流星街の異邦人 ― その魂は二度目の人生を歩む   作:アイエオ

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第十七話 夜行列車の試験官と、選択の代償

夜行列車は、暗闇の中を走り続けていた。

 窓の外に広がるのは、月明かりに照らされた山々と、遠くに点在する小さな町の灯り。

 規則正しい車輪の音が、静かな車内に響いている。

 時刻は、午後十時を少し過ぎた頃だろうか。

 乗客の大半は、すでに眠りについていた。

 そんな中。

 俺の目の前には、一人の男が立っていた。

 細身の身体。

 長い髪。

 どこか人を食ったような笑み。

 昨日、駅で出会った念能力者。

 そして、自らをハンター試験の関係者だと名乗った男。

 レオン。

「……それで?」

 俺は、座席に腰を下ろしたまま尋ねた。

「特別な試験って、何をするんですか?」

 レオンは、楽しそうに笑った。

「随分と落ち着いているね」

「……そうですか?」

「普通なら、もう少し驚くと思うけど」

「驚いてますよ」

 俺は、肩をすくめた。

「……少なくとも、何も知らない人間にいきなり試験を受けろって言われたら、普通は驚くでしょう」

「ははっ。確かに」

 レオンは、愉快そうに笑った。

 だが、その目は笑っていなかった。

 こちらの反応を観察している。

 視線。

 呼吸。

 筋肉の動き。

 そして、おそらくはオーラの流れまで。

 ……なるほど。

 俺は、内心で頷いた。

 こいつ、かなりできるな。

 少なくとも、流星街で戦った三人の念能力者とは、明らかに違う。

 オーラの量だけなら、そこまで圧倒的というわけではない。

 だが、扱い方が上手い。

 無駄が少ない。

 纏が自然で、呼吸と同じようにオーラを維持している。

 俺も同じことはできるが、だからこそ相手の技量がよくわかった。

 ……経験豊富な念能力者。

 それも、対人戦に慣れているタイプだ。

 俺は、静かに息を吐いた。

 レオンは、そんな俺を見ながら口を開いた。

「まず、誤解を解いておこうか」

「……誤解?」

「僕は、正式な試験官じゃない」

 俺は、わずかに眉を動かした。

「……そうなんですか?」

「うん。正確には、試験会場までの案内を担当している協力者だよ」

 なるほど。

 原作でも、試験会場までの道中には案内人がいた。

 試験官とは別に、受験者を選別する役割を持つ人間が存在していたはずだ。

 今年も似たような仕組みがあるらしい。

 もっとも、十五年も前の試験だ。

 原作と同じ形式だと考えるのは危険だろう。

「……じゃあ、試験っていうのは?」

「会場まで辿り着くための、ちょっとした確認さ」

 レオンは、そう言って微笑んだ。

「もちろん、受けるかどうかは君の自由だ」

「……断ったら会場へ辿り着けないかもしれないって言ってましたよね?」

「言ったね」

「それ、自由って言います?」

「選択肢があるなら自由だろう?」

 ……屁理屈だな。

 俺は、内心で苦笑した。

 だが、嫌いではない。

 ハンター試験らしいと言えば、実にハンター試験らしい。

 俺は、レオンを見上げた。

「……具体的な内容を聞いてから決めても?」

「もちろん」

 レオンは、満足そうに頷いた。

「ただし、ここでは少し騒がしいね」

 男は、通路の奥へ視線を向けた。

「食堂車へ行こうか。今の時間なら、ほとんど人はいないはずだ」

 俺は、少し考えた。

 そのとき。

「……アオ?」

 隣から、小さな声が聞こえた。

 リリアだった。

 眠そうな目を擦りながら、こちらを見ている。

「どうしたの?」

「……ちょっと話をするだけ」

「誰と?」

 リリアの視線が、レオンへ向いた。

 男は、にこやかに手を振った。

「こんばんは、お嬢さん」

「……こんばんは?」

 リリアは、首を傾げた。

 そして、俺へ小声で尋ねてきた。

「知り合い?」

「……昨日、少し会った人」

「ふうん……」

 リリアは、レオンをじっと見た。

 それから、突然言った。

「もしかして、ハンター試験の人?」

 俺は、思わずリリアを見た。

 レオンも、少しだけ目を丸くした。

「……どうしてそう思ったんだい?」

「だって」

 リリアは、眠そうな顔のまま答えた。

「アオ、さっきまで普通だったのに、その人が来てからずっと真剣な顔してるもん」

 ……なるほど。

 俺は、内心で感心した。

 この少女。

 念は知らないようだが、観察力は悪くない。

 レオンは、愉快そうに笑った。

「鋭いね」

「本当!?」

「ああ。君も試験を受けるのかな?」

「うん!」

 リリアは、一瞬で眠気が吹き飛んだようだった。

「私、絶対にハンターになるんだから!」

「それは楽しみだ」

 レオンは、笑みを深めた。

「なら、君も一緒に来るといい」

 俺は、静かに目を細めた。

 ……さて。

 どうやら、試験は俺だけのものではなくなったらしい。

     ◇

 食堂車には、ほとんど人がいなかった。

 明かりは落とされ、窓際の席だけが淡く照らされている。

 俺とリリアは、向かい合う形で座った。

 レオンは、その横に腰を下ろした。

「さて」

 男は、懐から小さな封筒を取り出した。

 白い封筒。

 何の変哲もない、ありふれた紙製のものだ。

 だが。

 俺は、すぐに気づいた。

 ……オーラがある。

 封筒の表面に、薄いオーラがまとわりついている。

 周。

 あるいは、それに近い技術。

 ただし、単純な強化ではない。

 封筒の内側に、何かを隠しているようにも見える。

 俺は、表情を変えずに観察を続けた。

 レオンは、封筒をテーブルへ置いた。

「ここに、一枚の紙が入っている」

 リリアが、身を乗り出した。

「地図?」

「惜しい」

 レオンは、笑った。

「会場へ向かうための手掛かりだよ」

 俺は、封筒を見た。

「……それを渡してくれるんですか?」

「条件を満たせばね」

「条件?」

「簡単なことさ」

 レオンは、指を一本立てた。

「この封筒を開けること」

 俺は、少しだけ眉を動かした。

 ……それだけ?

