原神の世界に通えるようになったので、モンドを拠点に異世界生活を楽しみます 作:ところてんの
今回、AIで挿絵を作ってみました!
今回の話だけでなく、第16話・第20話・第23話・第24話・第28話にもAI挿絵を追加しています。
文章だけでなく、挿絵でも作品を楽しんでもらえたら嬉しいです!
これからも、気に入ったシーンや見どころのある場面があれば、AIで挿絵を作っていこうと思います。
翌週末。
土曜日の朝、俺はスマートフォンとメモ帳を手に取った。稲妻での出店手続きは、次に勘定奉行で詳しく確認するつもりだ。
ただ、休日を商売の下調べだけで終わらせるのももったいない。今日は街を歩き、まだ食べていない甘味を楽しむことにしよう。
「今日は観光多めでいこう。商売のことは、気になったら少し調べるくらいで」
財布や筆記用具を確認してから、自宅のパソコンの前に座る。いつものシステム表示を開き、移動先から稲妻の解放済みワープポイントを選んだ。
画面が切り替わった。
◇
潮風が頬を撫でた。
俺が周囲を見回すと、前回も訪れた港の景色が広がっていた。海面には船が浮かび、岸辺では荷物を運ぶ人たちが行き交っている。
「よし。今日も稲妻だ」
前回は初めての場所ということもあり、目に入るものすべてが新鮮だった。今回は多少見覚えがある。だからといって、もう知り尽くした気分にはならない。
街の一角を歩いただけでも、見ていない場所はまだまだある。
俺は港から街へ続く道を進んだ。
今日は甘いものを中心に、気になった店をいくつか回ってみようと思っている。稲妻の食文化については前回も少し触れたが、まだ食べていない菓子は多い。
せっかく異世界に来ているのだから、景色を眺めるだけでなく、現地の味も楽しみたい。
もちろん、店を見て回るうちに商売の参考になることがあれば、それはそれで収穫だ。ただ、今日は最初から仕事のことばかり考えないようにしよう。
しばらく歩くと、甘い香りが漂ってきた。
通り沿いに小さな菓子屋がある。店先には団子や餡を使った菓子が並び、買い物客が品物を選んでいた。
俺は足を止め、棚を眺める。
「いろいろあるな……」
団子は串に刺さっていて、表面には艶のある餡が絡んでいる。隣には小ぶりな焼き菓子が並び、その奥には包みに入った菓子も置かれていた。
店主に尋ねてみると、団子はその場で食べられるという。
「じゃあ、団子を一本ください」
「はいよ。少し待っておくれ」
店主は手際よく団子を包んでくれた。
代金を支払い、店先の邪魔にならない場所へ移動する。俺は包みを開き、一口食べてみた。
「うん、おいしい」
もちもちとした食感に、ほどよい甘さの餡がよく合っている。甘さが強すぎるわけでもなく、食べやすい味だった。
日本の和菓子にも似ているが、材料や作り方には違いがあるのだろう。
同じような形の菓子でも、実際に食べてみると細かな違いが分かる。こういうところは、画面越しに見ているだけでは気づけない。
俺は団子を食べ終えると、店主に礼を言って歩き出した。
次の店は、少し先の通りにあった。
こちらでは、餡を包んだ菓子や、表面に焼き色のついた菓子が売られている。店先には焼きたての商品を待つ客もいて、香ばしい匂いが通りに広がっていた。
前に並んでいた女性は、店員に二種類の菓子を指しながら、どちらがおすすめなのか尋ねていた。
「こちらは焼きたてで、少し熱いですよ。もう一方は少し冷ましてあるので、餡の味が落ち着いています」
「うーん、どっちもおいしそうだねえ」
女性はしばらく迷ったあと、家族の分も含めていくつか注文した。
なるほど。自分で食べるだけでなく、家族への土産として買う人もいるらしい。
俺の番が来たので、焼き菓子を一つ注文した。
「はい。熱いので、少し気をつけてくださいね」
「ありがとうございます」
紙に乗せられた菓子を受け取り、店の前を塞がないように横へ移動する。ふう、と息を吹きかけてから一口かじった。
外側は香ばしく、少し歯ごたえがある。中の餡は甘く、口の中に優しい風味が広がった。
「これもおいしいな」
先ほどの団子とは、また違った味わいだ。
甘さや食感がそれぞれ違うので、いくつか食べ比べてみるのも面白い。俺は残りをゆっくり味わいながら、周囲の様子を眺めた。
店先では、客が家族の好みを話し合いながら商品を選んでいる。店員は注文を受けるたびに手際よく菓子を包み、次の客へ声をかけていた。
何気ない光景だが、そこには稲妻で暮らす人たちの日常がある。
俺は菓子を食べ終え、次の店を探して歩き始めた。
◇
少し賑やかな通りへ出ると、食料品を扱う店や小さな屋台が目に入った。
野菜を並べた店先では、店主と買い物客が値段について話している。近くでは荷物を運ぶ人たちが行き交い、通りの向こうから子どもたちの声も聞こえてきた。
俺はその中に、菓子を売る屋台を見つけた。
