流星街の異邦人 ― その魂は二度目の人生を歩む   作:アイエオ

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第六十六話 旅路の先の灯火――二人の狩人と、明かされる秘密

霧哭きの渓谷を抜けたのは、昼を少し過ぎた頃だった。

 

 最後の尾根を越えると、それまで周囲を覆っていた白い霧が嘘のように薄れ、視界の先に緑の丘陵地帯が広がった。

 

 風が吹いている。

 

 谷の底で感じていた、湿り気を含んだ冷たい風とは違う。草の匂いと、日に温められた土の匂いを運んでくる、春らしい穏やかな風だった。

 

「……やっと抜けたね」

 

 隣を歩いていたリリアが、フードを下ろしながら言った。

 

 明るい栗色の髪が風に揺れる。

 

 彼女は一度振り返り、俺たちが越えてきた山並みを眺めた。

 

 霧哭きの渓谷。

 

 古代文明の遺構と、そこに残されていた人々の願い。そして、その願いを踏みにじろうとした連中との戦い。

 

 思い返せば、随分と長い時間を過ごしたように感じる。

 

 実際には、それほどの日数が経っているわけではない。

 

 それでも、あの谷で起きた出来事は、俺たちの中に簡単には消えないものを残していた。

 

「まだ気になるか?」

 

「うん。少しだけ」

 

 リリアは山並みから目を離さずに答えた。

 

「エリオットたち、ちゃんと元気になるかなって」

 

「ああ」

 

 俺は頷いた。

 

「時間はかかるだろうけど、チードルたちがついてる。俺たちにできることは、あそこまでだった」

 

「……そうだね」

 

 エリオット・グレイ。

 

 被験者四番と呼ばれていた青年は、ようやく自分の名前を口にできるところまで回復した。

 

 だが、名前を取り戻したからといって、奪われた時間まで元に戻るわけではない。

 

 十三番の女性も、零号と呼ばれていた大柄な被験者も、まだ長い治療が必要になる。

 

 俺の回復能力があれば、どんな傷でもたちどころに治せる。

 

 以前の俺なら、そんなふうに考えていたかもしれない。

 

 けれど、今回の一件で思い知らされた。

 

 傷を治すことと、人間を元の状態に戻すことは、必ずしも同じではない。

 

 他人の手によって無理やり組み替えられたオーラの流れ。長期間にわたって身体へ組み込まれた人工的な仕組み。失われた筋力や、傷ついた記憶。

 

 そこには、単純に「治れ」と願うだけでは済まない問題がいくつもあった。

 

 だからこそ、医者がいる。

 

 研究者がいる。

 

 そして、患者自身が自分の足で立ち上がるための時間が必要なのだ。

 

「……俺たちは俺たちの仕事をしよう」

 

「次の仕事?」

 

「その前に休みだな」

 

 そう答えると、リリアが小さく笑った。

 

「アオが自分から休むって言うの、ちょっと珍しい」

 

「俺だって疲れるときは疲れるぞ」

 

「身体はあんまり疲れてなさそうだけど」

 

「精神的にな」

 

 実際、肉体の疲労は大したことがなかった。

 

 念による強化以前に、俺の身体は普通の人間とは根本的に頑丈さが違う。

 

 ただ、眠れば消える疲労と、そうでないものはある。

 

 古代遺構で目にしたもの。

 

 あの人工知能が俺に向けた言葉。

 

『観測対象一』

 

『帰還を、確認しました』

 

 そして、記録に残されていた『境界通過』という不可解な情報。

 

 それらは、谷を離れた今も頭の片隅に引っかかっていた。

 

 だが、今すぐ答えが出る話ではない。

 

 ジンやピヨン、協会の専門家たちが調査を続けることになっている。遺構そのものも、正式な安全確認と管理権限の照合が済むまで封鎖されたままだ。

 

 俺一人が考え込んだところで、閉ざされた扉が開くわけでもない。

 

 それよりも、今はやるべきことがある。

 

「まずは街に戻ろう。まともな寝床と飯が欲しい」

 

「賛成」

 

 リリアは即答した。

 

「それと、お風呂」

 

「……そうだな」

 

「今の間、何?」

 

「いや。俺も入りたいと思ってた」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

 疑わしそうな琥珀色の目を向けられ、俺は苦笑する。

 

 谷での生活中も身体を清潔に保つ手段はあったが、温かい湯に肩まで浸かることとは別の話だ。

 

 俺たちは最後にもう一度だけ谷を振り返り、それから丘陵を下る街道へ足を向けた。

 

     ◇

 

 街道を歩き始めてから、二時間ほどが経った。

 

 空はよく晴れていた。

 

 遠くの農地では人々が畑を耕し、荷車を引いた商人たちが俺たちとすれ違っていく。

 

 霧哭きの渓谷の周辺には危険な地形が多いが、少し離れれば人々の暮らしがある。

 

