流星街の異邦人 ― その魂は二度目の人生を歩む   作:アイエオ

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第五十五話 研究者の野望――守るべきもの

一九八九年、春。

 

 霧哭きの渓谷、地下深部。

 

 中央管理区画。

 

     ◇

 

 四台の搬送寝台が、音もなく通路を進んでいた。

 

 それぞれに横たわっているのは、行方不明となっていた調査員たちだ。

 

 マルクを含む四人全員の生命反応は安定している。中央統括機構によって用意された携帯型補助装置が、彼らの呼吸と循環を支えていた。

 

 その後方には、二十三組の生命維持補助装置を積んだ搬送台が続いている。

 

 俺たちは、それらを挟むように歩いていた。

 

 先頭が俺。

 

 すぐ後ろにリリア。

 

 さらにエドガーとユリウス。

 

 搬送台が長い列を作っているため、全体を見渡せる位置を意識していた。

 

 ここまで来れば、第七観測区まで戻るだけだ。

 

 そう考えたいところだが、どうにも胸の奥が落ち着かなかった。

 

 理由はわかっている。

 

 ユリウス・ベルンハルト。

 

 あの男だ。

 

 中央統括機構から暫定的な管理権限を与えられた研究者。

 

 遺構の機能を解析し、研究施設の設備を作り上げた人物。

 

 そして、俺を『観測対象一』として利用しようとしている男。

 

 何かを企んでいることは間違いない。

 

 だが、今のところ決定的な証拠がない。

 

 いや、正確には違う。

 

 証拠がないのではなく、目的がわからないのだ。

 

 俺の身体能力やオーラに興味を持っていることは明らかだった。

 

 だが、それだけのために、これほど大掛かりな施設を動かすだろうか。

 

 しかも、中央統括機構から与えられた権限を使ってまで。

 

(……何か、別の目的がある)

 

 俺は歩きながら、背後の気配を探った。

 

 ユリウスのオーラは安定している。

 

 不自然な膨張も、攻撃の兆候もない。

 

 だが、それがかえって気味悪かった。

 

 この男は、感情を表に出すことに慣れていないのではない。

 

 感情を隠すことに慣れすぎている。

 

 そんな印象があった。

 

「……アオ」

 

 リリアが小声で呼んだ。

 

「どうした?」

 

「前の床、さっきと違う」

 

 俺は足を止めた。

 

 彼女が指差した場所を見る。

 

 通路の中央に、細い青白い線が走っていた。

 

 先ほど通ったときにはなかったものだ。

 

 俺は凝を使った。

 

 床の内部を、細いオーラの流れが走っている。

 

 それ自体は、この遺構では珍しくない。

 

 だが、今回は流れ方が違っていた。

 

 床から壁へ。

 

 壁から天井へ。

 

 そして、再び床へ。

 

 まるで、通路全体を囲むように循環している。

 

(……何かの装置が動いている?)

 

 俺は搬送台を止めた。

 

「……統括機構」

 

『応答』

 

「この通路に、何か異常があるのか?」

 

 少しの沈黙。

 

『現在、搬送経路の安全性を確認しています』

 

「……確認中?」

 

『一部区画において、管理命令の競合を検知』

 

 俺は目を細めた。

 

「……誰の命令だ?」

 

『暫定管理権限による命令です』

 

 俺は、ゆっくりと振り返った。

 

 ユリウスが立っていた。

 

 男は、俺の視線を受けても表情を変えなかった。

 

「……何をした?」

 

 俺が尋ねると、ユリウスは穏やかに答えた。

 

「搬送経路の確認を」

 

「俺たちは、そんなことを頼んでいない」

 

「ええ。ですが、必要な作業です」

 

 俺は男を見つめた。

 

「……勝手なことはするなと言ったはずだ」

 

「もちろん、覚えています」

 

「なら、なぜやった?」

 

 ユリウスは、少しだけ笑った。

 

「……この先には、危険な区画がありますから」

 

 俺は眉を寄せた。

 

「……危険?」

 

「ええ」

 

