流星街の異邦人 ― その魂は二度目の人生を歩む 作:アイエオ
地下空間に、時計の針が時を刻む音が響いていた。
カチリ。
カチリ。
カチリ。
広大な石造りの空間。
高い天井には無数の照明が取り付けられ、中央には巨大な時計が設置されている。
壁際には長椅子が並び、奥にはいくつもの通路が伸びていた。
俺は、その一角に腰を下ろし、周囲を眺めていた。
時刻は、午前十一時二十分。
ザバン市へ到着してから、まだそれほど時間は経っていない。
それでも、ここまでの道のりはなかなか面白かった。
レオンという男との出会い。
夜行列車での奇妙な試験。
ザバン市の地下通路。
そして、隠された鐘楼。
どれも、普通の旅行では経験できないものばかりだ。
……ハンター試験、か。
俺は、静かに息を吐いた。
前世で漫画を読んでいた頃は、まさか自分が受験者になるとは思ってもいなかった。
それも、原作が始まるよりもずっと前の時代に。
現在は一九八四年。
原作の主要人物たちが試験を受けるのは、まだ先の話だ。
当然、今回の試験について知っていることは何もない。
試験官の名前も。
試験内容も。
参加者の顔ぶれも。
すべてが未知数だった。
……まあ、それも悪くない。
俺は、小さく笑った。
「ねえ、アオ」
隣から声がした。
視線を向けると、リリアが長椅子の上で足を揺らしていた。
茶色い短髪が、動きに合わせて小さく跳ねている。
「……ん?」
「まだ誰も来ないね」
「……そうだな」
俺たちが受付を済ませてから、三十分ほどが経過していた。
だが、会場には相変わらず二人しかいない。
受付で渡された番号札は、俺が一番。
リリアが二番。
どうやら、今年最初の到着者だったらしい。
「もしかして、私たちが早すぎたのかな?」
「……かもしれない」
「じゃあ、ちょっと探検してみない?」
「……駄目」
「えー!」
即答すると、リリアが不満そうに頬を膨らませた。
俺は、苦笑する。
「……ここ、試験会場だから」
「でも、まだ試験始まってないよ?」
「……始まってないとは限らない」
「え?」
リリアが首を傾げた。
俺は、周囲へ視線を向ける。
会場の隅。
天井近くに設置された小さな監視カメラ。
そして、奥の通路から聞こえてくる微かな足音。
おそらく、協会の関係者がこちらを観察している。
ハンター試験では、正式な開始宣言より前から受験者の行動が評価される可能性がある。
それを考えれば、不用意に動き回るのは得策ではない。
「……今は、おとなしく待とう」
「むぅ……」
リリアは少しだけ不満そうだったが、すぐに気を取り直した。
「じゃあ、何か食べよう!」
「……切り替え早いな」
「お腹空いたもん!」
俺は、思わず笑った。
……本当に元気な子だ。
だが、悪くない。
むしろ、こういう性格には救われることもある。
流星街で過ごした五年間。
俺の周囲には、常に緊張があった。
飢え。
病気。
暴力。
そして、死。
笑っていられる時間は、決して多くなかった。
だからこそ。
こうして、何でもないことで笑える時間は貴重だった。
◇
最初の受験者が現れたのは、それから二十分ほど経った頃だった。
奥の通路から、重い足音が響いてきた。
俺は、顔を上げた。
現れたのは、一人の大男。
身長は二メートル近い。
分厚い胸板。
丸太のような腕。
短く刈り込まれた髪。
背中には、大きな斧を背負っている。
……でかいな。
俺は、内心で呟いた。
大男は、会場を見回した。
そして、俺たちを見つけると、露骨に眉をひそめた。
「……ガキ?」
俺は、軽く会釈した。
「……どうも」
男は、俺とリリアを交互に見た。
「おいおい。今年のハンター試験は、子供のお遊びか?」
リリアが、むっとした顔をした。
「お遊びじゃないもん!」
「はっ!」
大男は鼻で笑った。
「威勢だけはいいみてえだな」
俺は、二人のやり取りを眺めていた。
……なるほど。
典型的な力自慢か。
だが、見た目だけの男ではなさそうだ。
足運び。
重心の位置。
背中の斧を邪魔にしない歩き方。
それらを見る限り、かなり実戦経験がある。