 こういう当たり前の光景を見ると、ようやく地上へ戻ってきたのだと実感する。

 

「アオ、ちょっと待って」

 

 前を歩いていたリリアが足を止めた。

 

「どうした?」

 

「この先、道が二つに分かれてる」

 

 俺も視線を向ける。

 

 緩やかな斜面の先で、街道が左右に分岐していた。

 

 右側は幅が広く、荷車の轍が深い。左側は細い林道で、木々の間へ消えている。

 

「地図だと、右が街道の本線だな」

 

「うん。でも、最近は左を使う人も多いみたい」

 

 リリアは腰のポーチから銀色の羅針盤を取り出した。

 

 彼女の念能力。

 

『迷い人の足跡(ロスト・トレイル)』。

 

 具現化された銀色の羅針盤が、春の日差しを受けて鈍く輝く。

 

 リリアは分岐点の地面を観察しながら、指先で羅針盤の縁をなぞった。

 

「右は荷車が多いけど、途中で引き返した跡もある。左は徒歩の人が何度も通ってる。しかも、ここ数日で増えてるみたい」

 

「本線で何かあったのかもしれないな」

 

「調べてみる?」

 

「頼めるか?」

 

「うん」

 

 リリアは道の端にしゃがみ込み、土の上に残された足跡へ目を凝らした。

 

 俺も周囲へ意識を広げる。

 

 近くに危険な気配はない。

 

 ただ、道の選択については、リリアのほうが確かな情報を持っていた。

 

 しばらくして、彼女が顔を上げる。

 

「右の道、少し先で通行止めになってる可能性が高いと思う。左へ入った人たちが、しばらくして同じ方向へ戻ってくる足跡はほとんどないから」

 

「じゃあ、左を使おう」

 

「……そんなに簡単に決めていいの?」

 

「リリアが調べてくれたんだろ」

 

「そうだけど」

 

「なら、それを判断材料にするのは当然だ」

 

 リリアは少しだけ目を丸くしたあと、嬉しそうに笑った。

 

「分かった。こっちだね」

 

 彼女が先に立ち、俺はその後を追う。

 

 林道へ入ると、木々の間から鳥の声が聞こえてきた。

 

 歩きながら、俺は先ほどのやり取りを思い返す。

 

 以前のリリアも、観察力は鋭かった。

 

 だが、今はそこに経験が加わっている。

 

 足跡の新旧を見分け、周辺の地形と照らし合わせ、限られた情報から道の状況を推測する。

 

 しかも、判断に迷いが少ない。

 

 霧哭きの渓谷での探索が、彼女の中に確かなものを残したのだろう。

 

 ハンター協会が一ツ星を認めたのも、単に今回の功績だけを評価したからではない。

 

 積み重ねてきた実績と、それを裏づける能力があったからだ。

 

 俺たちは今回、二人揃って一ツ星ハンターになった。

 

 リリアの師匠であるミレーヌは二ツ星へ昇格した。

 

 あの場では慌ただしくて、まだ実感が薄かったが……改めて考えると、随分と大きな出来事だ。

 

「何か考えてる?」

 

 前を歩くリリアが振り返った。

 

「星のことだよ」

 

「ああ……」

 

 彼女は少し照れくさそうに視線を落とした。

 

「私も、まだ信じられない」

 

「立派な一ツ星ハンターだろ」

 

「アオだってそうでしょ」

 

「まあな」

 

「……ミレーヌ先生、すごく嬉しそうだった」

 

 その声が柔らかくなる。

 

 認定が発表されたときのミレーヌの表情は、確かに印象的だった。

 

 普段は冷静で、弟子の前では特に厳しさを崩さない人だ。

 

 その彼女が、リリアの一ツ星認定を聞いた瞬間、しばらく言葉を失っていた。

 

 そして、自分の二ツ星昇格を告げられたときよりも、ずっと嬉しそうに笑ったのだ。

 

「先生に教わったこと、ちゃんと役に立ったんだって思えた」

 

「役に立ったどころじゃないだろ。何度も助けられたぞ」

 

「……うん」

 

 リリアは前を向いた。

 

 その横顔には、少し誇らしげな色が浮かんでいた。

 

     ◇

 

 林道を抜けた先で、街道沿いの小さな休憩所を見つけた。

 

 木造の建物の前には馬を繋ぐ柵があり、軒先には手書きの看板が下がっている。

 

 温かい食事と飲み物を出すらしい。

 

 時刻は夕方にはまだ早かったが、朝から歩き続けている。

 

 俺たちはそこで少し休むことにした。

 

 店内には旅人が数人いた。

 

 奥の席では商人らしい男たちが地図を広げ、別の卓では年配の夫婦が茶を飲んでいる。

 

 俺たちは窓際の席に腰を下ろし、煮込み料理とパン、それに温かい飲み物を注文した。

 

