原神の世界に通えるようになったので、モンドを拠点に異世界生活を楽しみます 作:ところてんの
ゲームとの比較表現が多くあります。
気になる方は読み飛ばしてください。
独自設定や独自解釈も含まれていますので、ご了承ください。
スメールシティを訪れてから、俺はこの国の街並みや市場を中心に見て回っていた。
香辛料が並ぶ店、珍しい食材を扱う露店、学者たちが行き交う教令院周辺。歩いているだけでも新しい発見があり、気になるものを見つけるたびに足を止めてしまう。
ただ、スメールの魅力は街の中だけにあるわけではない。
広大な熱帯雨林が広がり、その中では多くの動植物が暮らしている。森で採れる植物は食材や薬の材料にもなるし、街の生活とも深く結びついているはずだ。
せっかくスメールまで来たのだから、森の様子も見てみたい。
そう考えた俺は、冒険者協会へ向かうことにした。
冒険者として依頼を受ける場所でもあるし、各地の事情に詳しい人から話を聞けるかもしれない。
建物に入ると、受付にはいつものようにキャサリンが立っていた。
「ようこそ、冒険者協会へ」
「こんにちは、キャサリンさん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「はい。どのようなご用件でしょうか?」
「スメールの森について知りたいんです。植物や動物のこととか、森を守る人たちが普段どんな仕事をしているのかとか」
俺がそう尋ねると、キャサリンは少し考えるような仕草をした。
「それでしたら、アビディアの森を中心に活動している森林レンジャーの方にお話を伺うのがよいかと思います」
「森林レンジャーですか」
「はい。森の巡回や動植物の調査、危険な場所の確認など、さまざまな仕事を担当しています。ガンダルヴァー村には、森林レンジャーの隊長を務めているティナリさんがいらっしゃいます」
ティナリ。
その名前を聞いて、俺の頭にゲームで見慣れた姿が浮かんだ。
緑色の髪に、大きな耳と尻尾。植物や生態系に詳しく、森林レンジャーとして働いている人物だ。
もちろん、ゲームで知っていることと、実際に会って話を聞くことは別だ。
――本当にこの世界で仕事をしているんだよな。
そんな実感が胸をよぎる。
初めてモンドで原神のキャラクターと出会った頃なら、名前を聞いただけでも落ち着かなかったかもしれない。けれど、テイワットで過ごす時間が増えた今では、驚きながらも次に何をすればいいのか考えられるようになっていた。
「ありがとうございます。ガンダルヴァー村に行けば会えますか?」
「巡回などで不在の場合もありますが、村を訪ねてみるとよいでしょう。コレイさんという森林レンジャーの方も活動されています」
「分かりました。行ってみます」
「お気をつけて」
キャサリンに礼を言い、俺は冒険者協会を後にした。
目的地はガンダルヴァー村。
スメールシティの賑やかな街並みを離れると、景色は徐々に緑に覆われていく。
道のそばには背の高い植物が生い茂り、枝葉の間から差し込む日差しが地面に模様を作っていた。鳥の声や、葉が風に揺れる音も聞こえてくる。
街を歩くのとは違った楽しさがある。
ただ、景色を楽しみながら進んでいると、道の先で誰かがしゃがみ込んでいるのが見えた。
緑色の髪に、特徴的な耳。
近づいてみると、彼女は地面に目を向けながら、周囲の植物を注意深く確認していた。
コレイだ。
ゲームで何度も見てきた姿が目の前にある。
――本当にいるんだな。
その思いは浮かんでくる。でも、それだけで立ち尽くすことはなかった。
彼女が仕事中なら、邪魔をしないように声をかけよう。
「あの、こんにちは」
「えっ? あ、こんにちは!」
コレイは顔を上げ、少し驚いたようにこちらを見た。
「すみません、作業中でしたか?」
「ううん、大丈夫だよ。ちょっと植物の様子を確認していただけだから」
彼女は立ち上がり、手についた土を軽く払った。
「この辺りを見て回っていたんですか?」
「はい。冒険者ギルドのキャサリンさんに森林レンジャーの方を紹介してもらって、仕事のことを聞きに来たんです。森の中も少し見て回っていました」
「森林レンジャーに?」
コレイは少し考え、それから明るい表情になった。
「それなら、ティナリ師匠に聞くといいと思うよ! 森のことならすごく詳しいから」
「やっぱりティナリさんが詳しいんですね」
「うん! 植物のことも、動物のことも、すごくよく知ってるんだ。説明も分かりやすいし……えっと、たまにちょっと厳しいけど」
最後の言葉は、少しだけ声が小さくなった。
「厳しいんですか?」
「危ないことをしたり、注意を聞かなかったりするとね。でも、私たちのことを心配してくれているんだよ」
コレイはそう言って、照れくさそうに笑った。
「よかったら、村まで案内しようか? 師匠が戻っていれば紹介できると思うし」
「いいんですか? 助かります」
「うん、任せて!」
コレイは元気よく頷いた。
ただ、すぐに歩き出すことはせず、さっきまで確認していた植物へ視線を戻した。
「あ、ごめんね。これだけ確認してからでもいいかな?」
