ハリーポッターと頼れる天才従兄   作:夜幻

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第16話 仲間になった三人と、レイブンクローの兄貴分

 ハロウィーンの翌朝。

 

 ホグワーツの大広間には、いつもと変わらない朝食の香りが漂っていた。焼きたてのパンに、ベーコンの脂が焼ける匂い。銀の皿に盛られた卵料理からは、まだ白い湯気が立ち上っている。

 

 けれど、グリフィンドールのテーブルでは、いつも以上に話が弾んでいた。

 

「だから、棍棒がこう、ぶわーって浮いたんだよ!」

 

 ハリーが両手を大きく振り回す。

 

「それで、トロールが上を見た瞬間に、どすーん! って!」

 

「ハリー、昨日から何回その話をしてるんだよ!」

 

 ロンは呆れたように言いながら、口いっぱいにベーコンを頬張った。

 

「だって、すごかったじゃないか! ロンが呪文を成功させたんだよ!」

 

「わ、わかってるって! そんなに何度も言わなくてもいいだろ!」

 

「でも、本当にすごかったんだもん!」

 

「だから、もういいって!」

 

 ロンの耳が赤くなる。

 

 その隣で、ハーマイオニーは紅茶のカップを両手で包みながら、昨日の出来事を思い返していた。

 

「……でも、あのときのロンの呪文は、確かに見事だったわ」

 

「えっ?」

 

 ロンが目を丸くする。

 

「杖の動かし方も、呪文の発音も、最後まで崩れなかったもの。あんな状況で成功させるなんて、練習していても簡単にはできないわ」

 

「お、おう……」

 

「それに、ハリーも」

 

「僕?」

 

 突然名前を呼ばれ、ハリーは口に運びかけていたソーセージを止めた。

 

「あなた、トロールが棍棒を振り回したとき、私をかばってくれたでしょう?」

 

「うん。だって、ハーマイオニーが危なかったから」

 

「……そういうところよ」

 

「え?」

 

「なんでもない!」

 

 ハーマイオニーは慌てて紅茶を飲んだ。

 

 頬が赤い。

 

 昨日のことを思い出すと、今でも胸の奥がきゅっとなる。怖かった。とても怖かった。それなのに、ハリーは自分の身を守るより先に手を伸ばしてくれた。

 

 そしてロンも、震えながら杖を握り、必死に呪文を唱えた。

 

 あの瞬間の二人の顔は、きっと忘れない。

 

「……あのね」

 

 ハーマイオニーはカップを置いた。

 

「今日から、私たち、もっと仲良くできると思うの」

 

「えっ、今までは仲良くなかったのか?」

 

 ロンが首を傾げる。

 

「そういう意味じゃないわよ!」

 

「わっ、怒るなって!」

 

「怒ってないわ!」

 

「いや、怒ってるだろ!」

 

「ロン!」

 

「はいっ!」

 

 ハリーは二人を見て、けらけら笑った。

 

「やっぱり、二人って仲がいいね!」

 

「「どこが!?」」

 

 二人の声がぴったり重なる。

 

 その直後、ハリーはますます大笑いした。

 

「ほら、今だって同じこと言った!」

 

「ハリー!」

 

「もう、ハリーまで!」

 

 ハーマイオニーは顔を赤くして抗議し、ロンは頭を抱えた。

 

 それでも、昨日までとは何かが違っていた。

 

 言い合いをしても、すぐに相手を拒絶しようとは思わない。言いすぎたと気づけば、謝ることもできる。

 

 ほんの少しだけ、三人の距離が近くなっていた。

 

     ◇

 

 その頃、少し離れたレイブンクローのテーブルでは、レオが朝食を楽しんでいた。

 

 蜂蜜をたっぷり塗ったパンを一口食べ、満足そうに頷く。

 

「うん、おいしい」

 

 隣に座っていた上級生が、思わず笑った。

 

「スカマンダー君、君は本当に蜂蜜が好きだな」

 

「好きですね。朝から甘いものを食べると、なんだか元気が出るんです」

 

「そのわりに、授業では難しい呪文ばかり研究しているじゃないか」

 

「それとこれとは別ですよ。魔法の研究も、おいしいものも、どちらも楽しいですから」

 

 レオはごく自然に答え、最後の一口を食べ終えた。

 

 そのとき、グリフィンドールのテーブルからハリーが大きく手を振ってきた。

 

「レオ兄さーん!」

 

「ハリー、おはよう」

 

「おはよう! ねえ、今日の授業が終わったら、こっちに来られる?」

 

「うん。どうしたの?」

 

