ハリーポッターと頼れる天才従兄   作:夜幻

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第26話「闇の中の一角獣と、立ち向かう勇気」

その日の夜、ホグワーツはいつもより静かだった。

 

 夕食を終えた生徒たちは談話室や寝室へ戻り、廊下を歩く足音も少なくなっている。窓の外には冬の闇が広がり、遠くの禁じられた森が黒い影となってそびえていた。

 

 グリフィンドールの談話室では、ハリーが暖炉の前で首を傾げていた。

 

「うーん……」

 

「どうしたんだ、ハリー?」

 

 チェス盤を片づけていたロンが顔を上げる。

 

「ハグリッドが言ってたこと、覚えてる?」

 

「ああ。森の動物たちが落ち着かないって話だろ?」

 

「うん。何か困っている生き物がいるなら、助けてあげたいなって思って」

 

 ハリーは膝の上で両手を握った。

 

「でも、レオ兄さんにも、分からないまま近づくのは危ないって言われたんだ」

 

「そりゃそうだろ。禁じられた森だぞ? 名前からして入っちゃ駄目そうじゃないか」

 

「それはそうだけど……」

 

 ハリーは窓の外へ目を向けた。

 

 森の向こうには、何があるのだろう。

 

 もし、怪我をした動物が助けを待っていたら。

 

 もし、誰かが困っていたら。

 

 そう考えると、じっとしているのが少しもどかしかった。

 

「ハリー」

 

 隣に座ったハーマイオニーが、彼の顔を覗き込む。

 

「あなたが心配する気持ちは分かるわ。でも、助けるためには、まず自分が安全でいなくちゃ駄目なのよ」

 

「……うん」

 

「あなたが怪我をしたら、助けられるものも助けられなくなるでしょう?」

 

「そうだね。ありがとう、ハーマイオニー」

 

 ハリーが笑うと、ハーマイオニーはほっとしたように息を吐いた。

 

「もう……分かってくれたならいいのよ」

 

「よし! じゃあ、今日はもう寝よう!」

 

 ロンが立ち上がった。

 

「明日も授業があるしな!」

 

「そうだね!」

 

 三人はそれぞれ寝室へ向かった。

 

 けれど、その夜。

 

 ハリーはなかなか寝つけなかった。

 

 目を閉じるたび、暗い森の向こうに何かがいるような気がした。

 

 怖いというより、気になって仕方がない。

 

 やがて、寝室の窓から差し込む月明かりを見つめながら、ハリーは小さく呟いた。

 

「……明日、ハグリッドにもう一度聞いてみよう」

 

 そう決めると、ようやく眠気が訪れた。

 

     *

 

 翌日の午後。

 

 ハリーたちは授業を終え、ハグリッドの小屋へ向かっていた。

 

「ハグリッド、昨日の話なんだけど!」

 

 小屋の扉を開けたハリーが、さっそく声をかける。

 

「おう、ハリー! どうした?」

 

「森の動物たち、もう落ち着いた?」

 

 ハグリッドは一瞬、言葉を詰まらせた。

 

「……いや。まだ、妙な様子が続いている」

 

「そうなの?」

 

 ハーマイオニーの顔が曇る。

 

「何かあったのか?」

 

 ロンが尋ねると、ハグリッドは髭を撫でながら答えた。

 

「今朝、森の近くで一角獣が傷ついているのが見つかったんだ」

 

「一角獣!?」

 

 ハーマイオニーが思わず声を上げた。

 

「本当なの? 一角獣は人間を警戒する、とても神秘的な魔法生物よね!」

 

「ああ。森の奥にいることが多いんだが、今朝はずいぶん浅いところまで出てきていた」

 

 ハグリッドの顔は、いつになく真剣だった。

 

「怪我をしていたのは、まだ若い一角獣だった。傷の具合もよく分からねえし、近づこうとすると、ひどく怯えるんだ」

 

「そんな……」

 

 ハリーの表情が変わった。

 

「助けてあげられないの?」

 

「もちろん、助けたいさ。だが、あの様子じゃ無理に近づくわけにもいかねえ。魔法生物の扱いに慣れた者たちにも相談するつもりだ」

 

 レオは静かに頷いた。

 

「それがいいと思う。怯えている生き物に無理に近づけば、相手にも負担がかかるからね」

 

「そうだな」

 

 ハグリッドは大きく息を吐いた。

 

「それに、傷の原因も分からねえ。森の中で何か起きているのは確かだ」

 

 ハリーはぎゅっと拳を握った。

 

「……一角獣、元気になるといいな」

 

「俺もそう思うぜ」

 

 ロンがハリーの肩に手を置いた。

 

 ハーマイオニーも心配そうに頷く。

 

「私たちにできることがあればいいのに……」

 

「今は、ハグリッドや先生たちに任せよう」

 

 レオは三人を見渡した。

 

「僕たちにできることは、状況を正しく知ることと、勝手に危険へ飛び込まないことだよ」

 

「うん……」

 

 ハリーは残念そうにしながらも頷いた。

 

 助けたい気持ちがあっても、それだけでは足りない。

 