団子や焼き菓子のほかに、平たく焼かれた菓子が並んでいる。表面には香ばしい焼き色がついていた。
「これは何だろう?」
店主に尋ねると、米を使って焼いた菓子だと教えてくれた。
俺は一枚買い、代金を支払った。
店の前から少し離れて、さっそく一口かじる。
パリッ。
小気味よい音とともに、菓子が砕けた。ほどよい塩気と米の風味が口の中に広がる。
「おっ、これ、せんべいだ」
思わず声が出た。
もちろん、日本で食べていたものとまったく同じというわけではない。味付けや焼き加減には違いがあるようだが、食感も風味も、どこか親しみやすい。
団子のもちもちとした食感や、餡の甘さとはまた違ったおいしさだった。甘いものが続いていたこともあって、この塩気がちょうどいい。
俺はもう一口かじりながら、周囲の様子に目を向けた。
「今日は野菜が安いねえ。昨日よりもずいぶん値が下がってるじゃないか」
「朝早くに仕入れた分が多かったんだよ。買うなら今のうちだね!」
近くの店先では、買い物籠を持った女性と店主が、商品の値段について話していた。
「お母さん、あっちのお店にも寄っていい?」
「もう、さっきもお菓子を買ったでしょう?」
「でも、あっちには違うのがあるよ!」
「まったく……見るだけだからね」
少し離れたところでは、子どもが母親にねだっている。母親の呆れたような声に、近くにいた人たちから小さな笑い声が上がった。
さらに通りの向こうからは、荷物を運ぶ男たちの声も聞こえてくる。
「そっちを先に下ろしてくれ! 奥の荷物はあとでいい!」
「分かった。こっちが片づいたら手伝うよ!」
店先で交わされる商売の話。家族の買い物。仕事の合間のやり取り。
特別な出来事が起きているわけではない。ただ、そこには稲妻で暮らす人たちの、いつもの一日があった。
「こういう時間も、いいもんだな」
俺は残りのせんべいを食べ終え、店主に礼を言った。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「ありがとよ。また寄っておくれ」
俺は賑やかな通りを眺めながら、次に立ち寄る店を探して歩き始めた。
団子に焼き菓子、せんべい。短い時間で三種類も味わうことができた。
同じ菓子でも、店によって作り方や味付けが違う。売り方も、店先で食べられるものから持ち帰りを前提に包まれているものまでさまざまだった。
商売の参考になる部分もあるが、単純に食べ歩きが楽しい。
次は何を食べようか。
そんなことを考えながら通りを進んでいると、少し先から明るい声が聞こえてきた。
「ほらほら、そっち持って! そうそう、あとちょっとだけ右!」
若い女性の声だった。
続いて、木箱を置く音が響く。
「よーし、ばっちり! ありがとね!」
声につられて視線を向けると、店先で数人の人たちが作業をしていた。
その中心にいたのは、金色に近い髪をした少女だった。
赤や橙を基調とした衣装に、花火を思わせる飾り。身振りは大きく、表情は生き生きとしている。周囲の人たちにも気さくに話しかけ、作業が終わるたびに笑顔で礼を言っていた。
「(あれって……宵宮?)」
人混みの中でも、ひと目でわかった。あの髪型に、見覚えのある服装。間違いない。長野原花火屋の宵宮だ。
ゲームの画面で何度も見ていた人物が、目の前で普通に動いている。
モンドや璃月でも、ゲームで知っていた人物と実際に会う経験をしてきた。それでも、慣れたからといって特別さがなくなるわけではない。
それにしても、祭りを思わせる衣装がよく似合っている。花火を思わせる飾りもかわいらしく、宵宮らしい華やかさがあった。
俺はしばらく、その様子を眺めていた。
宵宮は店先の木箱を確認し、それから作業を手伝っていた男に声をかけた。
「これで運び込みは終わりかな?」
「ああ。頼まれていた分は全部だ」
「助かったよ! また何かあったらお願いするね!」
「おう。じゃあな」
男が去っていくと、宵宮は腰に手を当てて大きく伸びをした。
「ふぅー! 朝からよく働いた!」
そのとき、近くを通りかかった町の人が宵宮に声をかけた。
「宵宮ちゃん、今度の花火も楽しみにしてるよ」
「ほんま? ありがとね! みんなに喜んでもらえるように、準備頑張ってるんよ!」
「この前の花火も見事だったからねえ。うちの子なんて、帰ってからもずっと話していたよ」
「あははっ、そんなん聞いたら嬉しいわあ! 今度も楽しんでもらえるように工夫するから、楽しみにしとってな!」
町の人は笑顔で手を振り、そのまま通りを歩いていった。
どうやら、宵宮は街の人たちから親しまれているらしい。
俺は彼女のことを知っている。けれど、それを本人に話すわけにはいかなかった。
初対面なのに名前も仕事も知っているとなれば、不自然に思われるだろう。ここは何も知らない観光客として接するのが無難だ。
