流星街の異邦人 ― その魂は二度目の人生を歩む   作:アイエオ

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第九話 四年の歳月と、最後の依頼

時間というものは、不思議だ。

 何も考えずに過ごしていれば、あっという間に過ぎていく。

 だが、何かを成し遂げようと必死になっていると、一日一日が妙に長く感じられる。

 そして、ふと振り返ったとき。

 積み重ねてきた時間の重さに、驚かされる。

 流星街に転生してから、五年。

 ハザに文字を教わり始めてから、四年。

 現在は、1984年の年明けを迎えたところだった。

 俺――アオは、十歳ほどになっていた。

「……よし」

 俺は、薄暗い倉庫の中で静かに息を吐いた。

 身体の周囲に、淡いオーラが留まっている。

 纏。

 もはや意識して維持する必要すらない。

 呼吸するように自然に、オーラが身体を包んでいた。

 俺は、その状態から一瞬で絶へ切り替えた。

 身体を覆っていたオーラが消える。

 そして、次の瞬間。

 練。

 身体の内側から、膨大なオーラが湧き上がった。

 五年前。

 初めて念を覚えたときとは、比較にならない量だった。

 しかし、オーラは無秩序に広がらない。

 俺の意思に従い、身体の周囲へ均等に留まっている。

 俺は、その状態を維持したまま、ゆっくりと拳を握った。

 そして。

「……凝」

 右拳へ、オーラを集中させる。

 身体の他の部分を覆うオーラが薄くなる。

 だが、完全には消えない。

 必要な防御を残しながら、攻撃部位へオーラを集める。

 次に、左腕。

 右脚。

 左脚。

 胸。

 背中。

 オーラを移動させる。

 以前は、これだけでも集中力が必要だった。

 だが、今では、ほとんど反射的に行える。

 そして、最後に。

「……流」

 オーラの配分を、連続して変化させる。

 右拳へ。

 左脚へ。

 胴体へ。

 再び右拳へ。

 動きに合わせて、オーラが滑らかに移動していく。

 俺は、数十回ほど攻防力移動を繰り返した。

 そして、練を解除した。

「……悪くない」

 俺は、小さく頷いた。

 四年間。

 ただひたすら、修行を続けてきた。

 もちろん、念だけではない。

 武術。

 身体能力。

 実戦経験。

 そして、生活に必要な知識。

 それらを、少しずつ積み重ねてきた。

 その結果。

 今の俺は、五年前とはまったく違う存在になっていた。

     ◇

 まず、身体。

 十歳ほどになった俺の身長は、およそ百五十センチ。

 同年代の子供と比べれば、かなり大きい方だろう。

 流星街で拾った古い測定器具を修理し、何度か測って確認した。

 もちろん、正確な身長計ではない。

 だが、百五十センチ前後という数字は、ほぼ間違いないはずだ。

 体格も、大きく変わった。

 以前は、細く小さな子供の身体だった。

 だが、今は違う。

 筋肉がついた。

 骨格も成長した。

 そして、何より、身体の動きが洗練された。

 無駄な力が入らない。

 重心が安定している。

 動き出しが速い。

 そして、反応速度が異常なほど高い。

 これは、フィジカルギフテッドの影響だろう。

 前世で知っていた、伏黒甚爾。

 あの男のような、常識外れの身体能力。

 それに近いものが、俺の身体にも宿っている。

 ただし、俺は念を使える。

 そこが、大きな違いだった。

 フィジカルギフテッドによる肉体の強さ。

 そして、念による強化。

 その二つを組み合わせることで、俺の身体能力は大きく向上していた。

 鏡代わりに使っている磨いた金属板へ、視線を向ける。

 そこには、一人の少年が映っていた。

 黒髪。

 黒い瞳。

 特別目立つ顔立ちではない。

 どちらかといえば、地味な印象だ。

 だが、目元や輪郭には、どこか伏黒甚爾に似た雰囲気がある。

 鋭い目つき。

 少しだけ影のある顔立ち。

 そして、年齢の割に落ち着いた表情。

 もちろん、あの男ほど威圧感があるわけではない。

 そもそも、俺はまだ十歳だ。

 だが、将来的には、もう少し似てくるのかもしれない。

「……まあ、顔はどうでもいいか」

 俺は、軽く肩をすくめた。

 重要なのは、見た目ではない。

