クリスマス休暇が終わり、ホグワーツに生徒たちが戻ってきた。
雪に覆われた城の中は、休暇前とは少し違う賑やかさに包まれていた。久しぶりに顔を合わせた友人同士が話に花を咲かせ、廊下には笑い声が響いている。
「ハリー! あけましておめでとう!」
グリフィンドールの談話室に入ってきたロンが、勢いよくハリーの肩を叩いた。
「わっ! ロン、痛いよ!」
「悪い悪い! それで、休暇はどうだった?」
「すっごく楽しかったよ! 母さんの料理はおいしかったし、父さんはまた変な魔法を使って母さんに怒られてたし!」
「ハハッ! やっぱりロイドさんは最高だな!」
「それでね、レオ兄さんからノートをもらったんだ!」
ハリーは鞄から革張りの小さなノートを取り出した。表紙の銀色の刺繍が、暖炉の光を受けてきらりと輝く。
「おお、かっこいいな!」
「でしょ? 魔法の勉強で気づいたこととか、いろいろ書いてるんだ!」
「ちゃんと続いてるの?」
後ろから聞こえた声に、ハリーはびくっと肩を震わせた。
「ハーマイオニー!」
彼女は腕を組み、少し得意げに笑っている。
「日記やノートは、続けてこそ意味があるのよ。途中で放り出したら、せっかくの記録がもったいないでしょう?」
「うん! だから、毎日書くようにしてるんだ!」
「それはいいことね!」
ハーマイオニーは満足そうに頷いた。
「……でも、授業のノートもちゃんと整理しているでしょうね?」
「えっ?」
「ハリー?」
「も、もちろん!」
ハリーは慌てて鞄を抱きしめた。
ロンが吹き出す。
「お前、絶対整理してないだろ!」
「そんなことないよ!」
「じゃあ、見せてみろよ!」
「い、今は駄目!」
「ほらな!」
「もう、二人とも! 朝から騒がしいわよ!」
ハーマイオニーの声が談話室に響く。
三人のやり取りを聞いていた周囲の生徒たちが、くすくすと笑った。
そのとき、談話室の入口からレオが顔を出した。
「みんな、おはよう。元気そうでよかった」
「レオ兄さん!」
ハリーがぱっと立ち上がる。
「レオ兄さんもおかえり! 休暇はどうだった?」
「僕も楽しかったよ。家の魔法生物たちが、ハリーがいないのを寂しがっていたかな」
「本当!? みんな、元気だった?」
「うん。特に、あの小さな羽根の生えた子は、ハリーが使っていた椅子の上からなかなか動かなかったよ」
「ええっ! 僕のこと覚えていてくれたんだ!」
ハリーの顔が、ぱっと輝いた。
「帰ったら、いっぱい遊んであげなきゃ!」
「そうしてあげて。きっと喜ぶよ」
レオは笑いながら頷いた。
その様子を見ていたハーマイオニーは、胸の前でそっと手を握った。
レオが家族や魔法生物の話をするときの表情は、とても優しい。
知識が豊富で、どんな魔法でも簡単に使いこなしてしまうのに、身近な小さな命を大切にするところは、少しも変わらない。
そんなところが、ハーマイオニーは好きだった。
「……レオ、あの」
「うん? どうしたの、ハーマイオニー?」
「休暇中に、古代ルーン文字の本を読んだの! 前に教えてもらった魔法陣の仕組みについても、少しだけ理解できた気がして……!」
言いながら、ハーマイオニーは鞄からノートを取り出した。
「もしよかったら、あとで見てもらえないかしら?」
「もちろん。楽しみにしているよ」
「ほ、本当!? ありがとう!」
ハーマイオニーは顔を輝かせた。
ロンがハリーの耳元へ顔を寄せる。
「ハーマイオニー、レオ兄貴の前だと元気が倍になるよな」
「そうかな?」
「そうだって」
「二人とも、聞こえてるわよ!」
ハーマイオニーが真っ赤になって叫び、また談話室に笑い声が広がった。
*
数日後。
魔法薬学の授業を終えたハリーたちは、地下牢から階段を上っていた。
「今日の魔法薬、危なかったなあ……」
ロンが肩を落とす。
「ロンが材料を入れる順番を間違えかけたからでしょう!」
「だって、あの材料、そっくりだったんだよ!」
「だから、ラベルを確認しなさいって言ったの!」
「はいはい……」
「返事は一回!」
「はい!」
ロンがわざとらしく背筋を伸ばすと、ハリーが笑い出した。
「二人とも、仲がいいね!」
「どこがよ!」
「どこがだよ!」
二人の声がぴったり重なった。
そこへ、反対側の廊下からレオがやってきた。