「昨日の呪文のこと、もう少しロンと話したいんだ! それに、ハーマイオニーが魔法の練習をしたいって!」

 

「ちょ、ちょっとハリー! そんな大声で言わなくてもいいでしょう!?」

 

 ハーマイオニーが慌ててハリーの袖を引っ張った。

 

 けれど、レオにはしっかり聞こえていた。

 

「わかったよ。授業が終わったら、時間を作るね」

 

「やったあ!」

 

 ハリーは満面の笑みを浮かべた。

 

 ハーマイオニーも嬉しそうに顔をほころばせたが、レオと目が合った途端、慌てて背筋を伸ばした。

 

「あ、あの、レオ! 昨日の呪文について、ちょっと聞きたいことがあって……!」

 

「うん。僕でよければ、何でも聞いてね」

 

「な、何でも……?」

 

「僕が答えられることなら、ね」

 

 レオが微笑む。

 

 ハーマイオニーの顔が、ぱっと赤くなった。

 

「そ、そうよね! 答えられることなら、よね! うん、わかってるわ!」

 

 彼女はなぜか何度も頷いた。

 

 ロンはその様子を横目で見て、ハリーの耳元に顔を寄せた。

 

「……なあ、ハリー」

 

「ん?」

 

「ハーマイオニーって、レオ兄貴と話すとき、なんか変じゃないか?」

 

「え? そうかな?」

 

「いや、絶対変だろ。顔が赤いし、声も裏返ってるし」

 

「……あっ!」

 

 ハリーは何かに気づいたように目を見開いた。

 

「ハーマイオニー、熱があるの!?」

 

「ええっ!?」

 

 ハーマイオニーが勢いよく振り向いた。

 

「ち、違うわよ! どうしてそうなるの!?」

 

「だって、顔が赤いから!」

 

「そ、それは……!」

 

 ハーマイオニーは言葉に詰まった。

 

 ロンはとうとう吹き出した。

 

「はははっ! ハリー、お前って本当に……!」

 

「えっ、僕、何か変なこと言った?」

 

「いいえ! 何も変なことは言ってないわ!」

 

 ハーマイオニーは必死に否定した。

 

「と、とにかく! 朝食を食べましょう! 授業に遅れるわよ!」

 

「まだ時間あるって!」

 

「いいから食べるの!」

 

「はーい!」

 

 ハリーは素直に返事をして、残っていたソーセージを口に運んだ。

 

 レイブンクローの席では、レオが三人のやり取りを眺め、楽しそうに笑っていた。

 

 あの調子なら、きっと大丈夫だ。

 

 昨日の出来事をきっかけに、三人は互いを知り始めている。レオが手を貸すことはできても、彼ら自身が築く関係の代わりにはなれない。

 

 だからこそ、今は遠くから見守るくらいがちょうどいい。

 

 レオはそう考えながら、食器を片づけた。

 

     ◇

 

 午前の授業が終わると、ハリーたちは約束どおりレオを探しに行った。

 

 廊下の窓から差し込む光が、石造りの床に長い四角形を描いている。遠くから生徒たちの話し声が聞こえ、ときおり階段が動く低い音が響いていた。

 

「レオ兄さーん!」

 

 ハリーが駆け寄る。

 

「お待たせ、ハリー。ロンもハーマイオニーも、こんにちは」

 

「こんにちは、レオ」

 

 ロンは片手を上げ、ハーマイオニーは少し緊張した様子で頷いた。

 

「そ、それでね、レオ。昨日の呪文のことなんだけど……」

 

「うん。ロンが使った浮遊呪文だね」

 

「そうなの! あの呪文は、軽いものを浮かせるためのものよね。でも、昨日はあんなに大きな棍棒を浮かせたでしょう? あれって、呪文の力が対象の重さに比例するのかしら。それとも、術者の魔力や集中力によって変わるの?」

 

 ハーマイオニーは、待ってましたとばかりに質問を並べた。

 

 目がきらきらと輝いている。

 

 昨日の恐怖も、今では知りたいという好奇心に押されて、少しずつ遠のいているようだった。

 

 レオは嬉しそうに頷いた。

 

「いい質問だね。実際には、いくつかの要素が関係しているんだ。対象の重さだけじゃなくて、形や重心、術者がどれだけ正確に動きを思い描けるかも大切だよ」

 

「重心……!」

 

 ハーマイオニーはすぐに鞄からノートを取り出した。

 

「つまり、重いものを浮かせる場合は、ただ力を込めるだけじゃなくて、対象の状態を把握することも必要なのね?」

 

