ハリーポッターと頼れる天才従兄   作:夜幻

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第19話 初めてのクィディッチ、空を駆ける黄金のスニッチ

ホグワーツに、冷たい風が吹き始めた。

 

 朝の大広間では、窓の向こうに広がる灰色の空を見ながら、生徒たちが今日の天気について話している。クィディッチの試合が近づいていることもあり、グリフィンドールのテーブルはいつも以上に賑やかだった。

 

「いよいよ明日だな、ハリー!」

 

 ロンがパンを持ったまま、興奮した様子で身を乗り出した。

 

「うん! 僕、ずっと楽しみにしてたんだ!」

 

 ハリーは満面の笑みで頷く。

 

 先日、箒に残された魔法の痕跡が見つかったことで、一時は練習を控えることになった。しかし、その後の調査で、ハリーが使用する予定だった箒とは別に、試合用の箒が用意されることになったのだ。

 

 もちろん、マクゴナガル先生とウッドの確認を受け、安全面に問題がないことも確かめられている。

 

「ハリー、嬉しいのはわかるけど、朝食を食べながら飛び跳ねないで!」

 

 ハーマイオニーが注意した。

 

「えっ、僕、飛び跳ねてた?」

 

「椅子が揺れているでしょう!」

 

「わっ、本当だ!」

 

 ハリーは慌てて椅子に座り直した。

 

 ロンが吹き出す。

 

「ははっ! 試合前からそんなに興奮してたら、明日はどうなるんだよ!」

 

「だって、初めての試合だよ!? 楽しみじゃないか!」

 

「まあ、そりゃあそうだけどさ!」

 

 二人が笑い合う。

 

 その様子を見ていたハーマイオニーも、呆れたように息をつきながら、どこか嬉しそうだった。

 

「……とにかく、今日は早めに寝ること。睡眠不足で試合に出るなんて駄目だからね」

 

「わかったよ、ハーマイオニー!」

 

「本当にわかってるのかしら……」

 

 ハーマイオニーは眉を寄せたものの、ハリーの弾むような笑顔を見ると、それ以上は何も言えなくなった。

 

 そこへ、レイブンクローのテーブルからレオがやってきた。

 

「おはよう、みんな」

 

「レオ兄さん!」

 

 ハリーがぱっと顔を輝かせた。

 

「聞いて! 明日、僕の初めての試合なんだ!」

 

「うん。楽しみにしているよ」

 

「レオ兄さんも見に来てくれる?」

 

「もちろん。ハリーの初試合だからね」

 

「やったあ!」

 

 ハリーは思わず両手を握りしめた。

 

 レオはその反応に笑みをこぼし、ハリーの頭を軽く撫でる。

 

「でも、今日はちゃんと休むんだよ。楽しみなのはわかるけど、明日は集中力も必要だからね」

 

「うん! 絶対に頑張る!」

 

「それと、何よりも安全第一。勝つことも大切だけど、怪我をしないことが一番だよ」

 

「わかってるよ、レオ兄さん!」

 

 ハリーは元気よく答えた。

 

 その隣で、ロンが腕を組む。

 

「ハリーなら大丈夫だって。あいつ、飛ぶのは本当に上手いからな!」

 

「そうだね。僕もそう思うよ」

 

 レオが頷くと、ロンは少し誇らしげに胸を張った。

 

 ハーマイオニーは三人の顔を順番に見てから、ふと何かを思い出したように声を上げた。

 

「あっ、そうだ! レオ、昨日教えてくれたクィディッチの戦術なんだけど……」

 

「うん?」

 

「シーカーがスニッチを探すとき、相手の選手だけじゃなくて、観客席や日差しの位置も考慮したほうがいいのよね?」

 

「そうだね。光の反射でスニッチを見失うこともあるから」

 

「やっぱり! それなら、飛ぶ高さによって見え方も変わるはずだわ!」

 

 ハーマイオニーの目が輝いた。

 

「ねえ、ハリー。試合のときは、太陽の位置も意識してみて!」

 

「うん! 覚えておくよ!」

 

「……ああ、もう。ハーマイオニーは本当に勉強熱心だな」

 

 ロンは感心したように言った。

 

「何か問題でもあるの?」

 

「いや、別に! 俺もちゃんと覚えるよ!」

 

「ならいいけど」

 

 ハーマイオニーは満足そうに頷いた。

 

 レオはそんな三人を眺めながら、穏やかに微笑んだ。

 

 明日はハリーにとって、大切な一日になる。

 

 だからこそ、余計な心配をせず、思い切り楽しんでほしかった。

 

     ◇

 

