流星街の異邦人 ― その魂は二度目の人生を歩む 作:アイエオ
目が覚めたとき、最初に聞こえたのは鳥の鳴き声だった。
窓の外で、小鳥が二羽ほど囀っている。
続いて、遠くから荷馬車の車輪が石畳を転がる音が聞こえてきた。どこかの店が雨戸を開ける音、朝の市場へ向かう人々の話し声。それらが薄い窓硝子を通して、穏やかに部屋へ流れ込んでくる。
俺は寝台の上で目を開き、しばらく天井を眺めていた。
白い漆喰には細かな亀裂が走り、梁の一本には古い補修の跡が残っている。
見慣れた宿の天井だ。
当然のことなのだが、それが妙に新鮮だった。
霧哭きの渓谷で過ごした日々は、目を覚ますたびに何かしらの確認から始まっていた。
周囲に敵はいないか。
地形に変化はないか。
仲間の体調はどうか。
今日中に調べなければならない場所はどこか。
寝台から起き上がるより先に、頭の中で仕事の順序を組み立てるのが当たり前になっていた。
だが、今朝は違う。
急いで向かうべき遺跡もなければ、救助を待つ人間もいない。
協会への報告は済んでいるし、調査の引き継ぎも終わった。
昨日はリリアと買い物をして、夕食を食べて、それぞれの部屋へ戻った。
そして今日は――。
「……休み、か」
声に出してみる。
何とも締まりのない響きだった。
別に休息が嫌いなわけじゃない。
むしろ必要性は十分に理解している。身体を酷使し続ければ、いずれ判断力が鈍る。念能力者であろうと、疲労から完全に自由になれるわけではない。
それでも、何も予定がないという状況には、少しばかり落ち着かなさを覚えた。
俺は寝台から起き上がり、窓を開けた。
春の朝らしい、ひんやりとした空気が頬を撫でる。
眼下には宿の裏庭があり、洗濯物を干すための縄が何本か張られていた。隅に植えられた小さな果樹には白い花が咲き、風が吹くたびに花弁が一枚、また一枚と落ちていく。
遠くには街を囲む低い丘陵が見えた。
その向こうに、霧哭きの渓谷がある。
今も調査隊が働いているのだろう。
俺たちが救い出した人々は、どうしているだろうか。
そんな考えが頭をよぎったところで、意識を切り替えた。
仕事のことを忘れる必要はない。
ただ、今日はそれに一日を費やさなくてもいい。
そう決めて、洗面台へ向かった。
◇
宿の食堂へ下りると、焼いたパンと珈琲の香りが漂っていた。
まだ朝の早い時間だったが、すでに何組かの客が食事を取っている。
窓際の席には、見覚えのある栗色の髪があった。
リリアだ。
彼女は一冊の小さな冊子を開き、卓に置いた皿から時折パンを摘まんでいた。
その胸元には、銀の鎖に吊るされた深紅の宝石が見える。
『生命の灯火(ライフ・ビーコン)』。
昨日、俺が渡した宝物だ。
右手の人差し指には、繊細な模様の刻まれた銀色の指輪。
『静寂の環』も身につけている。
ただし、指輪の能力は発動していない。
身につけているだけで、常に音が消えるわけではないからな。
俺が近づくと、リリアは冊子から顔を上げた。
「あ、おはよう、アオ」
「おはよう。早いな」
「アオもね」
「いつもの時間に目が覚めた」
「私も」
リリアは笑って、向かいの椅子を指した。
「ここ、空いてるよ」
「じゃあ、失礼して」
腰を下ろすと、彼女は読んでいた冊子を閉じた。
表紙には、色鮮やかな果物の絵が描かれている。
「何を読んでたんだ?」
「街の案内冊子。昨日、宿の人にもらったの」
「観光案内か」
「うん。市場とか、お菓子のお店とか、古い建物とか。結構いろいろ載ってるよ」
リリアは嬉しそうに冊子を開いた。
細かな文字の間に、手描きの挿絵が散りばめられている。
街の歴史、名産品、季節ごとの催し物。
観光客向けに作られたものらしい。
「今日はどうする?」
俺が尋ねると、リリアは少し考えた。
「……アオは、何かしたいことある?」
「特には。今日は休みにしようと思ってた」
「本当に?」
「そんなに意外か?」
「ちょっと」
即答された。
「昨日も似たようなことを言われた気がするんだが」
「だって、アオって休んでても何か調べ始めるでしょ」
「……否定しづらいな」
「ほら」
リリアは得意げに笑った。
そこへ給仕の女性がやってきたので、俺は朝食を注文した。
焼きたてのパンに卵料理、燻製肉、温かい野菜の煮込み。
少し迷って、珈琲も頼む。
給仕が立ち去ると、リリアは案内冊子を俺の方へ向けた。
「じゃあ、今日は私が行きたいところを決めてもいい?」
「ああ。もちろん」
「……本当に?」
「何で二回聞くんだよ」
