ハリーポッターと頼れる天才従兄   作:夜幻

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第11話 図書館の午後と、近すぎる天才

 昼食を終えたハリーたちは、次の授業まで少し時間があることに気づき、ホグワーツの廊下を歩いていた。

 

 窓の外では、秋の風に揺れる木々が赤や黄色に色づいている。石造りの壁には古い肖像画が並び、その中の魔法使いたちは生徒たちを眺めながら、時折ひそひそと話していた。

 

「なあ、ハリー。次の授業まで何する?」

 

 ロンが、食後の満足そうな顔で尋ねた。

 

「うーん……図書館に行ってみない? 昨日、レオ兄さんが面白い本を見つけたって言ってたんだ」

 

「図書館!」

 

 ハーマイオニーが勢いよく振り返った。ふわふわした髪が肩の上で跳ねる。

 

「そ、それなら私も行くわ! ホグワーツの図書館には、普通の書店では手に入らない魔法書がたくさんあるの。入学前に調べてきたんだけど、魔法理論の蔵書数はイギリスでも有数で――」

 

「お、おう。分かったから、そんなに早口で説明しなくてもいいって」

 

「早口じゃないわよ、ロン!」

 

「今のは早口だったと思うけど……」

 

 ハリーが首をかしげると、ハーマイオニーは頬を赤くした。

 

「ハ、ハリーまで! もう!」

 

 その反応がおかしくて、ロンが吹き出す。ハリーもつられて笑った。

 

 三人は階段を上り、廊下をいくつか曲がった。

 

 やがて、重厚な扉の向こうに、天井まで届きそうな本棚がずらりと並ぶ空間が現れた。革張りの本の匂いと、古い羊皮紙の乾いた香り。ページをめくる音があちこちから聞こえ、窓際の机には午後の光が柔らかく差し込んでいる。

 

「わあ……!」

 

 ハリーは思わず声を上げた。

 

「すごいな! 家の本棚より、ずっと大きい!」

 

「図書館なんだから当たり前だろ」

 

 ロンはそう言いながらも、目を丸くして本棚を見上げていた。

 

「ここなら一日中いても飽きないわ……!」

 

 ハーマイオニーはすでに入口近くの案内板を読み始めている。指先で分類を追い、目を輝かせていた。

 

「魔法理論、呪文学、変身術、魔法薬学……あっ、古代ルーン文字の専門書もある!」

 

「古代ルーン文字なら、レオ兄さんに聞くといいよ。すごく詳しいんだ」

 

「ええ、知ってるわ!」

 

 ハーマイオニーは勢いよく答えたあと、はっと口を押さえた。

 

「……あっ。いえ、その、レオが詳しいことは、列車の中でも聞いたから……」

 

「レオ兄貴、もう有名人なんだな」

 

 ロンがからかうように言う。

 

「有名人というより、僕たちがまだ知らないことを知っている人、かな」

 

 ハリーは胸を張って言った。

 

「でも、レオ兄さんは何でも知ってるわけじゃないよ。知らないことがあったら、すぐ本を探すんだ。家でもそうだったんだよ!」

 

「それは大切なことね」

 

 ハーマイオニーが、真剣な顔でうなずいた。

 

「知識があることと、学び続けることは別だもの。どんなに優秀でも、勉強しなくなったら成長は止まってしまうわ」

 

「おっ、なんか先生みたいだな」

 

「ロン!」

 

「はいはい、悪かったよ!」

 

 騒がしくなりかけた三人だったが、司書のマダム・ピンスが遠くから鋭い視線を向けると、そろって口を閉じた。

 

 ハリーは慌てて口元に指を当て、ロンは肩をすくめる。ハーマイオニーだけは、最初から静かにしていたと言いたげな顔をしていた。

 

 そのときだった。

 

「ハリー? 君たちも図書館に来ていたんだね」

 

 聞き慣れた穏やかな声が、本棚の向こうから聞こえた。

 

「レオ兄さん!」

 

 ハリーはぱっと顔を輝かせた。

 

 背の高い少年が、何冊かの本を抱えて歩いてくる。青と銀のネクタイが制服の胸元で揺れ、腕に抱えた本の一冊には、古代ルーン文字が刻まれた装飾があった。

 

「レオ!」

 

 ハーマイオニーも声を上げかけ、慌てて音量を落とした。

 

「……レオも、ここで勉強していたの?」

 

「うん。授業で気になったことがあってね。少し調べていたんだ」

 

「気になったことって?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「呪文を組み立てるときの、魔力の流れについてだよ。呪文は決められた言葉を唱えれば完成するものだけれど、その構造を理解すると、どうしてその言葉が必要なのかも見えてくるんだ」

 

「うーん……」

 

 ロンは眉間にしわを寄せた。

 

「つまり、呪文を覚えるだけじゃ駄目ってことか?」

 

「覚えることも大事だよ。最初から全部を理解する必要はないからね。でも、少しずつ理由を考えていくと、失敗したときにも原因を見つけやすくなる」

 