 料理が運ばれてくると、リリアは嬉しそうに両手を合わせた。

 

「いただきます」

 

 俺もパンをちぎり、湯気の立つ煮込みに浸す。

 

 柔らかく煮込まれた肉と野菜の旨味が、口の中に広がった。

 

 思わず息が漏れる。

 

「……こういうの、久しぶりだな」

 

「本当。谷でも食事はできたけど、やっぱり違うね」

 

「人が作ってくれた飯ってだけでありがたい」

 

「アオ、食べるの早いよ」

 

「腹が減ってたんだ」

 

 リリアは笑いながら、自分のパンをちぎった。

 

 しばらくは、食事と他愛ない話に時間を使った。

 

 渓谷での出来事を無理に話題にすることもなく、これから泊まる宿や、街で買い足す日用品について相談する。

 

 そんな時間が、妙に心地よかった。

 

 食事を終えた頃、俺は店の主人から近くの街について話を聞いた。

 

 ここからさらに数時間進んだところに、交易で栄える地方都市があるらしい。

 

 宿屋や商店も多く、旅人向けの施設が充実しているという。

 

 当面の休息場所としては十分だ。

 

「じゃあ、今日はそこまで行こうか」

 

 店を出たところでリリアに告げると、彼女は頷いた。

 

「うん。日が暮れる前には着けそうだね」

 

「足は大丈夫か?」

 

「平気。無理してないよ」

 

 そう言って、彼女は軽く片足を上げてみせた。

 

 俺は笑って歩き始める。

 

 ふと、リリアの腰にある銀色の羅針盤へ目が向いた。

 

 彼女はこの能力を使って、何度も危険な場所へ先行している。

 

 霧哭きの渓谷でもそうだった。

 

 俺が力で突破できる状況ばかりではない。

 

 むしろ、俺が踏み込む前にリリアが危険を見つけたことで、戦わずに済んだ場面も少なくなかった。

 

 今後、二人で行動するなら、そういう機会はさらに増えるだろう。

 

 そして、そこには一つ問題がある。

 

 俺は自分の能力について、リリアにすべてを話しているわけではない。

 

 彼女は俺の回復能力を知っている。

 

 普通では考えられない身体能力も、何度も目にしてきた。

 

 アイテムボックスの存在も、旅の中で隠しようがなかった。

 

 だが、それぞれの能力がどこまで使えるのか、どんな制約があるのか。

 

 そして、俺の特質系の発が何を代償に、何を生み出すものなのか。

 

 そこまで詳しく説明したことはなかった。

 

 今までは、それでも何とかなっていた。

 

 しかし、これからもそうだとは限らない。

 

 俺が回復能力をあと何回使えるのか。

 

 アイテムボックスに何が入っているのか。

 

 発を使うとき、どんな危険や制約があるのか。

 

 リリアがそれを知らないまま行動すれば、判断を誤る可能性がある。

 

 反対に、彼女が正確な情報を持っていれば、俺の能力を前提とした作戦も組める。

 

 それは、単なる秘密の共有ではない。

 

 二人で生き残るために必要なことだ。

 

「……リリア」

 

「なに?」

 

「街に着いたら、少し時間を取ってくれないか」

 

「いいけど。何かあるの?」

 

「ああ。俺の能力について、ちゃんと話しておきたい」

 

 彼女の足が、ほんのわずかに緩んだ。

 

「アオの能力?」

 

「今まで見せてきたものも含めてな。使える条件とか、制限とか。まだ話してないことがある」

 

 リリアはしばらく俺を見つめた。

 

 それから、静かに頷いた。

 

「分かった。聞かせて」

 

 その返事には、余計な詮索も、ためらいもなかった。

 

 俺は胸の内にあった小さな重みが、少しだけ軽くなるのを感じた。

 

     ◇

 

 街へ到着した頃には、夕陽が屋根の向こうへ傾き始めていた。

 

 石造りの建物が並ぶ、賑やかな地方都市だった。

 

 大通りには荷馬車が行き交い、店先では商人たちが客を呼び込んでいる。

 

 焼きたてのパンの香り。

 

 鍛冶屋から響く金属音。

 

 行き交う人々の話し声。

 

 霧と岩に囲まれた谷から戻ってきた身には、そのどれもが新鮮だった。

 

「人が多いね」

 

「交易路の途中だからな」

 

「宿、空いてるかな」

 

「探してみよう」

 

 俺たちは大通りから一本入った場所で、落ち着いた雰囲気の宿を見つけた。

 

 一階が食堂、二階と三階が客室になっている。

 

 建物は古いが、手入れが行き届いていた。

 

 受付で空室を尋ねると、幸い二部屋確保できた。

 

 部屋は隣同士だった。

 

 荷物を置いたあと、俺たちはそれぞれ入浴を済ませ、夕食の時間まで休むことにした。

 