「そうだね。大きなものを動かそうとするときは、特に重要になるよ」

 

「なるほど……!」

 

 彼女は勢いよく書き込み始めた。

 

 その隣で、ロンは感心したように自分の杖を見つめていた。

 

「じゃあ、俺が昨日うまくいったのは、たまたま棍棒の重心を捉えられたからなのか?」

 

「それもあると思う。でも、ロンがちゃんと呪文を成功させたことに変わりはないよ」

 

 レオは穏やかに答えた。

 

「本番でうまくいくのは、普段の練習が身についているからだと思う。あのとき、ロンは怖かったはずなのに、最後まで呪文を唱えたでしょう?」

 

「……まあ、怖かったけどな」

 

 ロンは少しだけ目を伏せた。

 

「正直、何をすればいいのか全然わからなかったんだ。でも、ハーマイオニーが棍棒を浮かせろって言ったから……」

 

「ロン……」

 

 ハーマイオニーが顔を上げた。

 

「私、あなたが呪文を使うのを見て、本当に驚いたの。あなたはいつも、授業なんて面倒だって言ってるから……」

 

「いや、そりゃ面倒なときもあるけどさ!」

 

「でも、昨日は違ったわ」

 

 ハーマイオニーは少し照れくさそうに笑った。

 

「……ありがとう。助けてくれて」

 

 ロンは一瞬、言葉を失った。

 

 そして、耳まで真っ赤になった。

 

「お、おう! まあ、友達だからな!」

 

「……友達?」

 

 ハーマイオニーが聞き返す。

 

「そ、そうだろ? 昨日のことがあったんだし……」

 

「……うん!」

 

 彼女はぱっと笑顔になった。

 

「そうね。私たち、友達だものね!」

 

「お、おう!」

 

 二人のやり取りを見て、ハリーは嬉しそうに手を叩いた。

 

「よかった! これで三人とも、もっと仲良しだね!」

 

「ハリー、もう少し静かに喜べよ!」

 

 ロンが苦笑する。

 

「えー、いいじゃないか!」

 

 ハリーは笑いながら、レオを見上げた。

 

「ねえ、レオ兄さん。僕も浮遊呪文、もっと上手になりたい!」

 

「もちろん。練習すれば、きっと上達するよ」

 

「本当!?」

 

「うん。ただ、呪文は正しく使うことが大切だからね。急いで上達しようとしなくても大丈夫だよ」

 

「わかった! 僕、頑張る!」

 

 ハリーは拳を握りしめた。

 

 ハーマイオニーも勢いよく頷く。

 

「私も! もっといろいろな呪文を練習したいわ!」

 

「俺もやるよ。昨日みたいなことが、またあるとは思わないけど……いざってときに、何もできないのは嫌だからな」

 

 ロンの言葉に、ハリーとハーマイオニーは真剣な表情で頷いた。

 

 レオは三人を見回し、優しく微笑んだ。

 

「それじゃあ、次の休み時間に、練習できる場所を探そうか。先生たちに迷惑をかけないように、安全な場所でね」

 

「やったあ!」

 

 ハリーの声が、明るい廊下に響いた。

 

     ◇

 

 その日の午後、四人は授業の合間に空き教室を借り、浮遊呪文の練習をすることになった。

 

 もちろん、レオが勝手に教室を使うわけにはいかないので、担当の先生に事情を説明して許可をもらっている。

 

 教室には使い古された机と椅子が並び、窓際には授業で使われた木製の小箱が置かれていた。

 

「じゃあ、まずは羽根から始めようか」

 

 レオが机の上に白い羽根を置く。

 

「昨日のロンのように大きなものを浮かせるのは、まだ先でいいよ。最初は小さなものを、狙った高さで浮かせる練習から始めよう」

 

「わかった!」

 

 ハリーは杖を構えた。

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ!」

 

 羽根はぴくりとも動かなかった。

 

「……あれ?」

 

 ハリーは杖を見つめる。

 

「もう一回!」

 

 今度は少し力を込めて杖を振った。

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ!」

 

 羽根が、ほんの少しだけ震えた。

 

「おおっ! 動いた!」

 

「ハリー、今のは惜しかったわ!」

 

 ハーマイオニーが身を乗り出す。

 

「でも、杖の振り方が少し大きすぎるの。もっと手首を柔らかく使って……そう、そういう感じ!」

 

「こう?」

 

「そう!」

 

 ハリーはもう一度、慎重に杖を振った。

 

 羽根がふわりと浮かび上がる。

 

「やったあ!」

 

 ハリーは大喜びで飛び跳ねた。

 

「浮いた! 浮いたよ、レオ兄さん!」

 