「アオが途中で『あそこも調べておこう』って言い出さないか確認してるの」
俺は思わず苦笑した。
「分かった。今日は仕事も調査もしない」
「約束?」
「約束だ」
昨日も似たような約束をした気がする。
どうやら俺は、リリアから見ると放っておけばすぐ危険な場所へ向かう人間らしい。
……まあ、心当たりはある。
「それで、どこへ行きたいんだ?」
リリアは冊子の一頁を指差した。
「まず、ここ」
挿絵には、天幕の並ぶ大きな市場が描かれていた。
その下には、この地方で最も古い朝市の一つだという説明がある。
「昨日の大通りとは別の市場なんだって。近くの村からも、いろんなものが集まるらしいよ」
「なるほど」
「それから、お昼はここ」
次の頁には、川沿いに建つ小さな食堂の絵があった。
「魚料理が有名なんだって」
「へえ」
「あと、時間があったら……」
彼女は少しだけ声を弾ませた。
「丘の上にある公園へ行ってみたい」
「公園?」
「うん。街が全部見渡せるんだって。春は花が綺麗らしいよ」
俺は冊子の挿絵を眺めた。
なだらかな丘の上に、何本もの花木が描かれている。
確かに、景色はよさそうだ。
「いいんじゃないか」
「じゃあ、決まり!」
リリアはぱっと笑った。
その表情を見て、俺は思った。
今日は、彼女の行きたいところへ付き合おう。
それくらいの休日があってもいい。
◇
朝食を終え、宿を出たのは九時を少し過ぎた頃だった。
空はよく晴れていた。
雲は高いところに薄く伸びているだけで、日差しは春らしく柔らかい。
リリアは昨日買った新しい靴を履き、薄手の外套を羽織っていた。
栗色の髪は首の後ろで緩くまとめている。
普段は移動や戦闘の邪魔にならないよう、もう少しきっちり結んでいることが多い。
今日はそれほど気にしていないらしい。
「どう?」
宿の前で、リリアが片足を軽く上げた。
「新しい靴?」
「うん。昨日はお店の中でしか試してなかったから」
「履き心地は?」
「今のところ、すごくいい」
彼女は石畳を二、三歩歩き、踵を確かめるように足を動かした。
「前の靴より、足首が楽かも」
「それならよかった」
「長い距離を歩くのが楽しみ」
「今日は歩きすぎるなよ。新しい靴なんだから」
「分かってる」
そう答えながら、リリアはすでに歩き始めていた。
俺はその隣へ並ぶ。
街は昨日より賑やかだった。
どうやら朝市の開かれる日は、周辺の村から人が集まるらしい。
荷馬車の荷台には籠いっぱいの野菜が積まれ、布袋を抱えた商人たちが通りを行き交っている。
露店の前では、買い物客が値段の交渉をしていた。
肉屋の軒先には燻製肉が吊るされ、パン屋からは香ばしい匂いが漂ってくる。
石造りの建物が続く通りを抜けると、少しずつ道幅が広がっていった。
やがて、色とりどりの天幕が見えてくる。
「……わあ」
リリアが声を漏らした。
目の前には、大きな市場が広がっていた。
赤、青、黄色、生成り。
様々な色の布を張った露店が幾重にも並び、その間を人々が行き交っている。
威勢のいい呼び声が飛び交い、香辛料の匂いと焼き菓子の甘い香りが混じり合う。
遠くでは弦楽器を弾く男がいて、数人の子供が足を止めて聞き入っていた。
俺は思わず感心した。
「随分と大きいな」
「でしょ?」
リリアが嬉しそうに振り返る。
「どこから見ようか?」
「今日はお前に任せる」
「じゃあ、あっち!」
彼女は迷わず、果物を並べた露店へ向かった。
俺は笑いながら、その後を追った。
◇
市場には、この地方ならではの食べ物が数多く並んでいた。
見慣れた林檎に似た果実もあれば、表面に細かな棘が生えた奇妙なものもある。
濃い紫色の皮に包まれた細長い果物。
黄色い星形の実。
掌ほどの大きさがある、青白い柑橘類。
前世の知識と照らし合わせても、見当がつかないものが多かった。
さすがは『HUNTER×HUNTER』の世界というべきか。
自然環境も生物の種類も、俺の知っていた地球とは大きく異なる。
「これ、何だろう」
リリアが指差したのは、丸くて赤い果実だった。
表面には白い斑点があり、先端から細い蔓が伸びている。
店主の老人が笑った。
「お嬢ちゃん、それは蜜鈴果だよ。この辺りじゃ春の初めにしか採れない」
「甘いんですか?」
「ああ。熟したやつは蜜みたいに甘い。ただし、皮は渋いから剥いて食べるんだ」
老人は手慣れた動作で一つ切り分け、小さな木皿に載せた。
「試してみな」
「いいんですか?」
「もちろん」
リリアは一切れ受け取った。
口に運ぶ。
次の瞬間、目が丸くなった。
「……甘い!」