 久しぶりに湯船へ浸かると、思っていた以上に身体が緩んだ。

 

 肩まで湯に沈め、目を閉じる。

 

 静かな時間だった。

 

 谷の地下では、いつ何が起きてもおかしくなかった。

 

 眠っている間も、どこかで警戒を解ききれずにいた。

 

 それが今は、宿の外から聞こえてくる人々の声さえ穏やかに感じる。

 

 しばらく湯を楽しんだあと、俺は部屋へ戻った。

 

 窓の外では、街灯に火が入り始めていた。

 

 椅子に腰を下ろし、これからリリアへ何を話すべきか整理する。

 

 念能力の世界では、自分の手の内を明かすことは危険に直結する。

 

 能力の性質や制約を知られれば、それを逆手に取られる可能性があるからだ。

 

 だから、これまで俺は必要以上に話さないようにしてきた。

 

 だが、秘密を守ることと、仲間に情報を渡さないことは違う。

 

 少なくとも、今のリリアには知っておいてもらうべきことがある。

 

 ……それでも。

 

 転生のことまで話すべきかと考えると、答えは出なかった。

 

 俺がかつて別の世界で生きていたこと。

 

 この世界に来る前、三十二歳の男だったこと。

 

 そして、この世界の未来について、普通なら知り得ない知識を持っていること。

 

 それらは、俺の能力とはまた別の秘密だ。

 

 古代遺構で『境界通過』という言葉を聞いた今となっては、なおさら軽々しく口にできない。

 

 あの人工知能が何を見て、何を記録したのか。

 

 俺自身にも分かっていないのだから。

 

 今日は、今後の行動に必要なことを話そう。

 

 そう決めたところで、扉が軽く叩かれた。

 

「アオ、起きてる?」

 

「起きてるぞ。入っていい」

 

 扉が開き、リリアが顔を覗かせた。

 

 入浴を終えたばかりなのか、髪にはまだ少し湿り気が残っている。

 

 普段の外套を脱ぎ、宿で借りた簡素な室内着を身につけていた。

 

「夕食、もう少しあとでもいいって言われたから」

 

「ああ。じゃあ、先に話そうか」

 

「うん」

 

 リリアは部屋へ入り、向かいの椅子に腰を下ろした。

 

 俺は机の上に水差しと二つの杯を置いた。

 

 窓の外では、夕暮れがゆっくりと夜へ変わり始めていた。

 

     ◇

 

「まず、どこから話すかな……」

 

 俺がそう呟くと、リリアは少し考えてから口を開いた。

 

「アオの回復能力、かな」

 

「それが気になるか?」

 

「うん。渓谷でも何度も使ってたけど、いつでも誰でも治せるわけじゃないんでしょ?」

 

「その通りだ」

 

 俺は指を三本立てた。

 

「まず、使えるのは一日に最大三回。ただし、正確には日付が変わると回復するわけじゃない。六時間ほどまとまって眠ると、使用回数が戻る」

 

「睡眠が条件なんだ」

 

「ああ。だから、夜中の零時を過ぎたからって、すぐ使えるようになるわけじゃない」

 

「……それは大事なことだね」

 

 リリアの表情が真剣になる。

 

「たとえば、アオが三回使い切ったあとに怪我人が出たら、すぐには治せない」

 

「そういうことだ」

 

 俺は続けた。

 

「効果そのものはかなり広い。普通の怪我や病気だけじゃなく、精神的な損傷や、念による呪いにも対応できる。ただし、治す対象をきちんと把握する必要がある」

 

「対象を把握する?」

 

「簡単な怪我なら、傷を治すと意識すれば済む。でも、身体全体に異常がある場合や、念が複雑に絡んでいる場合はそうはいかない」

 

 流星街へ来たばかりの頃のことを思い出す。

 

 野犬に襲われて腕を傷つけたとき、俺はその傷だけに意識を集中して能力を使った。

 

 結果として、腕の傷は治ったが、身体のほかの細かな傷や疲労は残った。

 

 あれは、能力の限界ではなかった。

 

 使う側の認識が狭かったのだ。

 

「回復させたい範囲を意識しないと、思った通りの結果にならないことがある。渓谷で見たような、人工的にオーラの流れを変えられた人間の場合は特にな」

 

「十三番の人みたいに?」

 

「ああ。無理に全部を正常な状態へ戻そうとすれば、今の身体を支えている仕組みまで壊しかねない」

 

 リリアは静かに聞いていた。

 

「だから、あのときはチードルたちと相談しながら治療したんだね」

 

「俺だけで判断するのは危険だったからな」

 

「……分かった」

 

 彼女は一度目を伏せ、それから俺を見た。

 

「じゃあ、これから一緒に行動するときは、アオが何回使ったか私も覚えておくね」

 

「助かる」

 

「それと、無理して全部自分で治そうとしないこと」

 

