とある射手の道行   作:星茸

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活動報告の方にも書きましたが、ルーアン編が終わったら当作を再編集するため一時的に非公開にします。編集といっても話そのものや文字数はほぼ変わらず話数を削る予定です。
無駄に小分けにしすぎてるんよ……


1-7

 

「き、君たち! こいつらは全員皆殺しにしろ! か、顔を見られたからには生かしておくわけにはいかない!」

 

突然現れた俺たちの存在に秘書ギルバートはかなり驚いたようだ。狼狽えながらも黒装束の男どもに指示を出す。

しかし「皆殺しにしろ」とは……なんというか、ずいぶん過激な物言いだ。こいつは自ら罪状を積み重ねていることに気付いているのだろうか?

慌てるギルバートに反して、黒装束はどこか軽い調子で武器を構える。その様子を見るにそこらのチンピラとは格が違うようだが、高々ふたり程度この人数ならどうとでもできるだろう。それに防具をつけてくれているおかげで、こちらとしても遠慮なく弓を使うことができそうだ。

 

 

 

アガットの咆哮と共に、開戦の火蓋は切って落とされた。

 

真っ先に動き出したのは互いの二刀使い。黒装束の方は真っ直ぐにこちらへ駆け出し拳を振るうようにその刃を突き出してくる。

最短距離で急所を狙うその動きに対応したのはアガットだ。その分厚い大剣を見た目にそぐわない器用さで振るい、巻き取るように刃を逸らして抑え込んだ。

ガチリと組み合った彼らを狙うように突撃銃を構えた男はしかし、横合いから飛び出しすれ違いざまに振るわれたヨシュアの刃(絶影)を防ぐことに気を取られ、その動きを阻害される。

 

「はああっ……!」

 

気合いの声ひとつ、くるりと手元で棍を回したエステルが突きを放った。それ(捻糸棍)は近くにいた二刀使いを打つだけに留まらず、衝撃波となってその直線上にいた銃使いを巻き込み貫いていく。

……ついでにこっそり隠れていたギルバートのすぐ横も通り過ぎていったらしく、ひいっ!? と情けない悲鳴が上がるのが聞こえた。

 

突き飛ばされた二刀使いはくるりと身を翻して体勢を持ち直し着地する。そしてそのまま跳ね返るゴムボールのように床を蹴り、攻撃後の体勢から立て直せていないエステルとその射線上にいたアガットへと強襲をかけた。

ギリギリで急所狙いの斬撃を受け流したふたりの身体に赤い線が走る。エステル、と声を上げたヨシュアは自身に向けられた銃口に気付いて地を蹴った。ばら撒かれる弾丸の雨を掻い潜り、時に撃ち落としながら再び刃を構え反撃の隙を伺う。

 

戦況は一進一退と言ったところか。少し後ろに下がったところでアーツの駆動に入ったクローゼを確認し、俺も矢を番えて黒装束……ではなく、その頭上へ向けて放つ。

天井スレスレを通り弧を描くように飛んだそれは空中で弾け、狭い屋内を埋めるように黒装束へと降り注いだ。

篠突く雨と言わんばかりの勢いに動きを止めた奴らへ向けてアガットが大剣を振り上げ、叩きつける。炸裂する炎を纏った斬撃(フレイムスマッシュ)は黒装束らをまとめて吹き飛ばし、その身体を床へと強かに打ち付けた。

 

「凍れ──」

 

背後でぶわりと空気が動き、冷たい空気が流れていく。

頭上に広がる魔法陣、そしてそこに浮かぶ氷塊は間違いなく《ダイヤモンドダスト》のそれ。

以前自分が放ったものと同じアーツだとは思えない程の威力に内心冷や汗をかきながら、俺もまたオーブメントを引っ張り出した。

 

──七耀脈が大きく揺らぐ(〈ゼロアーツ〉現象の予兆)。いつも以上の速度で導力が奔り、一瞬でその駆動が完了する。

床に広がる魔法陣は俺(発動者)を頂点のひとつに据えた三角形。時属性特有の暗い光が走り、周囲を照らした。

 

「《ヘル・ゲート》ッ!」

 

宣言と同時に噴き上がった闇が敵対者を呑み込む。

身体を蝕む瘴気に晒された黒装束たちがふらつき、苦しげに唸るのを好機と捉えた俺はその勢いのまま声を上げた。

 

「今だ、全員突っ込め!」

 

