ハリーポッターと頼れる天才従兄   作:夜幻

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第6話 杖が選ぶ者、そして魔法界の小さな寄り道

「ただいまーっ!」

 

 玄関の扉が開くなり、ハリーの元気な声が家中に響き渡った。

 

「お母さん! お父さん! 見て、見て! ぼくの杖だよ!」

 

 ハリーは靴を脱ぐのももどかしそうに、両手で抱えていた細長い箱を掲げた。

 

「おかえりなさい、ハリー。まあ、ずいぶん嬉しそうね」

 

 台所から顔を出したアリシアは、ハリーの弾けるような笑顔を見て、思わず頬を緩めた。

 

「うん! オリバンダーさんのお店で、ぼくにぴったりの杖が見つかったんだ!」

 

「それはよかったわね。どんな杖なの?」

 

「えっとね、ヒイラギっていう木でできていて、不死鳥の羽根が入ってるんだって!」

 

 ハリーは箱を開けようとした。

 

 しかし、慌てすぎて蓋がうまく開かない。

 

「あれっ? あれれ?」

 

「落ち着いて、ハリー。箱の端を持って、ゆっくり開けてごらん」

 

 後ろからレオが声をかけた。

 

「う、うん!」

 

 ハリーは言われたとおりに両手を添え、そっと蓋を持ち上げた。

 

 中には、赤みを帯びた木の杖が横たわっている。

 

「わあ……!」

 

 ハリーの顔が、ぱっと明るくなった。

 

「ねえ、お母さん! ぼく、これで魔法使いなんだよ!」

 

「ええ。これから、たくさんのことを学んでいくのね」

 

 アリシアは膝をつき、ハリーの目線に合わせた。

 

「でも、杖を持ったからといって、何でもできるわけではないのよ。魔法は、きちんと学んで、正しく使うことが大切なの」

 

「うん! わかってる!」

 

 ハリーは力強く頷いた。

 

「ぼく、みんなを笑顔にする魔法を覚えるんだ!」

 

「ふふっ。素敵な目標ね」

 

 アリシアはハリーの頬を撫でた。

 

「あなたなら、きっと楽しいことをたくさん見つけられるわ」

 

「えへへ!」

 

 ハリーは照れたように笑った。

 

 その様子を見ていたロイドが、廊下の奥からやってきた。

 

「おや、帰ってきたか。杖は見つかったようだね」

 

「うん、お父さん!」

 

「それはよかった。では、さっそく魔法の練習を――」

 

「あなた?」

 

「……いや、もちろん、ホグワーツで学ぶのが先だが」

 

 アリシアがにっこり笑っただけで、ロイドは言葉を引っ込めた。

 

 レオは口元を押さえて笑った。

 

「お父さん、また怒られちゃうよ」

 

「レオまで……」

 

「だって、ハリーは今日、初めて自分の杖を手に入れたばかりなんだから。まずは大切に扱うことを覚えないとね」

 

「そうだな。確かに、そのとおりだ」

 

 ロイドは素直に頷いた。

 

「では、杖をしまうための場所を作っておこう。大切な道具だからね」

 

「ありがとう、お父さん!」

 

 ハリーは杖の箱をぎゅっと抱きしめた。

 

「ぼく、大切にするよ!」

 

     *

 

 昼食のあと、レオは自分の部屋へ戻った。

 

 机の上には、ダイアゴン横丁で購入した教科書やノートが積まれている。窓から差し込む日差しが、革表紙の本を柔らかく照らしていた。

 

「さて、と……」

 

 レオは椅子に腰掛け、買ってきたばかりの古代ルーン文字の本を開いた。

 

 ページには、さまざまな記号が記されている。

 

 直線と曲線。小さな刻み。互いに組み合わされた文字。

 

 ひとつひとつは単純に見えても、組み合わせによって意味が変わる。文字の配置や向きによって、魔法的な働きまで異なる場合がある。

 

 レオは羽根ペンを手に取り、気になった記号をノートに書き写した。

 

「この組み合わせだと……こっちは意味を補強しているのかな?」

 

 独り言を呟きながら、別の記号を隣に書き加える。

 

 すると、頭の中で何かが繋がった。

 

 まるで、ばらばらだったパズルの欠片が、ぴたりとはまるように。

 

「……あっ!」

 

 レオは思わず身を乗り出した。

 