「もちろんです。仕事中ですから」
「ありがとう!」
コレイは地面に目を向け、葉の表面や茎の状態を確かめていく。周囲の土にも目を配り、近くに生えている別の植物と見比べていた。
ただ眺めているのではなく、普段からこうして一つひとつの変化を確認しているのだろう。
「何か問題があったんですか?」
「今のところ、大きな問題はなさそう。でも、この辺りは人が通ることもあるから、踏まれたり、根元の土が崩れたりしていないか確認しているんだ」
コレイは葉を傷つけないように、そっと手を添えた。
「植物って、少しの変化でも気をつけたほうがいいんだよ。すぐに何かが起こるとは限らないけど、変化に気づければ、早めに対応できることもあるから」
「なるほど。大きな問題が起きてから対処するんじゃなくて、普段から様子を見ておくんですね」
「そうそう! あ、でも、全部の植物を同じように見ればいいわけじゃないんだ。種類によって特徴が違うし、育つ場所も違うから」
説明するコレイの表情は真剣だった。
仕事の話になると、彼女も立派な森林レンジャーなのだと感じる。
確認を終えると、コレイは手帳に何かを書き込んだ。
「これで大丈夫。じゃあ、村に行こう!」
俺たちは森の道を進み始めた。
ガンダルヴァー村は、周囲の豊かな緑に溶け込むように建物が並ぶ村だった。村人たちが行き交い、生活のための道具や荷物が置かれている。街のような賑やかさとは違うが、森の中で暮らす人々の営みが感じられた。
「ティナリ師匠は、巡回から戻っているかな……」
コレイが周囲を見回していると、少し離れたところから声が聞こえた。
「コレイ、戻っていたのかい?」
振り返ると、緑色の髪と大きな耳を持つ人物がこちらへ歩いてきた。
ティナリだった。
画面越しに見てきた姿が、目の前で自然に動いている。
耳がわずかに動き、周囲の様子を確かめながら歩いてくる。ゲームの立ち絵や映像で見慣れているはずなのに、実際に目の前にいると細かな仕草まで目に入る。
「師匠、お疲れさまです! こちらの方が、冒険者ギルドのキャサリンさんの紹介で、森を見てみたいって」
「キャサリンからの紹介か。なるほど、それでここに来たんだね」
ティナリは俺に視線を向けた。
「初めまして。俺は山田悠真といいます。スメールを観光していて、森の動植物や森林レンジャーの仕事について知りたいと思ったんです」
「山田悠真か。僕はティナリ。森林レンジャーの隊長をしている」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。それにしても、森のことを知りたいとは珍しいね。観光なら、街や遺跡を見て回る人のほうが多いと思うけど」
「街も楽しいですけど、森で暮らしている人たちが何をしているのかも気になって。普段どんな仕事をしているのか、実際に見てみたかったんです」
ティナリは少しだけ目を細めた。
「なるほど。話を聞くだけでもいいけれど、時間があるなら巡回に同行してみるかい?」
「えっ、いいんですか?」
「もちろん。ただし、森の中では勝手に植物に触れないこと。見慣れないものを見つけても、食べたり持ち帰ったりしないこと。危険な場所には近づかないこと。守れるかな?」
「はい。分からないものには触らないようにします」
「よし。それなら、実際に歩きながら説明しよう。コレイ、さっきの確認は終わったんだね?」
「はい! 記録もつけてきました」
「それなら一緒に来てくれるかい。途中で確認しておきたい場所があるんだ」
「分かりました!」
二人のやり取りを見ていると、森林レンジャーの仕事は一人で完結するものではないのだと分かる。
情報を共有し、記録を残し、必要に応じて複数人で確認する。そうした積み重ねが、広い森を守ることにつながっているのだろう。
こうして俺は、ティナリとコレイの巡回に同行することになった。
◇
村を離れ、再び森の中へ入る。
道が細くなるにつれて、頭上を覆う葉が増えていった。木々の間から差し込む光は柔らかく、足元には大小さまざまな植物が生えている。
「まずは、普段の巡回で何を見ているのか説明しよう」
ティナリは歩きながら話し始めた。
「植物の生育状態、動物の行動、道の安全性。それから、人が入ったことで環境に変化が起きていないかも確認する。森は広いから、一度見ただけでは分からないことも多いんだ」
「毎日、同じ場所を見て回るんですか?」
「同じ場所を定期的に確認することもあるし、報告があった場所を重点的に調べることもあるよ。異常がないことを確かめるのも大切な仕事なんだ」
ティナリは道の脇に目を向け、少し歩みを緩めた。
「例えば、この辺り。昨日までと比べて、何か変わったところがあると思うかい?」
俺も周囲を見回した。
植物は生い茂っているし、特に変わったところは見当たらない。
「……正直、分からないです。普通に植物が生えているようにしか見えません」
「素直でいいね。分からないのに分かったふりをされるより、ずっといい」
ティナリはしゃがみ込み、道の端に生えた植物を指し示した。