「だろう?」
老人は満足そうに笑った。
リリアは俺を振り返る。
「アオも食べてみて」
差し出された木皿から一切れ取った。
果肉は柔らかく、噛むと濃厚な甘味が広がる。
ただ甘いだけではなく、後味には柑橘類に似た爽やかさがあった。
「……これは美味いな」
「でしょ?」
リリアが自分のことのように喜ぶ。
俺は老人に値段を尋ね、数個購入した。
すると、リリアが少し驚いた顔をした。
「そんなに買うの?」
「日持ちするんだろ?」
老人に確認すると、涼しい場所なら数日は問題ないという。
「だったら、宿で食べてもいいし、移動中の楽しみにもなる」
「……なるほど」
リリアは少し考えたあと、笑った。
「じゃあ、私も一個選んでいい?」
「好きなのを選べ」
「やった」
彼女は真剣な顔で果物を見比べ始めた。
どれが一番甘そうか。
どれが熟しているか。
大きさだけでなく、色や香りまで確かめている。
その様子を見ていると、つい口元が緩んだ。
探索のときと同じくらい集中している。
いや、むしろ今の方が楽しそうかもしれない。
結局、リリアが選んだのは、少し小ぶりだが香りの強い果実だった。
老人はそれを見て、感心したように言った。
「お嬢ちゃん、いい目をしてるね。それは今日持ってきた中でも、よく熟れてるやつだ」
「本当ですか?」
「ああ。間違いない」
リリアは嬉しそうに笑った。
俺はその横で、別の果物を一つ手に取った。
見た目は似ているが、色がわずかに薄い。
匂いも弱かった。
……なるほど。
選び方にも、ちゃんと理由があるらしい。
もっとも、今日は果物の目利きを学ぶために来たわけではない。
俺は買った品を袋に入れ、リリアと次の露店へ向かった。
◇
市場を歩いていると、リリアは本当にいろいろなものに興味を示した。
手作りの石鹸。
色鮮やかな織物。
木彫りの動物。
珍しい香辛料。
古い硬貨を加工した装飾品。
どれも、旅の途中ではあまり立ち寄らなかった店ばかりだ。
俺たちはこれまで、必要な物資を買うために市場へ行くことはあっても、こうして何の目的もなく店を覗くことは少なかった。
特にリリアは、探索に必要な道具を優先して選ぶことが多かった。
今日は違う。
彼女は気になったものを見つけるたびに足を止め、店主と話し、時には何も買わずに次の店へ移っていく。
その気ままさが、俺には新鮮だった。
「アオ、これ見て」
呼ばれて振り返る。
リリアが立っていたのは、小さな木工品の露店だった。
棚には動物の置物や匙、櫛などが並んでいる。
彼女が手にしていたのは、一羽の鳥を象った木彫りだった。
掌に収まるほどの大きさで、羽根の一枚一枚まで丁寧に彫られている。
「よくできてるな」
「うん。これ、森で見かけた鳥に似てない?」
俺は置物を眺めた。
丸みを帯びた胴体。
短い嘴。
頭頂部の小さな飾り羽。
確かに、以前野営地の近くで見かけた鳥に似ている。
「ああ。あの、朝になると妙に大きな声で鳴くやつか」
「そうそう!」
リリアは笑った。
「あのとき、アオが鳥の鳴き声で起こされてたよね」
「よく覚えてるな」
「だって、すごく眠そうな顔してたから」
「あれは夜中まで見張りをしてたからだ」
「知ってるよ」
彼女は楽しそうに言った。
「でも、あんな顔のアオ、あんまり見ないから」
……どうやら、余計なところまで覚えられているらしい。
俺が苦笑していると、店主の女性が声をかけてきた。
「それ、気に入った?」
「はい。とても可愛いです」
「この辺りにいる鳥を彫ったものなの。春になると、よく窓辺に来るのよ」
リリアは置物をもう一度眺めた。
買おうかどうか迷っているらしい。
「欲しいなら買えばいいんじゃないか?」
俺が言うと、彼女は少し考えた。
「……でも、旅の荷物になるし」
「それくらいなら大した重さじゃないだろ」
「そうだけど……」
リリアは小さく笑った。
「昔から、必要なもの以外はあんまり買わない癖がついてるのかも」
その言葉に、俺は少しだけ胸の奥が動いた。
彼女がこれまで、どんな暮らしをしてきたのか。
すべてを知っているわけではない。
だが、旅の中で必要なものを見極め、無駄を避ける習慣が身についていることは、よく分かっていた。
俺自身も似たようなものだ。
流星街での生活を思えば、使えるものを捨てるという発想は、今でもあまり馴染まない。
だからこそ、何となく理解できた。
「……今日は休みなんだし、たまにはいいんじゃないか」
俺は言った。
「必要だからじゃなくて、気に入ったから買うのも」
