原神の世界に通えるようになったので、モンドを拠点に異世界生活を楽しみます   作:ところてんの

11 / 15
第11話「ノエルの手伝い」

 モンドで過ごす休日にも、少しずつ慣れてきた。

 

 冒険者ギルドで依頼を受け、街の店を巡って食事を楽しみ、持ち込んだ商品を試しに販売する。

 

 最初の頃は、目に入るものすべてが珍しかった。今でも新しい発見はあるけれど、最近は景色だけでなく、そこで暮らす人々の様子にも自然と目が向くようになっていた。

 

 店を開ける準備をする商人。荷物を運ぶ人。広場で談笑する住民。街の安全を守る騎士たち。

 

 ゲームで見ていた街には、実際に暮らしている人たちの日常がある。

 

「さて、今日はどうしようかな」

 

 俺は広場を歩きながら、今日の予定を考えていた。

 

 冒険者ギルドで依頼を受けるのもいいけれど、今日は特に急いで片づけたい用事はない。商品の販売も予定していなかった。

 

 せっかくの休日だ。気の向くままに街を歩いて、のんびり過ごすのも悪くない。

 

 そんなことを考えながら、騎士団本部の方向へ目を向ける。

 

 そういえば、最近は騎士団の人たちとも何度か話をしている。

 

 ジンやガイアから街を守る仕事について聞いたし、アンバーとも普段の活動について話した。

 

 その中で、以前から気になっていた人物がいる。

 

 ノエルだ。

 

 騎士団のメイドとして働きながら、騎士になることを目指している少女。

 

 ゲームでの知識はあるものの、実際にどんな仕事をして、どんな毎日を送っているのかは、本人と話してみないと分からない。

 

 今も騎士団本部にいるのだろうか。

 

「ちょっと顔を出してみるか」

 

 俺は予定を決めると、騎士団本部へ向かうことにした。

 

     ◇

 

 騎士団本部へ向かう途中、店先で困っている女性が目に入った。

 

 荷物をいくつも抱えている。近くには店の入口があり、どうやら商品を運び込んでいるところらしい。

 

 女性は荷物を持ち直そうとしていたが、片手に持った包みがずり落ちそうになっていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あら、ありがとうございます。少し荷物が多くて……」

 

「よかったら、運ぶのを手伝いましょうか?」

 

「いいんですか?」

 

「ええ。どこまで運べばいいですか?」

 

 女性に案内され、俺は荷物をいくつか受け取った。

 

 それほど重いものではなかったが、数が多い。これを一人で何往復もするのは、確かに大変そうだった。

 

 店の中まで荷物を運び、指定された場所に置いていく。

 

「これで全部ですか?」

 

「はい。助かりました。ありがとうございます」

 

「いえ、これくらいなら」

 

「お仕事の途中だったのでは?」

 

「今日は特に予定もないので。ちょうど通りかかっただけですよ」

 

 女性は何度も礼を言ってくれた。

 

 俺は軽く手を振って、その場を離れる。

 

 特別なことをしたわけではない。ただ、困っている人がいたから手伝っただけだ。

 

 それでも、感謝してもらえるとうれしい。

 

 そのまま歩き続け、やがて騎士団本部に到着した。

 

     ◇

 

 受付でノエルに会えるか尋ねてみると、少し待つように案内された。

 

 しばらくして、建物の奥から見覚えのある少女が姿を現す。

 

「あっ、悠真さん! こんにちは」

 

「こんにちは、ノエル。仕事中だった?」

 

「はい。ちょうど清掃と備品の確認をしていたところです。何かご用でしょうか?」

 

「いや、特に用事があるわけじゃないんだ。街を歩いていたら、ふと思い出してね」

 

「そうだったんですね。わざわざありがとうございます」

 

 ノエルは丁寧に頭を下げた。

 

 相変わらず礼儀正しい。

 

 騎士団のメイドとして働いているだけあって、来客への対応にも慣れているようだった。

 

「普段はどんな仕事をしているの?」

 

「そうですね。建物の清掃や備品の整理、書類の運搬、お茶の準備などです。騎士の皆さんから頼まれた仕事をお手伝いすることもあります」

 

「結構いろいろあるんだな」

 

「はい。でも、どれも騎士団にとって必要な仕事ですから」

 

 ノエルは当たり前のことのように答えた。

 

