向けられ……
「ッ、アガット!」
「アガットさん、危ない!」
俺たちの警告の声と、振り下ろされるスタンロッドを受け止める音が響いたのはほとんど同時だった。
ぎし、と刃が擦れる音。あのアガットが僅かに押されているという事実に軽い衝撃を受けながら、俺は素早く矢を番える。放った矢は身を引いて躱された。
血振りでもするようにロッドを振ったディンに合わせ、その後ろに引き連れた二人もまた武器を構える。どうやら、戦闘は回避できないらしい。
「何をラリってるのか知らねぇが……キツイのくれて目を覚まさせてやるぜ!」
ひとつ吠えて連中の方へ突っ込んでいくアガット。それに続くように駆け出したエステルを横目に、俺は少し後ろに立つクローゼへ視線を向ける。
「クローゼちゃん、アーツ使えるよな? 今回は極力そっちでの支援を頼む」
「ですが……」
「さすがにあの前線に放り込むのはな……今のあいつら、たぶん倉庫で戦ってた時より加減ができてないだろうから」
前線から聞こえる武器同士がぶつかり合う音。狭い屋内に響くそれは容赦なく打ち付けられたロッドが明らかにこちらを殺しかねない威力を持っていることを示していた。いくら同行を許可したとはいえ、民間人をそんな危険に晒させられない。
……それに、命の危機に瀕した人間が
とはいえ俺も対人戦はそんなに向いている方ではないのだが。非殺傷用に鏃のない矢も持ってはいるが、それでも当てどころに気を使わなければならない都合上あまり使いたくはないのが本音だった。
ポーチから取り出したオーブメントを駆動し、意識を集中する。
相手は随分と思考が単純化しているらしい。目の前にいる敵を倒すことに集中しているからか、こちらに目を向けることなくその場に留まってくれている。
「皆さん、離れて──《ブルーインパクト》!」
少しばかり早く駆動を完了したクローゼがオーブメントに集束した導力を解き放った。足元から湧き上がった水が天を衝くように炸裂する。
水圧に押されてたたらを踏んだレイヴンメンバーに追撃のように振るわれた棍。それは狙いを誤たず顎をかち上げて意識を刈り取った。
……倒された仲間に目を向けもしない。やはり、今の状態は間違いなく異常であるということか。
その様子に内心で舌打ちして、俺も駆動を終えたオーブメントを敵へと向けた。
「追撃だ、《ライトニング》!」
正面に展開された魔法陣から雷撃が迸る。先の《ブルーインパクト》で濡れ鼠になった連中には効果てきめんだろう。雷に打ち据えられ動けなくなったところに重剣の腹と双剣の峰が襲いかかり、彼らはあえなく叩き伏せられたのだった。
気絶した三人を軽く検分する。どうやら様子がおかしかったのは操られていたから、ということで間違いは無いだろう。その身体には肉体的なリミッターを外された影響なのか、所々に内出血のような跡が見られた。薬品と暗示を併用した催眠誘導とは、中々に厄介な相手が裏にいるようだ。
ちらりとアガットへ視線を向ければ、どうやら何かに思い至ったような顔をしている。その詳細までは分からないが、やはり思い当たる節があるらしい。
「……この様子だと、他の連中も同じような状態になってるんだろうな」
「とにかく、上の階を目指すぞ。こいつらを操っている真犯人がいるはずだ」
上階にいたレイス、ロッコたちを打ち倒し、さらに上へ。
途中にあった灯台守の居住エリアには誰もいなかった。この上は最上階、灯台の管理設備がある階層だが……
「(……待って、話し声が聞こえる)」
先頭を進むヨシュアがハンドサインを示す。その指示通り頭を下げて上階の様子を覗けば、そこに居たのは黒装束の二人組と身なりのいい青髪の青年。
「(あれは……市長秘書のギルバートさん!? な、なんでこんな所に……)」
こんなところにいるはずのないその姿に驚く少年少女たち。
その話を聞くに、今回の一連の事件はどうやら市長含めた彼らが起こしたもので間違いはないらしい。孤児院近辺の土地一帯を高級別荘地として開発する計画……それの邪魔になるからという、ただそれだけの理由で孤児院を燃やし、再建費となる寄付金を強奪したのだという。
まさか現職のルーアン市長がこんなことを画策しているとは思わなかった。どうやら随分と腹に黒いものを抱えた狸親父だったようだ。
その一方で、アガットの視線は彼の前に並ぶ黒装束の方へと向けられていた。
「(……アガット、もしかしてあいつらが?)」
「(ああ……例の“黒装束”だ。ようやく尻尾を出してくれやがったな)」
なるほど、と呟いて、俺もそちらへと目を向ける。
アイガードの付いた兜で人相は伺えないが、声や体つきから見てどちらも成人男性。武装は見たところ突撃銃と二刀の
「(一体どこ所属なんだか……さすがに猟兵なんてことはないだろうけど)」
「(それならそれで市長どもの罪状が増えるだけだ。……そろそろ証言も十分だな、行くぞ)」
そろそろ抑えの効かなくなったエステルらが爆発する頃だろう。それを解放してやるためにも、連中が動き出す前に乗り込むことにしよう。