ハリーポッターと頼れる天才従兄   作:夜幻

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第21話「みぞの鏡と、見つけたかった幸せ」

 クィディッチの試合から数日が過ぎた。

 

 ハリーの箒に起きた異常については、マクゴナガル先生たちが引き続き調査を進めていた。しかし、決定的な証拠はまだ見つかっていない。

 

 ハリー自身は、相変わらず元気だった。

 

「よーし、今日こそ宿題を終わらせるぞ!」

 

 グリフィンドールの談話室で、ハリーは教科書を開きながら大きく宣言した。

 

「昨日も同じこと言ってなかったか?」

 

 隣でチェス盤を並べていたロンが、呆れたように笑う。

 

「昨日は昨日! 今日は今日だよ!」

 

「その理屈、絶対おかしいって!」

 

「ええと、二人とも。宿題を始める前に、課題の範囲を確認したほうがいいわよ」

 

 ハーマイオニーが分厚い本を抱えてやってきた。机の上へ本を置くと、彼女はすぐにハリーのノートを覗き込む。

 

「ハリー、羽根ペンを持った? インクは? それから、変身術の課題はちゃんと書き写した?」

 

「えっ……羽根ペンならあるよ。インクもある。課題は……あれ?」

 

 ハリーが鞄をひっくり返す。

 

 教科書、羊皮紙、羽根ペン、途中まで食べたお菓子の包み紙。

 

 しかし、肝心の課題を書き写した羊皮紙が見当たらない。

 

「うそだろ。ハリー、まさか忘れたのか?」

 

「たぶん……!」

 

「もう! 昨日、私が確認したときに、ちゃんと書き写してって言ったでしょう!」

 

「ごめん、ハーマイオニー!」

 

「謝ればいいってものじゃないわ!」

 

 ハーマイオニーは頬を膨らませた。怒っているのは本当だが、困った顔のハリーを見ると、放っておくこともできない。

 

「……仕方ないわね。私のノートを見せてあげるから、今すぐ書き写して」

 

「ありがとう、ハーマイオニー! 助かったよ!」

 

「次からは自分で確認するのよ!」

 

「うん!」

 

 ハリーが嬉しそうに羽根ペンを動かし始めると、ロンがこっそり笑った。

 

「お前、ハーマイオニーがいなかったら、宿題の半分くらいなくしてそうだな」

 

「そんなことないよ!」

 

「昨日、羽根ペンをなくしてたじゃない」

 

「一昨日は教科書を食堂に忘れてたぞ」

 

「二人とも、どうしてそういうことばかり覚えてるの!?」

 

 ハリーが抗議すると、ロンは腹を抱えて笑った。

 

 ハーマイオニーも、怒っていたはずなのに、とうとう口元を緩めてしまう。

 

 そんな賑やかな三人のもとへ、一人の少年がやってきた。

 

「楽しそうだね。何かあったの?」

 

「レオ兄さん!」

 

 ハリーが顔を上げ、ぱっと笑顔になる。

 

 レオは片手に本を持ち、もう片方の手には小さな紙袋を提げていた。

 

「ハリー、宿題は順調?」

 

「うん! 今、ハーマイオニーに助けてもらってるところ!」

 

「それはよかった。ありがとう、ハーマイオニー」

 

「えっ、あ、いえ! 私は別に、普通のことをしただけですから!」

 

 ハーマイオニーは背筋を伸ばし、勢いよく首を横に振った。

 

「それよりレオ、今日はどうしたんだ?」

 

 ロンが尋ねる。

 

「少し図書館で調べものをしていたんだ。帰りに甘いものを見つけたから、みんなにもと思ってね」

 

 レオが紙袋を開くと、蜂蜜の香りがふわりと広がった。

 

「蜂蜜パイだ!」

 

 ハリーの目が輝いた。

 

「わあ、いい匂い! レオ、これどこで買ったんだ?」

 

「厨房の人たちが作ってくれたんだよ。少し多めにもらえたから、よかったら食べて」

 

「やった!」

 

 ロンも大喜びで手を伸ばす。

 

「レオ兄貴、最高!」

 

「ふふ。そんなに喜んでもらえるなら、持ってきた甲斐があったよ」

 

 レオは笑いながら、ハーマイオニーにも一切れ差し出した。

 

「ハーマイオニーもどうぞ」

 

「ありがとう、レオ……!」

 

 彼女は両手で受け取った。蜂蜜パイを見つめる顔には喜びが浮かんでいたが、それ以上に、レオが自分にも気を配ってくれたことが嬉しいらしい。

 

 ハリーたちがパイを食べ始めると、レオは空いている椅子を引いて腰を下ろした。

 