「この植物は、少し前にここを通ったときより葉が傷んでいる。原因はまだ断定できないけれど、周囲の土や茎の状態も見ておく必要があるんだ」
近くには踏み固められた土があり、細い枝が折れていた。
「人が通ったせいかもしれないし、動物が通った可能性もある。風や雨の影響だって考えられる。ひとつの原因に決めつけず、複数の可能性を考えるんだよ」
「なるほど……。見た目だけで判断しないんですね」
「そういうこと。森の中で起きることには、いろいろな要因が関わっているからね」
コレイも横から説明を加えた。
「私も最初は、葉っぱが傷んでいたら病気なのかなって思っていたんだ。でも、実際には虫が食べた跡だったり、風で擦れた跡だったりすることもあるんだよ」
「見分けられるようになるまで、かなり経験が必要そうですね」
「うん。だから、分からないときは記録して、師匠に確認してもらうこともあるよ」
コレイは自分の手帳を開き、以前の記録と照らし合わせていた。
ティナリは植物の状態を確認したあと、コレイの記録にも目を通した。
「この記録はよくできているね。前回との違いが分かりやすい。ただ、次は周囲の土の状態も一緒に記録しておくといい」
「はい! 次から気をつけます」
注意を受けたコレイは、すぐに手帳へ書き加えた。
森林レンジャーは森を歩き回るだけの仕事ではない。観察し、比較し、記録し、その情報をもとに判断しているのだ。
俺は周囲を眺めながら、二人の仕事ぶりを追いかけた。
少し先へ進むと、ティナリが道の脇を指さした。
「ここを見てごらん」
近くに、小さな紙くずが落ちていた。
「ごみですね」
「そう。誰かが落としたものだろう。小さなものでも、そのままにしておくと動物が口にしてしまう可能性がある。水に流れ込めば、別の問題につながることもあるんだ」
ティナリは手袋を使って紙くずを拾い、持っていた袋へ入れた。
コレイも周囲を確認し、ほかにごみが落ちていないか探している。
「森を訪れる人が増えると、こういうことも増えるんですか?」
「必ずしもそうとは限らないけれど、訪れる人が増えれば、人の行動による影響を受ける場所も増える。だから、道の整備や案内も大切なんだよ」
「観光する側も、気をつけないといけませんね」
「その通り。森を楽しむこと自体は悪くない。むしろ、森に親しんでもらうことは大切だと思っている。ただ、楽しむために訪れた場所を傷つけてしまっては本末転倒だからね」
俺は頷いた。
景色が綺麗だから写真を撮る。珍しい植物があるから近づいてみる。そうした行動自体は自然なものだろう。
でも、何をしてもいいわけではない。
森を訪れるなら、そこに暮らす動物や植物にも配慮する必要がある。
しばらく歩いていると、今度はコレイが道の先で立ち止まった。
「師匠、こっちの道、少し土が崩れているみたいです」
ティナリはすぐにそちらへ向かった。
「どれどれ……。確かに、昨日の雨で斜面の土が流れたようだね」
道の端がわずかに崩れ、露出した根が見えていた。
「このままだと、通る人が足を滑らせるかもしれない。コレイ、ここを通る人が分かるように目印をつけておいてくれるかい。僕は崩れた範囲を確認する」
「分かりました!」
コレイは道具を取り出し、安全な位置から目印を設置した。
ティナリは斜面に近づきすぎないよう注意しながら、土の状態や崩れた範囲を確かめていく。
俺も指示された位置で待ち、作業の邪魔にならないようにした。
確認を終えたティナリは、記録をつけながら説明してくれた。
「森の中では、こうした小さな変化が事故につながることもある。大きな崩落でなくても、道を通る人にとっては危険になるからね」
「普段から見回っているからこそ、早く気づけるんですね」
「そうだね。もちろん、すべての変化を事前に見つけられるわけではない。でも、確認を続けていれば、異常に気づける可能性は高くなる」
コレイも目印の位置を確かめ、記録を残した。
「あとで村に戻ったら、ほかのレンジャーにも伝えておきます。通る人が多い道だから、みんなに知っておいてもらったほうがいいと思うんです」
「うん、それでいいよ」
二人の連携は自然だった。
どちらか一人がすべてを判断するのではなく、気づいたことを伝え、確認し、必要な対策を取る。
こういう仕事は、地道な作業の積み重ねなのだろう。
その後も、俺たちはいくつかの場所を巡った。
ティナリは植物の特徴や育つ環境について説明し、コレイは周辺の様子を確認しながら記録をつけていく。途中で動物の通った跡を見つけると、ティナリはその痕跡から分かることを教えてくれた。
俺は専門的な知識を持っているわけではないので、説明のすべてを理解できたわけではない。
それでも、二人が何に注目し、どう判断しているのかを知るだけで、森の見え方が変わってくる。
ただ緑が広がっているだけに見えた場所にも、植物の成長や動物の活動、人の行動による変化がある。
森は、静かに見えても常に変化しているのだ。
そんなことを考えながら歩いていると、少し先の木陰で、妙な動きが目に入った。
丸みを帯びた体に、キノコのような傘。
地面の上を、小さな生き物が動いている。
――あれは、キノコン?