 翌日。

 

 ホグワーツのクィディッチ競技場には、朝から多くの生徒が集まっていた。

 

 グリフィンドールとスリザリンの試合。

 

 観客席には寮ごとの旗が掲げられ、色鮮やかな飾りが風にはためいている。生徒たちはそれぞれのチームの名前を叫び、競技場全体が熱気に包まれていた。

 

「グリフィンドール、頑張れー!」

 

 ロンが声を張り上げた。

 

 隣ではハーマイオニーが両手を握りしめ、落ち着かない様子で競技場を見つめている。

 

「ハリー、大丈夫かしら……。初めての試合なのに、あんなにたくさんの人が見ているなんて!」

 

「ハリーなら大丈夫だよ」

 

 レオは穏やかに答えた。

 

「練習のときも、あれだけ上手に飛べていたからね」

 

「そうだけど……!」

 

 ハーマイオニーは唇を結び、また競技場へ目を戻した。

 

 彼女はハリーの活躍を楽しみにしていた。

 

 それでも、もし何かあったらと思うと、胸の奥が落ち着かない。

 

 そのとき、選手たちが競技場へ入場してきた。

 

 グリフィンドールの選手たちが赤と金のユニフォームを身にまとい、箒を手にして整列する。

 

 その中に、ハリーの姿があった。

 

「ハリー!」

 

 ロンが大きく手を振る。

 

 ハリーは観客席を見上げ、三人を見つけると、満面の笑みで手を振り返した。

 

「レオ兄さーん! ロン! ハーマイオニー!」

 

「ハリー! 頑張ってー!」

 

 ハーマイオニーも、思わず立ち上がって声を上げた。

 

 頬が赤くなっていることにも気づかず、両手を大きく振る。

 

「絶対に無理しないでねー!」

 

「ハーマイオニー、それ応援になってるのか?」

 

 ロンが笑う。

 

「なってるわよ!」

 

「そ、そうか!」

 

 レオは二人のやり取りに微笑みながら、競技場へ視線を戻した。

 

 選手たちは箒にまたがり、審判のマダム・フーチの合図を待っている。

 

 やがて、鋭い笛の音が響いた。

 

「試合開始!」

 

 ボールが空中へ放たれ、選手たちが一斉に飛び立つ。

 

 観客席から、地鳴りのような歓声が上がった。

 

     ◇

 

 試合は、序盤から激しい展開になった。

 

 クアッフルを巡ってチェイサーたちが空を駆け、ブラッジャーが唸りを上げながら飛び回る。

 

 ハリーは高い位置を飛びながら、金のスニッチを探していた。

 

 目を凝らし、空を見渡す。

 

 日差しの反射。選手たちの動き。観客席の旗が揺れる音。

 

 さまざまなものが視界に入ってくる。

 

 けれど、ハリーは慌てなかった。

 

 焦らず、よく見る。

 

 レオやハーマイオニーと話したことを思い出しながら、周囲を観察していく。

 

「頑張れ、ハリー!」

 

 観客席からロンの声が飛んだ。

 

 ハリーは声のしたほうへ一瞬だけ目を向け、すぐに前を向く。

 

 そのときだった。

 

 視界の端で、金色の光がきらりと瞬いた。

 

「……あっ!」

 

 ハリーは目を見開いた。

 

 スニッチだ。

 

 小さな金色のボールが、観客席の近くをすり抜け、競技場の端へ飛んでいく。

 

 ハリーは箒を傾けた。

 

 風が頬を打つ。

 

 身体を低くし、スニッチの軌道を追いかける。

 

「行け、ハリー!」

 

 ロンが叫んだ。

 

「見つけたわ! ハリーがスニッチを見つけた!」

 

 ハーマイオニーも身を乗り出した。

 

 レオは静かに空を見上げていた。

 

 ハリーの飛行は見事だった。

 

 スニッチの急な方向転換にも、遅れることなく反応している。箒の動きを無理にねじ曲げず、身体の重心を移しながら追いかけている。

 

 このままなら、捕まえられる。

 

 そう思った瞬間だった。

 

 ハリーの箒が、突然大きく揺れた。

 

「……え?」

 

 ハーマイオニーが息を呑む。

 

 ハリーの身体がぐらりと傾いた。

 

 箒の先端が不自然に跳ね上がり、今度は急激に横へ流れる。

 

「ハリー!?」

 

 ロンが叫んだ。

 

 ハリーは必死に箒の柄を握り直した。

 

「うわっ! な、何だよ、これ!」

 

 箒が言うことを聞かない。

 