 男は、通路の奥を見た。

 

「……あなたには、まだ見せていないものがあります」

 

 俺は、静かに息を吸った。

 

 嫌な予感がした。

 

     ◇

 

「……説明しろ」

 

 俺はユリウスを見据えた。

 

 男は、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……この遺構には、中央統括機構とは別に、独立した管理領域が存在します」

 

 俺は眉を寄せた。

 

「……独立した管理領域?」

 

「ええ。私たちが便宜上、『深層記録区画』と呼んでいる場所です」

 

 俺は、少しだけ考えた。

 

 中央統括機構。

 

 医療設備室。

 

 観測区。

 

 そして、深層記録区画。

 

 この遺構には、まだ俺たちが知らない場所があるらしい。

 

「……そこに何がある?」

 

 ユリウスは首を横に振った。

 

「完全にはわかっていません」

 

「……またそれか」

 

 俺は、思わず呟いた。

 

 ユリウスは苦笑した。

 

「残念ながら、本当のことです」

 

 俺は男を睨んだ。

 

「……なら、何のために行く?」

 

「……記録を確認するためです」

 

「何の記録だ?」

 

 ユリウスは、少しだけ間を置いた。

 

「……この遺構が、なぜ建造されたのか。その詳細です」

 

 俺は、黙った。

 

 中央統括機構は、生命保護を目的とした施設だと説明した。

 

 だが、なぜそのような施設が必要だったのか。

 

 何から人々を守ろうとしていたのか。

 

 その部分は、まだわかっていない。

 

 確かに、調べる価値はある。

 

 だが。

 

「……今じゃない」

 

 俺は言った。

 

「先に救出を終わらせる」

 

 ユリウスは、しばらく俺を見つめた。

 

「……あなたは、本当に頑固ですね」

 

「よく言われる」

 

 俺は肩をすくめた。

 

「だが、今回は譲らない」

 

 ユリウスは、少しだけ目を細めた。

 

 そして。

 

「……では、少しだけ考え方を変えましょう」

 

 俺は眉を寄せた。

 

「……何を?」

 

 男は、静かに答えた。

 

「……あなたが救おうとしている人々の命と、私の研究は、必ずしも対立するものではありません」

 

 俺は、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……どういう意味だ?」

 

 ユリウスは、ゆっくりと口を開いた。

 

「……この遺構の医療技術を完全に解明できれば、現代の医学では救えない人々を救えるかもしれません」

 

 俺は、男を見た。

 

「……それは、わかる」

 

 実際、この施設の技術は驚異的だ。

 

 生命維持装置。

 

 神経補助器具。

 

 オーラ循環安定器。

 

 どれも、現代の医学では再現が難しいものだろう。

 

 だが。

 

「……だからって、人体実験をしていい理由にはならない」

 

 俺は言った。

 

 ユリウスは、少しだけ表情を変えた。

 

「……もちろんです」

 

「本当にそう思っているのか?」

 

 男は、すぐには答えなかった。

 

 俺は続けた。

 

「第七観測区にいた人間たちは、実験材料として扱われていた。零号もそうだ」

 

 ユリウスは黙っている。

 

「……お前は、それを知っていたんだろう?」

 

 男は、しばらく俺を見つめた。

 

 そして。

 

「……ええ」

 

 俺は、拳を握った。

 

「……止めようとはしなかったのか?」

 

「……私の研究部門とは、管轄が異なりました」

 

 その言葉を聞いた瞬間、腹の底が冷たくなった。

 

 管轄。

 

 それだけか。

 

 人間が苦しんでいることを知りながら、管轄が違うという理由で放置したのか。

 

「……お前」

 

 俺は、一歩踏み出した。

 

 だが、リリアがそっと腕に触れた。

 

「……アオ」

 

 俺は、彼女を見た。

 

 リリアは、静かに首を横に振った。

 

 今は、ここで争うべきではない。

 

 そう言いたいのだろう。

 

 俺は、ゆっくりと息を整えた。

 

「……わかった」

 