リリアは少し驚いたように俺を見た。
それから、掌の中の鳥へ視線を落とす。
「……そうだね」
彼女は店主に値段を尋ねた。
決して高価なものではなかった。
それでも、買い物を終えたリリアは、随分と嬉しそうだった。
「宿に飾ろうかな」
「旅先の宿に?」
「うん。移動するときは持っていけばいいし」
「なるほど」
「いつか、自分の部屋を持ったら、そこに置いてもいいかも」
何気ない一言だった。
だが、俺は少しだけ考えさせられた。
自分の部屋。
帰る場所。
旅を続ける俺たちにとって、それはまだ曖昧なものだった。
流星街には、俺が育った場所がある。
リリアにも、これまで過ごしてきた土地がある。
それでも、これから先ずっと旅を続けるなら、どこかに腰を落ち着ける場所があってもいいのかもしれない。
……いつか、か。
俺はその言葉を心の片隅に留めた。
◇
市場の奥へ進むと、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
焼き菓子の屋台だった。
鉄板の上では、丸く薄い生地が次々と焼かれている。
店主は焼き上がった生地に果実の蜜を塗り、砕いた木の実を散らしてから、器用に折り畳んでいた。
見た目は、前世で食べたクレープに少し似ている。
「……美味しそう」
リリアが呟いた。
「食べるか?」
「でも、さっき果物を食べたばかりだよ?」
「別腹って言葉もあるだろ」
「別腹?」
彼女は首を傾げた。
……しまった。
前世の感覚で言ってしまった。
「甘いものなら、食後でも案外食べられるって意味だ」
「へえ」
リリアは少し考えた。
「……確かに、分かる気がする」
「だろ?」
「でも、アオがそういうこと言うの、珍しいね」
「そうか?」
「うん。いつも食事は栄養とか保存性とか、そういうことを考えてるから」
またしても的確だった。
俺は肩を竦めた。
「今日は休みだからな」
「……そっか」
リリアは嬉しそうに笑った。
結局、俺たちは焼き菓子を二つ買った。
一つは果実の蜜を塗ったもの。
もう一つは、香ばしく炒った木の実と甘い乳製品を包んだものだ。
近くの石段に腰を下ろし、包み紙を開く。
まずは蜜の方を一口。
生地は薄いが、端の部分が少しだけぱりっとしている。
中は柔らかく、果実の酸味が甘さを引き締めていた。
「……美味いな」
「うん!」
リリアは満足そうに頷いた。
しばらく無言で食べ進める。
市場の喧騒が、少し離れたところから聞こえてきた。
荷馬車の鈴。
商人の呼び声。
子供の笑い声。
そうした音を聞きながら甘いものを食べていると、妙に気が抜ける。
……平和だ。
俺はもう一口食べた。
すると、リリアがこちらを見ていた。
「どうした?」
「アオの、そっちも美味しそうだなって」
彼女の視線は、俺が持っている木の実入りの焼き菓子へ向いていた。
「食べてみるか?」
「いいの?」
「ああ」
俺はまだ口をつけていない端を少し千切り、包み紙の上に載せて差し出した。
リリアはそれを受け取ると、嬉しそうに口へ運んだ。
「……あ、こっちも美味しい」
「木の実の香りが強いな」
「うん。少し塩気もある」
彼女は自分の焼き菓子を見下ろした。
そして、俺へ差し出す。
「アオも、こっち食べる?」
「さっき同じのを食べただろ」
「あ、そっか」
リリアは一瞬きょとんとしたあと、笑い出した。
俺もつられて笑った。
何をやっているんだか。
そんな他愛もないやり取りが、やけに心地よかった。
◇
市場を一通り見て回る頃には、正午が近づいていた。
俺たちは案内冊子に載っていた川沿いの食堂へ向かった。
街の東側には、幅の広い川が流れている。
水面は春の日差しを受けてきらきらと輝き、岸辺には細い柳に似た木々が並んでいた。
石造りの橋を渡ると、川風が頬を撫でる。
水の匂いがした。
その向こうに、目当ての食堂が見えてくる。
白い壁と赤褐色の屋根。
窓辺には小さな花鉢が並び、入口の脇には本日の料理を書いた黒板が立てられていた。
「ここだね」
リリアが言った。
「思ったより小さいな」
「でも、いい匂いがする」
確かに、扉の隙間から魚を焼く香りが漂ってくる。
俺たちは中へ入った。
店内には木製の卓が六つほど並んでいた。
壁には川魚を描いた絵が飾られ、天井からは乾燥させた香草が吊るされている。
窓際の席が空いていたので、そこへ案内してもらった。
注文したのは、川魚の香草焼きと野菜のスープ。
それに、焼きたての丸パンだった。
料理が運ばれてくるまで、俺たちは窓の外を眺めていた。