話しかけたい。
せっかく稲妻に来たのだから、ゲームで知っているキャラクターと交流してみたいと思っていた。とはいえ、仕事を終えたばかりの相手に、いきなり話しかけていいものだろうか。
少し離れた場所から様子を見ていると、宵宮がこちらに気づいた。
「あれ? お兄さん、さっきからこっち見てるけど、何か用なん?」
「あっ、すみません。邪魔するつもりはなかったんです」
「えー、そんな謝らんでもええよ! 何か気になるもんでもあったん?」
宵宮は警戒する様子もなく、にこにこと笑いながら近づいてきた。
近くで見ると、表情の変化がよく分かる。相手の話を聞こうとする姿勢が自然で、初対面の相手にも壁を作らない雰囲気があった。
「実は、先週から稲妻に来るようになったんです。まだ街のことをよく知らなくて」
「へえ、そうなんや! 稲妻へようこそ!」
宵宮はぱっと表情を明るくした。
「初めて来たときって、いろいろ気になるやろ? 街のこととか、おいしいもんとか、面白い場所とか!」
「そうなんですよ。前回は街を歩いて、商店を見たり、食事をしたりしていました」
「ええやん! ちゃんと稲妻を楽しんでくれてるんやね!」
「今日は甘いものをいくつか食べ歩いていたんです。まだ知らないお店も多いので」
「おっ、甘いもん巡り? ええやん! 稲妻にはおいしいもんがぎょうさんあるで!」
宵宮は楽しそうに頷いた。
「この先にも、あたしの知ってるお店があるんよ。よかったら案内したげよか!」
「案内してもらってもいいんですか?」
「もちろんや! ちょうど一段落したとこやしな。あ、そうや、まだ名前聞いてへんかった!」
「山田悠真です。悠真で大丈夫ですよ」
「悠真だね! あたしは宵宮。よろしくね!」
「よろしくお願いします」
俺は、初対面の相手として自然に頭を下げた。
「稲妻のことなら、いろいろ教えたげるよ。初めて来た人に楽しんでもらえたら、あたしも嬉しいしな!」
「ありがとうございます。助かります」
「よーし、ほな出発! おいしいもん探しに行こか!」
宵宮は軽快な足取りで歩き始めた。
俺もその隣に並ぶ。
まさか、甘味を食べ歩いている途中で宵宮に会い、そのまま案内してもらうことになるとは思わなかった。
今日の予定は、いい意味で早くも変わり始めていた。
◇
宵宮と一緒に歩く街並みは、先ほどまでとは少し違って見えた。
道の両側には商店が並び、店先には色とりどりの商品が置かれている。布や日用品を扱う店もあれば、食材や調味料を売る店もある。店主たちは客に声をかけ、買い物客は品物を手に取って確かめていた。
宵宮は歩きながら、見かけた知り合いに気軽に声をかけていく。
「おはよう! この前の花火、家族で見に来てくれたんやって?」
「ああ、子どもたちが大喜びだったよ。次も楽しみにしてるからな」
「ありがと! 次も頑張るで!」
少し先では、店先を掃除していた女性に手を振った。
「おばちゃん、おはよー!」
「宵宮ちゃん、おはよう。今日はお出かけかい?」
「そうそう! ちょっと甘いもん食べに行くんよ!」
「あら、また食べるのかい?」
「またって何なん! 甘いもんは別腹やで!」
女性が笑い、宵宮も声を上げて笑った。
そんなやり取りが何度も続く。
宵宮は、ただ明るいだけではなかった。街の人たちの顔や名前をよく覚えているらしく、相手の近況を自然に尋ねていた。荷物を運ぶ人がいれば道を空け、店先で困っている様子の人がいれば声をかける。
周囲の人たちも、宵宮に対して気兼ねなく話しかけていた。
(本当に、街に馴染んでるんだな)
ゲームの知識として知っていた宵宮の人柄が、目の前のやり取りを通して実感できる。
俺がそんなことを考えていると、宵宮が振り返った。
「悠真、どないしたん? さっきから周りをよう見てるね」
「いや、宵宮さんって、街の人たちとすごく仲がいいんだなと思って」
「ん? そうかな?」
宵宮は少し考えるように首を傾げた。
「でも、ここで暮らしてたら自然と顔見知りも増えるよ。あたしの家は花火屋だから、材料を届けてくれる人もいるし、花火を見に来てくれる人もいるしね。子どもたちと遊ぶこともあるし!」
「なるほど。普段からいろんな人と関わっているんですね」
「うん! 花火作るんも好きやけど、人と話すんも好きなんよ。面白い話も聞けるし、誰かが楽しそうにしてたら、こっちまで嬉しなるやん!」
宵宮は前を向き、楽しそうに歩き続けた。
「それに、街ってみんなで暮らす場所やろ? 一人で頑張ってもうまくいかへんこともあるやん。せやから、できることがあったら手伝いたいんよ!」
大げさな言い方ではなかった。
宵宮にとっては、特別な信念を語っているというより、普段から当たり前に考えていることなのだろう。
「そういえば、宵宮さん自身も花火を作っているんですか?」