 いや。

 そんなわけがない。

 念能力者が用意した封筒。

 しかも、ハンター試験の案内人。

 普通に開けられるとは思えない。

 レオンは、続けた。

「ただし、制限時間は十分」

 リリアが、目を輝かせた。

「十分もあるの!?」

「そうだよ」

「簡単そう!」

 ……いや。

 俺は、内心で苦笑した。

 たぶん、簡単じゃないぞ。

 レオンは、さらに説明を続けた。

「封筒を破いても、燃やしても、濡らしても構わない。ただし、中の紙が読めなくなった場合は失敗だ」

 俺は、静かに頷いた。

「……なるほど」

「そして、もう一つ」

 レオンは、俺とリリアを交互に見た。

「二人で挑戦するなら、成功も失敗も二人一緒だ」

 リリアが、首を傾げた。

「どういうこと?」

「片方が失敗したら、もう片方も失敗になる」

 俺は、目を細めた。

 ……なるほど。

 そういう試験か。

 単純な封筒開封ではない。

 協力。

 判断。

 そして、責任。

 それらを試すつもりらしい。

 レオンは、微笑んだ。

「もちろん、別々に挑戦してもいいよ」

 リリアは、すぐに俺を見た。

「アオ!」

「……ん?」

「一緒にやろう!」

 俺は、少しだけ考えた。

 ……即決か。

 なかなか大胆だな。

 俺は、リリアを見た。

「……失敗したら、二人とも駄目になるかもしれないよ?」

「うん!」

「……それでも?」

「だって、一緒に頑張ろうって言ったじゃん!」

 リリアは、当然のように答えた。

 俺は、少しだけ黙った。

 そして。

 小さく笑った。

「……そうだったね」

 俺は、レオンへ向き直った。

「……二人で挑戦します」

 レオンは、満足そうに頷いた。

「いいだろう」

 そして。

 懐中時計を取り出した。

「それでは」

 カチリ。

 時計の蓋が開く。

「……始め」

     ◇

 俺は、まず封筒を手に取った。

 軽い。

 普通の紙製封筒と変わらない。

 だが、表面には薄いオーラがまとわりついている。

 俺は、指先へ凝を使った。

 オーラを集中させる。

 さらに、封筒の表面へごく薄く周を施した。

 対象物を覆う自分のオーラ。

 それを、相手のオーラへ干渉させるように調整する。

 ……なるほど。

 感触がある。

 紙の表面。

 そのすぐ下。

 薄い膜のようなものが存在している。

 俺は、指先を動かした。

 封筒の端。

 糊付けされた部分。

 そこへ意識を集中する。

 ……ん?

 違和感。

 普通なら、糊の部分にはわずかな段差がある。

 だが、この封筒にはない。

 いや。

 正確には。

 段差が、存在していない。

 俺は、目を細めた。

 ……なるほど。

 物理的に封じているわけじゃない。

 念による固定。

 あるいは、空間的な干渉。

 俺は、封筒を軽く引っ張った。

 びくともしない。

 普通の紙なら、簡単に破れる程度の力だ。

 だが、封筒は形を変えなかった。

 ……面白いな。

 俺は、静かに息を吐いた。

 そして、リリアへ封筒を渡した。

「……触ってみて」

「うん!」

 リリアは、封筒を受け取った。

 そして、端を引っ張った。

「……あれ?」

 首を傾げる。

「開かない」

「……だろうね」

「なんで?」

「……ちょっと特殊な封筒みたい」

 俺は、そう答えた。

 念について説明するつもりはない。

 少なくとも、今は。

 リリアは、封筒を裏返した。

 そして、じっと見つめた。

「……あれ?」

「……どうした?」

「これ、変じゃない?」

 俺は、目を細めた。

「……何が?」

「だって」

 リリアは、封筒の裏側を指差した。

「ここ、何も書いてないよ?」

 俺は、少しだけ考えた。

 ……何も書いてない?

 普通の封筒なら、別におかしくない。

 だが。

 リリアは、続けた。

「封筒の表には、何か書いてあるのに」

 俺は、すぐに封筒を受け取った。

 表面。

 確かに、何かが書かれている。

 いや。

 さっきまでは、なかった。

 俺は、目を細めた。

 そこには、小さな文字が浮かび上がっていた。

『開けるべきものは、本当に封筒か?』

 ……なるほど。

 俺は、静かに息を吐いた。

 レオンを見た。

 男は、楽しそうに笑っている。

 ……そういうことか。

 俺は、封筒をテーブルへ置いた。

 そして、リリアへ尋ねた。

「……どう思う?」

 リリアは、首を傾げた。

「うーん……」

 しばらく考える。

 そして。

「……中に紙があるんだよね?」

「……そうらしい」

「じゃあ、封筒を開けなくても、中の紙が読めればいいんじゃない?」

 俺は、静かに頷いた。

 ……正解に近い。

 少なくとも、発想としては悪くない。

 レオンは、笑った。

「いいね」

 俺は、封筒を見た。

 ……さて。

 中身を読む方法。

 普通なら、光に透かす。

 あるいは、封筒を切る。

 だが、念によって封じられているなら、どちらも難しいだろう。

 俺は、少しだけ考えた。

 そして。

 ……いや。

 そもそも。

 俺は、封筒を見つめた。

 ……この封筒、本当に存在しているのか?

