ハリーポッターと頼れる天才従兄   作:夜幻

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第4話 十一歳の誕生日と、届いた二通の手紙

「ハリー! 起きて!」

 

 朝の光がカーテンの隙間から差し込む寝室に、弾んだ声が響いた。

 

「今日は何の日でしょう!」

 

「……んん……?」

 

 毛布の中でもぞもぞと動いていたハリーは、ゆっくりと顔を出した。寝癖で黒髪があちこち跳ねている。緑色の瞳をぱちぱちさせて、ベッドの横に立つレオを見上げた。

 

「……レオ兄さん?」

 

「正解! じゃなくて、今日は特別な日なんだよ!」

 

「とくべつ……?」

 

 ハリーは首を傾げた。

 

 レオは両手を後ろに回し、わざとらしく胸を張った。けれど、口元からこぼれそうな笑みは隠しきれていない。

 

「今日はね、ハリーの誕生日!」

 

「……たんじょうび?」

 

「そう! ハリーが十一歳になった日!」

 

「……えっ?」

 

 ハリーの目が、ぱっと大きくなった。

 

「ぼく、十一歳なの!?」

 

「うん! もう立派なお兄さんだね!」

 

「やったあ!」

 

 ハリーは毛布を蹴飛ばして、勢いよく起き上がった。

 

 そのままレオに抱きつこうとして、ベッドの端で足を滑らせる。

 

「わっ、ハリー!」

 

「わああっ!」

 

 レオは慌てて両腕を伸ばし、ハリーの体を受け止めた。

 

 二人そろってベッドに倒れ込み、ふかふかの枕が床へ転がる。

 

「えへへ……」

 

「もう! 起きてすぐ飛びついたら危ないよ!」

 

「だって、うれしいんだもん!」

 

 ハリーはレオの服をつかんだまま、満面の笑みを浮かべた。

 

「ねえ、レオ兄さん! 誕生日って、ケーキがある日だよね?」

 

「うん。ケーキもあるよ」

 

「ごちそうも?」

 

「もちろん」

 

「プレゼントも!?」

 

「それは……どうかな?」

 

「ええーっ!?」

 

 ハリーの顔が一瞬でしょんぼりした。

 

 眉が下がり、唇が尖り、今にも泣き出しそうな表情になる。

 

 それを見たレオは、とうとう我慢できずに笑ってしまった。

 

「ごめん、ごめん! ちゃんとあるよ!」

 

「ほんと!?」

 

「ほんと。僕からも、お父さんとお母さんからもね」

 

「やったあ!」

 

 ハリーは今度こそ、レオの首にぎゅっと抱きついた。

 

「レオ兄さん、大好き!」

 

「うん。僕もハリーが大好きだよ」

 

 レオはハリーの背中をぽんぽんと叩いた。

 

 昨日のことなど、ハリーは何も知らない。危険な魔法使いたちが家の近くに現れたことも、レオが咄嗟に防御魔法を変化させたことも。

 

 それでいい、とレオは思った。

 

 今日という日くらい、ハリーには楽しいことだけを考えていてほしかった。

 

「さあ、着替えて朝ご飯にしよう。お母さんが準備してくれているよ」

 

「パンケーキ!?」

 

「……どうしてわかったの?」

 

「だって、誕生日だもん!」

 

「それ、理由になってる?」

 

「なってるよ!」

 

 ハリーは元気よく答えると、ベッドから飛び降りた。

 

 その勢いに、レオは思わず苦笑する。

 

「はいはい。じゃあ、パンケーキが冷めないうちに行こうか」

 

「うん!」

 

     *

 

 食堂へ入った瞬間、ハリーは立ち止まった。

 

「……わあっ!」

 

 テーブルの上には、焼きたてのパンケーキが山のように積まれていた。蜂蜜とバターの甘い香りが漂い、皿には苺やブルーベリー、薄く切ったバナナが色鮮やかに並んでいる。

 