ゲームでは何度も見たことがある姿だった。
けれど、画面の中で見慣れているのと、実際に目の前で動いているのとでは印象が違う。
俺が足を止めると、ティナリもこちらに気づいた。
「どうしたんだい?」
「あそこに、何かいます」
俺が指さした先で、キノコンがゆっくりと動いていた。
テイワットに来てから、いろいろな場所を訪れた。原神の世界だと実感する出来事も何度もあった。
それでも、魔物を実際に目にするのは初めてだった。
ゲームの中では敵として登場する相手だが、今は目の前の森で生きている。
小さな体が動くたび、傘のような部分が揺れていた。
「キノコンだね。ここでは珍しいものじゃないけれど、近づきすぎないようにしておこう」
ティナリは落ち着いた声で言った。
「キノコン……」
名前は知っている。
ただ、実物を見るのは初めてだ。俺はティナリの言葉に従い、距離を保ったまま様子を観察した。
キノコンはしばらくその場を動き回っていたが、こちらに向かってくる様子はなかった。やがて草木の向こうへと姿を消していった。
「今のように、見慣れない生き物を見つけたら、まずは距離を取って観察すること。むやみに近づいたり、刺激したりしないことが大切だよ」
「分かりました。近づかなくても、様子を見るだけで十分ですね」
「そういうこと。森には、見た目だけでは性質を判断できない生き物もいるからね」
ティナリの説明を聞きながら、俺はさっきまでキノコンがいた場所を見つめた。
ゲームで知っている相手でも、実際に目にすると気持ちが違う。
攻撃を仕掛けてくる相手かどうか以前に、ここでは生き物として森の中に存在しているのだ。
今まで以上に、テイワットが現実の世界なのだと感じた。
再び歩き始めてしばらくすると、木々の間に、小さな人影のようなものが見えた。
緑色の植物をまとったような、不思議な姿。
その生き物は木の陰からそっと顔を覗かせた。俺がそちらに目を向けると、一瞬だけ目が合ったような気がした。
――え?
目を凝らすと、その姿はまだそこにあった。
小さく、かわいらしい見た目をしている。けれど、普通の動物とも植物とも違うように見えた。
もしかして、アランナ……?
ゲームで見たことのある存在が、頭に浮かんだ。
しかし、確信は持てない。
俺が立ち止まったことに気づいたコレイが振り返った。
「悠真さん、どうしたの?」
「いえ……あそこに何かいるように見えたんですけど」
俺は木の陰を指さした。
コレイもティナリも、そちらに目を向けた。
「何も見えないけど……?」
コレイが不思議そうに首を傾げる。
「僕にも、特に何かいるようには見えないね」
ティナリも周囲を確認したが、気になるものは見つからなかったらしい。
もう一度、木の陰へ視線を戻す。
そこには、もう何もいなかった。
見間違いだったのだろうか。
それとも、本当にアランナのような存在がいたのか。
分からないことは多い。
けれど、ティナリから森の中で勝手に動かないようにと言われている。気になったからといって、追いかけるわけにはいかなかった。
「気のせいだったのかもしれません。すみません、先へ進みましょう」
「そうかい? 何か見つけても、無理に確かめようとしなくていいからね」
「はい」
俺たちは再び歩き始めた。
気になるものは残ったが、今は二人の仕事に同行している最中だ。安全に気を配ることを優先しよう。
その後も、ティナリとコレイは植物の様子や道の状態を確認し、必要な記録を残していった。
やがて、予定していた巡回がひと区切りついた。
「今日はこのくらいにしておこう。付き合ってくれてありがとう、コレイ」
「いえ、私も確認できてよかったです!」
ティナリは俺のほうを向いた。
「どうだったかな。森の仕事について、少しは分かった?」
「はい。想像していた以上に、細かい確認や記録が多いんですね。植物を見て回るだけじゃなくて、道の安全や、ごみが落ちていないかまで気を配っているとは思いませんでした」
「森を守るというのは、特別なことだけをするわけじゃないからね。日々の確認を続けることも、大切な仕事なんだ」
「今日、実際に見せてもらえてよかったです。お二人とも、ありがとうございました」
俺は頭を下げた。
話を聞くだけなら、街にいてもできたかもしれない。でも、実際に森を歩き、二人が働く姿を見たことで、理解できたことがたくさんあった。
何かお礼をしたい。
そう考えたとき、俺の頭にひとつの案が浮かんだ。
「今日は森を案内してもらったお礼に、何か料理を作らせてもらえませんか? 持ってきた食材で作ろうと思うんですけど、この村で料理ができる場所はありますか?」