川には小舟が浮かび、岸辺では釣り糸を垂らす老人がいる。
水鳥が一羽、流れに逆らって泳いでいた。
「……こういうところ、好きだな」
リリアが言った。
「川沿い?」
「うん。水の音が聞こえる場所」
「確かに落ち着くな」
「森の中も好きだけど、川の近くって、何となく安心するんだよね」
俺は窓の外へ目を向けた。
水の流れ。
木々の揺れ。
人々の生活。
流星街にいた頃は、綺麗な水が流れている場所そのものが貴重だった。
水を確保するために苦労した日々を思えば、こうして何気なく川を眺められることには、今でも不思議な感慨がある。
「……俺も、水のある場所は好きだな」
「そうなの?」
「ああ。昔は、綺麗な水を手に入れるだけでも一苦労だったから」
リリアは少しだけ表情を変えた。
俺が流星街で育ったことは、彼女も知っている。
詳しい事情を何もかも話したわけではないが、あそこが普通の街とは違う場所だということは理解していた。
「……そっか」
彼女は静かに言った。
それ以上、無理に尋ねてこなかった。
俺はその気遣いがありがたかった。
やがて料理が運ばれてきた。
大きな皿には、皮をこんがりと焼いた川魚が載っている。
周囲には蒸した野菜と、香草を混ぜた白いソース。
香ばしい匂いが立ち上った。
「……美味しそう」
リリアが目を輝かせた。
「いただこうか」
「うん」
俺たちは食事を始めた。
魚の身は柔らかく、皮は香ばしい。
淡白な味わいに、少し酸味のあるソースがよく合っていた。
リリアは一口食べると、満足そうに目を細めた。
「……これ、すごく美味しい」
「ああ。評判になるのも分かる」
「昨日の宿の料理も美味しかったけど、こっちはまた違うね」
「川魚の種類も違うんだろうな」
俺は骨を外しながら答えた。
料理を食べつつ、他愛もない話をする。
市場で見た珍しい品物。
店主たちの話。
今朝買った果物の保存方法。
そんな話題が途切れることなく続いた。
ふと、リリアが言った。
「……ねえ、アオ」
「ん?」
「こうしてると、普通の旅行みたいだね」
俺は少し考えた。
「普通の旅行、か」
「うん。仕事じゃなくて、行きたいところへ行って、美味しいものを食べて」
彼女は窓の外へ目を向けた。
「……こういう旅も、いいなって思った」
俺はその横顔を見た。
穏やかな表情だった。
霧哭きの渓谷で見せた、鋭い眼差しとは違う。
だが、どちらもリリアなのだろう。
危険な場所では冷静に周囲を見極める。
そして、こうした時間には年相応に笑い、食事を楽しむ。
その両方が、彼女という人間を形作っている。
「……また来ようか」
俺が言うと、リリアは振り返った。
「え?」
「こういう場所。別の街でもいいし、どこか旅先でも」
彼女は少し驚いたようだった。
それから、ゆっくりと笑った。
「……うん」
その笑顔は、どこか嬉しそうだった。
◇
昼食を終えたあと、俺たちは丘の上の公園へ向かった。
街の北側にある緩やかな坂を登っていく。
道の両側には石造りの家々が並び、窓辺には色とりどりの花が飾られていた。
時折、庭先から子供の笑い声が聞こえてくる。
坂道を登り切ると、視界が一気に開けた。
「……わあ」
リリアが足を止めた。
目の前には、広々とした公園が広がっていた。
芝生の上には何本もの大きな花木が植えられ、淡い桃色や白い花を咲かせている。
風が吹くたびに花弁が舞い、地面へ静かに降り積もっていた。
遠くには街並みが見える。
赤茶色の屋根が幾重にも重なり、その間を細い通りが走っている。
街の東側を流れる川は、銀色の帯のように輝いていた。
さらに向こうには、低い丘陵と深い森。
その先に、霧哭きの渓谷へ続く山並みが霞んでいる。
「……綺麗だな」
俺は思わず呟いた。
「うん……」
リリアも、しばらく言葉を失っていた。
俺たちは公園の奥へ進み、見晴らしのよい場所に置かれた長椅子へ腰を下ろした。
木陰を抜ける風が、心地よい。
近くでは家族連れが弁当を広げ、少し離れた芝生では子供たちが走り回っている。
老人が一人、新聞を読んでいた。
平和な午後だった。
「……ねえ、アオ」
「ん?」
「昨日のことなんだけど」
リリアは胸元のペンダントへ触れた。
深紅の宝石が、指先で小さく揺れる。
「これ、本当にありがとう」
「またその話か?」
「だって、まだちゃんとお礼を言えてない気がして」
「十分聞いたぞ」
「……そう?」
「ああ」
俺は笑った。
リリアも少し照れたように笑う。
彼女はペンダントを指先で持ち上げ、陽光にかざした。