     ◇

 俺は、凝を強めた。

 目へオーラを集中させる。

 すると。

 封筒の輪郭が、わずかに揺らいだ。

 ……やっぱり。

 俺は、静かに息を吐いた。

 これは、具現化された物体ではない。

 少なくとも、普通の紙ではない。

 何らかの念能力によって作られた、特殊な封筒。

 俺は、さらに観察した。

 表面のオーラ。

 裏面のオーラ。

 そして、封筒の内部。

 ……ん?

 内側。

 そこに、微かな空間の歪みがある。

 俺は、目を細めた。

 ……なるほど。

 封筒そのものが、別の場所へ繋がっている?

 いや。

 違う。

 そこまで複雑な能力ではないかもしれない。

 俺は、封筒の端を指でなぞった。

 そして。

 あることに気づいた。

 ……重さが変わってる。

 最初に持ったときは、普通の紙と変わらなかった。

 だが、今は。

 わずかに重い。

 俺は、封筒を持ち上げた。

 そして、リリアへ渡した。

「……さっきより重くない?」

 リリアは、首を傾げた。

「……あ、本当だ!」

 俺は、静かに頷いた。

 ……やっぱり。

 時間経過。

 あるいは、何らかの行動によって、封筒の状態が変化している。

 俺は、懐中時計を見た。

 残り時間。

 六分ほど。

 まだ、余裕はある。

 俺は、静かに考えた。

 ……どうする?