「料理を作ってくれるのかい?」
ティナリが少し意外そうに尋ねた。
「はい。たいしたものではないですけど、俺の持っている食材で作れる料理があるんです」
「そんなに気を遣わなくてもいいんだよ。僕たちは、仕事のことを説明しただけだからね」
「それでも、今日はかなり勉強になりましたから。俺としても、何かお礼をしたいんです」
ティナリは少し考えたあと、コレイへ視線を向けた。
「コレイはどう思う?」
「私はいいと思います! 悠真さんが作る料理、どんなものなのか気になりますし」
「……そうか。本人がそこまで言うなら、ありがたくごちそうになろうかな」
「ありがとうございます!」
こうして、俺はガンダルヴァー村で料理を作ることになった。
◇
村へ戻る途中、何を作るか考えた。
せっかくなら、二人に普段とは違う料理を食べてもらいたい。
そういえば、俺のアイテムボックスには、以前まとめ買いした固形カレールーと食パンが入っている。
特売になっていたときにお得だったので、大量に買い込んだものだ。
それに、豚肉とカレー用のカット野菜も入っている。
これを使えば、カレーを作れる。
まずは俺とティナリ、コレイの三人分を作ろう。
「カレーにしようかな」
「カレー?」
隣を歩いていたコレイが、興味深そうにこちらを向いた。
「はい。肉や野菜を煮込んで、香辛料を使ったルーで味をつける料理です。食パンと一緒に食べるつもりです」
「香辛料を使うんだ!」
コレイの反応が少し弾んだ。
スメールでは香辛料が食文化に深く関わっている。市場にもさまざまな香辛料が並んでいたし、香りや味を楽しむ料理も多い。
そんな土地の人たちが、カレーの香りにどんな反応をするのか。
俺もちょっと楽しみになってきた。
「ただ、俺が持っているルーは、いろいろな香辛料が最初から混ざっているものなんです。ひとつずつ調合する必要はありません」
「へえ……。最初から味がまとまっているんだね」
「そういうことです」
村に着くと、俺は料理に使えそうな場所を借りられないか、ティナリに相談した。
「それなら、村の広場を使うといいよ。火を使うなら周囲には十分注意してね。森の近くでは、火の管理も大切だから」
「分かりました。火の始末まできちんとやります」
コレイも手伝ってくれることになり、俺たちは広場の一角を使って料理の準備を始めた。
まずは、持参した鍋や調理道具を取り出す。
それから、アイテムボックスを開き、固形カレールーと食パン、豚肉、カレー用のカット野菜を取り出した。
食パンは六枚切りの一袋。日本のスーパーで買った、ごく普通の食パンだ。
カレールーも、以前まとめ買いしたものだ。
「これが、カレーに使うそのルーなんですか?」
コレイが、箱に入った固形ルーを手に取らずに覗き込んだ。
「そうです。これを鍋に入れて溶かすと、カレーの味になります」
「固形なのに、料理になるんだ……。不思議だね」
「便利ですよ。俺も家でカレーを作るときは、よく使っています」
俺は必要な道具を並べ、火を使う場所を確認した。
材料を並べていると、近くにいた村人が声をかけてきた。
「料理をするのかい? それなら、うちに野菜があるよ。よかったら見ていってくれ」
「ありがとうございます。代金は払います」
「もちろん。どんな料理になるのか、こっちも気になるからね」
村人が持ってきた野菜を見せてもらい、カレーに合いそうなものを選んだ。別の人からも肉を購入することができた。
材料が揃ったところで、俺は調理を始めた。
まず、野菜を食べやすい大きさに切る。豚肉も同じように切り分け、鍋で順番に炒めていく。
熱が通るにつれて、肉の香ばしい匂いが立ち上った。
「いい匂い……!」
コレイが鍋を覗き込んだ。
「まだ、これからですよ」
水を加え、野菜が柔らかくなるまで煮込んでいく。
その間に、固形ルーを準備した。
三人分を作るつもりで、持参した鍋に入る分だけルーを加える。
ルーが溶け始めると、鍋の中の色が変わっていった。
そして、少しずつ香りが広がり始める。
最初は肉や野菜の匂いが中心だったが、そこにカレー特有の香辛料の香りが重なっていく。
甘さを感じる香りの奥に、刺激的な香りがある。複数の香辛料が混ざり合い、食欲を誘う匂いになっていった。
「……これは、何の香辛料を使っているんだい?」
気づくと、ティナリが少し離れたところから鍋を見ていた。
「実は、俺も全部を説明できるわけじゃないんです。これは最初から香辛料が混ぜられているルーなので」
「ひとつずつ選んでいるわけではないのか。香りの組み合わせが面白いね」
ティナリは興味深そうに鼻を動かした。