深紅の宝石の奥で、小さな金色の光が揺れている。
「……不思議だね」
「何が?」
「こんなに小さいのに、命を守る力があるなんて」
「確かにな」
俺は頷いた。
ライフ・ビーコンは、昨日の時点でリリアへ譲り渡し、彼女自身を登録対象として設定している。
宝物が持つ危険通知の機能も、現在の所有者である彼女に属する。
自分自身を登録している以上、他人の危険を遠くから知らせる道具としては働かない。
だが、肝心なのはそこではない。
彼女が致命的な危機に陥ったとき、最大三十分間、その命を繋ぎ止める。
それだけで十分に価値がある。
もちろん、発動したからといって傷が治るわけではないし、三十分が過ぎるまでに治療を受けられなければ危険は残る。
だからこそ、俺たちが互いに助け合うことが重要になる。
「……これが必要になるようなことは、できれば起きてほしくないな」
俺が言うと、リリアは静かに頷いた。
「うん。私もそう思う」
彼女はペンダントを胸元へ戻した。
「でも、持ってるだけで安心するよ」
「それならよかった」
「……それに」
リリアは右手を持ち上げた。
人差し指には、銀色の指輪が輝いている。
「こっちも、すごく気に入ってる」
「静寂の環か」
「うん」
彼女は指輪を少し回してみせた。
「昨日からずっとつけてるけど、邪魔にならないし」
「それなら、普段から身につけててもよさそうだな」
「そうだね」
リリアは少し笑った。
そして、何かを思い出したように俺を見た。
「……アオ」
「何だ?」
「これをもらったとき、ちょっと変な顔してたよね」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
……そこを掘り返すのか。
「……そうだったか?」
「うん」
リリアは楽しそうに頷いた。
「すごく困ってた」
「……まあ、少しな」
「ふふっ」
彼女は笑った。
俺は苦笑するしかなかった。
昨日、指輪を差し出したとき。
リリアが妙に慌てた理由に気づいて、俺まで動揺してしまった。
今思い返しても、もう少し落ち着いて説明できたはずだ。
「……あれは、俺の渡し方が悪かった」
俺が言うと、リリアは少しだけ頬を赤くした。
「……ううん」
彼女は指輪へ目を落とした。
「……嬉しかったから、いいよ」
小さな声だった。
俺は返事に迷った。
彼女の横顔は、いつもより少し柔らかく見えた。
風が吹き、栗色の髪が揺れる。
その一房が頬へかかると、リリアは指輪をつけた手でそっと耳にかけた。
何気ない仕草だった。
だが、なぜか目を離せなかった。
……何を考えてるんだ、俺は。
俺は小さく息を吐き、視線を街並みへ戻した。
◇
しばらく、二人で景色を眺めていた。
風に乗って花弁が舞い、長椅子の足元へ落ちていく。
リリアは膝の上に手を置き、空を見上げていた。
「……ねえ、アオ」
「ん?」
「私たち、随分遠くまで来たよね」
俺は少し考えた。
「そうだな」
「最初に一緒に旅を始めた頃は、こんなにいろんな場所へ行くなんて思ってなかった」
「俺もだ」
流星街を出てから、様々な土地を歩いてきた。
山を越え、森を抜け、街を巡り、人々と出会った。
危険な仕事もあった。
失敗しかけたこともある。
それでも、こうして今、二人で同じ景色を見ている。
その事実が、何となく不思議だった。
「……一ツ星ハンター、か」
俺が呟くと、リリアがこちらを向いた。
「どうしたの?」
「いや。改めて考えると、随分なところまで来たなと思って」
「……うん」
リリアは小さく頷いた。
「でも、まだまだだよね」
「ああ」
「知らないことも、できないことも、たくさんある」
「そうだな」
俺は街の向こうに広がる山並みを見た。
この世界は広い。
前世で漫画として知っていた頃よりも、実際に歩いてみると遥かに広く感じる。
地図に描かれていない土地。
人々の知らない生物。
失われた文明。
そして、まだ出会っていない強者たち。
そのすべてを知ることなど、到底できないだろう。
だが、それでいい。
知らないからこそ、歩いてみたいと思う。
「……これからも、いろんな場所へ行きたいな」
リリアが言った。
「そうだな」
「海も見たいし、大きな街にも行きたい。雪山とか、砂漠とか……」
彼女は指を折りながら数えていく。
「それから、まだ誰も調べてない森とか、古い遺跡とか」
「結局、探索も入るんだな」
「だって、気になるんだもん」
リリアは笑った。
俺もつられて笑う。
「まあ、俺も同じだ」
「でしょ?」
「ああ」