「そうか。ここの配置を変えれば、働きが変わるんだ!」

 

 興奮して、羽根ペンを動かす。

 

 ひとつの記号を少しずらし、別の記号を反転させる。紙の上に描かれた文字の並びが変わるたび、頭の中で魔法の構造が組み上がっていく。

 

 試しに、レオは杖を取り出した。

 

 机の端には、紙を押さえるための小さな木製の文鎮が置かれている。

 

「……ちょっとだけ、試してみよう」

 

 レオは文鎮に杖先を向けた。

 

 まだ本格的な呪文の練習をするつもりはなかった。けれど、さっき思いついた仕組みが、実際の魔法にも応用できるのか確かめてみたかった。

 

 普段なら、簡単な浮遊呪文を使うところだ。

 

 レオはその呪文の構造を頭に思い浮かべ、先ほど書いた記号の配置を重ねていく。

 

「……ウィンガーディアム・レビオーサ」

 

 声に出したのは、よく知っている呪文だった。

 

 文鎮がふわりと浮かび上がる。

 

 それだけなら、何も珍しくない。

 

 ところが、レオが杖を横に動かすと、文鎮はゆっくりと回転しながら、机の上を滑るように移動した。

 

「おおっ!」

 

 レオは目を輝かせた。

 

「浮かせたまま、向きも変えられるんだ!」

 

 彼が杖を止めると、文鎮もぴたりと静止した。

 

 レオは思わず笑顔になる。

 

「やった! うまくいった!」

 

 そのとき、扉の向こうから声がした。

 

「レオ兄さん! 何してるの?」

 

「ハリー?」

 

 扉が開き、ハリーが顔を覗かせた。

 

「今、何か光った気がしたんだけど!」

 

「ああ、ちょっと魔法を試していたんだ」

 

「魔法! 見せて、見せて!」

 

 ハリーは目を輝かせ、部屋へ駆け込んできた。

 

「ねえ、今の、何の魔法?」

 

「浮遊呪文だよ。物を浮かせる魔法なんだ」

 

「ぼくの杖でもできる?」

 

「いつか授業で習うと思うよ。今はまだ、杖を持ったばかりだからね」

 

「そっかあ……」

 

 ハリーは少し残念そうに口を尖らせた。

 

 その顔を見て、レオは笑った。

 

「でも、ハリーがホグワーツに入学したら、いろんな魔法を一緒に勉強できるよ」

 

「ほんと!?」

 

「うん。僕も、まだまだ勉強することがたくさんあるからね」

 

 ハリーはすぐに笑顔を取り戻した。

 

「じゃあ、ぼくも頑張る!」

 

「その意気だよ」

 

 レオはハリーの頭を撫でた。

 

 ハリーは机の上のノートを覗き込んだ。

 

「それ、何を書いてるの?」

 

「古代ルーン文字だよ。魔法に関係する、昔から伝わっている文字なんだ」

 

「へえ……」

 

 ハリーはノートをじっと見つめた。

 

「なんだか、迷路みたいだね」

 

「迷路?」

 

「うん! こっちから進んで、ここを曲がって、こっちに行くと……」

 

 ハリーは指先で、紙の上の記号をなぞった。

 

「ゴールに着くんだよね?」

 

 レオは瞬きをした。

 

 ハリーはもちろん、古代ルーン文字を読めるわけではない。ただ、見た目の形を迷路に例えただけだ。

 

 それでも、レオにはその言葉が妙にしっくりきた。

 

「……そうだね。似ているところもあるかもしれない」

 

「ぼく、こういうの好きかも!」

 

「本当?」

 

「うん! 難しそうだけど、なんだか楽しそう!」

 

 レオは嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、今度、簡単なところから一緒に見てみようか」

 

「やったあ!」

 

 ハリーは両手を上げた。

 

 その拍子に、机の端にあった羽根ペンが転がり落ちそうになる。

 

「あっ!」

 

 レオが手を伸ばすより早く、ハリーが慌てて掴んだ。

 

「危なかったあ……!」

 

「ありがとう、ハリー」

 

「えへへ。レオ兄さんの大事なペンだもんね!」

 

 ハリーは羽根ペンをそっと机に戻した。

 

 その仕草に、レオの胸が温かくなる。

 

 自分が大切にしているものを、ハリーも大切にしてくれる。

 