その隣で、コレイも鍋から漂う香りを楽しんでいる。
「いろんな香りがするね。ひとつだけじゃなくて、いくつも重なってる感じがする!」
「そうなんです。カレーは、こういう香りも魅力のひとつなんですよ」
鍋を混ぜながら、俺は味を確かめた。
野菜も肉も、十分に煮えている。ルーもきちんと溶けて、カレーらしい色ととろみが出てきた。
これなら大丈夫だろう。
ただ、ひとつ気になることがあった。
香りが、思っていた以上に遠くまで広がっている。
スメールの人たちは香辛料に親しんでいる。だからこそ、馴染みのある香辛料の匂いには敏感なはずだ。
けれど、これは単に香辛料を使った料理の匂いとは少し違う。
いくつもの香りがまとまり、煮込まれた肉や野菜の匂いと混ざり合っている。市場で嗅いだことのある香辛料の香りも感じるが、組み合わせが独特なのだ。
これだけの香りが広がれば、気になって近づいてくる人もいるかもしれない。
そう思った直後だった。
「ねえ、あそこから漂ってくる香り、何だろう?」
広場の入口付近から、そんな声が聞こえた。
「香辛料の匂いだよね。でも、いつも市場で嗅ぐのとは違う気がする」
「何か煮込んでいるのかな?」
村人たちが、少しずつこちらを気にし始めていた。
そのうちの一人が、広場へ近づいてくる。
「すみません。ここで何を作っているんですか?」
「カレーという料理です。肉や野菜を香辛料の入ったルーで煮込んでいます」
「カレー……? 聞いたことのない料理だね」
その人は鍋の中を見ようとしながら、もう一度香りを確かめた。
「それにしても、すごい香りだ。いろいろな香辛料が使われているようだけど、何を組み合わせているんだい?」
「すみません。ルーは故郷のものなので、細かい配合までは分からないんです」
「そうなのか……。でも、これは気になるなあ」
村人は名残惜しそうに鍋を見てから、いったんその場を離れた。
しかし、香りに引き寄せられたのは、その人だけではなかった。
「ねえ、こっちからいい匂いがするよ!」
「何を作っているんだろう?」
「香辛料の香りがするのに、いつもと違うね」
広場の周りに人が集まり始めた。
香辛料を日常的に使っているスメールの人たちだからこそ、香りの違いが気になるのだろう。
ただ辛そうな匂いがするというだけではない。いくつもの香辛料がまとまり、肉や野菜の旨味と混ざり合っている。その独特な香りが、通りかかった人の足を止めていた。
ティナリは周囲の様子を見て、少し困ったように耳を動かした。
「これは……思っていたより人が集まってきたね」
「すみません。こんなに気になる匂いになるとは思わなくて」
「謝る必要はないよ。むしろ、みんな興味を持っているみたいだ」
コレイは集まってきた人たちを見回し、少し楽しそうに笑った。
「悠真さん、これって、みんなにも食べてもらえるのかな?」
俺は広場の周囲を見回した。
最初は、俺とティナリ、コレイの三人で食べるつもりだった。
でも、気づけば村人たちが次々に集まってきている。興味深そうに鍋を覗き込む人もいれば、少し離れたところから香りを確かめている人もいた。
ここまで人が集まったなら、いっそ全部出してしまおう。
アイテムボックスには、大量に固形カレールーも食パンもまだ残っている。
中途半端に残しておくより、みんなに食べてもらったほうが楽しそうだ。
「よし、せっかくなので、みんなにも食べてもらいましょう!」
「本当? ありがとう!」
周囲から嬉しそうな声が上がった。
ただ、今の鍋では、とても全員分は作れそうにない。
俺がどうしようかと考えていると、近くにいた村人が声をかけてきた。
「それだけ人が集まったなら、もっと大きな鍋が必要だろう? 村の大鍋を借りてくるよ!」
「いいんですか? 助かります!」
「任せておきな!」
村人はすぐに大鍋を取りに向かった。
そのとき、さっきの村人が戻ってきた。
今度は、手に野菜を抱えている。
「もしよかったら、これも使ってくれないかい? さっき香りを嗅いだら、どうしても気になってね。食材が足りないようなら、少し足しになるだろう?」
「ありがとうございます。でも、代金を……」
「いやいや、こっちも食べてみたいんだ。使えるものなら、遠慮せずに使ってくれ!」
その言葉を聞いた別の村人も声をかけてきた。
「うちには肉があるよ。まだ調理していないものだけど、使えるなら持ってくる」
「野菜なら、ほかにもあるよ!」
「この柔らかそうなパンと一緒に食べるんだって? それなら、食べやすいように皿を持ってこようか」
あっという間に話が広がっていく。