「それ、今日の魔法薬学でも同じだったわ」

 

 ハリーが手を挙げるようにして言った。

 

「火を強くしすぎると、薬が泡立ちすぎちゃうんだ。先生に注意されちゃったけど、次はちゃんとできると思う!」

 

「そうか。ちゃんと原因を覚えているなら大丈夫だよ」

 

 レオは微笑んで、ハリーの頭を軽く撫でた。

 

「でも、次は鍋が煙を吐く前に気づこうね」

 

「うっ……それは、はい!」

 

 ハリーが少しだけ肩を縮める。ロンが隣で笑いをこらえ、ハーマイオニーは二人を見比べて微笑んだ。

 

 その様子を見ていた彼女は、ふとレオの腕にある本へ目を留めた。

 

「ねえ、レオ。その本……古代ルーン文字の研究書?」

 

「そうだよ。これは呪文の構造を記号で表した古い資料なんだ。今の呪文とは表現が違うところもあるけれど、魔力の流れを考えるときには参考になる」

 

「見てもいい?」

 

 ハーマイオニーは一歩近づいた。

 

 そして、本を受け取ろうとしたところで、レオの手と自分の指がほんの少し触れた。

 

「っ!」

 

 彼女の肩がぴくんと跳ねた。

 

「あ、あの、ごめんなさい! 手が、その、偶然……!」

 

「大丈夫だよ。はい、どうぞ」

 

 レオは何も気にしていない様子で本を差し出した。

 

 ハーマイオニーは両手で受け取ったものの、耳まで赤くなっている。

 

「……ありがとう」

 

 小さな声で礼を言い、彼女は表紙を開いた。

 

 数ページめくったところで、その表情が変わった。

 

「これ……すごいわ。文字の配置そのものが、魔力の流れを示しているの? 普通のルーン文字の解説書とは全然違う……!」

 

「うん。文字を読むだけじゃなくて、配置にも意味があるんだ。例えば、ここ」

 

 レオは彼女の隣に立ち、ページの一角を指さした。

 

「この記号は、単独なら魔力を集める意味を持つ。でも、隣の記号と組み合わせると、集めた魔力を一定の方向へ流す働きに変わるんだ」

 

「えっ……本当だわ!」

 

 ハーマイオニーは身を乗り出した。

 

「じゃあ、この部分は?」

 

「それは流れを安定させるための記号だね。ここが欠けると、魔力が必要以上に偏る可能性がある」

 

「待って、ちょっと待って!」

 

 ハーマイオニーは慌てて鞄から羊皮紙と羽根ペンを取り出した。

 

「今の説明、書いておきたいの! ええと、魔力を集める記号と、方向を定める記号、それから安定させる記号……」

 

 羽根ペンが紙の上を忙しく走る。

 

 勢いが強すぎたのか、ペン先が羊皮紙に引っかかり、インクが小さな染みになった。

 

「ああっ! もう、どうしてこんなときに!」

 

 ハーマイオニーは真っ赤になって染みを見つめた。

 

「大丈夫? 予備の羊皮紙なら僕も持っているよ」

 

「い、いいの? でも、これは私が書き直せば……」

 

「もちろん。だけど、せっかくの発見なんだから、急いで書いて失敗するより、落ち着いて書いたほうがいいと思うな」

 

 レオが差し出した羊皮紙を、ハーマイオニーはおそるおそる受け取った。

 

「……ありがとう、レオ」

 

 今度は、先ほどよりも少しだけ自然に言えた。

 

 ただし、顔の赤みはまだ消えていなかった。

 

 それを見たロンが、ハリーの耳元に顔を寄せる。

 

「なあ、ハリー。ハーマイオニーって、レオの前だといつもあんな感じなのか?」

 

「ん? いつもって?」

 

「いや……その、顔が赤いっていうか」

 

「そうかな? 図書館が暑いんじゃない?」

 

「いや、窓開いてるし、むしろ寒いくらいだぞ」

 

「じゃあ、勉強に夢中なんだよ!」

 

 ハリーは何の疑いもなく答えた。

 

 ロンは一瞬、何かを言いたそうに口を開いたが、すぐに閉じた。

 

「……まあ、いいや」

 

「二人とも、何をこそこそ話しているの?」

 

 ハーマイオニーが顔を上げる。

 

「な、何でもない!」

 

「何でもないよ!」

 

 二人の声が重なった。

 

 ハーマイオニーは怪訝そうに目を細めたものの、すぐに本へ視線を戻した。

 

「それで、レオ。さっきの魔力の流れについて、もう一つ聞きたいことがあるのだけれど……」

 

「うん、いいよ」

 

「呪文を改変するときは、元の構造をどこまで残すべきなの? 全部を変えてしまったら、別の呪文になってしまう可能性もあるでしょう?」

 

 その質問に、レオは少し考えるように本のページへ目を落とした。

 