 右へ傾けようとしても、反対方向へ引っ張られる。身体を安定させようとしても、柄が細かく震え続ける。

 

 ハリーは歯を食いしばった。

 

 怖い。

 

 地面が遠い。

 

 観客席の歓声が、急に遠くなった気がした。

 

 それでも、手を離すわけにはいかない。

 

「ハリー、しっかりして!」

 

 ハーマイオニーの悲鳴が聞こえた。

 

 ハリーは必死に姿勢を立て直そうとした。

 

 だが、箒はまるで見えない誰かに引っ張られているかのように、激しく揺れ続けた。

 

     ◇

 

 観客席では、騒ぎが広がっていた。

 

「おい、あの箒、どうなってるんだ!?」

 

「ポッターが落ちそうだぞ!」

 

 生徒たちが立ち上がり、競技場を指さす。

 

 ロンは顔面蒼白になっていた。

 

「ハリー! おい、ハリー!」

 

 何度叫んでも、ハリーには届かない。

 

 ハーマイオニーは口元を押さえ、今にも泣き出しそうな顔で空を見つめていた。

 

「そんな……! どうして、あんな動きに……!」

 

 レオはすぐに箒の状態を見極めようとした。

 

 視線を集中させ、空中のハリーと、その箒に流れる魔力を捉える。

 

 ――やはり。

 

 あのとき教員室で見た、不自然な魔力の流れ。

 

 それが、今になって強く揺れ動いている。

 

 箒にかけられた魔法が、飛行を妨げているのだ。

 

 しかも、ただの不具合ではない。

 

 ハリーがスニッチを追いかける動きに合わせて、箒の制御を乱している。

 

 レオの表情から、柔らかな笑みが消えた。

 

「……先生方は、何をしているんだ」

 

 思わず漏れた声は、いつもの穏やかな調子ではなかった。

 

 もちろん、今ここで誰かを責めても仕方がない。

 

 だが、ハリーが危険な目に遭っている。

 

 それだけで、胸の奥が強く締めつけられた。

 

 レオは杖を取り出しかけた。

 

 しかし、競技場の中央では、スネイプ先生が箒に乗ったハリーを見上げながら、何かを呟いている。

 

 その視線は、ハリーから離れていない。

 

 レオは目を細めた。

 

 スネイプ先生の口元が動くたび、彼の杖先から魔力が放たれているように見えた。

 

 あの魔力は、ハリーの箒を乱しているものと似ている。

 

 だが、同じではない。

 

 むしろ、乱れた箒の動きを抑えようとしているようにも感じられた。

 

「……スネイプ先生が、助けようとしている?」

 

 レオは呟いた。

 

 まだ断定はできない。

 

 けれど、目の前の光景だけで誰かを犯人だと決めつけることはできなかった。

 

 そのとき、ハリーの身体が大きく傾いた。

 

「ハリー!」

 

 レオは思わず立ち上がった。

 

 ハーマイオニーが悲鳴を上げ、ロンが手すりを握りしめる。

 

 箒が急上昇し、ハリーの身体が後ろへ反り返った。

 

 観客席から、いくつもの悲鳴が上がった。

 

 もう、待っていられない。

 

 レオは杖を強く握りしめた。

 

 ハリーを助ける。

 

 それが、今の自分にできることだった。

 

     ◇

 

 その瞬間、ハリーは自分の手が滑りかけていることに気づいた。

 

「うわああっ!」

 

 箒が激しく揺れ、身体が宙へ投げ出されそうになる。

 

 怖い。

 

 落ちたくない。

 

 まだ、何もできていない。

 

 初めての試合なのに。

 

 みんなが応援してくれているのに。

 

 そんな思いが頭の中を駆け巡った。

 

 ハリーは歯を食いしばり、必死に箒へしがみついた。

 

「お願いだから、言うことを聞いてよ!」

 

 その声が風に散った直後、箒の揺れが一瞬だけ弱まった。

 

 ハリーはその隙を逃さなかった。

 

 身体を低くし、柄を両手で握り直す。

 

 そして、スニッチを探すことをいったん諦め、まずは自分の姿勢を立て直そうとした。

 

 箒の先端が、少しずつ水平に戻っていく。

 

 その様子を見たレオは、すぐに杖を下ろした。

 

 ハリー自身が、立て直そうとしている。

 

 ならば、今は彼の動きを邪魔しないほうがいい。

 

 レオは箒の魔力の乱れを注意深く追い続けた。

 

 やがて、スネイプ先生の杖先から放たれていた魔力が、わずかに強まった。

 

 それと同時に、ハリーの箒の揺れが少しずつ収まっていく。

 

 レオは確信した。

 

 スネイプ先生は、少なくとも今、ハリーを落とそうとしてはいない。

 

 むしろ、何かを防いでいる。

 

 では、誰が?