「そうやで! あたしも花火職人なんよ。お父ちゃんと一緒に花火作ってるんや!」
宵宮は、少し得意げに笑った。
「花火作るんも、みんなに喜んでもらうんも好きやからな。どんな花火やったら驚いてくれるかな、どんな色やったらきれいに見えるかなって、いろいろ考えるんよ!」
「ただ作るだけじゃなくて、見る人のことも考えているんですね」
「もちろんや! せっかく見てもらうんやから、楽しんでもらいたいやん?」
宵宮はそう言って、明るく笑った。
花火を作ることと、人を楽しませること。その二つが、宵宮の中では自然につながっているのだろう。
俺はその話を聞きながら、彼女が街の人たちに親しまれている理由が少し分かった気がした。
「いい考えですね」
「ほんま? えへへ、ありがと!」
褒められた宵宮は、少し照れたように笑った。
そのまま歩いていると、甘い香りが漂ってきた。
「おっ、もうすぐだね!」
宵宮が足取りを速める。
通りの先には、木の看板を掲げた小さな店があった。入口の近くには、焼き菓子や団子らしきものが並べられている。店の前には数人の客がいて、店員が注文を聞きながら商品を包んでいた。
「ここやで! 今日は何があるかなあ」
宵宮は店先を覗き込んだ。
「おばさーん、こんにちは!」
「おや、宵宮ちゃん。いらっしゃい。今日はお友達と一緒かい?」
「そうなんよ! 悠真は最近、稲妻に来るようになったんやって。甘いもん探してるっていうから、連れてきたんよ!」
「まあ、そうなの。ゆっくり見ていってね」
店主の女性は、柔らかい笑顔で迎えてくれた。
店先には、串に刺さった団子や、餡を使った菓子、焼き色のついた小さな菓子などが並んでいる。商品ごとに形も大きさも違い、同じ甘いものでも、使われている材料や仕上げ方が違うようだった。
「うわ……いろいろありますね」
俺は思わず声を漏らした。
「やろ? どれにするか迷うよなあ!」
宵宮は楽しそうに棚を見回した。
「おばさん、今日のおすすめは何なん?」
「そうだねえ。今日は朝から団子がよく出ているよ。焼き菓子も、さっき追加したばかりなんだ」
「ほな、団子と焼き菓子にしよかな!」
即決だった。
俺は少し笑った。
「宵宮さん、迷わないんですね」
「だって、どっちもおいしそうやん? 迷ったら両方食べたらええんよ!」
「なるほど。分かりやすい」
「やろ!」
宵宮は得意げに胸を張った。
俺も棚を見比べる。団子は一つずつ串に刺さっていて、表面には甘そうな餡が絡んでいる。焼き菓子は手のひらに収まるほどの大きさで、香ばしい匂いが食欲を刺激していた。
「初めてなので、団子と焼き菓子を一つずつください」
「はいよ。団子はこのまま食べるかい? 持ち帰り用にもできるよ」
「せっかくなので、ここで食べます」
「じゃあ、食べやすいように包んでおくね」
店主は手際よく商品を用意してくれた。
宵宮も団子をいくつか注文し、代金を支払う。二人は店先の邪魔にならない場所へ移動した。
「ほな、いただきまーす!」
宵宮が元気よく言って、団子を口に運んだ。
俺も焼き菓子を手に取り、一口かじる。
表面は香ばしく、噛むとほろりと崩れた。中には甘みがあり、口の中に穏やかな風味が広がる。強烈な甘さではなく、もう一口食べたくなるような味だった。
「おいしい……!」
「やろー? ここのお菓子、あたしも好きなんよ!」
宵宮は団子を食べながら、嬉しそうに頷いた。
「この団子もええで。甘さがちょうどよくて、お茶にも合うんよ!」
「それは気になりますね」
俺は団子も一つ買い足したくなったが、まずは今手元にあるものを味わうことにした。
焼き菓子をもう一口食べる。
日本で食べる和菓子とは、材料も作り方も違うのだろう。それでも、甘いものを少しずつ味わう時間には、どこか共通した楽しさがあった。
店の前を通る人たちは、団子を買ってその場で食べる人もいれば、何本かまとめて包んでもらう人もいた。子どもが親にねだって菓子を買ってもらっている姿も見える。
「ここ、地元の人にも人気なんですね」
俺がそう言うと、宵宮は団子を持ったまま頷いた。
「うん。おやつに買う人もおるし、家族の分を持って帰る人もおるよ。ちょっとした差し入れにする人もおるんやって」
「なるほど。自分で食べるだけじゃなくて、誰かに渡すためにも買うんですね」
「そうそう! 甘いもんって、誰かにあげるときにも便利やろ? 相手が好きそうなん選んだり、みんなで食べられるように多めに買ったりな!」
俺は、その話を頭の片隅に留めておいた。
商売の参考にするなら、ただ売れている商品を知るだけでは足りない。誰が、どんな目的で買っているのか。それが分かれば、商品を選ぶときにも役立つかもしれない。
もっとも、今日は仕入れの相談をしに来たわけではない。
目の前の甘味を楽しむことも忘れないようにしよう。
「宵宮さんは、こういうお店をよく利用するんですか?」