 そして、ユリウスへ視線を戻した。

 

「……今は、先へ進む」

 

 男は、少しだけ頷いた。

 

「……賢明な判断です」

 

 俺は、その言葉を無視した。

 

     ◇

 

 通路を進むと、前方に広い空間が現れた。

 

 円形の広場。

 

 床には幾何学的な模様が刻まれ、中央には高さ二メートルほどの柱が立っている。

 

 柱の表面には、細い文字がびっしりと刻まれていた。

 

 俺は、足を止めた。

 

 リリアも、周囲を見渡している。

 

「……ここ、さっき通った?」

 

「いや」

 

 俺は首を横に振った。

 

 医療設備室へ向かうとき、こんな場所は通っていない。

 

 つまり、搬送経路が変わっている。

 

 俺は、ユリウスを見た。

 

「……お前の仕業か?」

 

 男は、少しだけ笑った。

 

「……正確には、統括機構の判断です」

 

「……どういう意味だ?」

 

「私が経路の安全確認を要求したところ、こちらの通路が選択されたのです」

 

 俺は、周囲を見た。

 

 確かに、危険な気配はない。

 

 だが、何かがおかしい。

 

 円を広げる。

 

 五十メートル。

 

 その範囲内に、複数の通路が存在している。

 

 だが、どれも途中で途切れている。

 

 壁の向こうへ続くはずの通路が、不自然に閉ざされていた。

 

(……閉じ込められた?)

 

 俺は、すぐに統括機構へ呼びかけた。

 

「……ここから第七観測区へ戻る経路を示してくれ」

 

『要求を受理』

 

 少しの沈黙。

 

『現在、経路を再構成しています』

 

 俺は眉を寄せた。

 

「……どれくらいかかる?」

 

『未確定』

 

 俺は、ユリウスを見た。

 

 男は、穏やかに微笑んでいた。

 

 その表情を見た瞬間、確信した。

 

 これは偶然ではない。

 

「……ユリウス」

 

「はい」

 

「……お前、最初からここへ連れてくるつもりだったな?」

 

 男は、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……ええ」

 

 あっさりと認めた。

 

 俺は、静かに拳を握った。

 

「……目的は?」

 

 ユリウスは、中央の柱へ視線を向けた。

 

「……あなたに、見てもらいたいものがあるのです」

 

 俺は、眉を寄せた。

 

「……何を?」

 

 男は、ゆっくりと答えた。

 

「……この遺構の、真の価値を」

 

     ◇

 

 ユリウスが柱へ近づいた。

 

 俺は、すぐにその腕を掴んだ。

 

「……勝手に動くな」

 

 男は、少しだけ驚いた顔をした。

 

「……警戒しすぎではありませんか?」

 

「お前が信用できないだけだ」

 

 俺は答えた。

 

 ユリウスは、苦笑した。

 

「……それは困りましたね」

 

 俺は、男を柱から引き離した。

 

「……説明だけしろ」

 

 ユリウスは、しばらく考えた。

 

 そして。

 

「……この柱は、遺構の管理記録を閲覧するための端末です」

 

 俺は、柱を見た。

 

 確かに、表面には細い文字が刻まれている。

 

 だが、今は光っていない。

 

「……何が記録されている?」

 

「……建造当初の情報です」

 

 俺は、少しだけ考えた。

 

 医療設備室で見た記録媒体と同じようなものだろうか。

 

「……統括機構」

 

 俺は呼びかけた。

 

『応答』

 

「この柱は何だ?」

 

『記録閲覧端末です』

 

 ユリウスの説明と一致している。

 

「……何が見られる?」

 

『施設の運用履歴および一部の建造記録』

 

 俺は頷いた。

 

「……閲覧できるか?」

 

『可能』

 

 俺は、少しだけ驚いた。

 

 ユリウスの権限が必要なのかと思っていたが、そうではないらしい。

 

「……なら、見せてくれ」

 

『要求を受理』

 

 柱の表面に、青白い光が灯った。

 

 空中に、幾つもの文字が浮かび上がる。

 