ただし。
……念は使えないな。
俺は、自然な状態で男を観察した。
纏の兆候はない。
オーラの扱いに慣れた人間特有の気配もない。
もちろん、念能力者が絶を使っている可能性は常にある。
だが、この男に限っては、その可能性は低そうだった。
何より。
肉体を鍛え上げた者特有の、独特の呼吸がある。
……強いな。
一般人としては、かなり。
俺は、静かに頷いた。
大男は、受付で渡された番号札を胸へ付けた。
『003』
そして、俺たちから少し離れた長椅子へ腰を下ろした。
「……ふん」
腕を組み、目を閉じる。
俺は、それ以上気にしなかった。
リリアは、まだ少し不満そうだった。
「……感じ悪い人」
「……まあ、いろんな人がいるから」
「アオは腹立たないの?」
「……別に」
俺は、肩をすくめた。
「言われたところで、何か変わるわけじゃないし」
リリアは、しばらく俺を見つめた。
そして、小さく笑った。
「……アオって、大人みたい」
俺は、少しだけ苦笑した。
……実際、中身は三十七歳くらいだからな。
もちろん、口には出さない。
「……そうかな」
「うん!」
リリアは、元気よく頷いた。
俺は、静かに息を吐いた。
……さて。
これから、どんな連中が来るのやら。
◇
その後、受験者たちは少しずつ集まり始めた。
細身の剣士。
大きな鞄を背負った商人風の男。
旅装束の女性。
長い杖を持つ老人。
顔を仮面で覆った人物。
そして、明らかに格闘家と思われる若者たち。
実に多種多様だった。
俺は、長椅子に座ったまま、一人ひとりを観察していた。
身体の使い方。
歩き方。
視線の動き。
呼吸。
そして、周囲への警戒。
念を使わなくても、ある程度の実力は推測できる。
……なるほど。
思っていたより、粒揃いだな。
もちろん、全員が強いわけではない。
明らかに準備不足と思われる者もいる。
だが、その中には、相当な実力者も混ざっていた。
特に目を引いたのは、一人の青年だった。
年齢は二十代前半ほど。
黒い長髪。
細身の身体。
腰には一本の刀。
青年は、会場の壁際へ移動すると、静かに目を閉じた。
俺は、少しだけ目を細めた。
……こいつ、できるな。
呼吸が深い。
重心が安定している。
そして、立ち姿に無駄がない。
刀を抜くための姿勢へ、いつでも移行できる位置に身体を置いている。
おそらく、相当な剣術の使い手だ。
ただし。
……念能力者ではなさそうだ。
少なくとも、纏を維持している様子はない。
俺は、静かに頷いた。
それでいい。
むしろ、念を知らない人間がどこまで強くなれるのか。
そちらの方が興味深い。
この世界では、念能力者が圧倒的な優位を持つ。
だが。
念を知らないからといって、弱いとは限らない。
優れた身体能力。
卓越した武術。
豊富な実戦経験。
そして、異常なまでの精神力。
それらを持つ人間は、念を知らなくても十分に危険な存在になり得る。
……油断は禁物だな。
俺は、静かに息を吐いた。
現時点で、会場に集まった受験者の中から、念能力者らしい人物は確認できなかった。
俺自身を除けば、という話だが。
もちろん、全員を完全に調べたわけではない。
だが、少なくとも念を使えることを前提に行動している者はいなかった。
……まあ、普通はそうだよな。
念能力。
それは、一般社会では秘匿された技術だ。
ハンター試験の受験者だからといって、知っているとは限らない。
むしろ、知らない者の方が圧倒的に多いはずだ。
俺は、改めて周囲を見回した。
……なるほど。
今年の試験。
案外、純粋な身体能力や判断力が重要になるのかもしれない。
◇
午後一時。
会場には、すでに五十人以上の受験者が集まっていた。
ざわめき。
笑い声。
怒鳴り声。
そして、武器や荷物が擦れる音。
静かだった地下空間は、すっかり賑やかになっていた。
俺は、椅子へ座ったまま、持参したパンを食べていた。
リリアも、隣で同じものを頬張っている。
「……おいしいね!」
「……そうだな」
「試験って、どれくらい長いのかな?」
「……さあ」
「一日?」
「……もっとかも」