 生き残るための力だ。

     ◇

 次に、知識。

 これについては、ハザの存在が非常に大きかった。

 四年前。

 俺は、ハンター文字をほとんど読めなかった。

 言葉は通じる。

 だが、文字は読めない。

 そんな状態だった。

 しかし、ハザが物資と引き換えに教えてくれたおかげで、今では読み書きに困ることはほとんどなくなった。

 簡単な本。

 新聞。

 地図。

 書類。

 そして、取引に使う帳簿。

 それらを、問題なく読める。

 もちろん、専門的な内容については、まだ知らない単語もある。

 だが、それは前世でも同じだ。

 知らない言葉があれば、調べればいい。

 少なくとも、文字が読めないという問題は、完全に解決していた。

 さらに、ハザからは文字以外のことも学んだ。

 物資の価値。

 取引の仕方。

 交渉。

 簡単な計算。

 そして、流星街の常識。

 特に、物資の価値を見極める技術は役に立った。

 ゴミ山には、さまざまなものが捨てられている。

 その中には、見た目はただのゴミでも、修理すれば使えるものがある。

 逆に、立派に見えても、まったく価値のないものもある。

 ハザは、そうした違いを教えてくれた。

 俺は、探索中に見つけた物資を持ち込み、その価値を確認してもらった。

 そして、少しずつ目利きの技術を身につけていった。

 今では、ある程度なら自分で判断できる。

 もちろん、ハザほどではない。

 あの男は、長年流星街で商売を続けてきた。

 経験の差は、簡単には埋まらない。

 だが、少なくとも、何も知らない子供ではなくなった。

     ◇

 そして、四年間で最も大きく変わったこと。

 それは、俺が何でも屋のような仕事をするようになったことだった。

 きっかけは、ハザからの小さな依頼だった。

 ある日。

 ハザが、俺に言った。

「アオ。ちょっと頼みがある」

「何?」

「店の裏にある古い機械、運んでくれねえか」

 俺は、少し首を傾げた。

「……重いの?」

「まあな。大人二人でも面倒なくらいだ」

 俺は、少し考えた。

 アイテムボックスを使えば簡単だ。

 だが、その存在は隠している。

 だから、普通に運ぶしかない。

「……わかった」

 俺は、そう答えた。

 そして、店の裏へ向かった。

 そこには、大きな金属製の機械が置かれていた。

 かなり重そうだ。

 だが、今の俺なら問題ない。

 俺は、機械の下へ手を入れた。

 そして、ゆっくりと持ち上げた。

「……よっと」

 機械が、地面から浮いた。

 ハザが、目を見開いた。

「……おいおい」

「どこに運べばいい?」

「……あっちだ」

 俺は、指示された場所へ運んだ。

 もちろん、念は使っていない。

 純粋な身体能力だけだ。

 それでも、十分だった。

 ハザは、しばらく呆然としていた。

 そして、深いため息をついた。

「……お前、本当に何者だよ」

「……ただの子供?」

「どこがだ」

 俺は、苦笑した。

 その日から、ハザは時々俺に仕事を頼むようになった。

 重い物の運搬。

 危険な場所での物資回収。

 古い機械の部品探し。

 そして、時には人探し。

 最初は、簡単な仕事ばかりだった。

 だが、俺が確実に依頼をこなすようになると、少しずつ難しい仕事も増えていった。

 さらに、ハザが他人からの依頼を仲介するようになった。

「アオ。今度はこっちの仕事だ」

「何?」

「南のゴミ山で、使える発電機を探してほしいらしい」

「……報酬は?」

「食料と水。それから、少し金だ」

「わかった」

 そんなやり取りが、日常になった。

 もちろん、何でも引き受けたわけではない。

 危険すぎる仕事。

 明らかに犯罪に関わる仕事。

 そして、子供や弱い立場の人間を傷つけるような仕事。

 そうした依頼は、断った。

 ハザも、無理に押しつけることはなかった。

 むしろ、俺の判断を尊重してくれた。

 そして、少しずつ。

 俺は、流星街の一部で知られるようになった。

 何でも屋のアオ。

 物資を探すのが得意な少年。

 危険な場所にも入っていける。

 そして、頼まれた仕事は、きっちりこなす。

 そんな評判だった。

 もちろん、俺の能力のすべてを知っている人間はいない。