 力ずくで破ることは、おそらく可能だ。

 俺の身体能力。

 そして、周や硬。

 それらを使えば、念による封印を突破できるかもしれない。

 だが。

 それでは、試験の意図を無視することになる。

 それに。

 中の紙を破損させる危険もある。

 俺は、静かに息を吐いた。

 ……なら。

 別の方法だ。

 俺は、レオンを見た。

「……一つ、質問しても?」

「もちろん」

「この封筒、中に紙が入っているんですよね?」

「そうだよ」

「……本当に?」

 レオンは、わずかに目を細めた。

 そして。

 笑った。

「……面白い質問だね」

 俺は、黙っていた。

 レオンは、続けた。

「僕は、嘘はついていないよ」

 俺は、静かに頷いた。

 ……なるほど。

 嘘はついていない。

 だが。

 真実をすべて話しているわけでもない。

 俺は、封筒を見た。

 そして。

 小さく笑った。

「……リリア」

「ん?」

「……ちょっと、手伝って」

「うん!」

 俺は、封筒をテーブルへ置いた。

 そして、リリアへ言った。

「……これを、ずっと見てて」

「見るだけ?」

「……うん」

 リリアは、首を傾げながらも頷いた。

 俺は、静かに目を閉じた。

 そして。

 絶。

 全身のオーラを閉じる。

 気配が消える。

 次の瞬間。

 封筒の表面にまとわりついていたオーラが、わずかに揺らいだ。

 俺は、すぐに纏へ戻した。

 ……なるほど。

 やっぱり。

 この封筒。

 俺のオーラへ反応している。

 つまり。

 念能力者が触れることで、状態が変化する仕組みだ。

 俺は、静かに息を吐いた。

 そして、リリアへ尋ねた。

「……何か変わった?」

 リリアは、封筒を見つめた。

 そして。

「あっ!」

 声を上げた。

「文字が消えた!」

 俺は、頷いた。

 ……よし。

 俺は、封筒を見た。

 確かに、文字が消えている。

 そして。

 封筒の輪郭も、少しだけ薄くなっていた。

 俺は、静かに笑った。

 ……なるほど。

 これは。

 念能力者が力を使うほど、封筒が強化される仕組みか。

 そして。

 逆に、オーラを閉じれば。

 封筒の強度が落ちる。

 俺は、静かに息を吐いた。

 ……面白い。

 だが。

 これだけでは、まだ足りない。

 俺は、リリアへ封筒を渡した。

「……今、開けてみて」

「うん!」

 リリアは、封筒の端をつまんだ。

 そして。

 軽く引っ張った。

 ……ぺりっ。

 小さな音。

 封筒が、開いた。

 リリアは、目を丸くした。

「……開いた!」

 俺は、静かに頷いた。

 ……成功。

 レオンは、しばらく黙っていた。

 そして。

 ゆっくりと拍手した。

「……素晴らしい」

 俺は、静かに息を吐いた。

 ……やれやれ。

 どうやら、正解だったらしい。

     ◇

 リリアは、封筒の中から一枚の紙を取り出した。

 そして、広げた。

 そこには、短い文章が書かれていた。

『ザバン市中央駅、北口。夜明け前に鐘が三度鳴る場所を探せ』

 俺は、その文章を読んだ。

 ……なるほど。

 試験会場への手掛かりか。

 レオンは、微笑んだ。

「おめでとう」

 俺は、顔を上げた。

「……合格ですか?」

「この段階はね」

 レオンは、頷いた。

「君たちは、無事に第一の関門を突破した」

 リリアは、嬉しそうに笑った。