俺は少し驚いたが、ありがたい申し出だった。
「ありがとうございます。では、追加の肉や野菜を使わせてもらいます。食材をいただいた分は、きちんとお支払いしますね」
「分かった。それじゃあ、持ってくるよ!」
村人たちは次々と動き始めた。
大鍋を運んでくる人。肉や野菜を持ってくる人。食器を用意する人。広場の空いている場所を片づける人。
最初は三人分の食事を作るだけのつもりだったのに、いつの間にか村のみんなを巻き込んだ大きな食事会になりつつあった。
「なんだか、すごいことになってきましたね」
俺が苦笑すると、ティナリも小さく笑った。
「香辛料の香りがこれだけ広がれば、気になる人もいるだろうね。スメールでは香辛料を使った料理に馴染みがあるけれど、知らない組み合わせを見つけると、試してみたくなるものだから」
「確かに、みんなすごく興味を持っていますね」
「それに、料理は人が集まるきっかけにもなる。せっかくだから、みんなで楽しもう」
「はい!」
村人が運んできた大鍋を受け取り、俺たちは調理の準備を整えた。
持参した鍋で作っていたカレーを大鍋に移し、アイテムボックスから残りの固形カレールーと豚肉、カレー用のカット野菜を取り出す。
ここからは、村人たちが持ってきてくれた肉や野菜も加えて、みんなで食べられる量を作っていく。
火の通り方を確かめながら順番に材料を加え、全体に味が馴染むように混ぜていく。
固形ルーを溶かすと、カレーの色がさらに濃くなった。
香りも、先ほどより一段と豊かになっていく。
村人たちは鍋から少し離れた場所で、どんな料理になるのか楽しみに待っている。
「もうすぐできそうです!」
俺がそう告げると、何人かが嬉しそうに声を上げた。
その間に、持参した食パンも準備する。
食パンは六枚切りの一袋。袋を開け、枚数を確かめてから、食べやすいように並べていった。
これだけ人が集まっているなら、全部使い切っても無駄にはならないだろう。
食パンを並べ終えた頃には、鍋のカレーも完成していた。
最後に味を確認する。
肉の旨味が溶け込み、野菜も柔らかくなっている。香辛料の香りがしっかり立っていて、食欲を刺激する仕上がりだ。
俺は火を弱め、鍋を広場の中央に置いた。
「お待たせしました。カレーの完成です!」
周囲から歓声が上がった。
俺は用意した皿にカレーをよそい、食パンと一緒に配り始めた。
「熱いので、気をつけてくださいね」
「ありがとう!」
「わあ、これがカレーか!」
村人たちは皿を受け取り、まずは香りを確かめていた。
口に運ぶ前から、いろいろな感想が飛び交う。
「この香り、面白いね。いくつもの香辛料が混ざっているのに、ひとつひとつの匂いも感じられる」
「肉と野菜の香りもするよ。香辛料だけが強いわけじゃないんだね」
「パンにつけて食べるんだろう? それなら、こうやって……」
一人の村人が食パンをちぎり、カレーをつけて口に運んだ。
しばらく味わってから、目を見開く。
「おお……! これはいいね!」
その反応を見て、周囲の人たちも食べ始めた。
食パンをカレーにつける人もいれば、ちぎったパンを皿の端に置き、少しずつカレーと一緒に食べる人もいる。
食べ方はそれぞれだったが、皆、興味深そうに味を確かめていた。
「辛いだけじゃないんだね。あとから香りが広がってくる」
「この肉と野菜にも、香辛料の味がよく馴染んでいるよ」
「パンにつけると、また違った感じになるね」
スメールの人たちは香辛料に親しんでいるからこそ、カレーの味や香りを楽しんでくれているようだった。
ただ珍しいから食べているのではなく、どんな香りがするのか、何と組み合わせるとおいしいのかを確かめている。
中には、カレーを口に運んだあと、少し考え込むようにしてから、もう一口食べる人もいた。
「この味の組み合わせは、家でも試してみたいな。もちろん、同じようにはできないだろうけど」
「使っている香辛料の種類が分からないのが残念だね」
「でも、こういう料理があると知れただけでも面白いよ」
料理をきっかけに、香辛料や調理方法についての話まで始まっている。
食パンを手に取った村人たちからも、いろいろな感想が聞こえてきた。
「このパン、柔らかいね!」
「そのまま食べてもおいしいけど、カレーにつけると味が変わるんだね」
「パンがカレーを吸って、香辛料の味がよく馴染んでいるよ」
「この組み合わせは初めてだけど、思った以上に合うね!」
食パンを小さくちぎって、少しずつカレーにつける人もいる。パンを先に食べてからカレーを口に運ぶ人もいた。
食べ方に決まりはない。自分がおいしいと思う食べ方で楽しんでもらえれば、それで十分だ。