「三日?」
「……あり得る」
「一週間?」
「……それも、あり得る」
リリアは、目を丸くした。
「ええっ!?」
俺は、苦笑した。
「……ハンター試験だからね」
「そっかぁ……」
少女は、少しだけ考え込んだ。
そして。
「じゃあ、食べ物は大事だね!」
「……その通り」
俺は、頷いた。
……いい考えだ。
ハンター試験では、何が起こるかわからない。
長距離移動。
野外生活。
食料調達。
戦闘。
そして、心理戦。
どんな試験でも対応できるよう、準備しておく必要がある。
もっとも。
俺には、アイテムボックスがある。
食料。
水。
毛布。
武器。
その他の生活用品。
流星街で蓄えた物資の一部は、今も収納されている。
食料不足で困ることは、まずないだろう。
だが。
……使いどころは考えないとな。
アイテムボックスの存在は、他人に知られたくない。
念能力と誤解される可能性もある。
それに、便利すぎる能力は、余計な注目を集める。
俺は、静かに息を吐いた。
……なるべく、普通に行動しよう。
そう考えていたときだった。
「……アオ」
リリアが、小さな声で呼びかけてきた。
「……ん?」
「さっきから、あの人が変なの」
俺は、彼女の視線を追った。
会場の端。
そこに、一人の男が立っていた。
年齢は三十代ほど。
灰色の上着。
黒いズボン。
目立った武器もない。
普通の受験者に見える。
だが。
俺は、少しだけ目を細めた。
……なるほど。
確かに、妙だ。
男は、会場の端に立ったまま、ほとんど動いていない。
誰とも話さず。
休憩もせず。
ただ、受験者たちを観察している。
「……あの人、ずっとあそこにいるの」
リリアは、さらに続けた。
「でも、誰かが入ってくるたびに、必ずそっちを見るんだ」
俺は、静かに頷いた。
……よく見てるな。
普通なら、気にも留めないだろう。
だが、リリアは違った。
人の動き。
視線。
行動の繰り返し。
そこから、違和感を拾い上げている。
俺は、静かに考えた。
……斥候向きだな。
まだ、技術として完成しているわけではない。
経験も不足している。
だが、観察眼には確かな素質がある。
「……よく気づいたね」
俺がそう言うと、リリアは嬉しそうに笑った。
「えへへ」
俺は、男をもう一度見た。
……さて。
何者だ?
少なくとも、普通の受験者とは少し違う。
だが、念能力者ではなさそうだ。
纏を使っている様子もない。
それでも。
……何か、隠してるな。
俺は、静かに息を吐いた。
そして、リリアへ小声で言った。
「……あの人のこと、覚えておこう」
「うん!」
リリアは、真剣な顔で頷いた。
……いい返事だ。
俺は、少しだけ笑った。
◇
午後三時。
会場中央の巨大な時計が、低い音を響かせた。
ゴーン。
ゴーン。
ゴーン。
ざわめきが、少しずつ静まっていく。
俺は、顔を上げた。
……時間か。
その瞬間。
会場奥の巨大な扉が、ゆっくりと開いた。
ゴゴゴゴ……。
重い金属音が響く。
そして。
一人の男が現れた。
年齢は五十代ほど。
灰色の短髪。
鋭い目。
そして、鍛え上げられた身体。
身長は、百九十センチほどだろうか。
肩幅が広く、厚い胸板を持っている。
だが、単なる筋肉質な男ではない。
歩き方に、無駄がない。
重心が安定している。
そして、一歩一歩が静かだった。
……なるほど。
俺は、目を細めた。
……強いな。
それは、念能力者としての強さではない。
肉体を鍛え上げ、実戦を積み重ねてきた者だけが持つ、独特の存在感。
男は、会場中央へ歩いてきた。
その後ろには、数人の協会関係者らしき人物が続いている。
そして。
男は、受験者たちを見回した。
「……諸君」
低い声。
だが、不思議なほどよく通った。
会場が、静まり返る。
「これより、第六十九回ハンター試験を開始する」
俺は、静かに息を吐いた。
……いよいよか。
男は、続けた。
「私は、第一次試験を担当する試験官、ガルドだ」
俺は、その名前を頭へ刻んだ。
……ガルド。
覚えておこう。
男は、受験者たちを見回した。
そして。
突然、口を閉じた。
……ん?