「……耳が痛いな」

 

「本気で言ってるんだよ」

 

 リリアは少し眉を寄せた。

 

「アオは、助けられると思ったら自分のことを後回しにするから」

 

 否定できなかった。

 

 俺が黙っていると、彼女は小さく息をついた。

 

「別に、誰かを助けるなって言ってるんじゃないよ。ただ、アオが倒れたら困る人もいるんだから」

 

「……分かった。気をつける」

 

「約束ね」

 

「ああ」

 

 そう答えると、リリアはようやく表情を和らげた。

 

 次に、俺はアイテムボックスについて説明した。

 

 生物以外の物品を収納できること。

 

 収納したものを任意に取り出せること。

 

 これまでの使用では相当量の荷物を問題なく扱えているものの、容量や重量の正確な限界までは確認できていないこと。

 

 生きた人間や動物を収納することはできないこと。

 

 実際に机の上に置いた小さな金属製の杯を収納し、再び取り出してみせる。

 

 リリアは興味深そうにその様子を見つめた。

 

「やっぱり便利だね。普通なら荷車が必要な量でも持ち運べるんだもん」

 

「ただし、何でも入ると思わない方がいい。未知の制限がある可能性は残ってる」

 

「うん。それに、アオが近くにいないと中のものは取り出せないんだよね」

 

「そうだな」

 

「だったら、単独で動くときに必要な道具は、最初から自分で持っておいた方がいいね」

 

「俺もそう思う」

 

 彼女はすぐに、能力を実際の行動へ結びつけて考え始めた。

 

 こういうところが頼もしい。

 

 続いて、俺自身の身体能力についても話した。

 

 俺の身体は、念による強化を抜きにしても異常なほど頑丈で、力も強い。

 

 ただし、決して無敵ではない。

 

 念能力による特殊な攻撃には警戒が必要だし、毒や罠、地形の危険を無視していいわけでもない。

 

 戦闘中の直感や状況判断にも自信はあるが、未知の発をすべて見抜けるわけではない。

 

 リリアはその説明を聞きながら、ときどき質問を挟んだ。

 

「じゃあ、アオが前に出て戦うとき、私が敵の移動経路を見ておくのは役に立つ?」

 

「かなりな。敵の退路や増援の位置が分かれば、俺も動きやすい」

 

「逆に、私が先に調べに行くときは?」

 

「危険だと思ったら引き返してくれ。情報を持ち帰るのが目的なら、戦う必要はない」

 

「分かった。合流場所も先に決めておこうね」

 

「ああ」

 

 話を進めるうちに、俺たちの間でいくつもの確認事項が生まれていった。

 

 離れて行動する場合の合流地点。

 

 予定時刻を過ぎても戻らなかった場合の対応。

 

 リリアが先行する距離。

 

 俺が戦闘に入ったとき、彼女が無理に援護へ飛び込まなくても済むようにするための取り決め。

 

 どれも、派手な話ではない。

 

 だが、実際に危険な場所を歩くうえでは、こうした取り決めのほうが命を左右することもある。

 

 そして、一通り話し終えたところで、俺は少しだけ姿勢を正した。

 

「……さて。ここからが、まだ詳しく話してなかった能力だ」

 

 リリアが顔を上げた。

 

「特質系の発?」

 

「ああ」

 

 俺は彼女の目を見て、その名を告げた。

 

「『愚か者の宝物庫(ジャンキージャンクスロットマシーン)』。それが俺の発の名前だ」

 

     ◇

 

「……ジャンキー、ジャンク……?」

 

「ジャンキージャンクスロットマシーン」

 

「長い名前だね」

 

「自分でもそう思う」

 

 リリアは少し笑ったが、すぐに真面目な顔へ戻った。

 

「どんな能力なの?」

 

「簡単に言えば、持ち物を代償にして、特殊な宝物を手に入れる能力だ」

 

「持ち物を代償に?」

 

「ああ。ただし、誰かから借りたものや、俺の所有物じゃないものは使えない。俺自身が所有している品を、供物として捧げる必要がある」

 

「供物……」

 

「捧げた品は永久に失われる。あとから取り戻すこともできない」

 

 リリアは少し考え込んだ。

 

「それで、宝物が手に入るの?」

 

「必ずじゃない」

 

 俺は首を横に振った。

 

「供物を捧げると、スロットマシーンが現れて抽選が始まる。三つのリールが全部『7』で揃ったときだけ、特殊な効果を持つ宝物が払い出される」

 

「……スロットマシーン?」

 

 彼女は聞き慣れない言葉を確かめるように繰り返した。

 

 そうか。

 

 この世界にも似たような遊技機は存在するだろうが、リリアが詳しいとは限らない。

 

「三つの絵柄が並ぶ機械だ。レバーを引くと絵柄が回って、止まったときの組み合わせで結果が決まる」

 