「うん! 仕事の合間に買うこともあるし、誰かに渡すもんを探すこともあるよ。花火屋に来てくれた人に、ちょっとしたお菓子を出すこともあるんや!」
「花火屋でも、お客さんにお菓子を出すんですね」
「長い話するときもあるからな。お茶とお菓子があったら、話しやすなるやろ?」
宵宮はそう言って、店のほうを振り返った。
「もちろん、いつも豪華なもんを用意するわけやないよ。ちょっとしたもんでも、気持ちが伝わったらええんや!」
俺は頷いた。
日本でも、来客にお茶やお菓子を出すことは珍しくない。形や材料が違っても、人を迎えるときの気遣いには似ているところがある。
異世界だからといって、何もかもがまったく違うわけではない。
そんなことを考えながら、俺は最後の一口を食べた。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「こちらこそ、ありがとう。また来ておくれよ」
店主が笑顔で答えた。
宵宮も満足そうに頷く。
「よしっ! 甘いもんも食べたし、次は街歩こか!」
「まだ行くんですか?」
「もちろんや! せっかく出かけてきたんやで? まだまだ面白いもんがあるんやから!」
俺は笑いながら、宵宮の後について歩き出した。
◇
甘味処を離れた二人は、少し賑やかな商店街へ向かった。
昼が近づき、通りには買い物客が増えている。食材を入れた籠を持つ人、店先で品物を選ぶ人、知り合いと立ち話をしている人。朝よりも人の流れが活発になっていた。
宵宮は、その様子を眺めながら話を続けた。
「さっきのお店もそうやけど、稲妻って、いつも同じもんが売れるわけやないんよね」
「季節や時期によって変わるんですか?」
「うん。普段使いのもんは、いつでも必要な人がおるやろ? でも、祭りが近づくと、いつもより華やかなもんを探す人が増えたりするんよ」
「前回、食料品店の店主さんからも似た話を聞きました。祭りの時期は、食べ歩き用のものや贈り物がよく売れるって」
「おっ、ちゃんと話聞いてるやん!」
宵宮は嬉しそうに笑った。
「そういうんって、実際に街歩いてみたら分かるんよ。お店の人も、お客さんの様子見ながら、何を用意するか考えてるんやないかな」
「そうですね。店先を眺めているだけでも、いろいろ分かることがあります」
「やろ? 歩いてみたら、思いがけん発見があるもんやで!」
俺は頷いた。
先ほどまで一人で歩いていたときも、街の様子を楽しんでいた。けれど、地元で暮らしている宵宮と一緒だと、同じ景色から得られる情報が少し増える。
店の場所だけでなく、そこを利用する人たちのことも分かる。誰が何を買い、どんなときに店を訪れるのか。自分一人では気づかなかった部分だ。
そんなことを考えていると、通りの向こうから焼いた魚の香ばしい匂いが流れてきた。
続いて、煮込んだ料理の湯気と、甘辛いタレの香りが漂ってくる。
店先で調理をしている店もあり、通りを歩いているだけで腹が減ってくる。
俺は自分の腹が小さく鳴りそうになり、そっと息を吐いた。
(そういえば、朝食を抜いてたんだった)
甘味は食べたものの、そろそろ昼食の時間だ。
宵宮も周囲を見回していた。
「お昼、どないしよか?」
「そうですね。まだ食べていないので、何か食べたいです」
「よーし、ほんなら、あたしのお気に入りのお店教えたげる!」
宵宮は迷いなく歩き始めた。
案内されたのは、通りから少し奥に入ったところにある食事処だった。入口の近くには料理の名前を書いた札が掛かり、店内からは客の話し声と食器の触れ合う音が聞こえてくる。
「ここは普段のご飯にもええんよ。高級なお店やないけど、おいしいもんが食べられるんや!」
「それは楽しみです」
二人が店に入ると、店員がすぐに声をかけてきた。
「いらっしゃい。二人かい?」
「うん! 空いてる席、ある?」
「奥が空いてるよ。どうぞ」
案内された席に座り、俺はメニューを手に取った。
前回も稲妻の食事処で煮込み料理を食べたが、まだ食べていない料理は多い。せっかくなら、違うものを試してみたい。
「宵宮さんは、いつも何を食べてるんですか?」
「そのとき食べたいもんかな! 今日はこれにしよっと!」
宵宮はメニューを指さした。
「これ、ええで。味がしっかりしてて、ご飯にも合うんよ!」
「じゃあ、俺もそれにしてみます」
二人で注文を済ませると、宵宮は椅子に座り直し、店内を見回した。
「ここ、昼どきはけっこう混むんよ。仕事の途中で食べに来る人もおるし、買い物のついでに寄る人もおるんや!」
「地元の人が普段から利用するお店なんですね」
「そうそう! 観光客向けのお店もええけど、こういうとこで食べるんも楽しいやろ!」
俺は頷いた。
観光地として有名な場所を巡るのもいいが、地元の人が普段から利用する店に入ると、その土地の生活が少し見えてくる。前回の食事でも感じたことだった。
