ハリーポッターと頼れる天才従兄   作:夜幻

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第17話 箒にかけられた呪いと、天才従兄の見抜いた違和感

ホグワーツにハロウィーンの夜が訪れてから、数日が過ぎた。

 

 ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は、すっかり一緒に行動するようになっていた。

 

 授業が終われば宿題を見せ合い、空き時間には図書館へ向かう。時にはロンがチェス盤を持ち出し、ハリーが駒の動きに目を輝かせ、ハーマイオニーが「静かにして!」と注意することもあった。

 

 そして、レオが顔を出すと、三人は決まって彼の周りに集まった。

 

「レオ兄さん、聞いてよ! 今日、ロンがチェスで僕に勝ったんだ!」

 

「そりゃあ、俺のほうが強いからな!」

 

「でも、ハリーもずいぶん上手になってきたね」

 

「本当!? やった!」

 

「レオ、ロンを褒めるなら、ハリーのこともちゃんと褒めてあげて!」

 

 ハーマイオニーが勢いよく身を乗り出す。

 

「もちろん。ハリーもよく頑張っているよ」

 

「えへへ……!」

 

 ハリーが嬉しそうに頬を緩めた。

 

「……もう、ハリーったら。そんなにすぐ喜ぶんだから」

 

 ハーマイオニーは呆れたように言いながらも、口元には笑みが浮かんでいる。

 

 そんな賑やかな毎日が続く中、グリフィンドールに大きな知らせが舞い込んできた。

 

 ハリーが、クィディッチの選手に選ばれたのだ。

 

     ◇

 

「ハリーがシーカー!?」

 

 グリフィンドールの談話室に、ロンの大声が響いた。

 

「そうなんだ! マクゴナガル先生が、僕を見てくれていたみたいで!」

 

 ハリーは興奮を隠しきれず、両手を握りしめていた。

 

「すごいじゃないか! グリフィンドールのチームに入るなんて、普通はもっと上級生になってからだぞ!」

 

「うん! 僕もびっくりしたよ!」

 

「ねえ、シーカーって何をする役なの?」

 

 ハーマイオニーが尋ねた。

 

「クィディッチは七人で戦う競技なんだ。シーカーは、金色の小さなボール――金のスニッチを捕まえる役目だよ」

 

 説明したのは、近くにいたレオだった。

 

「スニッチを捕まえると、百五十点が入って試合が終わるんだ。だから、シーカーの役割はとても大きいんだよ」

 

「百五十点!?」

 

 ハーマイオニーが目を丸くする。

 

「そんなに差がつくの? それなら、シーカーが試合の勝敗を左右することも多いのね!」

 

「そうだね。もちろん、ほかの選手の活躍も大切だけど」

 

「うわあ……!」

 

 ハリーはますます目を輝かせた。

 

「僕、頑張るよ! 絶対にスニッチを捕まえてみせる!」

 

「いい意気込みだね。でも、無理はしないこと。空を飛ぶときは、周囲をよく見てね」

 

 レオは笑顔でそう言った。

 

「わかってるよ、レオ兄さん!」

 

「本当にわかってるのか?」

 

 ロンが横から口を挟む。

 

「ハリーは夢中になると、周りが見えなくなるからな」

 

「ええっ!? そんなことないよ!」

 

「昨日だって、図書館で本を読みながら歩いて、柱にぶつかりかけてただろ」

 

「あれは本に夢中だっただけだよ!」

 

「それを周りが見えてないって言うんだよ!」

 

「むう……!」

 

 ハリーは頬を膨らませた。

 

 ハーマイオニーがくすくすと笑う。

 

「でも、ロンの言うことも一理あるわ。ハリー、試合では落ち着いて行動すること。あなたが怪我をしたら、私だって心配なんだから」

 

「ハーマイオニー……!」

 

 ハリーは嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう! でも、大丈夫だよ。僕、ちゃんと気をつけるから!」

 

「……もう。そういうところが心配なのよ」

 

 ハーマイオニーは額に手を当てた。

 

 その様子を見て、レオは穏やかに微笑んだ。

 

「ハリーなら、きっといいシーカーになれるよ。僕も応援しているからね」

 

「うん!」

 

 ハリーの返事は、談話室いっぱいに響くほど元気だった。

 

     ◇

 

 翌日。

 

 クィディッチの練習が始まる前に、レオはグリフィンドールのクィディッチチームの主将、オリバー・ウッドと話をする機会があった。

 

「ハリーのことを、よろしくお願いします」

 

 レオがそう言うと、ウッドは少し驚いた顔をした。

 