 目の前の仕事をきちんとこなす。それが彼女の基本なのだろう。

 

「騎士になるための訓練もしてるんだよね?」

 

「はい。仕事の合間に訓練をしたり、必要な知識を勉強したりしています」

 

「忙しそうだね」

 

「皆さんも忙しいですから。私にできることを、少しずつ進めているだけです」

 

 そう言って微笑むノエル。

 

 騎士団の仕事を手伝いながら、自分自身の目標に向けた努力も続けている。

 

 口で言うのは簡単だけれど、毎日続けるとなると大変なはずだ。

 

「無理はしないでね」

 

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」

 

 ノエルは少し照れたように笑った。

 

 本人がそう言うなら、今すぐ何かを心配する必要はないのだろう。

 

 ただ、真面目な人ほど、頼まれたことを全部引き受けてしまう場合がある。

 

 俺も会社で働いていると、頼まれた仕事を断りづらいことがある。ノエルの場合は、誰かの役に立ちたいという気持ちも強そうだ。

 

 その気持ちは立派だけれど、休むことも忘れないでほしいと思った。

 

     ◇

 

「ノエル、ちょうどいいところにいたな」

 

 話をしていると、騎士の一人がこちらへやってきた。

 

「はい、何でしょうか?」

 

「倉庫に運んでほしい箱があるんだ。今、手が空いているなら頼めるか?」

 

「分かりました。すぐに取りかかります」

 

 ノエルはすぐに返事をした。

 

 そして、こちらを振り返る。

 

「すみません、悠真さん。少し仕事に戻りますね」

 

「俺も手伝おうか?」

 

「えっ? ですが、悠真さんはお客様ですし……」

 

「今日は暇だからね。箱を運ぶくらいなら大丈夫だよ」

 

「でも……」

 

「持てないほど重いものだったら無理はしないから。邪魔にならない範囲で手伝わせてよ」

 

 ノエルは少し考えたあと、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせていただきますね」

 

 騎士に案内され、俺たちは荷物の置かれている場所へ向かった。

 

 そこには、書類や道具などが入った箱がいくつか並べられていた。大きさも重さもばらばらで、中には一人で運ぶには少し扱いづらそうなものもある。

 

「こちらの箱を倉庫まで運びます。中身によって置く場所が違いますので、私が確認しながら案内しますね」

 

「了解。じゃあ、持てそうなものから運ぼうか」

 

「はい。重いものは無理をなさらないでくださいね」

 

「それ、さっき俺が言ったことなんだけどな」

 

「あっ……そうでしたね」

 

 ノエルは少し恥ずかしそうに笑った。

 

 彼女らしい反応に、俺もつられて笑ってしまう。

 

 作業は単純だった。

 

 箱を持ち上げ、指定された倉庫まで運び、ノエルの指示に従って所定の場所へ置く。

 

 ただし、中身が分からないものもあるので、勝手に積み重ねたりはしない。書類の入った箱は取り出しやすい場所へ、道具類は決められた棚の近くへ置いていく。

 

「この箱はこちらでいい?」

 

「はい。そちらで大丈夫です。ありがとうございます」

 

「次はこっちかな」

 

「そちらは奥の棚の近くにお願いします」

 

 運ぶたびに確認するので、少し時間はかかる。

 

 けれど、適当に置いてしまえば、必要になったときに探す手間が増える。それを考えれば、最初にきちんと整理しておくほうがいい。

 

「普段から、こういう整理もノエルがやっているの?」

 

「はい。ただ、私だけではありません。騎士の皆さんも、使ったものは元の場所に戻してくださいます。必要に応じて、一緒に備品を確認することもありますよ」

 

「なるほど。使う人も片づけに協力するわけだ」

 

「そうですね。どこに何があるか分かっていれば、必要なときにすぐ取り出せますから」

 

 それは俺が普段働いている職場でも同じだ。

 

 道具や書類が決まった場所に整理されていれば、探す時間を減らせる。

 

 逆に、誰かが適当な場所に置いてしまうと、次に使う人が困る。

 

 世界が違っても、仕事を進めやすくするための工夫は変わらないらしい。

 

 そんなことを考えながら、俺たちは残りの箱も運んでいった。

 

 やがて、用意されていた箱をすべて運び終える。

 

「これで全部かな?」

 

「はい。おかげで予定より早く終わりました。本当にありがとうございます」

 