「うん、上手にできたね、ハリー」

 

 レオが拍手すると、ハリーはますます嬉しそうに笑った。

 

 だが、喜びすぎたせいか、羽根はそのまま天井近くまで上がってしまった。

 

「あっ、待って! 上がりすぎ!」

 

「ハリー、集中して! 高さを保つのよ!」

 

「わ、わかってる!」

 

 ハリーは慌てて杖を動かす。

 

 羽根はふらふらと揺れ、窓のほうへ流れていった。

 

「うわあっ、そっちは駄目だよ!」

 

 ハリーが追いかけようとした、そのとき。

 

 レオが軽く杖を振った。

 

 羽根の動きが止まり、ゆっくりと方向を変える。

 

 まるで見えない指先に導かれているように、羽根は空中を滑り、机の上へ戻ってきた。

 

 とん、と小さな音を立てて、羽根が机に着地する。

 

「……えっ」

 

 ハリーが口を開けた。

 

「今、何をしたの?」

 

 ハーマイオニーは目を輝かせてレオに詰め寄った。

 

「呪文を少し調整したんだよ。浮かせるだけじゃなくて、動きの方向を変えやすくしたんだ」

 

「そんなことができるの!?」

 

「うん。ただ、いつでも同じようにできるとは限らないから、基本の呪文を覚えることが先だね」

 

「呪文の構造を調整して、動きを変える……。それって、以前話してくれた呪文の改変よね!?」

 

「そうだよ」

 

「すごい……!」

 

 ハーマイオニーは胸の前で両手を握りしめた。

 

「ねえ、レオ! その仕組みを、もう少し詳しく教えてくれない?」

 

「もちろん。でも、まずは自分で呪文を使えるようになってから、一緒に考えてみよう」

 

「うん! 絶対に覚えるわ!」

 

 ハーマイオニーは勢いよく頷いた。

 

 その隣で、ロンが羽根を見つめている。

 

「……俺も、あんなふうに動かせるようになるのかな」

 

「なれると思うよ。最初から完璧にできる人なんて、ほとんどいないからね」

 

 レオの言葉に、ロンは少しだけ表情を和らげた。

 

「そっか。じゃあ、練習するしかないな」

 

「そうそう!」

 

 ハリーが元気よく頷いた。

 

「僕も、もっと頑張る! 次は羽根を天井まで飛ばさないようにするよ!」

 

「いや、そこは最初から飛ばさないようにしろよ!」

 

 ロンが突っ込む。

 

「えへへ、そうだね!」

 

 ハリーは頭をかいた。

 

 ハーマイオニーは笑いながら、ノートに何かを書き込んでいる。

 

 レオはそんな三人を見て、楽しそうに微笑んだ。

 

 教室の窓から差し込む午後の日差しは、柔らかく温かかった。

 

 昨日は、恐ろしいトロールを前に、三人とも必死だった。

 

 けれど今は、同じ机を囲み、互いに教え合い、失敗しては笑っている。

 

 友達になるというのは、きっとこういうことなのだろう。

 

 誰かが困ったときには手を貸し、できたことがあれば一緒に喜ぶ。

 

 レオはその光景を眺めながら、静かに思った。

 

 ハリーは、もう一人で頑張らなくてもいい。

 

 彼には、隣で笑ってくれる友達がいる。

 

 そして、その友達もまた、ハリーと一緒に少しずつ成長していくのだ。

 

「よし! 次はロンの番だね!」

 

 ハリーが羽根を差し出す。

 

「おう。今度はもっと上手くやってやる!」

 

 ロンは杖を握り、真剣な顔で構えた。

 

「ウィンガーディアム・レビオーサ!」

 

 羽根が、ふわりと浮かび上がった。

 

「できた!」

 

「ロン、すごいわ!」

 

「本当だ! 今度はちゃんと浮いたね!」

 

 ハリーとハーマイオニーが歓声を上げる。

 

 ロンは照れくさそうに笑った。

 

「へへっ。まあ、これくらいな!」

 

「ロン、嬉しいなら素直に喜んだら?」

 

「うるさいな、ハーマイオニー!」

 

「ふふっ!」

 

 ハーマイオニーが笑い、ハリーも笑う。

 

 レオも、声を立てて笑った。

 

 その日の空き教室には、何度も呪文の声と、失敗したときの悔しそうな声、成功したときの明るい歓声が響いていた。

 

 ハロウィーンの夜に生まれた三人の絆は、まだ始まったばかり。

 

 けれど、それはもう、昨日までとは違う確かなものになりつつあった。

 

 

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