ハリーポッターと頼れる天才従兄   作:夜幻

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第14話 夜の廊下と、秘密の呪文改変

ホグワーツに入学してから、数週間。

 

 ハリーたちは、少しずつ学校生活に慣れ始めていた。

 

 魔法薬学では相変わらずスネイプの鋭い質問に緊張し、魔法史ではビンズ先生の単調な講義に眠気と戦い、呪文学ではフリットウィック先生の熱心な指導を受けている。

 

 そして、ハーマイオニーは相変わらず勉強熱心だった。

 

「ハリー、そこの問題、答えが違うわよ!」

 

「えっ、嘘!? どこ?」

 

「ここよ! 浮遊呪文の発音が少しずれているの。最後の音を曖昧にすると、魔力の伝わり方が不安定になるのよ」

 

「うわっ、本当だ! ありがとう、ハーマイオニー!」

 

「どういたしまして!」

 

 ハリーが慌ててノートを書き直すと、ロンが隣から覗き込んだ。

 

「お前ら、よくそんな細かいところまで気づくよな……」

 

「ロンも、ちゃんと見直したほうがいいわよ!」

 

「俺は大丈夫だって!」

 

「昨日、呪文の綴りを間違えていたのは誰だったかしら?」

 

「うっ……!」

 

 ロンが口をつぐむ。

 

 ハリーは思わず笑った。

 

 そんな、いつもどおりの授業の合間。

 

 ハリーが楽しみにしていることが、もう一つあった。

 

 それは、レオに会って話をすることだった。

 

 レオは授業でも図書館でも、会えば気軽に声をかけてくれる。難しい魔法の話をするときも、ハリーが分かるところまで言葉を選んで説明してくれるため、話しているだけで新しい発見があった。

 

 ただし、ハーマイオニーにとっては、少々事情が違っていた。

 

「……ねえ、ハリー。今日、レオに会えるかしら?」

 

 昼食後、彼女は何気ないふうを装って尋ねた。

 

「うん? どうして?」

 

「ど、どうしてって……! この前、古代ルーン文字について教えてもらったでしょう? その続きで、少し聞きたいことがあるのよ!」

 

「そっか! じゃあ、会えたら聞いてみようよ!」

 

「ええ、そうね!」

 

 ハーマイオニーは笑顔でうなずいた。

 

 ところが、ハリーが別の話題に移った途端、彼女は小さく息を吐いた。

 

 レオと話したい。

 

 もっと知りたいことがある。

 

 それは本当だ。

 

 けれど、最近は、レオの姿を見かけるだけで胸がどきどきすることも増えていた。

 

 その理由を考え始めると、途端に頬が熱くなってしまう。

 

「……もう、何を考えているのよ、私!」

 

 ハーマイオニーは小声で自分を叱った。

 

「ん? 何か言った?」

 

「な、何でもないわ、ロン!」

 

「俺、今は何も言ってないぞ!?」

 

「そういう意味じゃないわよ!」

 

 ロンが困惑し、ハリーが楽しそうに笑う。

 

 そんな賑やかな午後は、いつものように過ぎていった。

 

     *

 

 その日の夜。

 

 グリフィンドールの談話室では、暖炉の火がぱちぱちと音を立てていた。

 

 窓の外はすっかり暗くなり、城の周囲には冷たい夜風が吹いている。夕食を終えた生徒たちは、それぞれ課題を片づけたり、友人と話したりしていた。

 

「うーん……」

 

 ハリーは机に向かい、羽根ペンを握ったまま唸っていた。

 

「どうしたんだ、ハリー?」

 

 隣でチェス盤を広げていたロンが尋ねる。

 

「明日の呪文学の課題なんだけど、呪文の仕組みを説明するところが、うまく書けないんだ」

 

「呪文の仕組み? 俺は呪文をちゃんと唱えられればいいと思うけどな」

 

「でも、フリットウィック先生が、どうしてその呪文が働くのか考えてみようって言ってたよ」

 

「うわあ……先生、そんなことまで課題にしたのか」

 

 ロンは天井を仰いだ。

 

 その向かいでは、ハーマイオニーがすでに課題を終え、別の本を読んでいた。

 

「ハリー、どこで分からなくなったの?」

 

「えっと、この部分。呪文の言葉と魔力の動きが、どうつながっているのかがよく分からないんだ」

 

「それなら、教科書の前の章を読むといいわ。呪文を唱えるときの発音だけじゃなくて、集中力や意識の向け方も関係しているの」

 

 ハーマイオニーは本を閉じ、ハリーのノートを覗き込んだ。

 

「例えば、浮遊呪文なら、対象を浮かせるという目的を明確にして、魔力をその方向へ導く必要があるのよ。言葉だけを覚えても、意識が散漫になっていたらうまくいかないことがあるわ」