「どういたしまして。これくらいなら大丈夫だよ」

 

 ノエルは倉庫の中を見回し、箱が指定された場所に置かれていることを確かめた。

 

 それから、ほっとしたように息をつく。

 

「一人だったら、もう少し時間がかかっていたと思います」

 

「そう言ってもらえるなら、手伝ったかいがあったな」

 

 俺は大げさなことをしたわけではない。

 

 目の前にあった荷物を一緒に運んだだけだ。

 

 それでも、誰かの仕事が少し楽になるなら、手伝った意味はあったと思う。

 

     ◇

 

 倉庫を出たところで、俺は鞄の中身を思い出した。

 

 そういえば、今日は個包装の飴を何種類か入れていたんだった。

 

 自分で食べるつもりだったけれど、せっかくならノエルにも試してもらおう。

 

「そうだ、ノエル。ちょっといい?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 俺は鞄を開け、個包装の飴を取り出した。

 

 いちご味、レモン味、ミルク味、ぶどう味。

 

 それぞれ違う味のものを、何個かずつ用意してある。

 

「これ、よかったらどうぞ」

 

「飴ですか?」

 

「うん。ちょっと珍しいお菓子なんだけど、味がいくつかあるんだ。よかったら食べてみて」

 

 ノエルは差し出された飴を見て、少し困ったような表情を浮かべた。

 

「ですが、こんなにたくさんいただいてしまってもよろしいのでしょうか?」

 

「大丈夫だよ。ちょっとしたおすそ分けだから」

 

「でも、先ほどのお手伝いのお礼でしたら、そこまでしていただく必要はありません。私の仕事を手伝ってくださったのは、悠真さんのご厚意ですから」

 

「これは箱運びのお礼っていうより、ノエルにも味を知ってもらいたかったんだ」

 

「味を、ですか?」

 

「そう。こういうお菓子もあるんだって、知ってもらえたらと思ってね」

 

 ノエルはもう一度、手元の飴に目を落とした。

 

 真面目な彼女らしく、簡単には受け取れないようだ。

 

 だからといって、無理に押しつけるつもりもない。

 

「もちろん、いらなかったら断ってくれていいよ」

 

「いえ、そういうわけではありません!」

 

 ノエルは慌てて首を横に振った。

 

「せっかく悠真さんがくださるのですから、ありがたくいただきます。ありがとうございます」

 

「どういたしまして」

 

 ノエルは両手で飴を受け取ると、袋に描かれた色や模様を興味深そうに見比べた。

 

「こちらはいちご味……こちらはレモン味でしょうか?」

 

「そうそう。あと、ミルク味とぶどう味もあるよ」

 

「同じ飴でも、こんなに種類があるんですね」

 

「味が違うと、けっこう印象も変わるよ。気分に合わせて選んでもいいしね」

 

「なるほど……。どれからいただこうか迷ってしまいますね」

 

 ノエルは少し楽しそうに笑った。

 

 その様子を見て、俺も自然と笑みがこぼれる。

 

 せっかく渡すなら、いろいろな味を試してもらいたかった。どれか一つでも気に入ってくれたらうれしい。

 

 そこで、俺はもう一つ伝えておくことにした。

 

「気に入ったのがあれば買いに来てね」

 

「えっ?」

 

 ノエルが顔を上げた。

 

「俺、冒険者ギルドの近くで商品を少し売ってるんだ。飴もその一つだから、気に入った味があったら、今度見に来てくれるとうれしいな」

 

「ああ、そうだったんですね!」

 

 ノエルは納得したようにうなずいた。

 

「悠真さんが商品を販売されていることは知っていましたが、飴も扱っていらっしゃるんですね」

 

「うん。まだ小さく始めたばかりだけどね。ほかにも日用品なんかをいくつか置いてるよ」

 

「そうなんですね。では、いただいた飴を味わってみて、気に入ったものがあれば、ぜひ買いに伺います!」

 

「ありがとう。でも、無理に買わなくてもいいからね。食べてみて、気に入ったものがあればで大丈夫」

 

「はい。そう言っていただけると安心します」

 

 ノエルは、受け取った飴を大切そうにしまった。

 

 これなら、ちょっとした宣伝にもなっただろう。

 

 ただ、飴を渡したからといって、必ず買ってもらえるわけではない。

 

 実際に食べてみて、気に入るかどうかは人それぞれだ。

 