 だが、やはり読めない。

 

 医療設備室で見たものと同じ文字体系だった。

 

 俺は、統括機構へ尋ねた。

 

「……翻訳できるか?」

 

『一部のみ可能』

 

「……頼む」

 

 文字が、ゆっくりと変化した。

 

 だが、表示された内容は断片的だった。

 

『……生命保護……』

 

『……外部環境……』

 

『……帰還……』

 

『……封鎖……』

 

 俺は、しばらく文字を見つめた。

 

 医療設備室で見た記録と似ている。

 

 だが、今回は少しだけ違う言葉があった。

 

 封鎖。

 

 何を封鎖したのか。

 

 俺は、さらに詳しく尋ねようとした。

 

 そのときだった。

 

 ユリウスが、低く呟いた。

 

「……やはり、ここにも残っていましたか」

 

 俺は、男を見た。

 

「……何が?」

 

 ユリウスは、空中の文字を見つめていた。

 

「……私たちが探していた記録です」

 

 俺は、眉を寄せた。

 

「……何のために?」

 

 男は、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……この遺構の技術を、完全に再現するためです」

 

 俺は、ユリウスを見つめた。

 

「……それが、お前の目的か?」

 

「ええ」

 

 男は頷いた。

 

「……この遺構の技術は、現代の医学や工学を大きく変える可能性があります」

 

 俺は黙って聞いた。

 

「……ですが、私たちはその一部しか理解できていません」

 

 ユリウスは、柱へ視線を向けた。

 

「……中央統括機構の管理権限を完全に掌握できれば、すべての記録へアクセスできるはずです」

 

 俺は、少しだけ考えた。

 

 なるほど。

 

 ユリウスが統括機構を停止させようとしていた理由。

 

 それは、施設を破壊するためではない。

 

 自分の管理下へ置くためだった。

 

「……それで、俺を利用するつもりだったのか?」

 

 俺が尋ねると、ユリウスは頷いた。

 

「……あなたは、中央統括機構が特別な反応を示した唯一の人間です」

 

 俺は、静かに息を吸った。

 

「……つまり、俺を鍵にするつもりか」

 

「……そういうことになります」

 

 ユリウスは、穏やかに答えた。

 

 俺は、男を見据えた。

 

「……断る」

 

 ユリウスは、少しだけ目を細めた。

 

「……理由を聞いても?」

 

「……信用できないからだ」

 

 俺は即答した。

 

「お前は、人体実験を知りながら放置した。収容者の命より研究を優先している」

 

 男は黙った。

 

「そんな人間に、これほどの技術を自由に扱わせるわけにはいかない」

 

 ユリウスは、しばらく俺を見つめていた。

 

 そして。

 

「……残念です」

 

 その声には、初めて明確な失望が滲んでいた。

 

     ◇

 

 次の瞬間。

 

 柱の表面に、赤い光が走った。

 

 俺は、即座に身構えた。

 

 ユリウスの右手首にある金属製の輪が、淡く光っている。

 

 拘束具は外れていない。

 

 だが、男のオーラが変化した。

 

 これまで静かに保たれていた流れが、急激に膨張する。

 

(……来る!)

 

 俺は、リリアへ叫んだ。

 

「下がれ!」

 

 同時に、ユリウスの身体から細いオーラの糸が伸びた。

 

 糸は、床へ。

 

 壁へ。

 

 そして、中央の柱へ繋がっていく。

 

 俺は、すぐに動いた。

 

 男の腕を掴んだまま、身体を捻る。

 

 足を払う。

 

 ユリウスの重心が崩れた。

 

 だが。

 

 男の身体は、倒れなかった。

 

 床から伸びたオーラの糸が、身体を支えていた。

 

 俺は目を細めた。

 

(……操作系か?)