「君はハリーの従兄か?」

 

「はい。レオ・スカマンダーです」

 

「ああ、君が噂のレイブンクローの一年生か。授業でずいぶん活躍しているそうだな」

 

「いえ、僕はまだまだですよ」

 

 レオは照れくさそうに笑った。

 

 ウッドはハリーのほうへ視線を向ける。

 

「ポッターには期待している。あの飛行技術は一年生とは思えないからな」

 

「そうですね。ハリーは昔から空を飛ぶことに憧れていました」

 

「それなら、なおさら楽しみだ。よし、今日も練習を始めよう!」

 

 ウッドが声を張り上げる。

 

 ハリーは箒を抱え、元気よく返事をした。

 

「はい!」

 

 レオは観客席の端に腰を下ろした。

 

 グラウンドには冷たい風が吹き、芝生の上を落ち葉が転がっている。空には薄い雲が流れ、遠くの森が秋色に染まっていた。

 

 選手たちが次々と箒にまたがり、地面を蹴る。

 

 ハリーも軽やかに飛び上がった。

 

「おおっ……!」

 

 ロンが思わず声を漏らす。

 

「やっぱり、ハリーは飛ぶのが上手だな!」

 

 ハリーは風を切りながら、グラウンドの上空を滑るように飛んでいた。急な方向転換も、速度の調整も自然だ。初めて箒に乗ったときから感じていた才能が、練習を重ねることでさらに磨かれている。

 

 ハーマイオニーも、目を輝かせて空を見上げた。

 

「本当にすごいわ……! あんな速度で飛んでいるのに、どうしてあんなに安定しているのかしら?」

 

「ハリーは、飛んでいるときの感覚をつかむのが上手なんだと思うよ」

 

 レオは答えた。

 

「体で風を感じて、箒の動きに合わせているんだ。頭で考えるだけじゃなくて、自然に反応できているんだろうね」

 

「なるほど……!」

 

 ハーマイオニーはすぐにノートを取り出しかけ、慌てて手を止めた。

 

「……あっ、今は見ている場合よね!」

 

 その言葉に、ロンが笑った。

 

「ハーマイオニー、何でも記録しようとするんだな」

 

「だって、知りたいことがたくさんあるんだもの!」

 

「はいはい」

 

「ロン!」

 

 二人のやり取りを聞きながら、レオはグラウンドへ目を戻した。

 

 ハリーはウッドの指示に従い、何度も急旋回を繰り返している。

 

 その飛び方に危なっかしさはない。

 

 少なくとも、今のところは。

 

     ◇

 

 練習が終わると、ハリーは頬を赤くして戻ってきた。

 

「どうだった、ハリー!」

 

 ロンが駆け寄る。

 

「すっごく楽しかった! ウッドも、僕の飛び方を褒めてくれたんだ!」

 

「やっぱりな!」

 

「レオ兄さんも見てくれた?」

 

「うん。とても上手だったよ」

 

「本当!?」

 

「本当だよ」

 

 レオが頷くと、ハリーは嬉しそうに笑った。

 

 そのとき、ウッドがハリーの肩を叩いた。

 

「ポッター、次の練習はもっと実戦に近い動きをやるぞ。シーカーはスニッチを見つけるだけじゃない。相手の動きにも注意しなければならないからな」

 

「はい!」

 

「それと、箒の手入れも忘れるなよ。道具を大切にすることも選手の仕事だ」

 

「わかりました!」

 

 ウッドは満足そうに頷き、ほかの選手たちのもとへ戻っていった。

 

 ハリーは自分の箒を抱え直し、嬉しそうにその柄を撫でた。

 

「この箒で、いつか試合に出るんだなあ……」

 

「うん。でも、練習を重ねてからだね」

 

 レオが言う。

 

「それはわかってるよ! 僕、ちゃんと練習する!」

 

 ハリーは胸を張った。

 

 その笑顔を見て、レオも嬉しくなった。

 

 ところが。

 

 グラウンドを離れようとしたとき、レオの視線が、ふとハリーの箒に止まった。

 

 柄の部分。

 

 木目に沿って、ごく薄い魔力の揺らぎが走っている。

 

 ほんの一瞬だった。

 

 風の流れとも違う、魔法が残した痕跡。

 

 レオは足を止めた。

 

「……ハリー」

 

「ん? どうしたの、レオ兄さん?」

 

「その箒、少し見せてもらってもいいかな?」

 

「いいよ!」

 

 ハリーは何の疑いもなく箒を差し出した。

 