 窓辺には小さな花が飾られ、天井近くでは紙でできた色とりどりの鳥が羽ばたいていた。

 

「お誕生日おめでとう、ハリー!」

 

 アリシアが両手を広げる。

 

「お母さん!」

 

 ハリーは駆け寄り、アリシアに抱きついた。

 

「ありがとう!」

 

「ふふっ。十一歳ね。大きくなったわねえ」

 

「ぼく、もう大人?」

 

「まだまだ子どもよ」

 

「ええっ!」

 

「でも、元気に大きくなってくれてうれしいわ」

 

 アリシアはハリーの頬にキスをした。

 

 そこへ、杖を片手に持ったロイドがやってきた。

 

「おやおや。主役が来たようだね」

 

「お父さん! ぼく、十一歳になったよ!」

 

「そうだな。おめでとう、ハリー」

 

 ロイドはハリーを抱き上げ、高く持ち上げた。

 

「わあっ! 高い、高い!」

 

「ははは! これからは、もっといろいろなことができるようになるぞ!」

 

「ほんと!?」

 

「もちろんだとも!」

 

「あなた、あまり調子に乗せないでちょうだい」

 

 アリシアが腰に手を当てた。

 

「まだ朝ご飯も食べていないのよ?」

 

「これは失礼。では、誕生日の特別な演出をひとつ」

 

 ロイドは杖を振った。

 

 すると、テーブルの上のパンケーキがふわりと浮かび上がり、一枚、また一枚と空中で回転し始めた。

 

「わあああっ!」

 

 ハリーの目が輝く。

 

 レオも思わず手を叩いた。

 

「お父さん、すごい!」

 

「そうだろう、レオ!」

 

「あなた!」

 

 アリシアの声が鋭くなった。

 

 ロイドが振り返る。

 

「……はい」

 

「食べ物で遊ばないの!」

 

「いや、これは遊んでいるのではなく、食卓に華を添えるための――」

 

「パンケーキを落としたら、あなたのお皿には焦げた端っこしか出しませんからね」

 

「それは困るな……」

 

 ロイドが杖を動かすと、浮かんでいたパンケーキは慌てたように皿へ戻っていった。

 

 ハリーはお腹を抱えて笑った。

 

「あはははっ! お父さん、怒られてる!」

 

「ハリー、笑っていないであなたも座りなさい」

 

「はーい!」

 

 レオは椅子に座りながら、楽しそうに笑った。

 

 こういう朝が好きだった。

 

 お父さんが少しふざけて、お母さんが叱って、ハリーが笑って、自分もつられて笑ってしまう。

 

 特別な魔法がなくても、何か大きなことが起きなくても、ここには毎日、好きなものがたくさんある。

 

「いただきます!」

 

 ハリーは手を合わせると、パンケーキにたっぷりと蜂蜜をかけた。

 

「レオ兄さん、苺ちょうだい!」

 

「はい。どうぞ」

 

「ありがとう! レオ兄さんにもあげる!」

 

 ハリーは自分の皿から一番大きな苺をつまみ、レオの皿に載せた。

 

「これ、ぼくの大好きな苺!」

 

「じゃあ、僕にくれるの?」

 

「うん! 半分こ!」

 

「ありがとう。じゃあ、僕のパンケーキも半分こしよう」

 

「やったあ!」

 

 ハリーは満足そうに頷いた。

 

 向かい側で、アリシアがその様子を眺めていた。

 

「二人とも、本当に仲がいいわね」

 

「だって、ハリーは僕の大切な弟みたいなものだから」

 

 レオは何気なく答えた。

 

「兄さんだもんね!」

 

 ハリーも元気よく続ける。

 

「ぼく、レオ兄さんみたいになりたい!」

 

「えっ?」

 

 レオは思わず手を止めた。

 

「僕みたいに?」

 

「うん! 魔法生物のこともいっぱい知ってるし、絵本も読んでくれるし、魔法もできるし!」

 

「そ、そうかな……?」

 