 アイテムボックス。

 完全回復能力。

 この二つは、徹底して隠していた。

 人前では、決して使わない。

 必要なときは、誰もいない場所へ移動してから使用する。

 その徹底が、四年間の秘密を守ってくれた。

     ◇

 当然ながら、何でも屋の仕事には危険もあった。

 流星街のゴミ山は、決して安全な場所ではない。

 野生動物。

 荒くれ者。

 物資を奪おうとする集団。

 そして、まれに念能力者。

 そうした存在と遭遇することもあった。

 最初の頃は、できるだけ戦闘を避けていた。

 だが、いつも逃げられるわけではない。

 ある日。

 俺は、ハザから頼まれた部品を探すため、中心地から離れたゴミ山を探索していた。

 そこで、三人の男に囲まれた。

「おい、ガキ」

 男の一人が、俺を見下ろした。

「何持ってんだ?」

「……部品」

「見せろよ」

 俺は、周囲を確認した。

 三人。

 全員、武器を持っている。

 だが、念能力者ではなさそうだった。

 俺は、静かに答えた。

「……依頼品だから、渡せない」

 男たちは、笑った。

「聞いたか?」

「ガキのくせに、生意気だな」

 そして、一人が殴りかかってきた。

 俺は、半歩だけ横へ動いた。

 拳が、空を切る。

 そのまま、男の手首を掴む。

 そして、重心を崩した。

「……ぐっ!?」

 男が、地面へ倒れた。

 残りの二人が、慌てて武器を構える。

 だが、遅い。

 俺は、一気に距離を詰めた。

 足を払う。

 腕を捻る。

 そして、顎へ軽く拳を当てる。

 三人は、あっという間に動けなくなった。

 俺は、倒れた男たちを見下ろした。

「……もう、やめといた方がいいよ」

 男たちは、何も言わなかった。

 ただ、恐怖に満ちた目で俺を見ていた。

 俺は、部品を拾い上げ、その場を離れた。

 こうした戦闘は、何度も経験した。

 そして、そのたびに、俺の戦闘技術は向上していった。

 特に、戦闘の才能。

 これは、想像以上に強力だった。

 相手の動きを見る。

 それだけで、身体の使い方が理解できる。

 拳の軌道。

 足運び。

 重心移動。

 そして、技の組み立て。

 それらを、まるで自分の身体が知っているかのように再現できる。

 もちろん、一度見ただけで完璧に使えるわけではない。

 身体の条件が違えば、再現できない技もある。

 だが、基本的な動作なら、驚くほど簡単に習得できた。

 俺は、戦闘のたびに相手の動きを観察した。

 そして、使えそうな技術を取り入れていった。

 結果として。

 俺の戦闘スタイルは、少しずつ変化していった。

 特定の武術に属さない。

 だが、さまざまな技術を組み合わせた、実戦的な戦い方。

 それが、今の俺の基本になっていた。

     ◇

 しかし、すべての戦闘が簡単だったわけではない。

 中には、死にかけたこともあった。

 特に印象に残っているのは、二年前の出来事だ。

 当時、俺は八歳ほどだった。

 ハザから頼まれた物資を回収するため、流星街の外縁部に近い区域を探索していた。

 そこで、一人の男と遭遇した。

 痩せた男だった。

 年齢は三十代ほど。

 服装は薄汚れていたが、目つきは鋭かった。

 そして、何より。

 オーラを纏っていた。

 念能力者。

 俺は、すぐに警戒した。

 だが、男は俺を見つけると、薄く笑った。

「……ガキが一人か」

 俺は、静かに距離を取った。

 しかし、男は逃がしてくれなかった。

 次の瞬間。

 男の手から、何かが飛んできた。

 細い針のようなものだった。

 俺は、反射的に身体を捻った。

 だが、完全には避けられなかった。

 針が、肩をかすめる。

 その瞬間。

 激痛が走った。

「……っ!?」

 ただの針ではない。

 念が込められている。

 俺は、すぐに理解した。

 男は、笑った。

「……速えな」

 俺は、歯を食いしばった。

 肩が熱い。

 そして、腕が痺れている。

 何らかの能力が作用している可能性があった。

 俺は、即座に距離を取った。

 だが、男は追ってくる。

 さらに、針が飛んできた。

 俺は、足場を利用して回避した。

 しかし、完全には避けきれない。

 一本が、脚に刺さった。