「やったー!」

 俺は、静かに息を吐いた。

 ……第一の関門。

 つまり。

 まだ、続きがある。

 レオンは、俺を見た。

「……アオ君」

「……はい?」

「君は、なかなか面白いね」

 俺は、少しだけ苦笑した。

「……さっきも言ってましたね」

「そうだったかな?」

 レオンは、笑った。

 そして。

 少しだけ声を落とした。

「……君の念の扱い方、かなり洗練されている」

 俺は、表情を変えなかった。

 レオンは、続けた。

「特に、周と流」

 俺は、目を細めた。

 ……見抜かれてるな。

 当然か。

 あれだけ近くで観察されていたのだ。

 しかも、相手は熟練の念能力者。

 俺の技術を見抜けない方がおかしい。

 レオンは、静かに笑った。

「……十歳くらいの子供が、あそこまで扱えるとはね」

 俺は、肩をすくめた。

「……練習したので」

 レオンは、愉快そうに笑った。

「練習、か」

 そして。

 少しだけ真剣な表情になった。

「……君、誰に教わった?」

 俺は、少しだけ考えた。

 念の修行。

 その大半は、独学だった。

 原作知識。

 そして、実戦経験。

 さらに、転生時に与えられた才能。

 それらを利用して、ここまで鍛えてきた。

 だが。

 それを正直に話すわけにはいかない。

 俺は、静かに答えた。

「……いろいろです」

 レオンは、しばらく俺を見つめた。

 そして。

 小さく笑った。

「……なるほど」

 それ以上は、追及してこなかった。

 俺は、内心で少しだけ安堵した。

 ……助かる。

 余計な説明をする必要がなくなった。

     ◇

 試験を終えた後。

 俺たちは、元の座席へ戻った。

 リリアは、まだ興奮していた。

「すごかったね!」

「……そうだね」

「アオ、どうしてあんなこと思いついたの?」

 俺は、少しだけ考えた。

「……観察しただけだよ」

「観察?」

「……うん」

 俺は、封筒のことを思い出した。

「最初に触ったときと、途中で状態が変わってたから」

 リリアは、首を傾げた。

「……そうなの?」

「……そう」

 俺は、静かに頷いた。

「だから、何が原因なのか考えた」

 リリアは、しばらく考えた。

 そして。

 にっこり笑った。

「やっぱり、アオってすごいね!」

 俺は、苦笑した。

「……大したことないよ」

 だが。

 内心では、少しだけ考えていた。

 ……あの封筒。

 面白い能力だった。

 念能力者のオーラへ反応し、強度を変化させる。

 そして、オーラを閉じることで解除できる。

 単純な仕組みだが、使い方次第では厄介だ。

 俺は、静かに息を吐いた。

 ……やっぱり。

 念能力は、奥が深い。

 単純な戦闘力だけでは、どうにもならない状況がある。

 だからこそ。

 俺は、新しい発を作ろうとしている。

 愚か者の宝物庫。

 ランダムな景品。

 特殊な道具。

 それらを利用して、通常の手段では突破できない状況を打開する。

 ……方向性は、間違ってないな。

 俺は、静かに笑った。

     ◇

 その頃。

 食堂車では、レオンが一人で席に座っていた。

 目の前には、小さな封筒。

 先ほど、アオたちが開けたものとは別の封筒だった。

 レオンは、それを指先で弄びながら、静かに笑った。

「……面白い子だ」

 そして。

 懐から、小さな手帳を取り出した。