「そうだよ!」

 

 ハリーは力いっぱい頷いた。

 

「レオ兄さんは、なんでもできるんだもん!」

 

「いやあ……なんでもはできないよ。僕だって、苦手なことはあるし」

 

「なにが苦手なの?」

 

「えっと……」

 

 レオは少し考え込んだ。

 

 その間に、ロイドが口を挟む。

 

「レオは、部屋の片づけが苦手だな」

 

「お父さん!?」

 

「この間も本を床いっぱいに広げていただろう?」

 

「あれは、調べものをしていたんだよ!」

 

「そのまま寝てしまったのは誰だったかな?」

 

「うっ……」

 

 ハリーがぱっと顔を輝かせた。

 

「レオ兄さんも、お片づけ苦手なの!?」

 

「……少しだけね」

 

「ぼくと一緒だ!」

 

「いや、ハリーはまだ小さいから仕方ないけど、僕はもう――」

 

「じゃあ、ぼくが大きくなったら一緒にお片づけしようね!」

 

 あまりにもまっすぐな言葉に、レオは目を瞬かせた。

 

 それから、ふっと笑った。

 

「うん。約束だよ」

 

 ハリーは嬉しそうに頷き、再びパンケーキにかぶりついた。

 

     *

 

 朝食が終わると、レオとハリーは居間へ移動した。

 

 テーブルの上には、いくつもの包みが並んでいる。

 

「プレゼント、開けてもいい?」

 

「もちろんよ」

 

 アリシアが微笑んだ。

 

「まずは私たちからね」

 

 ハリーは一番大きな包みを手に取った。青いリボンを引っ張り、包装紙を丁寧に剥がしていく。

 

 中から出てきたのは、魔法生物の図鑑だった。

 

「わあっ! これ、庭にいる子たちも載ってる!?」

 

「ええ。魔法生物について、子どもにもわかりやすく書かれている本よ。あなたが好きな生き物のことを、もっと知れるようにね」

 

「ありがとう、お母さん!」

 

 ハリーは本を胸に抱きしめた。

 

「いっぱい読む!」

 

「その前に、文字を間違えずに読めるようにならないとね」

 

 レオが笑いながら言う。

 

「もう読めるもん!」

 

「この前、『ニフラー』を『ニフラフ』って読んでいたのは誰だったかな?」

 

「あ、あれは……!」

 

 ハリーの頬が赤くなる。

 

「字がちょっと難しかっただけだよ!」

 

「ふふっ、ごめんごめん」

 

 レオは笑いながら、ハリーの頭を撫でた。

 

 続いてロイドから渡された包みには、小さな魔法生物の模型が入っていた。背中を押すと、羽がぱたぱたと動く仕掛けになっている。

 

「わあっ! 飛ぶの!?」

 

「少しだけな。窓の外へ飛ばすと戻ってこなくなるから、部屋の中で遊ぶんだぞ」

 

「うん!」

 

 ハリーはさっそく模型を動かし、飛び上がるたびに声を上げて喜んだ。

 

「見て、レオ兄さん! 飛んだよ!」

 

「本当だ。上手にできているね」

 

「もう一回!」

 

「今度は僕がやってみようか?」

 

「だめ! ぼくがやるの!」

 

「はいはい、主役にお任せします」

 

 レオは両手を上げて降参した。

 

 ハリーが模型に夢中になっているあいだ、アリシアはレオにも小さな包みを渡した。

 

「レオにもね」

 

「僕にも?」

 

「あなたも、もうすぐホグワーツへ行くんですもの。必要なものを揃えておかなくちゃ」

 

 レオは包みを開いた。

 

 中には、上質な革で作られたノートと、細い銀色のペンが入っていた。

 

「わあ……!」

 

 レオは思わず目を輝かせた。

 

「これ、すごく書きやすそう!」

 

「古代ルーン文字の勉強にも使えるでしょう?」

 

「うん! ありがとう、お母さん!」

 