 

「なるほど……!」

 

 ハリーは目を輝かせた。

 

「ありがとう、ハーマイオニー! もう一度、書き直してみるよ!」

 

「ええ。頑張って!」

 

 ハーマイオニーが微笑む。

 

 その様子を見ていたロンは、チェスの駒を動かしながらぼやいた。

 

「お前ら、本当に勉強好きだよなあ……」

 

「ロンだって、チェスは何時間でもできるでしょう?」

 

「それとこれとは別だ!」

 

「どう違うの?」

 

「チェスは楽しいんだよ!」

 

「勉強だって楽しいわよ!」

 

「はいはい、分かったよ!」

 

 ロンは笑いながら手を振った。

 

 やがて、ハリーも課題の続きを書き始めた。

 

 しばらくして、談話室の時計が九時を告げる。

 

「そろそろ部屋に戻ろうか」

 

 ハリーがペンを置いた。

 

「うん。明日も授業があるしな」

 

 ロンがチェス盤を片づけ始める。

 

 ハーマイオニーも本を閉じた。

 

「私も戻るわ。おやすみなさい、二人とも」

 

「おやすみ、ハーマイオニー!」

 

「おやすみ!」

 

 三人はそれぞれ階段へ向かった。

 

 そのとき、ハリーはふと、レオが今日の夕方に話していたことを思い出した。

 

 レオは、授業で習った呪文をそのまま覚えるだけではなく、どうしてその形になっているのか考えるのが好きだと言っていた。

 

 そして、分からないことがあれば、図書館で調べるのだと。

 

「……僕も、もっと勉強してみようかな」

 

 ハリーは小さく呟いた。

 

 もちろん、すぐにレオと同じようにできるとは思っていない。

 

 けれど、少しずつ学んでいけば、今まで分からなかったことも理解できるようになるかもしれない。

 

 そんな期待を胸に、ハリーは階段を上った。

 

     *

 

 同じころ、レイブンクローの談話室。

 

 青と銀を基調とした部屋には、落ち着いた明かりが灯っていた。

 

 暖炉のそばでは数人の生徒が課題に取り組んでいる。窓の外には星が瞬き、夜の静けさが城全体を包んでいた。

 

 レオは一人、机に向かっていた。

 

 机の上には、古代ルーン文字の資料と呪文学の教科書、それに何枚もの羊皮紙が広げられている。

 

「……ここを少し変えると、魔力の流れが安定するかな」

 

 レオは羽根ペンを置き、杖を手に取った。

 

 彼の杖は、サッサフラスと黒檀を組み合わせ、不死鳥の尾羽を芯に持つものだ。

 

 握り慣れた木の感触を確かめながら、レオは机の上に置いた小さな木片へ杖先を向けた。

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ」

 

 木片がふわりと浮かび上がる。

 

 そこまでは、授業で習う通常の浮遊呪文と変わらない。

 

 しかし、レオはそこで呪文を止めなかった。

 

 杖先をわずかに動かし、魔力の流れを調整する。

 

 浮かんでいた木片は、まるで見えない指に導かれるように、ゆっくりと右へ移動した。

 

 続いて左へ。

 

 さらに、空中で静かに一回転する。

 

 木片は机の上に置かれた小さな瓶を避け、そのまま羊皮紙の端へ正確に着地した。

 

「うん。これなら、余計な魔力を使わずに方向を変えられる」

 

 レオは満足そうにうなずいた。

 

 呪文を改変することは、単に威力を増やすことではない。

 

 目的に応じて構造を調整し、必要な働きをより正確に引き出すこと。

 

 それが、レオの考える呪文改変だった。

 

 ただし、どれほど簡単そうに見えても、何も考えずにできるわけではない。

 

 呪文の構造を理解し、魔力の流れを把握し、失敗した場合に何が起こるのかを考える必要がある。

 

 レオはその一つひとつを、楽しみながら確かめていた。

 

「次は、対象を二つに増やしてみようかな……」

 

 そう呟き、杖を構え直した、そのとき。

 

「レオ、まだ起きていたのかい?」

 

 背後から声がかかった。

 

 振り返ると、同じレイブンクローの生徒が、少し驚いた顔で立っていた。

 

「うん。もう少しだけ調べたいことがあってね」

 

「また呪文の研究か。君は本当に熱心だな」

 

「気になることがあると、ついね」

 

 レオは穏やかに笑った。

 

 同級生は机の上の資料を眺め、浮かんでいる木片に気づいた。

 

「……今の、浮遊呪文かい?」

 

「そうだよ。少しだけ構造を変えて、動きを調整できるようにしてみたんだ」

 

「少しだけって……」

 

 同級生は木片とレオを交互に見た。

 

「授業で習ったばかりの呪文だろう? もう、そんなことまでできるのか?」

 