「そうだね。だから、最初は変えても問題のない部分を見極めることが大切なんだ。呪文には、目的を果たすための中心部分と、その働きを補助する部分がある。中心部分を理解しないまま手を加えると、思いがけない結果になることもあるから」

 

「……なるほど」

 

 ハーマイオニーは真剣にうなずいた。

 

「ただ、知識があれば何でも変えていい、というわけじゃない。実際に試すときは、安全な場所で、失敗した場合にどうなるかも考えておく必要があるよ」

 

「それは、魔法薬学でも同じね。材料を入れる順番や火加減を間違えたら、薬の性質そのものが変わってしまうもの」

 

「その通りだよ」

 

 レオが優しくうなずくと、ハーマイオニーの顔がぱっと明るくなった。

 

「やっぱり、レオと話していると勉強になるわ!」

 

 言い終わった瞬間、彼女は固まった。

 

「……あっ」

 

 自分が何を言ったのか、遅れて理解したらしい。

 

「い、いえ! 別に、レオと話すのが特別という意味じゃなくて! もちろん、あなたの説明が分かりやすいのは本当だけど、それはあなたが詳しいからで、私はただ知識を増やしたいだけで……!」

 

 早口になっていく彼女を見て、レオは困ったように微笑んだ。

 

「ありがとう。そう言ってもらえるとうれしいよ」

 

「……っ!」

 

 ハーマイオニーは羊皮紙で顔の下半分を隠した。

 

 ロンはとうとう吹き出しそうになり、ハリーは不思議そうに首をかしげる。

 

「ハーマイオニー、やっぱり暑い?」

 

「暑くないわ、ハリー!」

 

「そっか!」

 

 あっさり納得したハリーに、ロンは片手で額を押さえた。

 

 図書館の静けさを守るため、三人はそれ以上大声を出さないよう気をつけながら、レオの説明を聞いたり、本棚から興味のある本を探したりした。

 

 やがて、窓から差し込む光が少しずつ傾き始めたころ、レオが時計を確認した。

 

「そろそろ、僕は次の授業へ行くね。ハリー、今日は魔法薬学の復習をしておくといいよ。分からないところがあったら、一緒に考えよう」

 

「本当? ありがとう、レオ兄さん!」

 

「私も……!」

 

 ハーマイオニーが思わず声を上げた。

 

 レオが振り向く。

 

「私も、古代ルーン文字について質問してもいい? もちろん、あなたの時間があるときでいいのだけれど!」

 

「もちろんだよ。僕も、君がどんなことに気づくのか聞いてみたいからね」

 

「ほ、本当に?」

 

 ハーマイオニーの目が大きく開いた。

 

「うん。自分とは違う考え方を聞くのは、僕にとっても勉強になるから」

 

 彼女は羊皮紙を胸元に抱きしめた。

 

「……じゃあ、もっと勉強するわ!」

 

 その声には、いつもの負けず嫌いな熱意だけではない、弾むような喜びが混じっていた。

 

「私、古代ルーン文字の本をたくさん読んで、今日の話もきちんと理解して、それから……その、レオにもっと質問できるようになる!」

 

「うん。楽しみにしているよ」

 

 レオはそう言って、図書館の出口へ向かった。

 

「またね、ハリー。ロン。ハーマイオニー」

 

「またな、レオ兄貴!」

 

「またね、レオ兄さん!」

 

「ま、またね、レオ!」

 

 ハーマイオニーは、彼の姿が扉の向こうへ消えるまで、つい目で追ってしまった。

 

 そして、はっとして本へ視線を戻す。

 

「……よし!」

 

 彼女は羊皮紙を机に広げ、羽根ペンを握り直した。

 

「今日の内容、全部まとめるわ。ルーン文字の配置と魔力の流れ、それから呪文の改変に必要な知識も!」

 

「おお、やる気満々だな」

 

 ロンが感心したように言う。

 

「当たり前でしょう! 知らないことがあるなら、勉強して理解するまでよ!」

 

「じゃあ、俺たちも何か探すか。ハリー、何がいい?」

 

「僕は魔法生物の本がいいな! レオ兄さんの家にはいろんな生き物がいたけど、まだ知らない生き物もいっぱいいると思うんだ!」

 

「それ、いいな。俺も見てみたい!」

 

 三人は再び本棚へ向かった。

 

 ハーマイオニーは途中で一度だけ、レオが歩いていった扉を振り返った。

 

 胸の奥が、まだ少しだけどきどきしている。

 

 けれど、彼女は小さく息を吸うと、すぐに顔を引き締めた。

 

「……勉強よ、ハーマイオニー。まずは勉強!」

 

 そう自分に言い聞かせて、彼女は本棚に並ぶ分厚い魔法書へ手を伸ばした。

 

 その隣では、ハリーとロンが魔法生物の本を見つけて、二人そろって歓声を上げている。

 

 静かな図書館の午後。

 

 三人はそれぞれの興味を胸に、ホグワーツでの新しい一日を歩き始めていた。

 

 

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