 次の瞬間。

 脚の感覚が鈍くなった。

「……まずい」

 俺は、内心で焦った。

 これは、単純な攻撃ではない。

 何らかの状態異常を与える能力だ。

 しかも、念能力者としての技術も、俺より上だった。

 オーラの扱い。

 間合い。

 攻撃の組み立て。

 どれも、洗練されている。

 俺は、初めて明確な実力差を感じた。

 そして。

 男の三本目の針が、俺の腹部へ向かって飛んできた。

 避けきれない。

 そう判断した瞬間。

 俺は、身体を捻り、致命傷だけを避けた。

 針が、脇腹へ刺さる。

 激痛。

 そして、身体の力が抜けていく。

 俺は、膝をついた。

「……終わりだな」

 男が、近づいてくる。

 俺は、歯を食いしばった。

 死ぬ。

 このままでは、死ぬ。

 だが。

 俺には、まだ切り札があった。

 完全回復能力。

 俺は、意識を集中させた。

 身体全体。

 傷。

 痺れ。

 念による影響。

 そして、消耗したオーラ。

 すべてを回復する。

 次の瞬間。

 身体の痛みが消えた。

 痺れも消えた。

 オーラも戻った。

 俺は、即座に立ち上がった。

 男の目が、見開かれる。

「……なっ!?」

 俺は、その隙を逃さなかった。

 地面を蹴る。

 距離を詰める。

 そして、男の懐へ潜り込む。

 右拳へ、オーラを集中させる。

 ただし、全力ではない。

 相手の防御を崩すための一撃。

 俺は、男の腹部へ拳を叩き込んだ。

「……ぐっ!?」

 男が、身体を折る。

 その瞬間。

 俺は、足を払った。

 男が、地面へ倒れる。

 俺は、すぐに距離を取った。

 追撃はしない。

 目的は、倒すことではない。

 生き残ることだ。

 俺は、そのまま全力で逃げた。

 背後から、男の怒鳴り声が聞こえた。

 だが、追ってくる気配はなかった。

 俺は、何度も方向を変えながら走り続けた。

 そして、安全な場所へ辿り着いたとき。

 ようやく、息を吐いた。

「……死ぬかと思った」

 あの戦闘は、俺に多くのことを教えてくれた。

 念能力者は、単純な身体能力だけでは測れない。

 特殊な能力。

 間合い。

 情報。

 そして、経験。

 それらが、勝敗を大きく左右する。

 俺は、あの男に勝ったわけではない。

 ただ、逃げ切っただけだ。

 だが、それでよかった。

 生き残った。

 そして、学んだ。

 それが、何より重要だった。

     ◇

 この四年間で、特典の能力についても理解が深まった。

 まず、完全回復能力。

 以前は、発動する際に、ある程度意識を集中させる必要があった。

 傷を治す。

 疲労を消す。

 オーラを回復する。

 そのように、対象を明確にイメージする必要があった。

 だが、何度も使ううちに、少しずつ扱いが変わっていった。

 今では、無言で発動できる。

 さらに、自分自身に使う場合。

 細かい回復対象を意識する必要すらなくなった。

 自分を完全な状態へ戻す。

 その感覚だけで、身体全体に効果が及ぶ。

 傷。

 病気。

 疲労。

 精神的な消耗。

 念による悪影響。

 そして、消耗したオーラ。

 それらを、まとめて回復できる。

 もちろん、一日に三回という制約は変わらない。

 十分な睡眠を取って目覚めたときに、使用回数が補充される。

 短い仮眠では駄目だ。

 体感では、六時間以上の睡眠が必要になる。

 この条件も、四年間の検証でほぼ確信に変わっていた。

 ただし、時計を使って厳密に測定したわけではない。

 だから、細かな条件については、まだ不明な部分がある。

 それでも、実用上は十分だった。

 そして、アイテムボックス。

 これについても、大きな発見があった。

 以前は、物を収納する際に、手をかざしていた。

 だが、何度も使ううちに気づいた。

 触れていれば、収納できる。

 わざわざ手をかざす必要はない。

 さらに、取り出す際。

 自分の身体から一メートル以内なら、好きな位置に出現させることができる。

 手の中。

 足元。

 背後。

 そして、身体の横。

 意識した場所へ、物を取り出せる。

 ただし、生物は収納できない。

 この制約は、今も変わらない。