「おや、何かあったの?」
「聞いてよ、レオ! ロンが魔法薬の材料を間違えそうになったのよ!」
「だって、あれは紛らわしいんだって!」
「授業の前に、先生が説明していたでしょう!」
「分かった、分かったから!」
ロンは両手を上げた。
レオは小さく笑ったあと、ハリーたちを見た。
「魔法薬は順番や分量を間違えると危ないからね。分からないときは、急いで進めずに確認するのが一番だよ」
「うん。僕も気をつける!」
ハリーは真剣に頷いた。
そのとき、廊下の向こうから大きな足音が聞こえた。
「おーい、みんな!」
ハグリッドが手を振りながら歩いてくる。
「ハグリッド!」
ハリーは嬉しそうに駆け寄った。
「元気そうだな、ハリー! ロンにハーマイオニー、それにレオも!」
「こんにちは、ハグリッド」
レオが挨拶する。
「どうしたの?」
「いやな、ちょっと話しておきたいことがあってな。ハリー、おめえさん、最近は学校にも慣れたか?」
「うん! 友達もできたし、授業も楽しいよ!」
「そりゃよかった!」
ハグリッドは大きな手でハリーの肩を叩いた。
「それでな、今度、俺の小屋に遊びに来ねえか? 温かい飲み物でも出してやるぞ」
「行きたい!」
ハリーは即答した。
「いいの? ハグリッド!」
「もちろんだとも!」
「僕たちも行っていい?」
ロンが尋ねる。
「おう、もちろんだ!」
「やった!」
ロンも喜んだ。
「私も、魔法生物について聞きたいことがあるの!」
ハーマイオニーもすぐに手を挙げた。
「おお、そいつはいいな!」
ハグリッドは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、授業のない日に来い。面白いものを見せてやるぞ」
「面白いもの?」
ハリーが首を傾げる。
「そいつは来てからのお楽しみだ!」
ハグリッドはそう言うと、大股で歩き去っていった。
ハリーたちは顔を見合わせた。
「面白いものって何だろう?」
「魔法生物かもしれないわね!」
ハーマイオニーの目が輝く。
「ハグリッドは珍しい生き物が好きだからなあ」
ロンも楽しそうだった。
レオは三人の様子を見て、穏やかに笑った。
「楽しみだね。ただ、ハグリッドの言う『面白いもの』は、少し予想外なこともあるから、驚きすぎないようにね」
「えっ、そうなの?」
ハリーが目を丸くする。
「うん。前に、父さんと一緒に珍しい魔法生物を見に行ったことがあるんだけど……」
レオは少し考え、苦笑した。
「説明するより、実際に見たほうが早いかな」
「何それ! 余計に気になるよ!」
ハリーは期待に胸を膨らませた。
*
その日の夜。
ハリーたちは夕食を終え、グリフィンドールの談話室でくつろいでいた。
暖炉の火が赤く揺れ、窓の外では風が木々を揺らしている。
ロンはチェス盤を広げ、ハリーと対局していた。
「そこだ、ハリー! その駒を動かせば、俺の騎士が……」
「ええと、こう?」
「違う! そっちじゃない!」
「うわあっ、取られた!」
ハリーが頭を抱える。
「ハハハ! チェスでは、相手の次の手を考えるのが大事なんだよ!」
「うーん、難しいなあ……」
「じゃあ、もう一回だ!」
「よし、今度こそ勝つ!」
二人が盤面に集中している横で、ハーマイオニーは本を読んでいた。
けれど、ページをめくる手が時折止まる。
ハグリッドの言っていた「面白いもの」が、どうしても気になって仕方がないのだ。
「ねえ、ハリー。ハグリッドの小屋へ行くの、いつにする?」
「明日、授業が終わってからはどうかな?」
「いいわね! 早めに行きましょう!」
「俺も賛成!」
ロンがチェスの駒を置きながら頷いた。
「でも、レオ兄貴は来られるのかな?」
「僕も行けるよ」
いつの間にか近くの椅子に座っていたレオが答えた。
「明日は午後の予定が空いているからね」
「やった!」
ハリーは大喜びした。
「レオ兄さんも一緒なら、もっと楽しいね!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
レオは笑った。
しばらくして、ハリーはあくびをした。
「ふわぁ……なんだか眠くなってきた」
「そろそろ寝たほうがいいんじゃないか?」
ロンが言う。
「うん。明日はハグリッドのところに行くんだもんね!」