 

 いや、まだ断定できない。

 

 糸そのものを具現化している可能性もある。

 

 だが、少なくとも単純な肉体強化ではない。

 

 俺は、男の腕をさらに捻った。

 

 骨を折る寸前まで力を加える。

 

「……止めろ」

 

 俺は低く言った。

 

 ユリウスは、苦しそうに息を吐いた。

 

 だが、その顔には笑みが残っていた。

 

「……申し訳ありません」

 

 男は、静かに言った。

 

「……ですが、ここまで来て諦めるわけにはいかないのです」

 

 その瞬間。

 

 床の模様が、一斉に赤く光った。

 

 俺は、反射的に後ろへ跳んだ。

 

 ユリウスの腕を掴んだまま。

 

 だが、足元から強い反発力が生じた。

 

 俺の身体が、わずかに浮き上がる。

 

 その隙に、ユリウスが腕を引いた。

 

 拘束具が軋む。

 

 俺は、力を緩めなかった。

 

 だが、男の身体から伸びた糸が、床の内部へ潜り込んでいく。

 

 そして。

 

 赤い光が、通路全体へ広がった。

 

『警告』

 

 中央統括機構の声が響く。

 

『暫定管理権限による不正操作を検知』

 

 俺は、歯を食いしばった。

 

「……統括機構! こいつの権限を停止しろ!」

 

『要求を受理』

 

 数秒の沈黙。

 

『権限停止処理を開始』

 

 ユリウスが、低く笑った。

 

「……遅いですよ」

 

 俺は、男を睨んだ。

 

「……何をした?」

 

 ユリウスは、静かに答えた。

 

「……中央統括機構の制御経路を、一部切り離しました」

 

 俺は、目を見開いた。

 

 その瞬間。

 

 床の赤い光が、さらに強まった。

 

 壁の一部が動き始める。

 

 天井から、低い唸りが響く。

 

 俺は、リリアへ視線を向けた。

 

 彼女は、搬送台のそばに立っていた。

 

 四人の調査員。

 

 二十三組の生命維持補助装置。

 

 すべて、まだこの区画にある。

 

 俺は、静かに息を吸った。

 

 ここで戦えば、巻き込む危険がある。

 

 だが、ユリウスを放置するわけにもいかない。

 

 俺は、男の腕を掴んだまま、低く言った。

 

「……お前、何をするつもりだ?」

 

 ユリウスは、ゆっくりと俺を見た。

 

 その目には、狂気というより、長年積み重ねてきた執念が宿っていた。

 

「……私は、知りたいのです」

 

 男は、静かに言った。

 

「……この遺構を造った者たちが、何を知っていたのか」

 

 俺は、黙った。

 

「……なぜ、これほどの技術を持ちながら、歴史から姿を消したのか」

 

 ユリウスは、赤く光る柱を見上げた。

 

「……そして、なぜ私たちは、その技術を受け継げなかったのか」

 

 俺は、男を見据えた。

 

「……だから、人間を犠牲にするのか?」

 

 ユリウスは、しばらく黙っていた。

 

 そして。

 

「……必要な犠牲は、あるのです」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 

 俺の中で、何かが決まった。

 

「……そうか」

 

 俺は、男の腕を握る力を強めた。

 

「……なら、もう話すことはない」

 

 ユリウスの目が、わずかに細くなった。

 

 俺は、足元へオーラを集中させた。

 

 床の赤い光が、さらに強まる。

 

 だが、俺は動かなかった。

 

 相手が何を仕掛けてくるのか。

 

 どこへオーラを流しているのか。

 

 それを、見極める。

 

 ユリウスは、静かに笑った。

 

「……素晴らしい」

 

 男は、低く呟いた。

 

「……やはり、あなたは最高の観測対象です」

 

 俺は、冷たく答えた。

 

「……俺は、お前の実験材料じゃない」

 

 次の瞬間。

 

 床の赤い光が、一斉に弾けた。

 

 中央環状区画に、激しい振動が走る。

 

 そして。

 

 ユリウスの身体から、無数のオーラの糸が伸びた。

 

 俺は、拳を握った。

 

 長い探索の末に辿り着いた中央管理区画。

 

 その中心で。

 

 ついに、研究者との戦いが始まろうとしていた。

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