 そして、もう一つ。

 収納できる量は、認識によって変わる。

 最初は、触れた物だけを収納していた。

 だが、ある日。

 俺は、積み重なった金属部品をまとめて収納しようとした。

 すると。

 触れていた部品だけでなく、その上に重なっていた部品まで、一度に収納できた。

 最初は、偶然だと思った。

 だが、何度か試すうちに、法則が見えてきた。

 収納対象を、どこまで一つのまとまりとして認識しているか。

 それが、重要らしい。

 たとえば、箱。

 箱だけを収納しようと意識すれば、箱だけが収納される。

 だが、中身も含めて一つの荷物として認識すれば、中身ごと収納できる。

 さらに、触れている物が別の物に接触している場合。

 それらを一つのまとまりとして認識すれば、まとめて収納できることがあった。

 もちろん、どこまで可能なのかは、まだわからない。

 無制限に収納できるとは思っていない。

 だが、少なくとも、最初に考えていたよりも柔軟な能力だった。

 俺は、この性質を利用して、物資の回収効率を大幅に高めていた。

 もちろん、人前では使わない。

 完全回復能力も、アイテムボックスも。

 この二つの秘密は、四年間、誰にも知られていなかった。

     ◇

 そして、戦闘の才能。

 これについても、ようやく性質がわかってきた。

 俺は、相手の動きを見るだけで、その技術をある程度理解できる。

 拳の打ち方。

 蹴りの軌道。

 足運び。

 重心移動。

 そして、相手の崩し方。

 それらを、見ただけで身体が理解する。

 もちろん、完全な再現には練習が必要だ。

 だが、普通の人間と比べれば、習得速度は異常だった。

 俺は、四年間で多くの人間と戦った。

 荒くれ者。

 物資を奪おうとする集団。

 野生動物。

 そして、まれに念能力者。

 そのたびに、相手の動きを観察した。

 そして、使える技術を取り入れた。

 結果として、俺の戦闘スタイルは、かなり実戦的なものになっていた。

 特定の武術に属さない。

 だが、さまざまな技術を組み合わせた戦い方。

 そして、念による攻防力移動。

 さらに、フィジカルギフテッドによる身体能力。

 それらが、自然に結びついていた。

 今の俺なら、四年前の自分を相手にしても、苦戦することはないだろう。

 それほど、実力差がある。

 だが。

 まだ、足りない。

 俺は、そう思っていた。

 この世界には、怪物のような人間がいる。

 ネテロ。

 ジン。

 そして、原作で登場した数多くの強者たち。

 彼らと比べれば、今の俺など、まだまだ未熟だ。

 だから、修行を続ける。

 もっと強くなる。

 そして、いずれは、自分固有の発を開発する。

 そのための準備は、ほぼ整っていた。

 特質系。

 水見式で判明した、自分の念系統。

 だが、発の開発は、まだ行っていない。

 理由は、単純だ。

 慎重に決めたいからだ。

 念能力は、本人の性格や経験、願望によって大きく変わる。

 制約と誓約によって、能力を強化することもできる。

 だが、安易に決めれば、後悔する可能性もある。

 俺には、すでに二つの強力な特典がある。

 だからこそ、発は、それらとは違う役割を持たせたい。

 戦闘。

 探索。

 そして、今後の生き方。

 それらを考えた上で、決めるつもりだった。

     ◇

 そして、1984年。

 年が明けた。

 俺が目標にしていた、ハンター試験の年だ。

 四年前。

 ハザの店で新聞を読み、現在が1980年の年明け頃だと知った。

 そのとき、俺は決めた。

 四年後のハンター試験を受ける。

 そのために、文字を覚える。

 念を鍛える。

 武術を磨く。

 そして、実戦経験を積む。

 その目標に向かって、四年間を過ごしてきた。

 今では、文字は問題なく読める。

 念の基礎も、かなり上達した。

 応用技も、ある程度習得している。

 系統別修行も、少しずつ進めてきた。

 もちろん、すべてを極めたわけではない。

 だが、少なくとも、四年前の自分が目指していた地点には近づいている。

 俺は、拠点の中で荷物を確認した。

 食料。

 水。

 衣類。

 簡単な道具。

 そして、少量の金銭。

 それらを、必要に応じて持ち運べるように準備している。