「なるほど。賭け事に使う機械みたいなもの?」

 

「まあ、そんな感じだな」

 

「……アオの発って、ずいぶん変わってるね」

 

「俺もそう思う」

 

 彼女は顎に指を当てた。

 

「でも、それだと大切なものを失って、何も手に入らないこともあるんだよね?」

 

「ある。しかも、供物の価値が高ければ当たりやすくなる傾向はあるが、絶対じゃない」

 

「……怖い能力だね」

 

 リリアの感想は率直だった。

 

 俺も、その評価には同意する。

 

 この発は、決して都合のいい宝物製造機ではない。

 

 捧げるものは自分の財産だ。

 

 失敗すれば、それだけが消える。

 

 だからこそ、何を供物にするのか、いつ使うのかを考える必要がある。

 

「抽選できるのは一日三回までだ。特殊なコインを五枚使えば、一週間ほど当たりやすい状態に入る仕組みもある」

 

「そのコインも、簡単には手に入らないんでしょ?」

 

「ああ。無駄遣いはできない」

 

「……なるほど」

 

 リリアは机の上に置かれた自分の杯を見つめながら、しばらく考えた。

 

 やがて顔を上げる。

 

「じゃあ、今までアオが持ってた変わった道具も、その発で手に入れたものがあるの?」

 

「そうだ」

 

「普通の品物とは違う、特殊な効果を持った宝物?」

 

「ああ。777が揃えば、手に入れた宝物はその後もずっと所有できる。ただし、それぞれに使い方や制限がある」

 

「……すごいね」

 

 リリアは感心したように呟いた。

 

 だが、すぐに表情を引き締めた。

 

「でも、ひとつ聞いてもいい?」

 

「何だ?」

 

「その能力を使うとき、アオ自身に危険はないの?」

 

 予想していた質問とは少し違った。

 

「危険?」

 

「うん。物を失うだけじゃなくて、身体に負担がかかったり、念を使えなくなったり……そういうこと」

 

 俺は少し考えた。

 

「少なくとも、今までの使用ではそういう直接的な反動は確認してない。ただ、能力の仕組みを完全に理解してるわけじゃないから、未知の条件がないとは言い切れない」

 

「そっか」

 

 リリアは小さく頷いた。

 

「だったら、なおさら慎重に使わないとね」

 

「ああ」

 

 そこで会話が途切れた。

 

 窓の外から、夜の街の音が聞こえてくる。

 

 荷馬車の車輪が石畳を叩く音。

 

 どこかの店で交わされる笑い声。

 

 遠くで鳴る鐘。

 

 リリアは杯を手に取り、水を一口飲んだ。

 

 それから、ふと何かを思い出したように俺を見た。

 

「ねえ、アオ」

 

「ん?」

 

「どうして今、全部話してくれたの?」

 

 静かな問いだった。

 

「これから一緒に行動するため、っていうのは分かるよ。でも……今までは、そこまで詳しく話さなかったでしょ?」

 

 俺はすぐには答えなかった。

 

 リリアも、急かさなかった。

 

 少しの間を置いてから、俺は口を開いた。

 

「今までは、俺が何とかすればいいと思ってたところがあった」

 

「……うん」

 

「戦うにしても、逃げるにしても、俺が判断して動けば何とかなる。そう考えてたんだと思う」

 

 実際、そうやって切り抜けてきた場面は多い。

 

 自分の身体能力と念の技量には自信がある。

 

 回復能力もある。

 

 アイテムボックスには、必要な物資を蓄えておける。

 

 だが、渓谷での探索は、俺一人では到底成し遂げられなかった。

 

 リリアがいなければ見つけられなかった経路がある。

 

 彼女が危険を察知しなければ、誰かが命を落としていたかもしれない。

 

 ミレーヌやレオン、ガルドたちの協力がなければ、救出作戦は成立しなかった。

 

 ジンやピヨンがいなければ、古代遺構の記録も読み解けなかった。

 

「……今回、よく分かったんだ」

 

 俺は続けた。

 

「俺にできることには限界がある。だから、これから一緒に動くなら、リリアにも俺の手札を知っておいてほしい」

 

 彼女は黙って聞いている。

 

「俺が何をできて、何をできないのか。それを知っていれば、リリアも自分で判断できるだろ」

 

「……うん」

 

「それに」

 

 俺は少しだけ笑った。

 

「信頼してる相手に、いつまでも隠し事ばかりしてるのもな」

 

 リリアの目が、わずかに見開かれた。

 

 それから、彼女はゆっくりと視線を落とした。

 

「……そっか」

 

 短い返事だった。

 

 けれど、その声はどこか柔らかかった。

 

 しばらくして、リリアが顔を上げる。

 

「じゃあ、私もちゃんと話しておくね」

 

「何を?」

 