 まずは味を知ってもらい、気に入ってくれたら買いに来てもらう。

 

 それくらいの距離感が、今の俺にはちょうどいい。

 

「個包装だから、持ち歩きやすいと思うよ。休憩のときにも食べられるし」

 

「確かに、これなら鞄に入れておいてもよさそうですね」

 

「一度に全部食べる必要もないしね」

 

「仕事の合間に少しずつ楽しめそうです。ありがとうございます」

 

「どういたしまして。味の感想も、もしよかったら聞かせてよ」

 

「はい。食べたら、ぜひお伝えしますね」

 

 ノエルは元気よく返事をした。

 

 飴を渡しただけなのに、思っていた以上に話が弾んだ。

 

 以前、アンバーも個包装の飴を持ち歩きやすいと言っていた。

 

 別の人にも同じような特徴を評価してもらえたなら、販売するときに説明するポイントとして使えそうだ。

 

 もっとも、まだ二人の感想だけだ。これだけで結論を出すのは早い。

 

 味についても、実際に食べてもらった感想を聞いてみたいところだ。

 

     ◇

 

「そういえば、ノエルはこれからも仕事?」

 

「はい。倉庫の確認は終わりましたが、これから別の備品を整理する予定です。そのあと、書類の確認もあります」

 

「まだまだあるんだな……」

 

「いつものことですから、大丈夫ですよ」

 

 ノエルはそう答えたものの、手元にはまだ仕事で使う道具が残っている。

 

 騎士団のメイドという仕事は、思っていた以上に幅広いらしい。

 

「少し休憩してからでもいいんじゃない?」

 

「そうですね。ちょうど休憩の時間ですので、少しだけ休もうと思います」

 

「それなら、俺も少し付き合っていいかな?」

 

「もちろんです!」

 

 ノエルの案内で、俺たちは休憩に使える場所へ移動した。

 

 騎士団本部の中も、ずっと仕事をしているわけではない。こうして一息つける場所があるのはありがたい。

 

 ノエルは腰を下ろすと、先ほど受け取った飴を取り出した。

 

「せっかくですから、一ついただいてもよろしいでしょうか?」

 

「もちろん。好きなのを選んでいいよ」

 

 ノエルは少し迷ってから、いちご味の飴を選んだ。

 

 包装を丁寧に開け、口に入れる。

 

「……おいしいです!」

 

「よかった」

 

「甘さの中に、少し酸味もあるんですね。いちごの風味がして、とても食べやすいです」

 

「ほかの味も違った感じがすると思うよ」

 

「そうなんですね。ほかの味も楽しみです」

 

 ノエルはうれしそうに微笑んだ。

 

 その反応を見ていると、こちらまでうれしくなる。

 

 俺にとっては珍しくない飴でも、初めて食べる人にとっては新鮮なのだろう。

 

 当たり前だと思っていたものが、別の場所では新しいものとして受け取られる。

 

 商品を持ち込む面白さは、こういうところにもあるのかもしれない。

 

「仕事の合間に、こういうものがあると気分転換になりそうですね」

 

「そうだね。忙しいときほど、少し休むのも大事だと思うよ」

 

「はい。私も、休憩をきちんと取るようにします」

 

 そう言って、ノエルは小さくうなずいた。

 

 もちろん、飴を食べれば疲れが全部なくなるわけではない。

 

 でも、少し気分を変えるきっかけにはなるだろう。

 

 仕事を頑張ることと、休むこと。

 

 その両方を大事にしてほしいと思った。

 

     ◇

 

 休憩を終えると、ノエルは仕事に戻る準備を始めた。

 

「今日は本当にありがとうございました。荷物運びまで手伝っていただいて、とても助かりました」

 

「どういたしまして。俺も暇だったし、ちょうどよかったよ」

 

「それでも、助けていただいたことに変わりはありません。ありがとうございます」

 

 ノエルは改めて頭を下げた。

 

「それに、飴までいただいてしまって……。大切に食べますね」

 

「そんなにかしこまらなくてもいいって。気に入った味があったら、また買いに来てよ」

 

「はい。楽しみにしています!」

 

 ノエルは笑顔で答えた。

 

「悠真さんも、よい一日をお過ごしください」

 

「ありがとう。ノエルも仕事、頑張ってね。でも、休憩も忘れずに」

 

「ふふっ、分かりました」

 