俺は、少しだけ目を細めた。
何かが変わった。
だが。
オーラではない。
念能力による圧力でもない。
ただ。
男の立ち姿が、変わった。
肩の力が抜ける。
重心が、わずかに沈む。
視線が、鋭くなる。
そして。
呼吸が、静かになった。
……なるほど。
俺は、内心で頷いた。
……殺気か。
いや。
それだけではない。
戦場で何度も死線を越えた者が持つ、圧倒的な迫力。
それを、意図的に周囲へ向けている。
男は、何もしていない。
ただ、立っているだけ。
それなのに。
会場の空気が、重くなった。
「……っ!」
近くにいた受験者が、息を呑んだ。
「……な、何だ……?」
別の男が、額へ汗を浮かべる。
何人かは、無意識に一歩後ずさった。
俺は、静かに観察していた。
……なるほど。
相当な修羅場を潜ってきた人間だ。
単純な筋力ではない。
相手の意識を圧迫するような、強烈な存在感。
それを、経験と技術だけで生み出している。
……面白いな。
俺は、少しだけ笑った。
流星街にも、こういう人間はいた。
念を使えなくても、近づくだけで危険を感じるような連中。
ガルドも、その類だろう。
だが。
それ以上に。
……この人、かなり強い。
俺は、静かに頷いた。
肉体。
技術。
経験。
そして、精神。
それらが、高い水準でまとまっている。
念能力者としての実力は、まだわからない。
だが、少なくとも戦士としては一流だ。
俺は、自然に姿勢を整えた。
隣では、リリアが少しだけ顔を強張らせていた。
「……アオ」
小さな声。
俺は、彼女を見た。
「……大丈夫」
「……う、うん」
リリアは、頷いた。
だが、手が少し震えている。
俺は、静かに言った。
「……あの人、ただ立ってるだけだよ」
「……え?」
「……何もしてない」
リリアは、驚いたように俺を見た。
俺は、続けた。
「……怖いのは、わかるけど」
そして。
少しだけ笑った。
「……今は、何も起こってない」
リリアは、しばらく黙っていた。
そして。
ゆっくりと深呼吸した。
「……うん」
その目が、少しだけ落ち着きを取り戻す。
俺は、静かに頷いた。
……いいぞ。
恐怖を感じないことが強さではない。
恐怖を感じても、自分を見失わないこと。
それが、大切だ。
◇
ガルドの威圧は、三十秒ほど続いた。
そして。
突然、消えた。
男が、自然な姿勢へ戻っただけだった。
だが、それだけで会場の空気が軽くなったように感じられた。
受験者たちが、安堵の息を吐く。
俺は、静かに息を吐いた。
……なるほど。
いい挨拶だ。
ガルドは、受験者たちを見回した。
そして。
低い声で言った。
「……今のは、挨拶だ」
俺は、少しだけ苦笑した。
……物騒な挨拶だな。
ガルドは、続けた。
「ハンター試験には、危険が伴う」
会場が、静まり返る。
「命を落とす者もいる。重傷を負う者もいる。そして、精神を壊される者もいる」
俺は、静かに頷いた。
……その通りだ。
ハンター試験。
それは、命懸けの試験だ。
前世の知識でも、それは十分に理解している。
ガルドは、さらに続けた。
「それでも、試験を受ける覚悟がある者だけ、ここに残れ」
会場に、沈黙が落ちた。
俺は、静かに息を吐いた。
……覚悟、か。
流星街。
あの場所で、五年間生きてきた。
飢え。
病気。
暴力。
そして、死。
それらは、日常だった。
だからこそ。
今さら、命の危険を聞いて怯えることはない。
俺は、静かに笑った。
……もちろん、受けるさ。
隣では、リリアが拳を握っていた。
まだ、少しだけ震えている。
だが。
その目は、真っ直ぐ前を見ていた。
俺は、静かに頷いた。
……いい目だ。
怖いのは、当然だ。
それでも、逃げない。
その意思は、立派だった。
◇
ガルドは、会場中央へ立った。
そして。
低い声で言った。
「第一次試験の内容を説明する」
受験者たちが、身を乗り出した。
俺も、静かに耳を傾けた。
ガルドは、続けた。