しばらくすると、料理が運ばれてきた。
「お待たせ。熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます」
俺は器から立ち上る湯気を眺め、箸を手に取った。
一口食べると、しっかりした味付けが口の中に広がる。ご飯と一緒に食べると、ちょうどいい具合だった。
「うん、おいしい!」
「やろ? ここは外れがないんよ!」
宵宮は満足そうに頷き、自分の料理を食べ始めた。
食事をしながら、二人は街の話を続けた。
「宵宮さんは、花火屋のお仕事が忙しいときも、こうして街に出るんですか?」
「うん。ずっとお店におると、煮詰まってまうこともあるからな。材料取りに行ったり、知り合いに会いに行ったり、買い物したり。用事はいろいろあるよ!」
「花火を作るだけじゃないんですね」
「そうやで。花火作るには材料もいるし、道具の手入れもあるし、お客さんと話すこともあるからな。作って終わりってわけやないんよ!」
宵宮は箸を動かしながら、楽しそうに話した。
「それに、街歩いてると、花火の新しいアイデアが浮かぶこともあるんよ。あの色使ったらどうかな、とか、あんな形にしたら面白いかな、とかね!」
「普段の生活から、アイデアを見つけているんですね」
「うん! 面白いことって、意外と身近にあるんやで!」
俺はその言葉を聞きながら、少しだけ自分の生活を思い返した。
日本で会社員として働いていると、平日は仕事に追われ、休日は休むことを優先しがちだ。もちろん、それ自体は悪いことではない。けれど、テイワットに来るようになってから、普段なら気にも留めなかったことに目を向ける機会が増えた。
街の景色や、店先の商品、そこで暮らす人たちの会話。
そうしたものを見ていると、自分が知らなかったことが次々と見つかる。
「俺も、街を歩いていると、いろいろ気づくことがあります。仕事のことばかり考えていたときには見えなかったものもありますし」
「それなら、いっぱい歩いたらええよ! 歩いてたら、思いがけんもんが見つかるからさ!」
「そうですね。今日は、宵宮さんに案内してもらえてよかったです」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいわ!」
宵宮は照れたように笑った。
食事を終えるころには、店内の客も少しずつ入れ替わっていた。仕事へ戻る人もいれば、ゆっくり食事を楽しんでいる人もいる。
俺は店員を呼び、代金を支払った。
「ごちそうさまでした。おいしかったです」
「また来ておくれよ」
二人は店を出た。
外へ出ると、日差しが少し強くなっていた。通りを歩く人たちの声が重なり、稲妻の街は昼の賑わいに包まれている。
「さて、次はどうしようか?」
宵宮が振り返った。
「まだ時間はありますし、もう少し街を歩きたいです」
「いいね! じゃあ、もうちょっと案内してあげる!」
俺は笑顔で頷いた。
◇
午後、二人は商店街を抜け、住宅の並ぶ通りへと足を延ばした。
中心部に比べると人通りは落ち着いている。軒先には洗濯物が干され、家の前を掃除する人や、荷物を運び込む人の姿があった。
宵宮は歩きながら、街の様子を説明してくれた。
「こっちは買い物に来る人もおるけど、近所の人が暮らしてる場所でもあるんよ。あっちの道を進むと、また違ったお店もあるで!」
「商店街とは雰囲気が違いますね」
「うん。人が多いとこは便利やけど、静かなとこにも面白いもんがあるんよ。ほら、あそこ!」
宵宮が指さした先には、小さな店があった。
店先には、普段使いの道具や、布で作られた小物が並んでいる。店主は棚を整えながら、訪れた客に品物の説明をしていた。
「ここは、日用品買うときに寄る人が多いんよ。派手なもんは少ないけど、毎日使うもんが揃ってるで!」
「こういうお店も大事ですよね」
「そうそう! 毎日使うもんって、壊れたり古なったりするやろ? せやから、いつでも買えるお店があると助かるんよ!」
俺は店先の商品を眺めた。
日本から持ち込める日用品にも、似たような需要があるかもしれない。けれど、こちらで使われている道具と比べて、どこが便利なのか。価格に見合う価値があるのか。それは実際に使う人に聞かなければ分からない。
例えば、洗濯ばさみ。
日本では当たり前に使っているが、稲妻の人々が普段どんな方法で洗濯物を干しているのか、俺はまだ詳しく知らない。使い方を見せれば便利さが伝わるかもしれないし、そもそも必要とされない可能性もある。
今すぐ結論を出す必要はない。
まずは、どんなものが日常的に使われているのかを知るところからだ。
「悠真、また考えごと?」
宵宮の声で、俺は我に返った。
「あ、すみません。つい商品を見て考えてしまって」
「商売のこと?」