「ところで、最近は図書館で何を調べているんですか?」

 

 ハーマイオニーが、蜂蜜パイを食べ終えるより早く尋ねた。

 

「魔法に関する古い記録だよ。ホグワーツには、普通の教科書には載っていない資料もたくさんあるからね」

 

「古い記録……! それって、古代ルーン文字の資料もありますか?」

 

「もちろん。興味があるなら、今度一緒に見に行こうか」

 

「本当ですか!?」

 

 ハーマイオニーは椅子から身を乗り出した。

 

「ぜひ! ぜひお願いします!」

 

「うん。じゃあ、授業がない日にでも」

 

「はい!」

 

 彼女は満面の笑みを浮かべた。

 

 ロンがハリーの耳元で囁く。

 

「ハーマイオニー、レオ兄貴と一緒に勉強できるってだけで、宿題十個くらい片づけそうだな」

 

「聞こえてるわよ、ロン!」

 

「うわっ!」

 

 ロンが飛び上がり、ハリーが吹き出した。

 

 レオは三人を見て、楽しそうに笑っていた。

 

 その穏やかな時間のあと、ハリーたちは図書館へ向かった。

 

     *

 

 午後の図書館は静かだった。

 

 窓から差し込む淡い光が、長い机と本棚を照らしている。古い羊皮紙の匂いと、ページをめくる乾いた音が、室内を満たしていた。

 

「ねえ、ハリー。この問題、どう考えた?」

 

 ハーマイオニーがノートを指差す。

 

「ええと……ここで魔法の力を強めればいいんじゃないかな?」

 

「ただ強めるだけでは駄目よ。呪文の意味を理解して、必要なところを正確に変えないと」

 

「うーん、難しいなあ」

 

 ハリーは頭を抱えた。

 

「でも、分かるようになりたいんだ。レオ兄さんがやっている魔法って、すごく不思議だから!」

 

「だったら、基礎から覚えればいいのよ。急いで難しいことをする必要はないわ」

 

 ハーマイオニーは自分の教科書を開き、該当する箇所を探した。

 

「ここに書いてあるわ。呪文の構造を理解するには、まず発音と魔力の流れを正しく把握することが大切だって」

 

「なるほど!」

 

 ハリーは一生懸命に書き写す。

 

 少し離れた席では、レオが古い本を開いていた。

 

 ページの端には、見慣れないルーン文字がいくつも並んでいる。レオは指先で文字をなぞり、時折ノートに短い書き込みをしていた。

 

「レオ、これって何の本?」

 

 ロンが声を潜めて尋ねた。

 

「古い魔法陣の記録だよ。昔の魔法使いたちが、どうやって魔力の流れを安定させていたのか調べているんだ」

 

「魔法陣かあ。なんか難しそうだな」

 

「最初はね。でも、仕組みが分かると面白いよ」

 

 レオは本を少し傾け、ロンにも見えるようにした。

 

「ほら。この部分、同じ形のルーンが繰り返されているだろう?」

 

「本当だ。何か意味があるのか?」

 

「魔力の流れを一定に保つための工夫らしいよ。まだ仮説だけどね」

 

「へえ……」

 

 ロンは感心したように頷いた。

 

「レオ兄貴って、どうしてそんなにいろんなことを知ってるんだ?」

 

「知らないことがたくさんあるから、調べているんだよ」

 

 レオはごく自然に答えた。

 

「分からないことが分かるようになると、嬉しいだろう?」

 

「……ああ、そうだな!」

 

 ロンは笑顔になった。

 

 その言葉を聞いていたハリーも、勢いよく顔を上げる。

 

「僕も、もっと勉強する! いつかレオ兄さんと一緒に、すごい魔法を使えるようになりたい!」

 

「うん。楽しみにしているよ、ハリー」

 

 レオが優しく微笑むと、ハリーは嬉しそうに拳を握った。

 

 そのとき、ハーマイオニーがふと顔を上げた。

 

「……あれ?」

 

「どうしたの、ハーマイオニー?」

 

「今、あそこの本棚の向こうで、誰かが歩いたような気がしたの」

 

 三人が視線を向ける。

 

 本棚の隙間から見える通路には、誰もいなかった。

 

「司書の人じゃないか?」

 

 ロンが言う。

 

「そうかもしれないけど……」

 

 ハーマイオニーは少し首を傾げたものの、すぐにノートへ視線を戻した。

 

 レオも一度だけ本棚のほうを見たが、特に何も言わなかった。

 

 今は、調べものを続ける時間だった。

 

     *

 

 夕食を終えたあと、ハリーたちはグリフィンドールの談話室へ戻った。

 