 

 その答えは、まだ見えなかった。

 

 しかし、ひとつだけ確かなことがある。

 

 ハリーの箒に残っていた魔法は、偶然の不具合などではない。

 

 誰かが、意図を持って仕掛けたものだ。

 

     ◇

 

 長く感じられた数分のあと、ハリーの箒はようやく安定を取り戻した。

 

 ハリーは肩で息をしながら、ゆっくりと高度を下げていく。

 

 地面に降り立った瞬間、膝から力が抜けた。

 

「……はあっ、はあっ……」

 

 箒を握る手が、まだ震えている。

 

 ウッドが真っ先に駆け寄ってきた。

 

「ポッター! 大丈夫か!? どこか痛むところはないか!」

 

「だ、大丈夫です……。ちょっと、びっくりしただけで……」

 

 ハリーは無理に笑おうとした。

 

 けれど、顔色は真っ青だった。

 

「よく頑張ったな。もう飛ばなくていい。ここで休んでいろ」

 

 ウッドはハリーの肩を支え、近くのベンチへ連れていった。

 

 試合は一時中断となり、審判や教師たちが集まってくる。

 

 ロンとハーマイオニーも、観客席から駆け下りてきた。

 

「ハリー!」

 

「ハリー、大丈夫!?」

 

 二人が同時に声を上げる。

 

「うん……。大丈夫だよ」

 

 ハリーは顔を上げた。

 

「ちょっと怖かったけど、もう平気だから」

 

「ちょっとじゃないだろ!」

 

 ロンが叫んだ。

 

「見てるこっちは、心臓が止まるかと思ったんだぞ!」

 

「ロン……」

 

「本当に……本当に、無事でよかった……!」

 

 ロンの声が震えた。

 

 ハリーは驚いたあと、申し訳なさそうに笑った。

 

「ごめん。心配かけちゃったね」

 

「謝るなよ! お前が悪いわけじゃないだろ!」

 

 ロンは思わず声を荒らげた。

 

 その隣で、ハーマイオニーはハリーの手を握りしめていた。

 

「……本当に、よかった……!」

 

 目には涙が浮かんでいる。

 

「もう、あんなことになったら……私、どうしたらいいか……!」

 

「ハーマイオニー、ごめんね」

 

「だから、謝らなくていいの!」

 

 彼女は勢いよく首を振った。

 

「あなたが無事なら、それでいいのよ……!」

 

 ハリーは二人の顔を見て、胸の奥が温かくなった。

 

 怖かった。

 

 本当に怖かった。

 

 けれど、今は二人がそばにいてくれる。

 

 それが、何より嬉しかった。

 

 そこへ、レオが駆け寄ってきた。

 

「ハリー!」

 

「レオ兄さん!」

 

 ハリーは立ち上がろうとしたが、レオはすぐに肩へ手を添えた。

 

「無理に立たなくていいよ。まずは座っていて」

 

「う、うん……」

 

 レオはハリーの顔を確かめ、怪我がないことを確認すると、ようやく息を吐いた。

 

「……よかった。本当に、よかった」

 

 その声には、隠しきれない安堵がにじんでいた。

 

 ハリーは少し驚いたあと、申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「レオ兄さん、心配かけてごめんね」

 

「ハリーが謝ることじゃないよ」

 

 レオはきっぱりと言った。

 

「君は悪くない。だから、自分を責めないでね」

 

「……うん」

 

 ハリーは頷いた。

 

 レオはそっとハリーの頭を撫でた。

 

 その手は、いつもと同じように温かかった。

 

     ◇

 

 しばらくして、マクゴナガル先生がやってきた。

 

「ポッター、怪我がないようで何よりです。念のため、医務室で診てもらいなさい」

 

「はい、先生」

 

「それから、試合は中断します。箒についても、改めて詳しく調べる必要があります」

 

 マクゴナガル先生は、ハリーの箒を見つめた。

 

 その表情は厳しい。

 

 今回の異変は、見過ごせるものではなかった。

 

 レオが一歩前へ出る。

 

「先生。ひとつ、お伝えしたいことがあります」

 

「何ですか、スカマンダー君?」

 

「箒の魔力が乱れていた間、スネイプ先生が杖を使っていました。僕には、ハリーの箒の動きを抑えようとしているように見えました」

 

 マクゴナガル先生は、少し驚いたようにスネイプ先生のほうを見た。

 