 レオは受け取ると、柄を軽く指でなぞった。

 

 見た目には何の変哲もない箒だ。

 

 しかし、魔力の流れを注意深く追うと、かすかな乱れが感じられる。

 

 自然に生まれたものではない。

 

 何者かが、意図的に魔法を施した痕跡だった。

 

「……レオ?」

 

 ロンが不思議そうに覗き込む。

 

「何かあったのか?」

 

「うん。少し気になることがあってね」

 

 レオは箒を持ち直した。

 

 ハーマイオニーがすぐに表情を引き締める。

 

「気になることって?」

 

「まだ、はっきりとはわからないんだ。でも、この箒には、普通とは違う魔力の流れが残っている」

 

「魔力の流れ?」

 

 ハリーは自分の箒を見つめた。

 

「それって、悪いことなの?」

 

「今の段階では、断言できないよ」

 

 レオはハリーを不安にさせないよう、優しく答えた。

 

「箒そのものに問題がある可能性もあるし、何か別の魔法が影響しているのかもしれない。だから、先生に確認してもらおう」

 

「……うん、わかった」

 

 ハリーは少し心配そうに頷いた。

 

「でも、僕の箒、壊れちゃうのかな……」

 

「大丈夫。原因がわかれば、対処できるかもしれないからね」

 

 レオはハリーの肩を軽く叩いた。

 

「それに、ハリーが悪いことをしたわけじゃないんだ。心配しすぎなくていいよ」

 

「そうだよね!」

 

 ハリーは少しだけ表情を明るくした。

 

 だが、ハーマイオニーはまだ納得できない様子だった。

 

「レオ、魔法の痕跡が残っているって、具体的にはどういうことなの? 箒に何かの呪文がかけられている可能性があるの?」

 

「その可能性はあるね。けれど、今ここで無理に調べるより、先生に見てもらったほうが安全だと思う」

 

「……そうね。わかったわ」

 

 ハーマイオニーは真剣に頷いた。

 

 ロンも眉を寄せていた。

 

「でも、誰がそんなことを……?」

 

「それは、まだわからないよ」

 

 レオは静かに答えた。

 

 彼は箒を抱えたハリーを見つめた。

 

 今のところ、ハリーに危険が及んだわけではない。

 

 けれど、もしこの魔力の乱れが、飛行中に何かを引き起こすものだとしたら。

 

 それだけは、見過ごせなかった。

 

     ◇

 

 その日の夕方。

 

 レオは箒を持って、マクゴナガル先生を訪ねた。

 

 教員室の前でノックすると、ほどなくして返事があった。

 

「どうぞ」

 

「失礼します、マクゴナガル先生」

 

 レオは礼儀正しく頭を下げた。

 

「スカマンダー君? どうしましたか」

 

「少しご相談したいことがあります。ハリーの箒についてです」

 

 その名前を聞いた瞬間、マクゴナガル先生の表情が引き締まった。

 

「ポッターの箒?」

 

「はい。今日、練習を見学していたときに、魔力の流れに不自然な乱れを感じました。僕の勘違いかもしれませんが、一度確認していただきたいんです」

 

 レオは箒を差し出した。

 

 マクゴナガル先生は受け取ると、柄を確かめ、杖を取り出した。

 

 短い呪文を唱え、箒に魔法をかける。

 

 しばらくして、彼女の眉間にしわが寄った。

 

「……確かに、妙ですね」

 

「やはり、何かありますか?」

 

「まだ詳しいことはわかりません。しかし、自然に生じた魔力の乱れとは思えませんね」

 

 マクゴナガル先生は箒を机の上に置いた。

 

「スカマンダー君、よく気づきました。あなたが見つけてくれなければ、見過ごしていた可能性があります」

 

「いえ。僕はただ、気になっただけです」

 

「その『気になった』という感覚を大切にしなさい。魔法使いにとって、違和感に気づくことは重要です」

 

「はい、先生」

 

 レオは真剣に頷いた。

 

 マクゴナガル先生は少し考え込んでから、続けた。

 

「この件は、私から校長にも報告しておきます。ポッターには、調査が済むまで箒を使わないよう伝えましょう」

 

「ありがとうございます」

 

「それから、スカマンダー君」

 

「はい?」

 

「あなた自身も、無理に原因を突き止めようとしないこと。あなたの能力は優れていますが、すべてを一人で解決する必要はありません」

 

 レオは一瞬、目を瞬かせた。

 

 それから、少し照れくさそうに笑った。

 

「……はい。気をつけます」

 