おお、はい、と方々から聞こえる声に合わせて弓を構える。

引き絞られた弦がキリキリと鳴り、解き放たれた矢が空を裂く。それは過たず味方の間を縫うようにすり抜け、その奥の黒装束たち、その装甲の薄い部分へと命中した。

鏃のない矢とはいえそれなりの威力で打ち出されたそれは、肉体へ十分なダメージを与えたのだろう。

命中箇所を庇うように身を竦め苦痛に顔を歪めた彼らを打ち据えるように、容赦なく棍が振り下ろされた──

 

 

 

 

 

「そ、そんな馬鹿な……」

 

「秘書ギルバート、及びそこの黒坊主ども。遊撃士協会規約に基づきてめえらを逮捕、拘束する」

 

「罪状は不法侵入の現行犯。あとは放火、強盗傷害容疑と……ああ、さっきので殺人教唆も含まれるか? しばらくシャバの空気が吸えると思うなよ」

 

狭い屋内、縦横無尽に駆け回る二刀持ちとばら撒かれる弾丸には少しばかり苦戦したが、さすがに人数差を覆すほどの力はなかったらしい。武器こそ手放していないが、膝を付き荒い息を漏らした。

……ただ、あちらも全力を出していたわけではなさそうだ。脱走の余力程度は残しているのだろう。すぐに立ち上がり、逃走経路を探るような素振りを見せている。

時間稼ぎのつもりか呟かれる言葉を聞く限り、こいつらはただの下っ端のようだ。“隊長”と呼ばれるもの……どうやら空賊事件で姿を見せたらしい赤い仮面付きがいるという。まったく、本当にどういう組織なのだろうか。

 

「負けたくせにな〜に余裕かましてんのよ! いいから武器を置いて、とっとと降伏しなさいよね!」

 

「……それはできんな」

 

ジャキ、と銃口が向けられる……ギルバートの脳天に向けて。

人質にでもするつもりだろうか。正直その価値としては少しばかり低いと思うのだが……

 

その刹那、一発の銃声と男の悲鳴が響く。

足を撃ち抜かれ、床に転がるギルバート。床にこぼれ飛び散った赤と鉄錆の匂いに、連中が本気であると改めて思い直した。

続けて向けられる銃口の先が灯台守の老人を指し示す。さすがに、そちらを人質に取られては下手に動くわけにもいかないだろう。

舌打ちひとつ、ゆっくりと階段まで下がった俺たちを一瞥して、黒装束の男どもは灯台の外へと駆け出していった。

 

完全に連中側からの射線が途切れたと同時に俺たちも動き出す。一瞬、ギルバートと灯台守の方へ視線を向けつつ、今は追跡が優先だとそのあとを追った。

灯台の外通路の先は行き止まりのはずだが、どうやら事前に脱出経路を用意していたらしい。連中は慣れたように手すりに掛けられたワイヤーロープを伝い降りていく。

下を見れば、街道を駆け夜闇へ紛れようとする黒い影。このままでは逃げられる、と焦りが浮かんだ時だった。

 

「……秘書野郎と、馬鹿どもの面倒は任せたぞ」

 

唸るようにアガットが言う。

 

「俺はこのまま連中を追う! お前らは今回の事件をジャンに報告して指示を仰げ! ヤード、ガキ共のお守りは頼んだ!」

 

言うが早いか手すりを乗り越え、ワイヤーを滑り降りていくアガット。

一人で行く気か、俺も一緒に、と声に出す間もなく飛び出していったその姿に反射的に手を伸ばして、結局引き止められず手すりを掴むに留まった。

そのまま身を乗り出すように下を覗き込めば、地面に降り立つと同時に駆け出し遠ざかっていく赤の姿。

俺は、それをただ見送ることしか出来なかった。

 

……後ろから、自分たちも追ったほうがいいのかと言うエステルをヨシュアが窘める声が聞こえる。

 

そうだ、今俺はひとりで行動している訳ではなかった。ここには見習いと民間の臨時協力員(という扱いにしておく)が残されている。

それに、あいつに「頼む」と言われたのだ。ならばそれを果たすのが、今俺が正遊撃士としてやるべき責務だろう。

俺はひとつ大きく息を吐き出して振り返り、全員の顔を見る。もうだいぶ遅い時間ではあるが、全員まだ動けはするようだ。

 