 そこには、いくつかの名前が書かれていた。

 今年のハンター試験へ向かう受験者候補。

 その中に。

 新しく、一つの名前が加えられた。

『アオ』

 レオンは、ペンを走らせた。

『推定年齢十歳前後』

『念能力者』

『基礎・応用技の完成度が極めて高い』

『特に周・流の精度は、熟練者の中でも上位』

『戦闘経験あり』

『判断力、観察力ともに優秀』

 そこまで書いたところで。

 レオンは、少しだけ考えた。

 そして。

 最後に、一文を追加した。

『……おそらく、今年の試験で最も危険な受験者の一人』

 レオンは、静かに笑った。

「……さて」

 手帳を閉じる。

 そして、窓の外を眺めた。

 夜行列車は、暗闇の中を走り続けている。

 その先には。

 ザバン市。

 そして。

 ハンター試験。

 レオンは、小さく呟いた。

「……今年は、退屈しなさそうだ」

     ◇

 翌朝。

 俺は、窓から差し込む朝日で目を覚ました。

 列車は、まだ走っている。

 リリアは、隣で眠っていた。

 俺は、静かに身体を起こした。

 そして、窓の外を見た。

 遠くに、大きな都市が見える。

 高い建物。

 広い道路。

 そして、無数の煙突。

 ……ザバン市。

 俺は、静かに息を吐いた。

 ついに、到着か。

 流星街を出て、数日。

 ようやく、目的地が見えてきた。

 俺は、アイテムボックスから小さなノートを取り出した。

 そこには、愚か者の宝物庫の設計図が書かれている。

 俺は、ページを開いた。

 そして、昨日の修行を思い出した。

 光の輪。

 回転。

 そして、消失。

 まだ、不完全。

 だが、確実に前進している。

 俺は、静かに頷いた。

 ……焦る必要はない。

 俺には、すでに十分な力がある。

 念の基礎。

 応用技。

 身体能力。

 そして、戦闘の才能。

 それらを磨きながら、新しい発を完成させればいい。

 俺は、ノートを閉じた。

 そして。

 静かに笑った。

「……さて」

 ザバン市。

 ハンター試験。

 そして、まだ見ぬ強者たち。

 俺は、窓の外へ視線を向けた。

 朝日が、都市を照らしている。

 その光景を見ながら。

 俺は、静かに呟いた。

「……いよいよだな」

 列車は、ゆっくりと速度を落とし始めた。

 車内放送が響く。

『まもなく、ザバン市中央駅に到着いたします』

 俺は、立ち上がった。

 そして、鞄を背負い直した。

 隣では、リリアが目を覚まし、眠そうに伸びをしている。

「……アオ?」

「……着くよ」

「……え?」

 リリアは、窓の外を見た。

 そして。

 ぱっと目を輝かせた。

「……ザバン市!?」

 俺は、頷いた。

「……うん」

 リリアは、嬉しそうに笑った。

「やったー!」

 俺は、少しだけ笑った。

 そして。

 静かに息を吐いた。

 ……さあ。

 ここからが、本番だ。

 俺たちは、列車を降りる準備を始めた。

 その先に待つものが、何なのか。

 まだ、わからない。

 だが。

 俺は、確信していた。

 これから先。

 俺の人生は、さらに大きく動き始める。

 そして。

 その中心にあるのは。

 ハンター試験。

 そして。

 俺自身の選択だ。

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