 もちろん、大部分はアイテムボックスへ収納してある。

 だが、人前では普通の荷物を持つつもりだった。

 ハンター試験へ向かうには、流星街を出なければならない。

 そして、試験会場を探す必要がある。

 原作でも、試験会場へ辿り着くまでが試験の一部のようなものだった。

 だから、慎重に準備する必要がある。

 俺は、そう考えていた。

 だが。

 出発を決める前に、一つだけ仕事が入った。

     ◇

 その日。

 俺は、ハザの店へ向かっていた。

 中心地の道は、相変わらず賑やかだった。

 物資を運ぶ人間。

 露店を開く人間。

 子供たち。

 そして、荒くれ者。

 四年前と、ほとんど変わらない光景だ。

 だが、俺自身は大きく変わった。

 以前は、五歳ほどの子供だった。

 今は、十歳ほど。

 身長も百五十センチほどになった。

 そして、何より、周囲の人間が俺を見る目が変わった。

「……おう、アオ」

 道端の男が、声をかけてきた。

「この前は助かったぜ」

「……どういたしまして」

 俺は、軽く手を振った。

 別の場所では、年配の女性が声をかけてきた。

「アオ、また仕事かい?」

「うん。ハザのところに行く」

「そうかい。気をつけなよ」

「ありがとう」

 俺は、笑って答えた。

 何でも屋のアオ。

 それが、今の俺の立場だった。

 もちろん、流星街全体で有名というわけではない。

 だが、中心地の一部では、俺のことを知っている人間が増えていた。

 それは、四年間の積み重ねだった。

 俺は、ハザの店へ到着した。

 いつもの雑貨屋。

 古い本。

 工具。

 金属部品。

 そして、雑多な商品。

 店主のハザは、相変わらず椅子に座っていた。

 だが、俺を見ると、いつもとは違う表情をした。

「……来たか、アオ」

「うん。何かあった?」

 ハザは、すぐには答えなかった。

 代わりに、店の奥へ視線を向けた。

 そこには、一人の女性が座っていた。

 年齢は、三十代ほどだろうか。

 顔色が悪い。

 目の下には、濃い隈ができている。

 そして、何より。

 その表情には、強い不安が浮かんでいた。

 俺は、すぐに察した。

 普通の依頼ではない。

 ハザは、静かに口を開いた。

「……アオ。ちょっと、面倒な仕事がある」

「……どんな?」

 ハザは、俺をじっと見つめた。

 そして、低い声で言った。

「子供が、さらわれてる」

 俺は、目を細めた。

「……人さらい?」

「ああ」

 ハザは、頷いた。

「ここ最近、中心地の外れで、子供が何人も消えてる」

 俺は、黙って聞いていた。

 ハザは、続けた。

「最初は、家出かと思われてた。だが、違うらしい」

「……どうして?」

「消えた場所が、妙に偏ってる。それに、目撃情報もある」

 俺は、静かに息を吐いた。

 子供の人さらい。

 流星街では、決して珍しくない犯罪かもしれない。

 だが、だからといって、見過ごしていいものではない。

 俺は、店の奥に座る女性へ視線を向けた。

 女性は、両手を強く握りしめていた。

 そして、震える声で言った。

「……お願いします」

 俺は、女性を見た。

「……うちの子を、探してほしいんです」

 その声は、今にも泣き出しそうだった。

 俺は、しばらく黙っていた。

 そして、ハザへ視線を戻した。

「……詳しく聞かせて」

 ハザは、ゆっくりと頷いた。

 俺は、椅子を引いて座った。

 ハンター試験。

 四年間、目標にしてきたもの。

 その受験が、いよいよ近づいている。

 だが。

 目の前には、助けを求める人間がいる。

 そして、子供がさらわれている。

 俺は、静かに拳を握った。

 この依頼は、簡単ではないかもしれない。

 相手が、ただの人さらいとは限らない。

 念能力者が関わっている可能性もある。

 だが。

 だからといって、見捨てるつもりはなかった。

 俺は、ハザの話に耳を傾けた。

 四年間の修行。

 積み重ねてきた経験。

 そして、身につけた力。

 それらを、今度は誰かを助けるために使う。

 そのときが、来たのかもしれない。

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