 そのことを、ハリーは少しずつ学び始めていた。

 

     *

 

 その夜。

 

 ハリーたちはグリフィンドールの談話室で、宿題を片づけていた。

 

 ハーマイオニーは羊皮紙に文字を書き込み、ロンは難しい問題に頭を抱えている。

 

「なあ、ハリー。この問題、どうやって解いた?」

 

「えっと……ここで計算して、それからこの数字を当てはめたんだよ」

 

「うわ、俺、途中で間違えてる……」

 

「ロン、そこは授業で先生が説明していたでしょう?」

 

 ハーマイオニーが顔を上げる。

 

「分かってるよ! 分かってるけど、数字が多いんだって!」

 

「数字が多くても、順番に考えれば解けるわよ!」

 

「はいはい……」

 

「返事は一回!」

 

「はい!」

 

 ハリーは二人のやり取りに笑いながら、ノートを閉じた。

 

 そのとき、談話室の入口にレオが現れた。

 

「みんな、まだ起きていたんだね」

 

「レオ兄さん!」

 

 ハリーが顔を輝かせる。

 

「ちょうど宿題が終わったところだよ!」

 

「それはよかった。今日は少し話があってね」

 

 レオの表情はいつもどおり穏やかだったが、三人は自然と姿勢を正した。

 

「何か分かったの?」

 

 ハーマイオニーが尋ねる。

 

「森で見つかった一角獣について、ハグリッドからもう少し話を聞いてきたんだ」

 

「一角獣の傷、原因が分かったの?」

 

 ハリーは身を乗り出した。

 

「まだ確かなことは分からない。ただ、普通の動物同士の争いでできた傷とは違う可能性があるそうだ」

 

「魔法が関係しているってこと?」

 

「その可能性はあるね」

 

 レオは頷いた。

 

「でも、今の段階で決めつけるのは早い。先生たちも調べているから、僕たちは余計なことをせずに待とう」

 

「……うん」

 

 ハリーは少し悔しそうに唇を結んだ。

 

「分かってる。でも、怪我をしたままなのはかわいそうだよ」

 

「そうだね」

 

 レオはハリーの気持ちを否定せず、そっと肩に手を置いた。

 

「だからこそ、きちんと助けられる人たちに任せるんだ。ハリーが心配していることも、無駄じゃないよ」

 

「……ありがとう、レオ兄さん」

 

 ハリーは顔を上げた。

 

 その言葉で、少し気持ちが軽くなった。

 

「よし! 明日もちゃんと授業を受けて、勉強するよ!」

 

「その意気だね」

 

 レオは笑った。

 

「ただし、今日はもう寝よう。夜更かしすると、明日の授業で眠くなるからね」

 

「はーい!」

 

 ハリーが元気よく返事をする。

 

 ロンとハーマイオニーも、ようやく宿題を片づけ始めた。

 

     *

 

 数日後。

 

 ハグリッドの話では、傷ついた一角獣は少しずつ落ち着きを取り戻しているらしかった。

 

 しかし、傷の原因については、まだはっきりしていない。

 

 ハリーはその話を聞くたびに心配したが、先生たちが調べていると知って、むやみに動くことはしなかった。

 

 その日の夕方、レオは図書館で古い魔法生物の記録を読み返していた。

 

 ハグリッドが話していた一角獣の傷。

 

 森の中で感じられたという、不自然な魔力。

 

 それらが同じ原因によるものなのか、それとも別々の出来事なのか。

 

 今はまだ判断できない。

 

「……もう少し、資料が必要だね」

 

 レオが本を閉じたとき、窓の外から冷たい風の音が聞こえた。

 

 遠くの森は、夕暮れの影に沈んでいる。

 

 その奥に何があるのか、レオにも分からなかった。

 

 ただ、森の様子を注意深く見ておく必要がある。

 

 そう考えながら、レオは本を棚へ戻した。

 

     *

 

 同じころ、グリフィンドールの談話室では、ハリーがロンとチェスをしていた。

 

「よし、今度こそ勝つぞ!」

 

 ハリーは盤面を睨み、慎重に駒を動かした。

 

「おっ、いい手だな!」

 

 ロンが感心したように声を上げる。

 

「本当!?」

 

「まあ、俺が見逃してなければだけどな!」

 

「えっ、それってどういうこと!?」

 

「ハハハ!」

 

 ロンが笑い、ハリーもつられて笑った。

 

 ハーマイオニーは本を読んでいたが、二人の様子を見て、思わず口元を緩めた。

 

「もう、あなたたちって本当に……」

 

 そう言いながらも、彼女の顔には優しい笑みが浮かんでいた。

 

 ホグワーツには、まだまだ知らないことがある。

 

 不思議な魔法も、謎めいた魔法生物も、古い本に眠る秘密も。

 

 けれど、今この瞬間、ハリーたちの周りにあるのは、友達と過ごす温かな時間だった。

 

 そして、遠くの禁じられた森では、冬の風が静かに木々を揺らしていた。

 

 傷ついた一角獣が再び元気に森を駆け回れる日を、ハリーは心から願っていた。

 

 

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