「はい。故郷から持ってきたものを売ることも考えているので、どんなものが役に立つのか気になって」
「なるほどねえ。何を持ってくるか、悩むところだね」
宵宮は少し考えるように、店先の商品を眺めた。
「でも、使う人のこと考えるんは大事やと思うよ。自分が便利やと思うもんでも、相手が同じように感じるとは限らへんからな!」
「そうなんです。だから、今は現地の人が何を使っているのか、どんなものを買っているのかを見ているところです」
「うんうん。そういうん、あたしも大事やと思う!」
宵宮は明るく頷いた。
「花火だって、見る人がどんなもんを喜んでくれるんか考えるんよ。もちろん、自分が作りたいもんも大事やけど、見てくれる人がおってこその花火やからな!」
「なるほど……」
「でも、相手に合わせるだけやなくて、自分が面白いと思うことも大事やで。そういう気持ちがないと、作るほうも楽しくないからな!」
俺は、なるほどと思った。
売れるものを考えることは大切だ。しかし、需要ばかりを追いかけて、自分が扱いたいものや、商品を通じて伝えたい魅力を忘れてしまっては意味がない。
自分がいいと思ったものを、相手にも分かりやすく伝える。
そのうえで、実際の反応を見ながら調整していく。
モンドでの商売も、そうやって少しずつ続けてきたのだ。
「ありがとうございます。考え方の参考になりました」
「どういたしまして!」
宵宮はにっこりと笑った。
そのとき、少し離れたところから子どもたちの声が聞こえてきた。
「宵宮お姉ちゃん!」
振り返ると、数人の子どもたちがこちらへ走ってくる。
「おっ、みんな! どないしたん?」
「今度の花火、いつ見られるの?」
「また大きい花火を見たい!」
子どもたちは口々に話し始めた。
宵宮は一人ずつの顔を見ながら、楽しそうに答えた。
「おお、みんな楽しみにしてくれてるんやね! 次の予定は決まったら教えたげるよ。どんな花火が見たい?」
「赤い花火!」
「青いのも!」
「いっぱい光るやつ!」
「よーし、欲張りやなあ!」
宵宮は笑いながら、子どもたちの話を聞いた。
その様子を見て、俺も自然と笑みを浮かべた。
子どもたちは遠慮なく自分の希望を伝え、宵宮は一つひとつに反応している。花火を作る側と見る側という関係だけではなく、普段からこうして交流しているのだろう。
「宵宮お姉ちゃん、このお兄ちゃんは誰?」
一人の子どもが、俺を見上げた。
「ああ、悠真やで! 最近、稲妻に来るようになったんやって。今日はあたしが街を案内してるとこ!」
「へえー!」
子どもたちは興味深そうに俺を見た。
「お兄ちゃん、花火好き?」
「好きだよ。故郷でも花火大会を見に行ったことがある」
「故郷って、どんなところ?」
「海の向こうにある、遠いところだよ」
俺は少し言葉を選びながら答えた。
異世界から来たことを話すつもりはない。日本について尋ねられても、遠い土地の話として説明すればいいだろう。
「そこにも花火があるんだ!」
「うん。夏になると、たくさんの花火が上がるんだ」
「すごい! 見てみたいなあ!」
「いつか見られるといいね」
俺がそう答えると、宵宮が楽しそうに口を挟んだ。
「それなら、今度は稲妻の花火もいっぱい見ていってよ! 故郷の花火とは違うところもあるかもしれへんしな!」
「そうですね。ぜひ見てみたいです」
子どもたちは満足したのか、宵宮に手を振ってから走り去っていった。
「元気な子たちですね」
「うん! あの子たち、花火の話になると止まらへんのよ!」
宵宮は嬉しそうに笑った。
「でも、楽しみにしてくれるんは嬉しいよ。あたしが作った花火を見て、誰かが笑顔になってくれる。それって、ほんまに素敵なことやと思うんよ!」
俺は頷いた。
商売でも、商品を買ってくれた人が喜んでくれれば嬉しい。もちろん、売上や利益も大切だが、それだけでは長く続けるのは難しいだろう。
自分が用意したものが誰かの役に立ち、喜んでもらえる。
その実感があるからこそ、また次も頑張ろうと思えるのかもしれない。
◇
気づけば、午後の時間もかなり進んでいた。
街を歩き、甘味を食べ、昼食を取り、店主や子どもたちと話をした。予定していた商売の下見は、今日のところはほとんど進んでいない。
それでも、俺は満足していた。
前半は一人で街を歩き、目に入ったものを調べていた。途中からは宵宮と一緒だったおかげで、地元の人たちが普段どんなふうに暮らしているのか、少しだけ近いところから見ることができた。
「今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
俺が礼を言うと、宵宮はぱっと笑顔になった。
「ほんと? それならよかった!」
「甘いものもおいしかったですし、街のこともいろいろ知ることができました」
「へへっ、稲妻にはまだまだ面白いとこがあるからな! 今日行った場所だけやったら、全然足りへんよ!」