俺はその様子を眺めながら、カレーを配り続けた。
大鍋の中身は、村人たちが持ち寄ってくれた食材も加わり、十分な量になっていた。持参した固形ルーもすべて使い切り、食パンも残さず配り終えた。
最初から最後まで、予想していた以上に大きな食事会になった。
「悠真さん、おいしいです!」
コレイが食パンを手に、嬉しそうに笑った。
「よかった。口に合ったみたいですね」
「うん! 香りがすごくいいし、パンと一緒に食べると、どんどん食べたくなっちゃう」
「気に入ってもらえたなら何よりです」
その隣では、ティナリもカレーを味わっていた。
「これは興味深い料理だね。香辛料の香りがしっかりしているのに、肉や野菜の味もきちんと感じられる。固形のルーに、これだけの味がまとまっているのも面白い」
「俺も、こういう手軽さが好きなんです。材料を用意して煮込めば作れますし、家でもよく食べています」
「なるほど。普段の食事としても作りやすいわけだ」
ティナリはもう一口食べ、軽く頷いた。
「ごちそうさま。今日は森の案内をしただけなのに、こんなに立派な食事を用意してもらって、かえって申し訳ないくらいだよ」
「いえいえ。俺も、皆さんの仕事を知ることができて楽しかったですから」
実際、今日は得るものが多かった。
森の植物や動物についてだけではない。森林レンジャーが何を見て、何を記録し、どうやって森を守っているのか。普段の仕事を間近で見ることができた。
それに、料理を作ったことで村の人たちとも話すことができた。
観光というと、景色を見たり、名所を訪れたりすることを考えがちだ。でも、こうして現地の人たちと一緒に過ごす時間も、旅の楽しさのひとつだと思う。
広場では、まだ食事を楽しむ人たちの声が続いていた。
カレーの作り方について尋ねる人もいれば、食パンとの組み合わせを気に入って、もう一度皿を持ってくる人もいる。
香辛料の香りに引き寄せられて始まった食事会は、いつの間にか村のみんなが集まる賑やかな時間になっていた。
「最初は、師匠と私だけで食べるのかと思っていたんだけどね」
コレイが笑いながら言った。
「俺もそう思ってました。まさか、こんなに人が集まるとは……」
「でも、みんな楽しそうだよ!」
「そうですね」
俺も笑った。
大鍋は空になり、持ってきた食パンもすべてなくなった。
使い切るつもりだったものを全部使い、食べてもらいたいと思っていた人たちにも行き渡った。結果的には、ちょうどよかったのかもしれない。
片づけを始めると、村人たちも自然に手伝ってくれた。
食器を集める人、広場を掃除する人、残った道具を運ぶ人。誰かが指示を出さなくそても、できることを見つけて動いている。
俺も鍋や調理道具を片づけ、火が完全に消えていることを確認した。
森の近くで火を使うときは、最後まで気を抜かない。巡回のときにティナリが話していたことを思い出しながら、周囲を確かめる。
「火の始末も問題なさそうだね」
ティナリが確認し、頷いた。
「今日は本当にありがとう、悠真。森のことを知りたいという話だったけれど、君も実際に見て、いろいろ感じるものがあったんじゃないかな」
「はい。森の中を歩いてみて、普段から細かく確認することの大切さが分かりました。これから森を訪れるときは、今日教えてもらったことを意識してみます」
「それなら、案内した甲斐があったよ」
コレイも頷いた。
「また森に来ることがあったら、気軽に声をかけてね。もちろん、危ない場所には近づかないようにしてほしいけど」
「はい。ありがとうございます」
俺は二人に礼を言った。
ガンダルヴァー村を訪れる前は、森について少し話を聞ければ十分だと思っていた。
でも、実際には巡回に同行し、植物や動物の様子を確認する方法を教えてもらい、森林レンジャーの仕事を間近で見ることができた。
そのうえ、持ってきたカレールーと食パンをすべて使い切るほどの食事会まで開くことになった。
予定どおりにいかないこともあったけれど、それも含めて楽しい一日だった。
スメールの森は、ただ眺めているだけでも美しい。
けれど、そこで働く人たちの話を聞き、暮らしの一端に触れることで、景色の向こうにあるものも少しだけ見えた気がする。
それから、森の中で見かけた不思議な小さな姿も気になっていた。
あれが本当にアランナだったのか、俺の見間違いだったのかは分からない。
無理に追いかける必要はない。いつかまた森を訪れたとき、何か分かることがあるかもしれない。
次に訪れるときは、今日とはまた違う発見があるだろう。
そんなことを考えながら、俺はガンダルヴァー村を後にした。