「……諸君には、ある場所まで辿り着いてもらう」
俺は、目を細めた。
……移動試験か。
原作と似ているな。
だが。
ガルドは、さらに続けた。
「ただし、目的地は教えない」
会場が、ざわついた。
「……は?」
「……どういうことだ?」
「……目的地がわからないのに、どうやって行くんだ?」
俺は、静かに考えた。
……なるほど。
面白い。
単なる持久走ではない。
情報収集。
判断力。
そして、探索能力。
それらを試すつもりらしい。
ガルドは、口元へ笑みを浮かべた。
「……諸君には、三つの手掛かりを与える」
俺は、静かに頷いた。
……三つ。
ガルドは、指を一本立てた。
「一つ。目的地は、ザバン市の外にある」
二本目。
「二つ。目的地へ辿り着くためには、必ず一度、地下を通らなければならない」
三本目。
「三つ。目的地には、赤い塔がある」
俺は、静かに考えた。
……赤い塔。
地下を通る。
ザバン市の外。
なるほど。
かなり曖昧だ。
だが。
情報がないわけではない。
俺は、静かに息を吐いた。
……さて。
どう攻略するか。
ガルドは、さらに続けた。
「制限時間は、二十四時間」
会場が、ざわついた。
「……二十四時間!?」
「……短すぎる!」
「……そんなの、無理だろ!」
俺は、静かに頷いた。
……確かに。
普通の人間なら、かなり厳しい。
だが。
不可能ではない。
ガルドは、最後に言った。
「なお、試験中の戦闘は禁止しない」
俺は、目を細めた。
……なるほど。
つまり。
受験者同士の妨害も、許される。
俺は、静かに息を吐いた。
……面倒だな。
だが。
それも、ハンター試験らしい。
ガルドは、腕を組んだ。
そして。
低い声で言った。
「……では」
会場の時計が、午後三時十分を示した。
「第一次試験、開始!」
◇
受験者たちが、一斉に動き始めた。
出口へ向かう者。
地図を広げる者。
他の受験者へ話しかける者。
そして、何も考えずに走り出す者。
俺は、椅子へ座ったまま動かなかった。
リリアが、不思議そうにこちらを見た。
「……アオ?」
「……ん?」
「行かないの?」
俺は、静かに首を横に振った。
「……まだ」
「……どうして?」
俺は、少しだけ笑った。
「……考えることがあるから」
リリアは、首を傾げた。
俺は、ガルドの言葉を思い出した。
ザバン市の外。
地下を通る。
赤い塔。
……さて。
この三つ。
普通に考えれば、目的地の特徴だ。
だが。
問題は、二つ目。
『必ず一度、地下を通らなければならない』
この言葉。
単に地下鉄を使うという意味ではないだろう。
なぜなら。
地下鉄を使わずに市外へ出る方法など、いくらでもあるからだ。
つまり。
地下を通らなければ辿り着けない場所。
それが、目的地なのだろう。
俺は、静かに頷いた。
……なるほど。
ならば。
地下通路。
地下施設。
あるいは、地下迷宮。
そのどれかだ。
俺は、リリアを見た。
「……リリア」
「……ん?」
「……さっきの地図、覚えてる?」
少女は、ぱっと顔を輝かせた。
「うん!」
俺は、少しだけ笑った。
「……あの地下通路」
「……うん」
「……まだ、他にもありそうだったよね?」
リリアは、少しだけ考えた。
そして。
頷いた。
「……あった!」
俺は、静かに息を吐いた。
……よし。
どうやら。
最初の手掛かりは、すでに手元にあるらしい。
俺は、立ち上がった。
そして、鞄を背負い直した。
「……行こうか」
リリアは、嬉しそうに頷いた。
「うん!」
俺たちは、会場の出口へ向かった。
その先に待つものが、何なのか。
まだ、わからない。
だが。
俺は、確信していた。
今回の試験。
単純な力比べではない。
情報。
判断。
そして、探索。
それらが、重要になる。
俺は、隣を歩くリリアを見た。
少女は、地図を取り出し、真剣な表情で確認している。
俺は、少しだけ笑った。
……頼りにしてるぞ。
そう思いながら。
俺たちは、第一次試験へと踏み出した。