彼女は満足そうに頷いた。
それから、少しだけ声を落とした。
「……でも」
「ん?」
「こういう日も、ちゃんと作りたいな」
俺は彼女を見た。
リリアは街並みを眺めたまま続けた。
「仕事をして、危ない場所へ行って、それで終わりじゃなくて」
風が吹いた。
白い花弁が一枚、彼女の膝へ落ちる。
「……たまには、こうして何もしないで過ごしたい」
俺はしばらく黙っていた。
彼女の言うことは、よく分かる。
俺たちは、まだ若い。
リリアは十七歳。
俺は十五歳だ。
前世の記憶があるせいで、自分の年齢を意識する機会は少ない。
だが、この世界で生きている身体は、紛れもなく十五歳の少年のものだ。
急いで何かを成し遂げなければならない理由は、今のところない。
もちろん、いつか向き合わなければならない問題はある。
古代遺構で見つかった謎も、その一つだ。
だが、だからといって、目の前の時間をすべて仕事に費やす必要はない。
「……そうだな」
俺は言った。
「これからは、もう少し休む時間を作ろう」
リリアが振り返る。
「本当に?」
「ああ。仕事が終わったら、こうして街を歩いたり、景色を見たりする」
「……うん」
「それに、旅をするなら、その土地のことを知るのも大事だろ」
「そうだね」
リリアは笑った。
「じゃあ、次の街でも美味しいお店を探そうかな」
「それは楽しみだ」
「アオも、ちゃんと付き合ってね」
「もちろん」
俺が答えると、彼女は嬉しそうに頷いた。
◇
公園を出たのは、午後も半ばを過ぎた頃だった。
坂道を下りながら、俺たちは再び街の中心部へ向かった。
途中、小さな本屋を見つけたので立ち寄ることにした。
店内には古い紙の匂いが漂っていた。
壁一面に棚が並び、旅行記や地誌、植物図鑑、料理本などが所狭しと収められている。
俺は自然と地図や地理関係の棚へ足を向けた。
すると、背後からリリアの声がした。
「……アオ」
「ん?」
「今日は調査しないって言ってなかった?」
振り返ると、彼女が腰に手を当てて立っていた。
口元には笑みが浮かんでいる。
「……いや、これは趣味だ」
「本当に?」
「本当だ」
俺は手に取った地誌を見せた。
「ほら。地方の歴史とか、食文化とか、そういう内容だ」
リリアは表紙を覗き込んだ。
そして、少し笑った。
「……じゃあ、許す」
「許可制だったのか」
「今日は私が案内する日だから」
「そうだったな」
俺は本を棚へ戻した。
代わりに、旅先の名所を紹介する薄い冊子を手に取る。
そこには、この地方だけでなく、周辺の街や村についても書かれていた。
リリアも興味を示したので、二人で頁をめくる。
湖畔の街。
古い石橋の残る村。
山あいの温泉地。
季節ごとに花が咲く高原。
どれも、少し足を延ばせば訪れられそうな場所だった。
「……ここ、綺麗だね」
リリアが指差したのは、湖畔の街を描いた挿絵だった。
水面に白い建物が映り込み、岸辺には細長い舟が並んでいる。
「湖の近くか」
「うん。行ってみたいな」
「距離は?」
俺は冊子の説明を読んだ。
現在地から馬車で数日ほど。
途中には小さな宿場町があるらしい。
「……それほど遠くないな」
「本当?」
「ああ。次の目的地の候補にしてもいいかもしれない」
リリアは少し嬉しそうに笑った。
「じゃあ、覚えておこう」
俺は冊子を購入した。
ついでに、周辺地域の道路が詳しく描かれた地図も一枚買う。
リリアはそれを見て、少し呆れたように笑った。
「……やっぱり地図も買うんだ」
「旅には必要だろ」
「うん。必要だけど」
彼女は笑いながら続けた。
「アオらしいなって思っただけ」
俺は肩を竦めた。
まあ、否定はしない。
◇
夕方が近づくと、街の空気が少しずつ変わり始めた。
市場の露店は片づけを始め、通りには仕事を終えた人々が増えていく。
店先には灯りが点り、食堂からは夕食の支度をする匂いが漂ってきた。
俺たちは大通りをゆっくり歩いていた。
リリアは今日買った小さな木彫りの鳥を、布袋に入れて大切そうに持っている。
俺の手には、先ほど購入した地図と冊子。
それ以外の買い物は、周囲に人がいない場所でアイテムボックスへ収納しておいた。
人前で突然荷物を消すわけにはいかないからな。
「……今日は楽しかったね」
リリアが言った。
「ああ」
「市場も、公園も、食堂も」
「よく歩いたな」
「うん。でも、新しい靴のおかげで足は平気」
彼女は軽く足を動かしてみせた。
確かに、歩き方に違和感はない。
「靴擦れもなさそうだな」
「大丈夫」
「ならよかった」