 暖炉の火がぱちぱちと音を立て、窓の外では夜が深まっている。

 

「今日はいっぱい勉強したなあ!」

 

 ハリーは椅子に深く座り、両腕を上へ伸ばした。

 

「途中で蜂蜜パイを食べて、休憩もしたけどな」

 

 ロンが笑う。

 

「甘いものは大事だよ!」

 

「お前、レオ兄貴に似てきたな」

 

「えっ、そうかな?」

 

「甘いものを見つけたときの顔がそっくりだぞ」

 

「そんなに似てる?」

 

 ハリーは嬉しそうに笑った。

 

「レオ兄さんと似てるなら、僕は嬉しいよ!」

 

 その言葉に、ロンは一瞬だけ表情を和らげた。

 

「……まあ、そうだな。レオ兄貴みたいな従兄がいるのは、うらやましいよ」

 

「えへへ。自慢の従兄なんだ!」

 

 ハリーは胸を張った。

 

 ハーマイオニーは二人の会話を聞きながら、膝の上に置いた本をそっと閉じた。

 

「……ねえ、ハリー」

 

「ん?」

 

「あなた、レオのことが本当に大好きなのね」

 

「うん! 小さいころからずっと一緒だったし、困ったときにはいつも助けてくれたんだ。僕、レオ兄さんがいてくれてよかったって、何度も思ってるよ」

 

 ハリーは少しも照れることなく答えた。

 

「それに、レオ兄さんはすごいんだ。魔法も勉強もできるし、動物のことにも詳しいし、僕が失敗しても怒らないで教えてくれるんだよ!」

 

「……そう」

 

 ハーマイオニーは微笑んだ。

 

 胸の奥が、ほんのり温かくなる。

 

 レオは確かに優しい。知識が豊富で、魔法の腕も抜群。それなのに、自分のことを特別扱いせず、誰に対しても自然に手を差し伸べてくれる。

 

 だからこそ、もっと話したい。

 

 もっと知りたい。

 

 そして、いつか自分も、レオの隣で胸を張れるようになりたい。

 

「私も……もっと勉強しなくちゃ」

 

 ハーマイオニーは本を抱きしめた。

 

「レオに教えてもらうだけじゃなくて、私自身がもっといろんなことを知りたいの」

 

「ハーマイオニーなら、きっとできるよ!」

 

 ハリーは明るく言った。

 

「うん! ありがとう、ハリー!」

 

 ハーマイオニーは笑顔で頷いた。

 

 その夜、レオはレイブンクローの談話室へ戻る前に、三人へ声をかけた。

 

「みんな、今日はよく頑張ったね。夜更かししすぎないようにね」

 

「はーい!」

 

 ハリーが元気よく返事をする。

 

「レオ兄貴もな!」

 

 ロンが付け加えると、レオは少し困ったように笑った。

 

「僕も気をつけるよ。調べものを始めると、つい時間を忘れてしまうからね」

 

「レオもそういうことがあるのね……!」

 

 ハーマイオニーは驚いたように目を見開いた。

 

「あるよ。分からないことがあると、どうしても気になってしまうんだ」

 

「そ、それなら、私も……!」

 

 彼女は勢いよく立ち上がりかけ、慌てて座り直した。

 

「……いえ、何でもないわ!」

 

 レオは不思議そうに首を傾げたが、すぐに笑顔で手を振った。

 

「それじゃあ、また明日」

 

「また明日、レオ兄さん!」

 

「おやすみ、レオ兄貴!」

 

「お、おやすみなさい、レオ!」

 

 レオが談話室を出ていくと、ハリーは満足そうにソファへ背中を預けた。

 

「明日も頑張ろうっと!」

 

「その前に、今日のノートをちゃんと鞄に入れなさいよ!」

 

「わっ、そうだった!」

 

 ハリーが慌てて荷物をまとめ始め、ロンがまた笑う。

 

 暖炉の火は、変わらず温かく燃えていた。

 

 その夜、ハリーは家族と過ごした幼いころの夢を見た。

 

 母アリシアの笑顔。父ロイドの大きな手。そして、いつも隣で笑ってくれたレオの姿。

 

 目が覚めたとき、夢の内容を細かく覚えているかどうかは分からない。

 

 それでも、ハリーの胸には温かな気持ちが残っていた。

 

 ホグワーツでの毎日は、知らないことの連続だ。

 

 不思議な魔法も、難しい授業も、ときには怖い出来事もある。

 

 けれど、そばには友達がいる。

 

 そして、いつだって自分を信じてくれる家族がいる。

 

 だからハリーは、明日も笑顔で歩いていけるのだった。

 

 

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