「『迷い人の足跡』のこと。アオにまだ説明してない使い方とか、最近できるようになったこととか」

 

「それは助かる」

 

「それに、私だって全部できるわけじゃないから。どこまでなら調べられるのか、どんな場所が苦手なのか……ちゃんと知っておいてほしい」

 

 俺は頷いた。

 

 リリアは羅針盤を取り出し、机の上に置いた。

 

 銀色の針が静かに揺れる。

 

「まず、足跡を追う能力だけどね」

 

 彼女はそう言って、説明を始めた。

 

     ◇

 

 話は思っていたよりも長くなった。

 

 リリアの『迷い人の足跡』は、以前と比べて随分と使い方が洗練されていた。

 

 残された足跡を辿る『足跡は嘘をつかない(トレース・オブ・ライフ)』。

 

 自分たちが通った経路を記録し、帰還のための道筋を示す『帰還者の羅針盤(ホームワード・コンパス)』。

 

 周囲の動きや移動の兆候を分析する『狩人の眼(ハンターズ・サイト)』。

 

 危険を避けるための経路を探る『逃走経路(エスケープ・ルート)』。

 

 さらに、他者と経路情報を共有する技術も、まだ発展途上ながら形になりつつあるらしい。

 

 ただし、どの能力も万能ではない。

 

 足跡は時間が経てば追いにくくなるし、距離にも限界がある。

 

 帰還経路を記録していても、途中で地形が崩れたり、敵が待ち伏せしていたりすれば安全は保証されない。

 

 周囲の動きを分析する能力も、未来を見通せるわけではない。

 

「だから、羅針盤が示した道でも、自分の目で確かめるようにしてる」

 

 リリアはそう説明した。

 

「便利な能力だけど、頼り切りになると危ないから」

 

「いい考えだ」

 

「ミレーヌ先生にも、何度も言われたんだ。道具や能力が示した答えを、そのまま信じるなって」

 

 俺は思わず笑った。

 

「いかにもミレーヌらしいな」

 

「でしょ?」

 

 リリアも笑った。

 

 そのあと、俺たちは今後の行動について話し合った。

 

 リリアが先行して索敵を行う場合、俺は一定の距離を保ちながら後方を進む。

 

 緊急時の合流地点は、事前に複数決めておく。

 

 俺が戦闘を引き受ける場合、リリアは周囲の状況を確認し、必要なら撤退経路を確保する。

 

 ただし、状況によって役割を入れ替えることもある。

 

 互いの得意分野を理解していれば、無理に同じことをする必要はない。

 

 そうして話しているうちに、俺は一つの考えに行き着いた。

 

 リリアが単独で動く機会が増えるなら、彼女自身が身を守るための手段も増やしておいた方がいい。

 

 もちろん、彼女はすでに十分な実力を持っている。

 

 だが、探索では戦闘の強さだけではどうにもならない状況がある。

 

 敵に見つからずに移動すること。

 

 予想外の危険から逃れること。

 

 そして、最悪の事態に陥ったとき、助かる可能性を少しでも残すこと。

 

 俺のアイテムボックスには、それに役立ちそうな宝物が一つ眠っている。

 

『静寂の環』。

 

 以前、『愚か者の宝物庫』で獲得した指輪だ。

 

 使用後は休息するまで再使用できないという制限があるが、隠密行動に役立つ特殊な効果を持っている。

 

 俺が持っていても使い道はある。

 

 だが、リリアの探索能力と組み合わせれば、もっと活かせるはずだ。

 

 ……それに。

 

 今回の遺構で手に入れた、あの石。

 

 深紅の星髄石。

 

 古代文明が残した、オーラの伝導や蓄積に関係すると考えられる希少な結晶。

 

 協会の研究者から分析を申し出られたが、俺はひとまず断っていた。

 

 まだ性質が分からないものを、簡単に手放したくなかったからだ。

 

 しかし、別の使い道なら考えている。

 

 供物だ。

 

 俺の発に捧げる品として、あれほどのものはそうそう手に入らないだろう。

 

 もちろん、どれほど価値のある供物でも、必ず777が揃う保証はない。

 

 失敗すれば、星髄石はただ失われる。

 

 それでも――。

 

 俺は机の上に置かれた銀色の羅針盤を見た。

 

 リリアはまだ、自分の能力について説明を続けている。

 

 その横顔を眺めながら、俺は考えた。

 

 あの石をどう使うか。

 

 そして、もし新しい宝物が手に入ったなら、それを誰のために使うのか。

 

 答えは、少しずつ形になり始めていた。

 

     ◇

 

「……アオ?」

 

 リリアの声で、俺は思考を中断した。

 

「ごめん。考え事してた」

 

「何か気になること?」

 

「ああ。今度、発を実際に使ってみようと思ってる」

 

「『愚か者の宝物庫』を?」

 

「そうだ」

 

 リリアは興味深そうに身を乗り出した。

 