「まだ試しているところだよ。うまくいかない部分もあるからね」

 

 レオはあっさりと答えた。

 

 その口調には自慢する様子も、相手を見下す気配もなかった。

 

 ただ、知りたいことを知ろうとしている。

 

 それだけだった。

 

「……本当に、君はすごいな」

 

「ありがとう。でも、まだまだ勉強することは多いよ」

 

 レオは机の上の羊皮紙をまとめた。

 

「そろそろ僕も休むことにするよ。明日、眠くなったら困るからね」

 

「君でも眠くなるんだな」

 

「もちろん。睡眠は大事だからね」

 

 レオは笑った。

 

 同級生もつられて笑い、二人はそれぞれ寝室へ向かった。

 

 談話室の明かりが少しずつ消えていく。

 

 ホグワーツの夜は、静かに更けていった。

 

     *

 

 翌朝。

 

 ハリーたちは、いつものように大広間で朝食を取っていた。

 

「昨日の課題、ちゃんと終わったか?」

 

 ロンがトーストをかじりながら尋ねる。

 

「うん! ハーマイオニーに教えてもらったおかげで、最後まで書けたよ!」

 

「私は自分の課題も終わらせたわ。もちろん、教科書を読み直してからね」

 

「さすがだなあ……」

 

 ロンが感心したように唸る。

 

 ハリーはカップを置き、ふと思い出したように言った。

 

「そういえば、昨日の夜、レオ兄さんは何をしていたんだろう?」

 

「さあな。どうせ、また難しい本を読んでたんじゃないか?」

 

 ロンが肩をすくめる。

 

「レオなら、呪文の練習もしていそうね」

 

 ハーマイオニーが言った。

 

「この前、浮遊呪文の動きを変えていたでしょう? あれは本当にすごかったわ。普通なら、対象を浮かせたあとに細かく動かすだけでも集中力が必要なのに、レオは呪文そのものの構造を調整していたもの」

 

「うん! 僕も、あれを見たときはびっくりしたよ!」

 

 ハリーは嬉しそうにうなずいた。

 

「でも、僕は僕のやり方で頑張るんだ。レオ兄さんみたいにすぐできなくても、少しずつ覚えていけばいいんだから!」

 

「……そうね」

 

 ハーマイオニーは、柔らかく微笑んだ。

 

 レオの才能に憧れる気持ちはある。

 

 けれど、彼のようにならなければ意味がないわけではない。

 

 自分には自分の得意なことがあり、自分の歩き方がある。

 

 それを忘れないようにしよう。

 

 ハーマイオニーは、心の中でそっと決めた。

 

 そのとき、大広間の入口からレオが入ってきた。

 

「おはよう、みんな」

 

「レオ兄さん!」

 

 ハリーが手を振る。

 

「おはよう! 昨日は何をしていたの?」

 

「少し呪文の研究をしていたよ。でも、ちゃんと寝たから心配しないでね」

 

「別に心配してないよ!」

 

 ハリーは笑った。

 

「ただ、何をしていたのか気になっただけ!」

 

「そうか。今度、時間があるときに見せてあげるよ」

 

「本当!? やった!」

 

 ハリーが喜ぶ。

 

 ロンも興味津々で身を乗り出した。

 

「俺も見たい! レオ兄貴の呪文改変って、どうやってるんだ?」

 

「いいよ。ただ、危ない実験はしないからね」

 

「分かってるって!」

 

 ロンは勢いよくうなずいた。

 

 ハーマイオニーも、思わず前のめりになった。

 

「私も見たいわ! 呪文の構造をどうやって分析しているのか、ぜひ教えてほしいの!」

 

「もちろん。君たちが興味を持ってくれるなら、僕も嬉しいよ」

 

 レオが微笑む。

 

 ハーマイオニーの頬が、ほんのり赤くなった。

 

「……ありがとう、レオ!」

 

 ハリーは三人の顔を見比べて、満面の笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、今度みんなで勉強会をしようよ!」

 

「いいな、それ!」

 

 ロンが賛成する。

 

「私も賛成よ!」

 

 ハーマイオニーもすぐにうなずいた。

 

「それじゃあ、決まりだね」

 

 レオは穏やかに笑った。

 

 大広間には、朝の光が差し込んでいる。

 

 それぞれの得意なことも、苦手なことも違う。

 

 それでも、互いに教え合い、励まし合いながら、一歩ずつ成長していける。

 

 ハリーはそう信じていた。

 

 そして今日もまた、新しい授業と、新しい発見が待っている。

 

「よーし! 今日も頑張るぞ!」

 

 ハリーの元気な声に、ロンが笑い、ハーマイオニーが微笑み、レオが優しくうなずいた。

 

 ホグワーツの朝は、今日も賑やかに始まった。

 

 

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