 レオは大事そうにノートを抱えた。

 

 古代ルーン文字。

 

 不思議な記号が組み合わさり、ひとつの意味や力を形作る魔法の文字。その仕組みを知ることは、レオにとって本を読むのと同じくらい楽しいことだった。

 

 最近では、魔法の呪文を聞いたときにも、頭の中で文字のような形が浮かぶことがある。

 

 それが何を意味するのかは、まだはっきりわからない。

 

 でも、このノートがあれば、気づいたことをたくさん書き留められる。

 

「大切に使うね」

 

「ええ。楽しみにしているわ」

 

 アリシアが微笑んだ、そのときだった。

 

 玄関のほうから、ばさばさっ、と羽ばたく音が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

 ハリーが顔を上げる。

 

「鳥さん?」

 

「郵便かな?」

 

 ロイドが立ち上がり、玄関へ向かった。

 

 少しして戻ってきた彼の手には、二通の封筒があった。

 

 どちらも厚手の羊皮紙でできており、深い緑色のインクで宛名が記されている。

 

 ロイドは封筒を見比べ、眉を上げた。

 

「これは……」

 

「どうしたの、お父さん?」

 

 レオが近づいてくる。

 

 ロイドは一通をレオへ、もう一通をハリーへ差し出した。

 

「二人宛てだ。ホグワーツ魔法魔術学校からだよ」

 

「……ホグワーツ?」

 

 レオは封筒を受け取り、宛名を確かめた。

 

 そこには、確かに自分の名前が書かれていた。

 

 レオン・エヴァンズ・スキャマンダー様

 

 そして、ハリーの封筒には――

 

 ハリー・ジェームズ・ポッター様

 

 と、丁寧な文字で記されていた。

 

「わあっ! 学校からお手紙!?」

 

 ハリーは目を丸くした。

 

「ぼくにも来たの!?」

 

「そうみたいだね」

 

 レオは微笑んだ。

 

「ハリー、十一歳になったからだよ。ホグワーツから入学の案内が届いたんだ」

 

「学校……!」

 

 ハリーは封筒を両手で持ち、じっと見つめた。

 

「ぼく、魔法学校に行けるの?」

 

「もちろんよ」

 

 アリシアがハリーの隣に座った。

 

「あなたのお父さんもお母さんも、魔法使いだったでしょう? あなたにも、魔法を学ぶ機会が来たのね」

 

「ジェームズとリリーも、ホグワーツに通っていたんだ」

 

 ロイドは優しい声で付け加えた。

 

「お母さんはね、学校でとても頑張っていたのよ」

 

「お父さんも?」

 

「ジェームズは……そうだな。元気いっぱいだったよ」

 

 ロイドは少し懐かしそうに笑った。

 

「ずいぶんと周囲を騒がせることもあったが、友達を大切にする男だった」

 

「へえ……」

 

 ハリーは封筒を見つめたまま、そっと呟いた。

 

「ぼくも、お父さんとお母さんが行った学校に行くんだね」

 

「そうだよ」

 

 レオはハリーの肩に手を置いた。

 

「それに、僕も一緒だ。困ったことがあったら、いつでも頼ってね」

 

「レオ兄さんもいるの!?」

 

「うん。僕も入学するからね」

 

「やったあ!」

 

 ハリーは飛び跳ねた。

 

「ぼく、学校に行く! レオ兄さんと一緒に行く!」

 

「ふふっ。まだ入学の準備もあるんだから、そんなに急がないの」

 

 アリシアは笑いながら、ハリーの服の裾を整えた。

 

「まずは手紙を開けてみましょう?」

 

「うん!」

 

 ハリーは封筒をひっくり返した。

 

 封蝋には、見覚えのない紋章が押されている。

 

 獅子、鷲、蛇、そして穴熊。

 

 四つの動物が、ひとつの盾の中に描かれていた。

 

「これ、なあに?」

 

「ホグワーツの校章だよ」

 