 それが、何より嬉しかった。

 

     *

 

 数日後。

 

 レオとハリーは、ホグワーツへの入学準備についてロイドから話を聞いていた。

 

「必要なものは、ほとんど揃ったな」

 

 ロイドは一覧表を確認しながら言った。

 

「残る大きな準備は、出発までに持ち物を整理しておくことくらいだ」

 

「荷物、いっぱいあるよね!」

 

 ハリーは自分の袋を覗き込んだ。

 

「教科書も、ローブも、望遠鏡も!」

 

「そうだね。忘れ物をしないように、出発前にもう一度確認しよう」

 

 レオはノートに必要な品物を書き出していた。

 

「それから、学校へ持っていく本も選んでおきたいな」

 

「本なら、いっぱい持っていこうよ!」

 

「全部持っていくわけにはいかないよ、ハリー」

 

「ええーっ! どうして!?」

 

「重いからだよ」

 

「魔法で浮かせればいいんじゃない?」

 

 ハリーの答えに、ロイドが吹き出した。

 

「ははは! なかなかいい考えだな!」

 

「あなた、すぐに賛成しないの!」

 

「いや、合理的だと思ったんだが……」

 

「持っていく本を選ぶことも勉強のうちよ」

 

 アリシアはきっぱりと言った。

 

 レオは笑いながら、ハリーの肩を軽く叩いた。

 

「じゃあ、持っていく本を三冊選ぼうか」

 

「三冊!?」

 

「うん。まずはそれくらいにして、必要になったら学校の図書館で借りればいいよ」

 

「……わかった!」

 

 ハリーは少し考えたあと、元気よく頷いた。

 

「じゃあ、魔法生物の本と、絵本と……」

 

「絵本も持っていくの?」

 

「だって、寝る前に読みたいもん!」

 

 レオは笑った。

 

「そうだね。それなら、僕も一冊持っていこうかな」

 

「どんな本?」

 

「古代ルーン文字の入門書」

 

「……えっと、寝る前に読むの?」

 

「うん。面白いよ?」

 

「レオ兄さん、すごいね……」

 

 ハリーは感心したように呟いた。

 

 アリシアがくすくすと笑う。

 

「二人とも、読む本の趣味がずいぶん違うわね」

 

「でも、一緒に読むこともできるよ!」

 

 ハリーがすぐに言った。

 

「レオ兄さんが難しい本を読んで、ぼくが絵本を読むの!」

 

「それは一緒に読んでいると言えるのかな?」

 

「言えるよ!」

 

 ハリーは胸を張った。

 

「同じ部屋で読むんだもん!」

 

「なるほど。それなら間違いなく一緒だね」

 

 レオは笑って頷いた。

 

 ロイドは二人の様子を見ながら、ふと真面目な顔になった。

 

「ホグワーツでは、楽しいことばかりとは限らない。授業が難しいと感じることもあるだろうし、友達と意見が合わないこともあるかもしれない」

 

 ハリーは顔を上げた。

 

「喧嘩するの?」

 

「そういうこともあるだろうね。でも、大切なのは、何かあったときに一人で抱え込まないことだ」

 

 ロイドは二人を見つめた。

 

「わからないことがあれば先生に聞く。困ったときは信頼できる人に相談する。そして、自分が間違えたと思ったら、素直に認める。そういうことを忘れないでほしい」

 

「うん」

 

 レオは真剣に頷いた。

 

「僕も、ハリーが困っていたら力になるよ」

 

「ぼくも、レオ兄さんが困っていたら助ける!」

 

 ハリーは勢いよく手を挙げた。

 

「お片づけとか!」

 

「……それは、ぜひお願いしたいな」

 

 レオは苦笑した。

 

「あなたたち……」

 

 アリシアは呆れたように首を振ったが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「でも、そうね。二人で助け合うのはいいことだわ」

 

 ロイドも満足そうに頷いた。

 

「その気持ちを忘れないようにな」

 

     *

 

 その日の夕方、レオは庭の片隅にある小さな作業台へ向かった。

 

 魔法生物のための道具を手入れする場所だ。木の箱や縄、餌を入れる容器などが並んでいる。

 

 レオは昼間に使った杖を取り出し、軽く握り直した。

 

 先ほど試した浮遊呪文の感覚が、まだ手の中に残っている。

 