「また来たときに、いろいろ見て回ります」
「うん! 今度は花火屋にも遊びに来てな。花火のことなら、いくらでも話せるからさ!」
「ぜひ。花火を作るところも見てみたいです」
「おっ、興味あるん? ほんなら、また今度な! 作業してるときは危ないとこもあるから、見せられる範囲にはなるけどさ!」
「分かりました。無理のない範囲でお願いします」
「任せて!」
宵宮は元気よく頷いた。
そのあと、二人は街の分かれ道まで一緒に歩いた。
宵宮はこのあと花火屋に戻るという。俺も、そろそろ帰る時間を考えなければならない。日本へ戻ってから、買ったものを整理したり、今日聞いた話を記録したりする必要がある。
「それじゃ、あたしはこっちだから!」
「今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそ! また稲妻に来たら、気軽に声かけてな!」
「はい。また会いましょう」
「うん! またね、悠真!」
宵宮は大きく手を振って、花火屋のある方向へ歩いていった。
その後ろ姿が人混みに紛れるまで見送ってから、俺はゆっくりと息を吐いた。
「いやあ、楽しかったな」
ゲームで知っていた宵宮は、実際に会ってみても明るく、親しみやすい人だった。街の人たちとの関係も自然で、誰かを楽しませることが本当に好きなのだと伝わってきた。
甘味処で食べた菓子も、昼食もおいしかった。街の人たちとの会話からは、稲妻で暮らす人々の普段の様子も知ることができた。
今日の収穫は、思っていた以上に多い。
ただ、商売の準備を進めるなら、次回は勘定奉行で具体的な手続きを確認し、出店場所についても考えなければならない。
俺はスマートフォンを取り出し、忘れないうちに短く記録した。
甘味処では、団子や焼き菓子が人気。自分で食べるだけでなく、家族への土産や差し入れとして買う人もいる。日用品は普段使いの需要があり、贈り物は見た目や使い道も選ぶ基準になる。
そして、商品を売るときは、使う人のことを考える。
「よし、こんなところかな」
スマートフォンをしまうと、俺は街並みをもう一度見渡した。
夕方の光が建物の屋根を照らし、通りには帰宅する人たちの姿が増え始めている。店先では、商品を片づける人もいれば、夕食の買い物を続けている人もいた。
前回も同じ街を歩いたはずなのに、今日は違う景色を見たような気がする。
知っている人が一人増えるだけで、街の印象は変わるものなのだろう。
「また来よう」
俺はそう呟き、帰還の操作をした。
◇
気づけば、自宅の部屋に戻っていた。
窓の外には、日本の夕方の景色が広がっている。稲妻と日本では時間の流れが同じなので、向こうで過ごした時間だけ、こちらでも時間が進んでいた。
俺は荷物を置き、買ってきた品を整理することにした。
甘味処で食べたものはすでに腹の中だが、前回購入した茶葉や保存食、小物も含めて、改めて確認しておきたい。
アイテムボックスに収納していた品を取り出し、テーブルの上に並べていく。
茶葉の包み。保存食。小さな器。稲妻らしい模様の入った飾り。布袋。
一つずつ確認してから、俺はメモ帳を開いた。
今日の記録を整理する。
甘味処を巡り、団子や焼き菓子、せんべいを食べたこと。昼食を取った食事処のこと。街の人たちから聞いた、普段の買い物や贈り物に関する話。
それから、宵宮と出会い、街を案内してもらったこと。花火を通して、宵宮が街の人たちと交流していること。
書き出してみると、商売に関する情報だけでなく、稲妻で暮らす人たちの様子も少しずつ見えてくる。
「やっぱり、現地の人と話すのって大事だな」
先週は、自分の目で見て回ることが中心だった。もちろん、それにも意味はあった。だが、地元の人と一緒に歩くと、自分だけでは気づかなかったことを知ることができる。
人気のある店。普段使いの日用品。甘味を買う人の目的。花火を楽しみにしている子どもたち。
ゲームの知識だけでは分からないことばかりだ。
俺はメモ帳を閉じ、椅子の背もたれに体を預けた。
次回は、出店場所や手続きについてもう少し詳しく確認しよう。稲妻で販売する商品についても、今日の話を参考にしながら考えていけばいい。
ただ、焦る必要はない。
商売を始めることだけが、異世界へ通う目的ではないのだから。
「次は、花火屋にも行ってみたいな」
宵宮が言っていた言葉を思い出し、俺は笑みを浮かべた。
花火の話を聞くのも楽しみだし、まだ食べていない稲妻の料理や甘味も気になる。今日歩いた場所とは別の通りにも、きっと面白い店があるだろう。
稲妻での生活は、まだ始まったばかりだ。
これから少しずつ街を知り、いろいろな人と出会い、自分のペースで楽しんでいこう。
俺はメモ帳を片づけ、明日からの仕事に備えて部屋を整え始めた。
次の休日が来るのを、今から少し楽しみにしながら。