 レオが教えてあげる。

 

「学校には四つの寮があって、それぞれに動物と特徴があるんだ」

 

「四つもあるの?」

 

「そう。どの寮になるかは、入学してから決まるんだよ」

 

「ぼく、レオ兄さんと同じ寮がいい!」

 

「僕と同じになるとは限らないよ?」

 

「ええーっ!」

 

 ハリーはたちまち不満そうな顔をした。

 

「どうして!?」

 

「それぞれに合った寮を選んでもらうからね。ハリーがどんな子なのか、ちゃんと見てもらうんだ」

 

「ぼく、レオ兄さんと一緒がいいのに……」

 

 ハリーの肩がしょんぼりと落ちた。

 

 レオは慌ててその頭を撫でた。

 

「でもね、ハリー。寮が違っても、僕たちが従兄弟で、大切な家族なのは変わらないよ」

 

「……ほんと?」

 

「ほんと。学校で会える時間もあるし、一緒に勉強だってできる。お休みの日には、また家に帰ってこられるんだから」

 

「……そっか!」

 

 ハリーは顔を上げた。

 

「じゃあ、違う寮でも大丈夫!」

 

「うん。その調子」

 

 レオはほっと胸を撫で下ろした。

 

 アリシアとロイドも、温かな眼差しで二人を見守っていた。

 

 それぞれが封筒を開く。

 

 中から現れたのは、入学許可を知らせる手紙と、必要な学用品の一覧だった。

 

 黒いローブ。教科書。羽根ペン。大鍋。望遠鏡。

 

 そして、魔法使いにとって欠かせないもの――杖。

 

「杖も買うの?」

 

 ハリーが文字を追いながら尋ねた。

 

「そうだよ。魔法を使うために、自分に合った杖を選ぶんだ」

 

「ぼくの杖かあ……!」

 

 ハリーは想像するように両手を広げた。

 

「すっごく強い魔法が使えるかな?」

 

「それは、これからのお楽しみだね」

 

 レオは笑った。

 

「でも、強い魔法を使うことだけが大事なんじゃないよ。どんな魔法を使うか、どう使うかも大切だからね」

 

「うーん……」

 

 ハリーは少し考えたあと、ぱっと顔を輝かせた。

 

「じゃあ、ぼくはみんなを笑顔にする魔法がいい!」

 

 レオは目を瞬かせた。

 

「みんなを笑顔にする魔法?」

 

「うん! お母さんも、お父さんも、レオ兄さんも、みんなが楽しくなる魔法!」

 

 ハリーは胸を張った。

 

「そしたら、ずっと楽しいもん!」

 

 あまりにもハリーらしい答えだった。

 

 ロイドは穏やかに笑い、アリシアは目元を和らげた。

 

 レオはハリーの頭を撫でながら、心から頷いた。

 

「それは、とても素敵な魔法だね」

 

「でしょ!」

 

「うん。僕も、そんな魔法をたくさん覚えたいな」

 

「じゃあ、一緒に覚えようね!」

 

「もちろん」

 

 レオは小指を差し出した。

 

 ハリーはすぐに自分の小指を絡める。

 

「約束!」

 

「約束だよ」

 

     *

 

 午後になると、庭には誕生日の飾りが増えていた。

 

 ロイドが魔法で浮かべた色とりどりの風船は、風に吹かれるたびに小さな鈴の音を鳴らしている。庭の魔法生物たちも、いつもより賑やかだった。

 

 ハリーは新しい図鑑を抱え、レオと一緒に草地を歩いていた。

 

「ねえ、レオ兄さん。ホグワーツって、どんなところ?」

 

「大きなお城だよ。湖があって、塔があって、広い図書館もあるんだ」

 

「図書館! 本がいっぱい?」

 

「うん。たくさんあるよ」

 

「じゃあ、魔法生物の本もあるかな?」

 

「きっとね。僕も探してみたい本がいっぱいあるんだ」

 

「ぼくも!」

 