「……エステル、ヨシュア。ふたりは階下のレイヴンたちの方を頼むな。さすがにもう操られてはないだろうけど、目が覚めて暴れられても困るから武装解除と拘束もしといてくれ」

 

「う、うん」

 

「分かりました」

 

「クローゼちゃんは灯台守のじーちゃんを診てくれるか? 眠らされてるだけだとしても、あのまま放置はできないからさ」

 

「はい、お任せ下さい」

 

「俺は秘書の手当と拘束と……まあ、あの出血量なら太い血管なんかは外してそうだし、今すぐ死ぬことは無いだろうけどほっとくわけにもいかないからなぁ……」

 

大まかな分担を指示したあとがしがしと頭を掻き、俺たちはそれぞれの役割のために動き出す。

 

思った通りギルバートの脚は見た目ほど大したことは無さそうだ。手早く止血をして、ついでに縛り上げておく。

騒がれるかとも思ったが、幸いと言っていいのか痛みで気を失ったらしく楽に作業を済ませることができた。

眠らされた灯台守も特に外傷などはないようなので、クローゼと協力して居住スペースのベッドへと運んで寝かせておく。まだ目を覚ます様子もないので、一応簡単に書き置きだけ残して立ち去ることにした。

 

机に放置された寄付金の封筒を回収し、俵担ぎでギルバートを抱えて階下へと降りる。エステルたちもちゃんと作業を済ませていっているようで、レイヴンたちは隅の方にまとめて縛られていた。まあ、そっちは後で1階まで下ろしておくとして……

 

途中、目を覚ましこちらへ合流したカルナとも協力して全員をマノリア村の風車小屋へ拘禁する頃には、もう空が白み始めていた。さすがにこのまま徹夜で彼らをルーアン市まで行かせるのは厳しいだろう。

白の木蓮亭の旦那に頼んで部屋を借り、若者たちを説得してさっさと仮眠を取らせる。

そしてカルナとの情報共有と諸々の引き継ぎを済ませた俺もまた、適当な席で短い休息を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、少しばかり遅い時間に起床した彼らと共にルーアン市へと戻る。

レイヴンやギルバートらの方はさすがに人数が多すぎるので風車小屋にそのまま閉じ込めておき、カルナにその見張りを頼んでおいた。その辺は後で然るべき場所に引き取ってもらうことにしよう。

 

途中、一度学園の方へ戻るというクローゼと別れて、俺たちは報告のため急ぎ足で市内のギルドへと向かった。

昨日の夕方から音沙汰なかった俺たちがやっと戻ってきたことに安堵の息を漏らしたジャンは、そこにもたらされた報告に頭を抱え難しい顔をする。

 

「それで、ジャンさん。市長を捕まえることはできるの?」

 

「うーん……残念だが逮捕は難しそうだな。現行犯だったら、市長といえど問答無用で逮捕できるんだけどね……」

 

「まあ実行役が居なくなった以上、あの狸親父が今後大きく動くかと言われると怪しいよな……今回の件も下手したら「秘書が勝手にやったこと」とか言い張って責任逃れしかねないし」

 

変えられない現実(協会規約の壁)に憤り言葉を荒らげるエステル。たしかに現状、俺たち遊撃士が市長を逮捕することはできないだろう。

だが、何も逮捕権を持つのは遊撃士だけではないのだ。

早速、ジャンが王国軍の総司令部であるレイストン要塞へと話をつけてくれるという。これだけコトが大きくなっている以上、王国軍も動かざるを得ないはず。

彼らであればなんの問題もなく市長の逮捕を行使できる。まさしく適材適所というやつだ。

 

だが、市長の方も大人しくそれを待ってくれるとは限らない。秘書であるギルバートとの連絡が途絶えたことで事態を察知し、軍が到着する前に逃げ出してしまう可能性もあるだろう。

ならば今の俺たちがするべきことはひとつだけだ。

 

王国軍が到着するまで市長を引き留め、時間を稼ぐこと。

 

ある意味で重要な責務を負いながら、俺たちは合流してきたクローゼと共に市長邸へと乗り込んでいった──

 




オーブメント構成って難しい。中途半端な長さだから実用性とアーツの両取りが難しすぎる。
ちなみにこの話までにヤードが使ったアーツに関して、実際にすべて使えるように組もうと思えば組めるようには考えています。この時点(ゲーム的には2章)でこのクォーツ持ってるのさすがに強くね? にはなったけどまあ……そこはそれで……腐っても正遊撃士なので……
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