リリアは少し笑った。
そして、ふと足を止めた。
「……アオ」
「ん?」
「明日も、休みでいい?」
俺は少し考えた。
急ぎの仕事はない。
協会からの連絡も、今のところ予定されていない。
それなら、もう一日くらい休んでも問題ないだろう。
「ああ。いいぞ」
「本当?」
「もちろん」
リリアは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、明日は宿でゆっくりしようかな」
「外へ出ないのか?」
「うん。今日はいっぱい歩いたし」
彼女は少し考えた。
「洗濯とか、荷物の整理とか。それから、買った果物も食べたい」
「なるほど」
「アオは?」
「俺も装備の手入れでもするかな」
「……仕事じゃないよね?」
「日常の手入れだ」
「ふふっ。分かった」
リリアは笑った。
俺たちは再び歩き始めた。
夕陽が通りの向こうへ沈みかけている。
建物の影が長く伸び、石畳を赤く染めていた。
ふと、リリアが俺の隣へ少し近づいた。
肩が触れそうな距離だった。
俺は何も言わず、歩幅を合わせる。
彼女も、特に何かを言うわけではなかった。
ただ、二人で同じ速度で歩いていた。
それだけのことなのに、不思議と落ち着いた。
◇
宿へ戻ると、食堂には夕食の準備が整い始めていた。
俺たちは少し早めに食事を取り、それぞれの部屋へ戻ることにした。
階段を上がる途中、リリアが振り返った。
「……アオ」
「何だ?」
「今日は、ありがとう」
「どういたしまして」
「……また、こういう日を過ごしたいな」
俺は少し笑った。
「そうだな。また行こう」
リリアは嬉しそうに頷いた。
「うん」
それから、彼女は自分の部屋の前で立ち止まった。
扉を開けかけて、ふと振り返る。
「……おやすみ、アオ」
「ああ。おやすみ」
リリアは微笑み、部屋へ入っていった。
扉が静かに閉まる。
俺はしばらくその場に立っていた。
……何というか。
今日は、本当に何も起きなかった。
敵と戦うこともなければ、危険な場所へ踏み込むこともなかった。
誰かを救助したわけでもない。
特別な発見をしたわけでもない。
ただ、街を歩いて、食事をして、買い物をして、景色を眺めた。
それだけだ。
だが。
……随分、充実した一日だったな。
俺は小さく笑った。
こういう時間も、必要なのだろう。
仕事に追われていると、つい忘れがちになる。
世界には、戦うためでも、調べるためでもなく、ただ楽しむために訪れる場所がある。
そして、その景色を誰かと分かち合うことには、思っていた以上の価値がある。
俺は自分の部屋へ入り、扉を閉めた。
窓の外には、夕暮れの街並みが広がっている。
遠くで鐘が鳴った。
今日という一日が、静かに終わろうとしていた。
◇
夜。
俺は机に向かい、今日買った地図を広げていた。
別に仕事をしているわけではない。
ただ、次にどこへ行こうかと考えているだけだ。
街の東には大きな湖。
北には山脈。
南には広い平野が続き、西には深い森が広がっている。
それぞれに街や村があり、様々な人々が暮らしている。
地図の上では小さな点にしか見えない場所にも、きっと俺たちの知らない生活があるのだろう。
今日の市場で出会った老人。
木彫りの鳥を売っていた女性。
川沿いの食堂。
丘の上の公園。
そうした場所を一つずつ知っていくことも、旅の醍醐味なのかもしれない。
俺は地図を眺めながら、ふとリリアの言葉を思い出した。
『こういう日も、ちゃんと作りたいな』
……そうだな。
これから先、俺たちはまた危険な仕事へ向かうだろう。
ブラックリストハンターとして、犯罪者を追うこともある。
未知の遺跡を調べることもある。
強力な念能力者と戦うことだって、避けられないかもしれない。
だが、だからこそ。
こうして何も起きない日を、大切にしたい。
俺は地図を畳み、机の端へ置いた。
明日も休みだ。
リリアは宿でゆっくりしたいと言っていた。
なら、朝食を食べたあと、装備の手入れでもして過ごそう。
買ってきた果物を切って、二人で食べるのもいい。
そういえば、リリアは木彫りの鳥をどこへ飾るつもりなのだろう。
窓辺だろうか。
それとも、机の上か。
そんなことを考えていると、自然と笑みが浮かんだ。
……明日、聞いてみるか。
俺は灯りを落とし、寝台へ横になった。
窓の外では、夜風が静かに木々を揺らしている。
遠くから、街の人々の声がかすかに聞こえた。
穏やかな夜だった。
明日も、きっとこんな一日になるのだろう。
それが、今は少し楽しみだった。