 呪文を唱えたとき、魔法の構造が頭に浮かんだ。

 

 その一部を少しだけ変える。

 

 すると、魔法の働きが変化する。

 

 どうして自分にそんなことができるのか、レオにはまだわからなかった。

 

「……もっと勉強したら、わかるかな」

 

 彼は杖先を眺めた。

 

 そのとき、庭の向こうから、ハリーの声が聞こえた。

 

「レオ兄さーん! こっち来てー!」

 

「はーい! 今行くよ!」

 

 レオは杖をしまい、声のしたほうへ走った。

 

 庭の草地では、ハリーが小さな魔法生物を相手にしゃがみ込んでいた。

 

「見て! この子、ぼくの手から餌を食べてくれたんだ!」

 

「本当だ。上手にできたね」

 

「えへへ! 最初は逃げちゃったんだけど、ゆっくり手を出したら食べてくれたんだよ!」

 

「相手が怖がらないように、ちゃんと考えたんだね」

 

「うん! 仲良くなりたいもん!」

 

 ハリーは嬉しそうに笑った。

 

 レオも隣にしゃがみ、魔法生物の様子を見守った。

 

 夕方の風が草を揺らし、遠くから鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 

 魔法の杖を手に入れたことも、ホグワーツへ行くことも、二人にとって大きな変化だった。

 

 けれど、こうして庭で遊ぶ時間は変わらない。

 

「ねえ、レオ兄さん」

 

「なあに?」

 

「ホグワーツにも、魔法生物はいるのかな?」

 

「いると思うよ。ハグリッドという、魔法生物に詳しい人もいるんだ」

 

「ハグリッド?」

 

「うん。どんな人なのか、僕も楽しみだね」

 

「じゃあ、会えたら一緒にお話ししよう!」

 

「そうしようか」

 

 レオは微笑んだ。

 

 ハリーは魔法生物の頭をそっと撫で、満足そうに立ち上がった。

 

「よーし! ぼく、ホグワーツでもいっぱい友達を作る!」

 

「うん。きっとできるよ」

 

「レオ兄さんもね!」

 

「僕も?」

 

「そうだよ! レオ兄さん、いろんなこと知ってるから、みんなとお話しできるよ!」

 

 レオは少し照れくさくなった。

 

「ありがとう。ハリーも、いろんな人と仲良くなれると思うよ」

 

「ほんと!?」

 

「うん。ハリーは、嬉しいときに嬉しいって言えるし、困っている人がいたら放っておけないからね」

 

 ハリーは目をぱちぱちさせたあと、にっこり笑った。

 

「えへへ。そうなれたらいいな!」

 

「もう、そうなっていると思うけどね」

 

 レオはハリーの頭を撫でた。

 

 ハリーは嬉しそうに笑い、再びレオの手を握った。

 

「ねえ、レオ兄さん」

 

「なあに?」

 

「ホグワーツに行っても、ずっと一緒に遊ぼうね!」

 

「もちろん」

 

 レオはしっかりと頷いた。

 

「勉強も、遊びも、いっぱい一緒に楽しもう」

 

「約束だよ!」

 

「約束」

 

 二人は小指を絡めた。

 

 その向こうでは、夕日が庭を橙色に染めていた。

 

 ホグワーツへの出発まで、あと少し。

 

 新しい杖も、教科書も、ローブも揃った。

 

 これから始まる学校生活には、きっと知らないことがたくさんある。

 

 でも、ハリーはもう怖くなかった。

 

 隣には、大好きなレオ兄さんがいる。

 

 そして、いつだって帰ってこられる家がある。

 

 その安心を胸に抱きながら、ハリーは夕空へ向かって元気よく手を振った。

 

「ホグワーツ、待っててねー!」

 

 レオはその声を聞きながら、楽しそうに笑った。

 

「ふふっ。まずは、出発の日までに荷物を片づけようね」

 

「……あっ!」

 

 ハリーは思い出したように顔を上げた。

 

「ぼく、まだ本を選んでない!」

 

「そうだったね」

 

「今から選ぼう! レオ兄さんも手伝って!」

 

「もちろん。じゃあ、部屋に戻ろうか」

 

「うん!」

 

 二人は手をつないで家へ戻っていった。

 

 窓から漏れる明かりが、夕暮れの庭を優しく照らしていた。

 

 

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