 マクゴナガル先生は、わずかに表情を和らげた。

 

「よろしい。では、今日はもう戻りなさい」

 

「失礼します」

 

 レオはもう一度頭を下げ、教員室を後にした。

 

 廊下を歩きながら、彼は窓の外へ目を向けた。

 

 夕日が城の塔を赤く染め、遠くのグラウンドでは、何人かの生徒が箒を片づけている。

 

 ハリーは、飛ぶことが大好きだ。

 

 初めて箒に乗ったときの笑顔を、レオはよく覚えている。

 

 あの笑顔を曇らせるようなことは、できるだけ避けたい。

 

 もちろん、危険をすべて取り除くことはできないだろう。

 

 ハリー自身が挑戦し、失敗し、成長していくことも大切だ。

 

 けれど、誰かの悪意によって傷つけられる必要はない。

 

「……早く原因がわかるといいな」

 

 レオは小さく呟いた。

 

     ◇

 

 翌朝。

 

 ハリーたちが朝食を終えようとしていたところへ、レオがやってきた。

 

「おはよう、みんな」

 

「レオ兄さん!」

 

 ハリーはすぐに顔を上げた。

 

「昨日の箒、どうだった?」

 

「マクゴナガル先生に確認してもらったよ。やっぱり、少し不自然な魔力の乱れがあったみたい」

 

「そっか……」

 

 ハリーの肩が落ちた。

 

「じゃあ、僕、しばらく箒に乗れないの?」

 

「調査が終わるまでは使わないほうがいいそうだよ。でも、原因がわかれば、また乗れるようになると思う」

 

「……わかった」

 

 ハリーは残念そうにしながらも、素直に頷いた。

 

「早く乗れるようになるといいなあ」

 

「うん。僕もそう思うよ」

 

 レオは優しく微笑んだ。

 

 すると、ハーマイオニーが身を乗り出した。

 

「先生たちは、誰かが呪文をかけた可能性についても調べているの?」

 

「その可能性も含めて、確認してくれると思う」

 

「そう……。誰かがわざとやったのなら、絶対に許せないわ」

 

 ハーマイオニーは眉を吊り上げた。

 

「ハリーは何も悪いことをしていないのに!」

 

「ありがとう、ハーマイオニー」

 

 ハリーは嬉しそうに笑った。

 

「でも、まだ誰がやったのかわからないんだから、決めつけるのはやめようよ」

 

「……そうね。あなたの言うとおりだわ」

 

 ハーマイオニーは少し恥ずかしそうに頷いた。

 

 ロンは腕を組んで考え込んでいた。

 

「もし誰かがハリーを狙ってるんだとしたら、嫌な話だな……」

 

「うん。でも、今は先生たちに任せよう」

 

 レオがそう言うと、ロンも頷いた。

 

「そうだな。俺たちだけで考えても、わからないことだらけだし」

 

「それに、ハリーが箒に乗れない間は、別の練習をすればいいんだよ」

 

 レオはハリーに向き直った。

 

「飛行の技術は、箒に乗っていないときにも学べるからね。試合のルールを覚えたり、選手の動きを研究したり」

 

「……そっか!」

 

 ハリーの表情がぱっと明るくなった。

 

「そうだよね! 乗れないなら、今のうちにできることをやればいいんだ!」

 

「その意気よ、ハリー!」

 

 ハーマイオニーが笑顔で頷いた。

 

「私もクィディッチの本を探してみるわ。ルールや戦術について書かれた本があれば、役に立つと思うの!」

 

「俺も読むよ。まあ、分厚い本は苦手だけど……」

 

「ロン、苦手だからって最初から諦めちゃ駄目よ!」

 

「はいはい、わかったよ!」

 

 ロンは苦笑した。

 

 ハリーは三人を見回し、心から嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう、みんな! 僕、絶対にまた箒に乗れるようになるよ!」

 

「うん」

 

 レオは頷いた。

 

 その笑顔を見て、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 

 不自然な魔力の痕跡。

 

 それが何を意味するのか、まだわからない。

 

 けれど、今はハリーが前を向いている。

 

 それなら、まずはその気持ちを大切にしたかった。

 

 レオはいつものように微笑み、三人に声をかけた。

 

「それじゃあ、今日も授業を頑張ろうか」

 

「うん!」

 

「おう!」

 

「もちろんよ!」

 

 三人の元気な返事が、大広間に響いた。

 

 秋の朝の光が、高い窓から差し込んでいる。

 

 ホグワーツの一日は、今日も賑やかに始まろうとしていた。

 

 

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