 スネイプ先生は不機嫌そうに眉を寄せた。

 

「余計な観察をしていたようだな、スカマンダー君」

 

「すみません。ただ、見えたことをお伝えしただけです」

 

 レオは落ち着いて答えた。

 

 スネイプ先生は鼻を鳴らした。

 

「少なくとも、私はポッターを箒から落とそうとはしていない」

 

「……そうですか」

 

 レオは静かに頷いた。

 

 スネイプ先生はそれ以上何も言わず、ハリーの箒を一瞥してから、その場を離れていった。

 

 ハーマイオニーは、まだ不安そうに眉を寄せている。

 

「でも、どうしてハリーの箒があんなことに……?」

 

「今は、まだわかりません」

 

 マクゴナガル先生は答えた。

 

「校長にも報告し、原因を調べます。皆さんは、憶測で行動しないように」

 

「はい、先生」

 

 ハリーたちは揃って返事をした。

 

 レオも頷いた。

 

 箒に仕掛けられた魔法。

 

 それを止めようとしていたように見えたスネイプ先生。

 

 状況は、思っていたより複雑なのかもしれない。

 

 けれど、今はハリーの安全が確保された。

 

 まずは、それで十分だった。

 

     ◇

 

 夕方。

 

 医務室で診察を終えたハリーは、ロン、ハーマイオニー、レオとともに城へ戻っていた。

 

 窓の外では、夕日が雲の隙間から差し込み、競技場の芝生を橙色に染めている。

 

「……結局、試合は最後までできなかったね」

 

 ハリーが少し残念そうに呟いた。

 

「仕方ないさ。あんなことがあったんだから」

 

 ロンが答える。

 

「そうよ。何より、ハリーが無事だったことが一番大切なんだから」

 

 ハーマイオニーも強く頷いた。

 

「うん。そうだね」

 

 ハリーは笑った。

 

「でも、いつか絶対に、ちゃんと試合に出たいな。今度は箒も大丈夫で、思いっきり飛べる試合に!」

 

「もちろんだよ」

 

 レオが優しく答えた。

 

「ハリーが安全に飛べるようになったら、また応援に行くからね」

 

「本当!?」

 

「約束するよ」

 

「やったあ!」

 

 ハリーは嬉しそうに笑った。

 

 その笑顔を見て、ハーマイオニーもほっとしたように微笑む。

 

「……ハリーって、本当に前向きね」

 

「そうかな?」

 

「そうよ! あんなに怖い思いをしたのに、もう次の試合の話をしているんだもの!」

 

「だって、飛ぶのは楽しいから!」

 

 ハリーは胸を張った。

 

「怖いことがあったからって、飛ぶのを嫌いになりたくないんだ!」

 

 その言葉に、レオは目を細めた。

 

 ハリーらしい。

 

 怖かったことをなかったことにはしない。

 

 それでも、好きなものを諦めようとはしない。

 

 その強さは、きっとこれからもハリーを支えていくだろう。

 

「……うん。ハリーなら、きっと大丈夫だよ」

 

 レオはそう言って、ハリーの肩を軽く叩いた。

 

 ハリーは嬉しそうに頷いた。

 

 ロンが大きく伸びをする。

 

「よし! 今日はもう難しい話は終わりだ! 腹が減った!」

 

「ロン、さっき医務室でお菓子を食べていたでしょう!?」

 

「少しだけだろ!」

 

「少しって、包み紙が三つもあったじゃない!」

 

「それは、その……」

 

 ロンが言葉に詰まり、ハリーが笑い出す。

 

「ロン、そんなにお腹が空いてるなら、夕食をいっぱい食べようよ!」

 

「おう! それがいい!」

 

「もう、二人とも……!」

 

 ハーマイオニーは呆れながらも、とうとう笑ってしまった。

 

 レオも声を立てて笑う。

 

 四人の笑い声が、夕暮れの廊下に響いた。

 

 ハリーの箒に何が起きたのか。

 

 誰が、何のためにあの魔法を仕掛けたのか。

 

 その答えは、まだ明らかになっていない。

 

 けれど、今夜はそれ以上考えなくてもいい。

 

 ハリーは無事だった。

 

 そして、隣には心配してくれる友達がいて、いつでも手を差し伸べてくれる従兄がいる。

 

 その温かさを胸に、ハリーは三人と一緒に大広間へ向かった。

 

 明日になれば、また授業がある。

 

 宿題もあるし、覚えなければならない呪文もたくさんある。

 

 それでも、きっと大丈夫。

 

 ハリーはそう信じて、いつものように明るく笑った。

 

 

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