 ハリーは図鑑をぎゅっと抱きしめた。

 

「学校に行ったら、知らないことをいっぱい知りたい!」

 

「いいね。僕も一緒に調べよう」

 

「うん!」

 

 ハリーは元気よく駆け出した。

 

「待って、レオ兄さん! あの子にも誕生日ってあるのかな?」

 

 指差した先では、ふわふわとした毛並みの魔法生物が草を食べていた。

 

「どうだろうね。今度、お父さんに聞いてみようか」

 

「うん! ぼく、みんなの誕生日もお祝いしたい!」

 

 レオは笑いながら、ハリーのあとを追いかけた。

 

 空は青く、風は心地よい。

 

 庭の草花は日差しを受けて揺れ、遠くでは鳥たちが歌っている。

 

 この家で過ごす日々は、ハリーにとって当たり前のものだった。

 

 誰かに愛されること。

 

 失敗しても、叱られても、また笑い合えること。

 

 困ったときには助けてもらえて、嬉しいことがあれば一緒に喜んでもらえること。

 

 そんな毎日の積み重ねが、ハリーの中に揺るがない安心を育てていた。

 

「レオ兄さん!」

 

「なあに?」

 

「ホグワーツに行っても、ぼくといっぱい遊んでね!」

 

 ハリーは走りながら振り返った。

 

「もちろん!」

 

 レオは大きく手を振った。

 

「勉強も遊びも、いっぱい一緒にやろう!」

 

「やったあ!」

 

 ハリーは満面の笑みを浮かべ、再び前を向いた。

 

 その背中を追いながら、レオも笑った。

 

 ホグワーツには、まだ知らないことがたくさん待っている。

 

 新しい友達。初めて見る魔法。知らない教室に、古い図書館。

 

 きっと楽しいことばかりではないだろう。

 

 それでも、ハリーがいる。

 

 家族がいる。

 

 そして、二人にはこれから始まる学校生活を楽しむ時間がある。

 

 レオは空を見上げた。

 

「……楽しみだなあ」

 

 ぽつりと零した言葉に、ハリーが振り返る。

 

「なにが?」

 

「ホグワーツだよ」

 

「うん! ぼくも!」

 

 ハリーはレオの手を取った。

 

「早く行きたいね!」

 

「そうだね。でも、その前に――」

 

 レオはハリーの手を握り返し、居間のほうを指差した。

 

「お誕生日のケーキが待っているよ」

 

「……ケーキ!?」

 

 ハリーの目が、今日一番大きく見開かれた。

 

「忘れてたああっ!」

 

「えっ、忘れてたの!?」

 

「だって、学校が楽しみだったんだもん!」

 

「ふふっ。じゃあ、急いで戻ろうか!」

 

「うん!」

 

 二人は手をつないだまま、家へ向かって走り出した。

 

 窓の向こうでは、アリシアが焼き上がったばかりのケーキをテーブルに運んでいた。

 

 ロイドはその横で、また何か魔法を使おうとしている。

 

「あなた。今度は何をするつもり?」

 

「いや、誕生日のケーキを少しばかり華やかに――」

 

「普通に置いてちょうだい」

 

「……はい」

 

 そんな両親のやり取りを聞きつけたハリーが、家の中から大きな声で笑った。

 

「お父さん、また怒られてるー!」

 

「ハリーまで!」

 

 ロイドの抗議に、家族全員の笑い声が重なる。

 

 十一歳の誕生日。

 

 そして、ホグワーツから届いた二通の手紙。

 

 少年たちの新しい生活は、もうすぐ始まろうとしていた。

 

 けれど今日だけは、難しいことを考えなくてもいい。

 

 家族と一緒にケーキを食べて、たくさん笑って、明日を楽しみに眠ればいいのだから。

 

 ハリーの十一歳の誕生日は、夕暮れの庭に響く笑い声と、甘いケーキの香りに包まれて、温かく過ぎていった。

 

 

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