ハリーはチェス盤を片づけ、ハーマイオニーにも手を振った。
「おやすみ、二人とも!」
「おやすみ、ハリー」
「おやすみなさい!」
レオも立ち上がった。
「僕もそろそろ戻るよ。みんな、夜更かししすぎないようにね」
「はーい!」
三人の返事を聞き、レオは談話室を後にした。
廊下に出ると、城の中はすっかり静かになっていた。
窓の外から、風が吹きつける音が聞こえる。
レオは足を止め、遠くに見える森へ目を向けた。
禁じられた森。
ホグワーツの敷地に広がる、深い木々に覆われた場所。
普段なら、生徒が近づくことは許されていない。
しかし、森の奥には数多くの魔法生物が暮らしている。人間の目には恐ろしく見える生き物もいるが、そのすべてが危険なわけではない。
レオは、窓越しに森の気配を感じ取るように、しばらく目を細めた。
風の音に混じって、何かが動いたような気がした。
「……気のせいかな」
そう呟き、レオは再び歩き始めた。
今夜は、何も起こらない。
そう思っていた。
*
翌日の午後。
授業を終えたハリーたちは、ハグリッドの小屋へ向かっていた。
「ねえ、ハグリッドって、どんな魔法生物を飼っているのかな?」
ハーマイオニーが期待に満ちた声で尋ねる。
「大きな犬なら見たことあるけどな」
ロンが答える。
「でも、珍しい生き物もいるんじゃないか?」
「そうだといいなあ!」
ハリーは足取りも軽く歩いていた。
レオは三人の後ろを歩きながら、楽しそうに話を聞いていた。
やがて、小屋の前に着くと、ハグリッドが扉を開けて出てきた。
「おう! よく来たな!」
「こんにちは、ハグリッド!」
「さあ、入れ入れ! 温かい飲み物を用意してあるぞ!」
小屋の中には、暖炉の火が燃えていた。
テーブルの上には大きなティーポットと、焼き菓子の皿が置かれている。
「わあ、おいしそう!」
ハリーは椅子に座るなり、目を輝かせた。
「おう、たくさん食えよ!」
ハグリッドは嬉しそうに笑った。
しばらくお茶を飲みながら話していると、ハーマイオニーが身を乗り出した。
「それで、ハグリッド。面白いものって何なの?」
「おお、そうだったな!」
ハグリッドは立ち上がり、小屋の奥から小さな木箱を持ってきた。
「これだ!」
蓋を開けると、中には色鮮やかな羽根が一枚入っていた。
「これは……?」
ハリーが目を丸くする。
「珍しい魔法生物の羽根だ。詳しいことはまだ分からねえが、普通の鳥のものじゃねえ」
ハーマイオニーは慎重に箱を覗き込んだ。
「すごい……! 羽根の表面に、魔法の痕跡が残っているわ!」
「本当だね」
レオも目を向ける。
羽根の根元には、微かに光る筋が走っていた。
「これなら、どんな魔法生物のものか調べられるかもしれない」
「だろう?」
ハグリッドは誇らしげに胸を張った。
「森の近くで見つけたんだ。落とし主がいるかもしれねえから、どうしたもんかと思ってな」
「禁じられた森で?」
ロンが尋ねた。
「ああ。森の中には、まだまだ知られてねえ生き物がたくさんいるからな」
ハグリッドは箱をそっと閉じた。
「だが、森は危ねえところでもある。生徒が勝手に入っちゃいけねえぞ」
「分かってるよ、ハグリッド!」
ハリーは元気よく答えた。
「よし。ならいい!」
ハグリッドは満足そうに頷いた。
帰り道、ハリーたちは羽根のことで話が尽きなかった。
「どんな生き物の羽根なんだろう?」
「魔法の痕跡が残っていたのが気になるわね。普通の鳥とは違う可能性が高いわ」
「俺は、すごく大きな鳥なんじゃないかと思うな!」
ロンが両手を広げる。
「こんなに大きな羽根なら、きっと大きな生き物だろ!」
「それなら、僕も見てみたいなあ!」
ハリーは笑顔で頷いた。
レオは羽根の根元にあった光の筋を思い返していた。
あれは、自然に残った魔力の痕跡なのだろうか。
それとも、何か別の理由があるのだろうか。
今はまだ、分からない。
レオは三人を見て、穏やかに笑った。
「いつか、正体が分かるといいね」
「うん!」
ハリーたちは元気よく頷いた。
夕暮れの空には、薄い雲が広がっていた。
その向こうで、禁じられた森は静かに枝を揺らしている。
森の奥には、まだ彼らの知らないものがたくさん眠っていた。
そして、ホグワーツの夜は、少しずつ深まっていった。