「見てもいいの?」

 

「もちろん。そのつもりで話したんだしな」

 

「……本当に?」

 

「ああ」

 

 彼女は嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、楽しみにしてる」

 

「ただ、期待しすぎるなよ。何も手に入らない可能性もある」

 

「それは分かってる。でも、アオの発がどんなものなのか、自分の目で見てみたい」

 

 その言葉に、俺は小さく笑った。

 

 発の仕組みを説明したとき、リリアはまず代償や危険について尋ねた。

 

 そして今は、実際に見て理解しようとしている。

 

 俺の能力を、ただ便利なものとして受け取っているわけではないのだろう。

 

「明日にでも、街の外で人目につかない場所を探そう」

 

「うん」

 

 リリアは頷いた。

 

 そこで、階下から夕食の支度ができたという声が聞こえてきた。

 

「……もうこんな時間か」

 

「ずいぶん話したね」

 

「腹も減ったし、続きは飯のあとにしよう」

 

「そうだね」

 

 リリアは羅針盤を消し、椅子から立ち上がった。

 

 俺も席を立ち、扉へ向かう。

 

 廊下へ出る直前、彼女がふと足を止めた。

 

「アオ」

 

「ん?」

 

「今日は、話してくれてありがとう」

 

 振り返ると、リリアはまっすぐ俺を見ていた。

 

「今まで知らなかったこともあったけど……聞けてよかった」

 

「俺も、話してよかったと思ってる」

 

「……うん」

 

 彼女は少しだけ笑った。

 

 そして、先に廊下へ出ていった。

 

 俺はその背中を追いながら、胸の内でひとつ息をついた。

 

 全部を話したわけではない。

 

 転生のことも、未来の知識のことも、まだ胸の奥にしまったままだ。

 

 それでも、今夜の会話には意味があった。

 

 俺たちはこれまで、何度も命を預け合ってきた。

 

 だが、互いの能力について落ち着いて話し合ったのは、考えてみれば初めてかもしれない。

 

 強さだけでは、誰かと旅を続けることはできない。

 

 何ができるのかを知ること。

 

 何ができないのかを認めること。

 

 そして、相手の判断を信じること。

 

 それらが揃って初めて、二人で進める道があるのだと思う。

 

     ◇

 

 夕食を終えたあと、俺たちはそれぞれの部屋へ戻った。

 

 窓の外では、街の灯りが夜の闇に浮かんでいる。

 

 俺は机の上に小さな布を敷き、アイテムボックスから一つの容器を取り出した。

 

 厳重に保護されたその容器を開くと、内部に収められていた結晶が姿を現す。

 

 深紅の星髄石。

 

 鶏卵ほどの大きさをした暗赤色の結晶には、細い金色の筋が幾重にも走っている。

 

 灯りを受けたその表面は、まるで内部に小さな星空を閉じ込めているようだった。

 

 俺はしばらく、その石を見つめた。

 

 古代文明が何のために作り、どのように利用していたのか。

 

 詳しいことは、まだ分からない。

 

 ただ、あの遺構にとって重要な品だったことは間違いない。

 

 そんなものを、俺はこれから失おうとしている。

 

 永久に。

 

 それが『愚か者の宝物庫』の代償だ。

 

「……さて、どうなるかな」

 

 呟いてみても、石は何も答えない。

 

 高価な供物ほど大当たりの可能性は高まる。

 

 だが、確率が高いことと、必ず当たることは違う。

 

 俺はそれをよく理解している。

 

 それでも、今回ばかりは期待していた。

 

 もし、この石から新しい宝物を得られるなら。

 

 それが、これからの旅で誰かを守るための力になるなら。

 

 賭けてみる価値はある。

 

 俺は星髄石を容器へ戻し、慎重に蓋を閉じた。

 

 そして、再びアイテムボックスへ収納する。

 

 明日、リリアと一緒に街の外へ出よう。

 

 人目のない場所で発を起動し、この石を供物に捧げる。

 

 どんな結果になるかは、実際にリールを回してみなければ分からない。

 

 だが、その結果を一人で抱える必要は、もうない。

 

 隣の部屋から、かすかに物音が聞こえた。

 

 リリアも、明日の準備をしているのだろう。

 

 俺は窓辺へ歩み寄り、夜の街を見下ろした。

 

 谷を離れて、まだ一日も経っていない。

 

 それなのに、ずいぶん遠くまで来たような気がする。

 

 霧哭きの渓谷で終わった一つの冒険。

 

 その先に続く、新しい旅。

 

 今度は、二人で歩いていく。

 

 俺は窓を閉め、灯りを落とした。

 

 深紅の星髄石がどんな宝物へ変わるのか。

 

 その答えは、明日になれば分かる。

 

 そして、その宝物が俺たちの旅に何をもたらすのかは――まだ、誰にも分からなかった。

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