 俺たちはそこで別れた。

 

 ノエルは仕事へ戻り、俺は騎士団本部をあとにする。

 

 外へ出ると、モンドの街にはいつもどおりの風景が広がっていた。

 

 行き交う人々の声。店先に並ぶ商品。荷物を抱えて歩く商人。広場から聞こえてくる楽しそうな笑い声。

 

 特別な事件が起きているわけではない。

 

 それでも、この街では多くの人が、それぞれの仕事をこなしながら暮らしている。

 

 ノエルも、その一人だ。

 

 清掃や備品の整理、書類の運搬。目立つ仕事ばかりではないけれど、誰かがやらなければ困る仕事だ。

 

 そうした日々の積み重ねが、騎士団の活動を支えているのだろう。

 

 俺が普段働いている職場でも、似たようなことはある。

 

 誰かが準備をして、誰かが確認して、誰かが片づける。

 

 その繰り返しがあるから、仕事は進んでいく。

 

「……俺も、できることからやっていくか」

 

 商売も同じだ。

 

 いきなり大きく始めるのではなく、商品を選び、売ってみて、反応を確かめる。

 

 よかったところは続けて、問題があれば改善する。

 

 その積み重ねが大切なのだと思う。

 

 今日、ノエルに渡した飴も、気に入ってもらえたら次につながるかもしれない。

 

 もし買いに来てくれたら、どの味がよかったのか聞いてみよう。

 

 同じ味を多めに仕入れるべきか、それとも別の商品を試すべきか。そうしたことも、少しずつ考えていけばいい。

 

 まだ始めたばかりなのだから、焦る必要はない。

 

     ◇

 

 その後、俺は街を歩きながら軽い食事を取り、店先の商品を眺めたり、広場で休憩したりして過ごした。

 

 今日は大きな成果を上げたわけではない。

 

 冒険者ギルドで依頼を受けたわけでもなければ、商品を売ったわけでもない。

 

 それでも、街の人を手伝い、ノエルと話し、彼女に飴を味わってもらうことができた。

 

 十分に充実した一日だったと思う。

 

 夕方が近づいてきたところで、俺はシステムを開いた。

 

 視界の端に表示されている見慣れたアイコンを操作し、ログアウトを選択する。

 

 次の瞬間、見慣れた自室の風景が戻ってきた。

 

「ただいま……って、誰もいないけど」

 

 一人暮らしの部屋で、つい口に出してしまう。

 

 まあ、いつものことだ。

 

 俺は荷物を片づけてから、机に向かった。

 

 ノートを開き、今日の出来事を日本語で記録していく。

 

 ノエルと話したこと。倉庫の箱運びを手伝ったこと。そして、いくつかの味の飴を渡したこと。

 

 特に記録しておきたいのは、個包装の飴についての反応だ。

 

 アンバーも、持ち歩きやすくて便利だと言っていた。

 

 今回、ノエルも仕事の合間に食べられそうだと話していた。

 

 味そのものだけでなく、個包装であることも商品の特徴として伝えられそうだ。

 

 もちろん、二人の感想だけで売れ行きを判断するわけにはいかない。ほかの客がどう感じるかも確かめる必要がある。

 

 それでも、実際に使う人の感想を聞けたのはよかった。

 

「やっぱり、売る側の都合だけで考えても仕方ないよな」

 

 自分がいいと思った商品でも、買う人が同じように感じるとは限らない。

 

 だからこそ、商品を説明するときには、相手にとってどんな利点があるのかを考える必要がある。

 

 個包装なら持ち歩きやすい。味が複数あれば、好みに合わせて選べる。

 

 そうした特徴を、分かりやすく伝えればいい。

 

 あとは、実際の反応を見ながら考えていこう。

 

 ノートに最後の一行を書き加え、俺はペンを置いた。

 

 次の休日も、テイワットへ行く予定だ。

 

 何か新しい発見があるかもしれないし、特に何も起きず、のんびり過ごすだけの日になるかもしれない。

 

 どちらでもいい。

 

 せっかく異世界に行けるようになったのだから、そこで暮らす時間そのものを楽しみたい。

 

 そう考えながら、俺は次の休日に何をしようか、ゆっくりと思いを巡らせた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想や評価をいただけると、執筆のモチベーションにつながります。

よろしければ、気軽に感想や評価を残していただけるとうれしいです。

これからもよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。